『風来のシレン6』開発者インタビュー。DLCやSteam版配信のきっかけ、そして今後の『シレン』が目指すものとは

『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』ディレクターの櫻井啓介氏とプロジェクトマネージャーである篠崎秀行氏へのインタビュー。Steam板発売にあわせて。

スパイク・チュンソフトは、2024年12月12日に『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』のPC(Steam)版を発売する。本作はスーパーファミコン時代から続くローグライクRPG『風来のシレン』シリーズの作品で、およそ14年ぶりの完全新作となる。今年1月に発売されたNintendo Switch版は、既存ファンから高い評価を得た。

弊誌では、本作の発売前にディレクターの櫻井啓介氏とプロジェクトマネージャーである篠崎秀行氏へのインタビューを行い、シリーズ復活のきっかけやローグライクへの情熱をうかがえた(関連記事)。そしてこの度、Steam版発売にあわせて再度この2名へのインタビューを実施。DLCの配信も一区切りついたところで、改めて『シレン6』について訊いた。

――Steam版やDLCも配信され、一区切りといったところかと思います。Nintendo Switch版の発売からそろそろ1年が経とうとしていますが、ここまでの感想を教えてください。

篠崎秀行氏(以下、篠崎氏):
発売してから、本当に想定以上の方々に購入いただき、とても嬉しく思っています。有料DLCは元々展開予定がなかったのですが、ユーザー様の熱意やシリーズ史上最速で国内累計出荷数を突破したことが非常に良かったこともあり、急遽制作が決まりました。

発売後は別のプロジェクトに取り掛かったり、「今年はダイエットするぞ」なんて意気込んでいたりしたのですが、ありがたいことに『シレン6』の作業に終始することになりました(笑)

櫻井啓介氏(以下、櫻井氏):
DLCはあまり慣れておらず試行錯誤しながらの展開になりましたがユーザーの皆様が再び遊んでくれたり配信してくれたりした姿を見て、出せてよかったと思っています。

なぜSteam展開したのか、なぜ無料アップデートを展開したのか

――『シレン6』のSteam版はいつ頃決まりましたか。当初はNintendo Switch版だけだったのでしょうか。

篠崎氏:
実はSteam版の開発は最初の方から決まっていて、裏で開発を進めてはいました。ただ、最初に発売するNintendo Switch版を手にとってくれる方は多かったですし、無料アップデートやDLCに注力していたこともあり、このタイミングで発表・発売することに決めました。ただ、あまりお待たせしすぎるのも本意ではないので、いきなり発表して間を開けずに発売を迎える形となりました。

――有料DLCだけでなく、無料アップデートでのダンジョン追加も行われていましたよね。追加コンテンツは有料DLCのみという判断もあったかと思いますが、なぜ無料でも配信したのでしょうか。

篠崎氏:
実際、社内でも「追加ダンジョンは有料DLCでいいんじゃないか」という意見はあったのですが、私たち開発チームとしては、作品の特性上追加されていけばいくほど遊んでいただける方や配信していただける方は増えるという認識でした。

そういった方々がまずは無料で楽しんで、さらなるコンテンツがほしくなり、有料DLCも買う……という流れであればより気持ちよく楽しんでいただけるのではないかなと思い、両方用意させていただきました。

――有料にするコンテンツと無料のコンテンツの線引きはどのように行いましたか。

篠崎氏:
本編の延長線上にあるような要素は無料、追加で新たな体験となる部分は有料という線引きをしていました。例えば、入手した武器や盾を飾れる「装備品かけ」などの機能が購入しないと使えないというのは私たちとしてはちょっと違うかなと思っていて、本編の満足度を上げつつ、さらに欲しい方にはぜひDLCをお買い求めいただけたらと思います。

――本編だけでもクリア後ダンジョンなどかなりボリュームがあった中で、追加ダンジョンはどういった方針で作っていったのでしょうか。

櫻井氏:
本編であまり活躍しなかった道具やギミックにフォーカスを当てたダンジョンを作りたいという思いがまずありました。100ターン毎にお香が焚かれる「フローラルガーデン」なんかはわかり易い例ですね。

あとは過去作で人気だったり、一癖あって皆様の記憶に残るものを『シレン6』風にアレンジしたらどうなるんだろう?というコンセプトで作ったり、オールスター集大成が欲しいよねということで「超・神髄」も用意したりしました。

――評判だけでなく売り上げもかなり良い本作ですが、どのタイミングで手応えを感じましたか。

篠崎氏:
私はデバッグも担当しておりまして、その作業の中でデバッグチームから「作品として面白い」という感想をいただいていたので、その頃から良いものができたという手応えはありました。ただ、それが直接セールスにつながるかは必ずしもイコールではありません。売り上げとしてはシリーズ最速の勢いとなりましたが、時代やタイミングなど、たまたまうまくいったのかなと思っている節もあります。

櫻井氏:
実際数字見るまでは全然想像できなくて、ボロクソに叩かれたら怖いなとも思っていたのですが、蓋を開けてみたら多くのユーザーさんに喜んでいただけて安堵しましたね。

――シリーズ最速売り上げを成し遂げた理由があるとすればどういった所だと思いますか。

櫻井氏:
やはり、過去に『シレン』シリーズを遊ばれたユーザー様が楽しみにしてくれていたというのが1番大きいと思います。過去作のあまり評判がよくなかった要素を取り除いて綺麗にしたところもあり、手にとっていただきやすくなったのではないでしょうか。

篠崎氏:
『5plus』のNintendo Switch/Steam版なども含め、『シレン』という作品を少しでも遊んだことがあるという方は多くいらっしゃると感じていまして、そういった方々に楽しいと思ってもらえることはかなり意識してきました。もちろん全員が全員100%面白い!というのを作るのは難しいですが、こうした意識がうまく今の『シレン』ファンに合致したのだと思います。

欧米向けは苦戦も、今後に期待

――海外Nintendo Switch版は数ヶ月遅れで発売しましたが、日本国外ユーザーからの売り上げはいかがですか。

篠崎氏:
根強いファンからとても嬉しい反応をいただいてはいますが、残念ながら今のところ好調なセールスには至っていません。やはり売り上げのほとんどは日本となっており、これをどのように海外で売れるようにしていくか……というところは大きな課題だと考えています。

過去作も他社様と協業して北米展開をしてきましたが、正直なところ伸び悩んでいます。ただ昨今、ローグライク・ローグライトなんて言葉が流行るようになったので、何かしらきっかけがあれば売れるのではないかなと思っていて、それを模索していきます。

――ローグライク=シレンと欧米向けにもリンクしていけたら良いと。

櫻井氏:
私としては、ローグライクと『不思議のダンジョン』は別系統なのかなとは思っています。元祖『ローグ』は能力やスキルが主体のデザインでしたが、『不思議のダンジョン』は道具をいかに使うかに主軸をおいたゲームバランスです。確かに派生のひとつではあるのですが、別物というか好みが別れるかなと。ただ、ローグライクファンをターゲットにしていきたいのは間違いないです。

――『シレン6』では、グローバルを意識して作った部分などはあるのでしょうか。

篠崎氏:
前作までは「まがいもの道具」というものがあり、漢字で「右」と書いてあるものと「石」と書いてあるものを混ぜて見た目で誤認させるというものでした。この見間違いが面白い部分もあったのですが、こうした日本人にしかわからないようなネタは控えめです。

また、どうしてもグローバル基準だとキャラが若く見えてしまうかなと思うのですが、本作のターゲットとしてはやはり子供ではなく大人です。そこは翻訳担当とも話をして、翻訳文が大人向けな雰囲気のテキストになるように意識して対応しています。

――ちなみに、これまで欧米で人気だった作品はどれでしょうか。

篠崎氏:
Steamで展開したこともあり、今のところ『5plus』が一番大きいですね。そもそもが“移植の移植”という少し変わったリリース形態の作品だったので、価格も安めに抑えてリリースしました。元々Nintendo SwitchはDL版オンリーでしたが、「物理で欲しい」という方が多かったため、パッケージ版も発売しました。『シレン6』はSteam版が発売しますので、これからに期待ですね。

――欧米ファンの間では過去作の英語版をプレイする公式な方法が少ないという声があります。過去作移植については日本のユーザーも望んでいる方がいるかと思いますが、意向はありますか。

篠崎氏:
そうですね……頑張ります!(笑)今後なにか機会があれば、ぜひ考えていきたいと思います。

ローグライクゲームかどうかはわからないけれど

――『不思議のダンジョン』ファンはいい意味で“濃い”ファンが多く、『シレン』といえばコレだ!というこだわりのある人も多いと思います。そんな方々からの反響はいかがでしたか。

篠崎氏:
本作は原点回帰がコンセプトだったので、まず既存ファンの方たちがどうしたら楽しんでいただけるかを主眼に置いていました。一部変更した部分は昔のほうがよかったという声も見られましたが、おおむね好評をいただけて、コンセプトとしてもうまくいったと思います。

櫻井氏:
そういった意味だと、追加ダンジョンは方向性にバリエーションが出せたので、好きなダンジョン・苦手なダンジョンが人によって異なるなど、いろいろな人に満足していただける作りにはできました。ただ、“『シレン』プレイヤーうますぎ問題”は常々感じています……(笑)

――過去作には特定のパターンを突けば簡単にクリアしてしまう“ハック”的な戦法もありました。そこをうまく避けつつ、面倒くさくないように調整したというのは欧米のレビューでも評価点として見られました。

櫻井氏:
そこはかなり意識しましたね。知識が物を言うゲームですから、極端な稼ぎや面倒なものはNGにしつつ、コツに気づくチャンスはなるべく多く設けました。

――ローグライク・ローグライトが流行っている今だからこそ、初めて触れた新規ファンもいるかと思います。そうした方からの反響はいかがでしょう。

櫻井氏:
こちらの思惑通りに倒れて、思惑通り詰まって、思惑通り突破して……と、こちらの想定に噛み合うプレイをされる人が多くいましたね(笑)。ただ、先述した通り世にあるローグライク系のゲームとは異なる方向で独自進化した作品なので、「ローグライクファンにアプローチできた」というような実感はあまりありません。

篠崎氏:
ローグライクと言われて思いつくゲームは、やはり皆さん最近ではアクションやカードゲームの方が多いんですよね。元祖『ローグ』の性質を濃く受け継いでいるのは『不思議のダンジョン』だとは思っているのですが、そもそも「ローグライク」という言葉が独り歩きしていると感じています。

――なるほど。ローグライクが好きだからこその葛藤が伝わってきます。

篠崎氏:
私としてはすごく好きで、楽しんでいるジャンルです。ただその中で、ローグライクとは何なのか、この作品がローグライクと呼ばれるのか、といろいろな他の作品も遊びながら感じています。

――『シレン6』という作品はSteam版のリリースで一旦終了を迎えるのでしょうか。それとも、他プラットフォームやさらなるアップデートの展開も視野に入れていますか。

篠崎氏:
ユーザー様の要望が大きければ……という感じですね。まだDLCが出てから日も経っておらず、ガッツリ遊んでいただいている最中かなと思いますので、その後の反応を見て決めることになります。実際どうなるかは会社を含めた総合的な判断になっていきますが、私たち含めて皆が幸せになる方法を模索していきたいですね。

――本作の3Dグラフィックはしっかりまとまっていましたが、一方で過去作のようなピクセルアートを求める人もいます。今後の作品があるとしたら、グラフィックの方針をどのようにするかお聞かせください。

篠崎氏:
ピクセルアートの良さを感じていただけるのはありがたいですし、私たちとしても開発当初、議論をしました。ただ、過去作でピクセルアートを採用していた主な理由は、処理速度を早くしたいというものがありました。ただ今回は3Dにしても処理速度が問題なく、快適にプレイできるようにするという課題をクリアできたことが採用理由のひとつでした。

今後どうするかは、作品の方向性やハードの相性によって決めていきます。作品としての面白さを保ちつつ素敵な演出ができることを考えていきたいです。

――『シレン6』は原点回帰というコンセプト通り、シリーズが持つ本来の面白さを現代に伝えるという使命を果たしたと思います。そこで、今後の『シレン』、ひいては『不思議のダンジョン』シリーズはどういった物を目指していきたいですか。

櫻井氏:
あくまで個人の野望ですが、初めて触っていただく方へのアプローチはもっと追求していきたいですね。まだハードルを感じる要素はあると思っていて、まだ何かベストな方法があるのではないかなと感じています。
また、プレイ時間の長さも課題かなと思っています。99Fダンジョンの場合、5時間6時間かかるのは当たり前という感じなので、そこまで長い時間をかけずとも楽しいと思える瞬間や達成感を感じる瞬間を感じられるよう、現代風に馴染ませられたらなという妄想は持っています。

篠崎氏:
『シレン』でいうと、やはり作品愛を持っている人は多いですし、私も 学生の頃プレイして以来のファンです。まずはそういった方々に納得してもらえることは第一に必要かなと思っていて、その上で「こんなやり方もあったのか!」と思わせられるような成長や仕様の変化を入れていけると楽しいと思います。『不思議のダンジョン』としては、今後も他社作品とのコラボをつづけて、いい意味でも『シレン』と違う内容が作れたら良いですね。

――ありがとうございました。

『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』はPC(Steam) 版は12月12日発売予定。Nintendo Switch版は発売中である。

Mio Tsukuru
Mio Tsukuru

ゲームの歴史が好きなフリーライター。FPSやADVを主食とし、新旧コンソールゲームからPCゲームまで気になるゲームを幅広く遊ぶ。Nintendo Switchでレトロゲームを買い漁るのが趣味。

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