『スノーブラザーズ』、まさかのリメイクと新作の発売時期がかぶる。リメイクと新作、それぞれのメーカーに「なんで時期ズラさなかったんですか」と訊いてみた

『SNOW BROS. WONDERLAND』はスノーブラザーズ新作、『SNOW BROS. 2 SPECIAL』はスノーブラザーズ2のリメイク。新作とリメイクが発売時期かぶりしている。なぜなのか。ズラさなかったのか。話を訊いた。

TATSUJINは11月28日、『SNOW BROS. WONDERLAND』を発売した。一方、グラビティゲームアライズは2025年初頭に、『SNOW BROS. 2 SPECIAL』を発売予定だ。まさかの発売時期被りである。

『スノーブラザーズ』は、1990年にアーケード向けに発売したアクションゲームである。続編が1994年に発売されて、以降は移植版やリメイク版などが展開されてきた。

新作自体は1994年以来リリースされることがなかった『スノーブラザーズ』だが、『SNOW BROS. WONDERLAND』は約30年ぶりの完全新作として登場。そして、その後にはリメイク作となる『SNOW BROS. 2 SPECIAL』の発売も控えている。

なぜ30年ぶりの完全新作とリメイク作品の発売時期がここまで近くなったのか。弊誌は、『SNOW BROS. WONDERLAND』を手掛けたTATSUJINの今村賢一氏、跡部裕彦氏、グラビティゲームアライズのパク・ヒョンジュン氏に話を伺った。

[『SNOW BROS. 2 SPECIAL』Steamストアページのトレイラー]


なぜよりにもよって同時期に発売することになったのか

――皆さまの自己紹介をお願いします。

今枝賢一(以下、今枝)氏:
『SNOW BROS. WONDERLAND』でプロデューサーと監修を務めさせていただいた、株式会社TATSUJINの今枝賢一と申します。よろしくお願いします。

跡部裕彦(以下、跡部)氏:
 株式会社TATSUJINでマーケティングとアライアンス担当をしております跡部です。よろしくお願いいたします。

パク・ヒョンジュン(以下、パク)氏:
グラビティのパク・ヒョンジュンと申します。グラビティの日本支社となるグラビティゲームアライズでは取締役を務めています。『SNOW BROS. 2 SPECIAL』の開発は韓国のCRT GAMESが担当しておりますが、私がおもにやりとりをしておりましたので、本日の対談では私が回答させていただきます。よろしくお願いします。

――そもそもの質問ですが、『スノーブラザーズ』のIP自体は、現在はTATSUJINがお持ちという認識でよろしいのでしょうか。

跡部氏(TATSUJIN):
そうですね。わかりやすく言いたいときは、東亜プランの魂を引き継いだTATSUJINがIPをもっている、と表現しています。ただ、厳密に言うとTATSUJIN自体が、スウェーデンのEmbracer Groupという大きなグループの傘下になっていますので、そのグループ全体が『スノーブラザーズ』のIPを管理していることになります。

――ということは、パクさまの方からTATSUJIN、あるいはEmbracer Groupへ、『スノーブラザーズ』のIPを使いたいという許諾をお願いしにいったのでしょうか。

パク氏(グラビティ):
IP契約は弊社ではなくCRT GAMESがおこなっています。すでにCRT GAMESがTATSUJINとIP契約をしてデベロッピングしていて、そこにグラビティがCRT GAMESとコンタクトをとって、パブリッシングになったという経緯があります。

――CRT GAMESとTATSUJINでIPのやりとりがあったんですね。

跡部氏(TATSUJIN):
そうですね。TATSUJIN自体が版権元ですので、世界中で東亜プランのIPを使用したいという方々に、許諾するパートナーとして相応しいところを選定するといったライセンス許諾の交通整理をしているかたちです。TATSUJINだけではできない、グループでもなかなか動きづらいところを協力してくださる会社にIPをお預けして、一緒に成長していくための審査をおこなっているわけです。

――つまり、CRT GAMESがTATSUJINの基準を満たしていて、『スノーブラザーズ』のIPを預けても良いと判断されたということですね。

跡部氏(TATSUJIN):
そうですね。大体の判断基準としましては、どこの地域でどれだけの規模で、どれくらいの開発費用をかけて、どういった企画なのか、というところがあります。CRT GAMESは、TATSUJINおよびEmbracer Groupからすると、十分お任せして良いと判断して、お願いさせていただいたという感じですね。

――……そんな中、『SNOW BROS. WONDERLAND』と『SNOW BROS. 2 SPECIAL』の発売時期が被るのは、お互い予測されていたのでしょうか。

一同:
(笑)

今枝氏(TATSUJIN):
TATSUJIN側で開発している『SNOW BROS. WONDERLAND』が、作ってみたら想像以上にボリュームがあって、なおかつ作り込まなければいけなくてスケジュールが遅延してしまったことが、今回の発売時期が近くなったことの背景にありますね。発表したのは去年のTGSだったんですが……。

跡部氏(TATSUJIN):
先に『SNOW BROS. WONDERLAND』が発売されて、その後に『SNOW BROS. 2 SPECIAL』が発売されるという流れになるんですが、発売時期が近くなったことを上手く活かすしかないかなと思っています。

――正直なところ、『SNOW BROS. WONDERLAND』を作ったTATSUJIN的に『SNOW BROS. 2 SPECIAL』は戦友なのか、それともライバルなのか、どちらだとお考えですか。

今枝氏(TATSUJIN):
ライバルとはまったく思っていなくて(笑)今回一緒ぐらいの時期になったことも、『スノーブラザーズ』の展開が盛り上がるので良いかなと思っています。

跡部氏(TATSUJIN):
同じIPでも2Dのゲームと3Dのゲームで全然違う作品ですからね。それくらい我々の『SNOW BROS. WONDERLAND』は想像がつかないことをやっていますしね。

――単純に『スノーブラザーズ』というIPに触れる機会が増えるということで、よく耳にすることが多ければ多いほどお互いに得するということですね。一方、パクさまの方はいかがでしょうか。実はライバルに思っているということは……。

パク氏(グラビティ):
まったくございません(笑)IPをライセンシングしていただいている身ということもありますが、私は非常にリスペクトしています。グラビティ自体、『ラグナロク』というIPをマルチ展開しているというのもありまして、そういった企業面から見ても、ひとつのIPに対して新しいチャレンジをされているということに対して、すごい尊敬できるなと思っています。

――発売時期をずらそうと思ったことはありませんか。

パク氏(グラビティ):
『SNOW BROS. WONDERLAND』が出るとわかったとき、弊社でも『SNOW BROS. 2 SPECIAL』の販売計画を立てていた時期でしたので、同じ『スノーブラザーズ』で食い合うことになったらどうしようという心配はありました。ただ、TATSUJINと相談している中で、いろいろ協力していただけるということにもなって、これは食い合うよりは販売時期が近くなることによる相乗効果が出るんじゃないかな、という方向にかわったので、わざとずらそうということにはなりませんでしたね。

お互いにリスペクトし合うふたつの『スノーブラザーズ』

――なぜこのタイミングで『スノーブラザーズ』の新作を作ろうと思ったのか、改めてお聞かせください。

今枝氏(TATSUJIN):
我々の場合、『スノーブラザーズ』に限らず、TATSUJINとして東亜プランのIPの新作を世に送り出すというミッションが前提にあったんですね。会社的にもそれがやれる環境が整って、そこでたくさんのタイトルの中から選ばれたのが『スノーブラザーズ』だったわけです。選ばれた理由としては、『スノーブラザーズ』が世界的にパワーがあるIPであること、つまり知名度があるIPであるということが大きいですね。

――壮大なTATSUJINの東亜プランプロジェクトがあって、その『スノーブラザーズ』を展開していくのが第1弾ということですか。

今枝氏(TATSUJIN):
実はもうひとつ進んでいるプロジェクトがあるんですが、それに加えてもうひとつ、となったときに、何が良いだろうなと考えて『スノーブラザーズ』が選定された感じです。

――そこでリメイクではなく、あえて完全新作ゲームにした理由はなんでしょう。

今枝氏(TATSUJIN):
最初から新作ゲームを作ろうということは決まっていたんです。ほかの会社でリメイクを作っていただいていたということもあるので、選択肢としては新作を作るということしかなかったですね。

跡部氏(TATSUJIN):
アーケード版をリメイクした『SNOWBROS. NICK & TOM SPECIAL』が発売されたり、メガドライブ版がメガドライブミニに収録されたりといった動きは、TATSUJIN発足以降からあって、それがどんどん国内だけではなく世界各国で起きています。そして「これはいけるぞ」というところで、昔のIPを使った完全新作をリリースするという展開に、『スノーブラザーズ』が切り込み隊長として飛び込んだのかなという感じですね。

――『SNOW BROS. 2 SPECIAL』を出したいとパクさまがお考えになったきっかけはなんでしょうか。

パク氏(グラビティ):
元々個人的にファミコンやスーパーファミコン時代のレトロゲームIPのゲームが好きだったので、グラビティでいろいろな事業を展開する中でレトロゲームIPのリメイクを手がけたいと思っていたんです。そういった中で、CRT GAMESのイム代表とは韓国のゲーム業界でずっと知り合いでして、『SNOW BROS. 2 SPECIAL』を手掛けるという話を聞きました。そこで「ぜひグラビティとやりませんか」とイム代表を口説いて、弊社が『SNOW BROS. 2 SPECIAL』のパブリッシャーを担当することになりました。

――グラビティゲームアライズから『SNOW BROS. 2 SPECIAL』をリリースするにあたって、『スノーブラザーズ』のIPをたくさん研究されてきたかと思いますが、率直な感想として『SNOW BROS. WONDERLAND』を見たときにどう感じられましたか。

パク氏(グラビティ):
2Dから3Dの世界観になっていた点に、まずはびっくりしましたね。あとはゲーム性が3Dになることによって全然変わってくるので、今まで知っていた『スノーブラザーズ』で、「こんな表現もできるんだ」ということは感じました。

――ほとんど別のゲームといってもいいですからね。

パク氏(グラビティ):
そうなんです。同じ2DのゲームとしてTATSUJINから、たとえば『スノーブラザーズ3』みたいな作品が出るのであれば、すごい心配になったんじゃないかと思いますが、ほとんど別のゲームだったので、だからこそ販売時期が被っても大丈夫だなという安心もありましたね。

――反対に今枝さま、跡部さまが『SNOW BROS. 2 SPECIAL』を見たときはどう感じられましたでしょうか。

今枝氏(TATSUJIN):
まずは単純に「2Dって良いよな」と思いました(笑)自分は元々3Dばかりを作っていましたが、その前はスプライトのゲームばかりやっていた人間で、特に2Dのアクションゲームが大好きなので。別にライバル視とかそういうのはなく、『SNOW BROS. 2 SPECIAL』を見たときは、ちゃんとユーザーの期待を裏切らない、正統派なリメイクになっていると思って、そこは素直に素敵だなと思いましたね。

跡部氏(TATSUJIN):
僕はこのタイミングでふたつの作品がリリースされるということが好ましいことだと思っています。リアルタイムで東亜プランにハマった人は、現在は大体40代から50代の男性が多いんですね。そういう方は当然昔のタイトルに非常に思い入れがあると思います。

ただ、かなりの時間が経って、今ではゲームは男性も女性も当たり前にプレイするものになりました。そこで、『SNOW BROS. WONDERLAND』と『SNOW BROS. 2 SPECIAL』と、現代のユーザーと過去の『スノーブラザーズ』ファンの両方を補えるかたちで、訴求力が高くなりました。ちなみに、僕はクラシカルな東亜プランファンなので、『SNOW BROS. 2 SPECIAL』が発売されたら自腹で買って楽しみたいと思っています。

新作とリメイク、それぞれの良さとは

――パクさまから『SNOW BROS. WONDERLAND』を見たときの、ここが素晴らしいと感心したポイントはありますか。

パク氏(グラビティ):
先ほどもお話ししましたが、元々2Dだった『スノーブラザーズ』を3Dで表現されたことですね。それも元々が独特な世界観の原作を、『SNOW BROS. WONDERLAND』でも独特な3Dの世界に表現されているのがすごい印象的でした。それと攻撃で連鎖して敵を一層できるのがとても爽快ですね。あとは、アーケード版などのこれまでの『スノーブラザーズ』は短時間で楽しむ作品でしたが、『SNOW BROS. WONDERLAND』は長いスパンでゲームをプレイできる作品になっていました。マルチプレイ要素もあるので、ユーザー同士でワイワイプレイできるところも良いですね。あと、最後にキャラクターが今までよりも痩せた気がします(笑)

今枝氏(TATSUJIN):
痩せましたかね?(笑)

一同:
(笑)

――TATSUJINさまから見た、『SNOW BROS. 2 SPECIAL』で上手にリメイクしていると部分はありますでしょうか。

今枝氏(TATSUJIN):
ちゃんと原作の『スノーブラザーズ2』らしさがあって嬉しいということはもちろんですが、オンラインマルチプレイに対応していることに感心しているというか、とても羨ましい要素ですね。

『SNOW BROS. WONDERLAND』でもマルチプレイには対応していますが、オンラインには対応していなくて、1人1画面というのができないのである意味窮屈なんです。1人1画面ができれば『SNOW BROS. WONDERLAND』でももっと自由度が増すだろうと思うと、羨ましいです。

――お互いに自分の作品とは別の部分をもっているので、羨ましさだったり面白さだったりがあるんですね。お互いに『スノーブラザーズ』というクラシックなIPを改めて展開する中で、現代向けに遊びやすくしている要素はありますか。

今枝氏(TATSUJIN):
『SNOW BROS. WONDERLAND』の場合は続編でありながら新作なので、レトロゲームの流れを汲みつつ、新作という見られ方をしても違和感がないようにしないといけないと思ったんです。だから、見た目とか手触りとか、当然面白さも、今のゲームとして見られたときに恥ずかしくないものにしなければならない、ということはかなり意識した部分です。

――『SNOW BROS. 2 SPECIAL』では、今蘇るにあたって遊びやすくしている部分はありますでしょうか。

パク氏(グラビティ):
まずはグラフィックをフルHDにしたこと、そしてプレイアブルキャラクターを増やしたことですね。主人公のニックだけではなく、敵キャラクターでもプレイできるのが楽しい部分ですね。で、これはグラビティのレトロゲームIPのリメイクで必ず搭載したい機能として、オンラインプレイができるようにしたことです。全世界のユーザーと一緒にプレイできるようにしたことで、原作では味わえなかった予測のできない展開が生まれたと思いますし、オンラインプレイによって何度も繰り返しプレイしたくなる作品が提供できるのではないかと思います。

『スノーブラザーズ』らしさとは“違和感”

――最後に、『スノーブラザーズ』らしさとは何か、そしてそれを作品にどう込めているのかお聞かせください。

今枝氏(TATSUJIN):
『スノーブラザーズ』らしさというのは何なのかを考えたとき、自分としてはゲームをプレイしたときに感じる“違和感”なのかなと思っています。『スノーブラザーズ』って何だろうと俯瞰で見たとき、動く雪だるまとか奇妙な敵とか、耳に残る音楽、あとはアイテムが寿司だったりご祝儀袋だったり、違和感だらけなんです。ただ、遊んでみるとだんだん慣れていって、それが自然になっていって……。だから『スノーブラザーズ』らしさというものがあるのであれば、それはゲームが醸し出す絶妙な違和感なんだと思うんです。なぜこのゲームがこんなに愛されて、ずっと忘れられずに残ってきたのかというと、そういったほかとは違う違和感が理由なんじゃないかなと思います。なので、今回の『SNOW BROS. WONDERLAND』でも、以前のモンスターのデザインやBGMを踏襲していますね。

――いわゆるツッコミどころというか隙というか、それが違和感ですか。

今枝氏(TATSUJIN):
そうですね。キャラクターもシュッとしていないデザインで、それが可愛いんですよね。今回のニックとトムの衣装もすごい考えたんです。赤ちゃんみたいな胴から足までを覆っている服とか、最初は「格好悪いなぁ」と言いながら、見ているとどんどん可愛くなってくるというような感じになっています。

――パクさまの方はいかがでしょうか。

パク氏(グラビティ):
操作性が良い意味ですごいシンプルで、初めての人でもプレイできるというという点ですね。ただ、昔のアーケードゲームのあるあるなんですが、いくら良いリメイク版を作ったとしても操作性を100%再現できないとは思っています。だからこそ、弊社では、原作の移植版を一緒に収録しております。

一同:
(笑)

――リメイク版を楽しんでもらいつつ、オリジナルの移植も楽しんでもらって、両方の味を知ってもらいたいということですね。ありがとうございました。

SNOW BROS. WONDERLAND』は、PC(Steam)/PS4/PS5/Nintendo Switch向けに発売中。『SNOW BROS. 2 SPECIAL』は、PC(Steam)/Nintendo Switch向けに2025年初頭発売予定だ。

[執筆・編集:Koutaro Sato]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

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