『昭和米国物語』では、なぜ昭和日本とアメリカが融合しているのか。奇想天外世界が生み出されたルーツは、開発者の“青春”

バブルが弾けずに強大な経済力によって日本がアメリカ合衆国を買収したという世界観が、『昭和米国物語』では描かれる。弊誌は『昭和米国物語』のクリエイティブディレクターを務める羅翔宇(Xiangyu Luo)氏にインタビューを行う機会に恵まれた。

もしバブル景気に湧いた日本が続いていたらどうなっていただろうか。たとえば1980年代後半には東京都の山手線内側の土地価格だけで、アメリカ全土が買えるというほど日本の土地価格は高騰していたという。そうしてバブルが弾けずに強大な経済力によって日本がアメリカ合衆国を買収したという世界観が、『昭和米国物語』では描かれる。経済的にも文化的にも日本の植民地となった架空のアメリカ合衆国が舞台となっている。

弊誌は『昭和米国物語』のクリエイティブディレクターを務める羅翔宇(Xiangyu Luo)氏にインタビューを行う機会に恵まれた。本作独自の世界観やゲームプレイのあらましについて貴重な話を聞くことができたので、この記事で紹介していきたい。

クリエイティブディレクターの羅氏

──最初に、羅翔宇さんの自己紹介をお願いします。

羅翔宇氏(以下、羅氏):
クリエイティブディレクターの羅翔宇(Xiangyu Luo)と申します。ゲームデザインやシナリオなど、『昭和米国物語』のさまざまな面に携わってます。本日は読者の皆様に『昭和米国物語』を紹介できてうれしいです

──本作のストーリーについて教えてください

羅氏:
主人公の千草蝶子は映画のスタントマンです。蝶子は映画の主演になるためにアメリカ・ロサンゼルスを訪れますが、空港で殺され、迎えに来た妹は失踪してしまいます。しかしなぜか蝶子は復活し、失踪してしまった妹を探してアメリカをキャンピングカーで横断することになります。そうしてさまざまな人々と邂逅するなかで、旅を続ける理由がどんどん増えていくわけです。世界の秘密に迫るような発見もあるでしょう。

──最新トレイラーでは『昭和米国物語』の発売時期が2025年と発表されました。2022年のタイトル発表からついに発売時期の発表までたどり着きましたが、今の率直な気持ちを教えてください。

羅氏:
実は、『昭和米国物語』は2016年にはすでに企画段階にあったんですよ。盛り込むコンテンツ内容を考えて、ゲームとして発表したのが2022年です。発表した2022年から2024年にかけては、各コンテンツの内容を強化してきました。そのおかげで、ゲームの完成度も日増しに高まってると実感しています。最新トレイラーではプレイヤーの皆様にも、本作がどのようなゲームであるかが伝わりやすくなったと思っています。それがとてもうれしいですね。プレイヤーの皆様と同じように、開発チーム一同もゲームが完成する期待度が高まっている状態です。

──2022年のPVは日本だけでなく、世界中で話題になりましたが、予想通りでしたか?またPVの反響によってゲームの開発に変化はありましたか?

羅氏:
当初に思い描いていたゲームを実現するために開発を進めるところはブレませんでした。PVが大きく話題になったあとも、開発規模の変更は行いませんでしたし、計画からゲームのボリュームもあまり変わっていません。当初の予定通り、同じ規模感で完成させたいとの思いで開発を進めてきました。

参考にしたのは『龍が如く』と『NieR:Automata』

──剣や銃を駆使して主人公が戦う様子がトレイラーに登場しますが、本作のバトルではどのようなアクションが重要になるのでしょうか?

羅氏:
バトルでは、近接武器と遠距離武器の2種類を使い分けて戦います。近接武器の使う割合が60〜70%、遠距離武器を使う割合が30〜40%といったところでしょうか。遠距離武器には弾薬の制限がありますので、近接武器の方を使う機会が自然と多くなるでしょう。武器の種類はかなりの数を用意しました。バトル中に武器を切り替えて戦うことが、重要なものになっています。

──『昭和米国物語』を開発するうえで参考にしたゲームはありましたか?

羅氏:
メインストーリーの進め方については、『龍が如く』シリーズですね。『昭和米国物語』でも、メインストーリーを優先的に進めていくこともできますし、ちょっとした寄り道をすれば一風変わった趣のサブクエストが待ち受けています。バトルについては、『NieR:Automata』を参考にしました。

──全体のボリュームはどの程度なのでしょう。

羅氏:
メインストーリーと広大なフィールドの探索が、主なゲームのコンテンツになります。メインストーリーを進めながら、ときおり発生するサブクエストをプレイしていくようなゲームになっています。ゲーム全体の割合としては、メインストーリーがゲームの40%です。残りの30%がバトルで、さらに残りの30%が探索とそのほかの要素になっているかと思います。

ゲーム全体のボリュームは、かなりのものになりますよ。『昭和米国物語』を熟知している開発陣がプレイしてもメインストーリークリアまで約20時間かかりますね。メインストーリー以外の探索要素を含めると、その倍以上のプレイ時間になるでしょう。

──やりこみも豊富そうですね。どのようなやりこみ要素が存在するのでしょうか?

羅氏:
旅の途中で発生するサブクエスト自体が、やりこみ要素の1つですね。いろいろなサブクエストが発生しますし、メインストーリーとは真逆の雰囲気を持つサブクエストに挑むこともありますよ。

もう1つのやりこみ要素が、旅の途中で収集できる膨大な数のアイテムです。プレイヤーがインタラクションできるアイテムも多数登場します。そんなほぼすべてのアイテムが、開発チームによる昭和の思い出にもとづいています。たくさん作り込みましたので、昭和のことを知っている人がそのアイテムを見れば、思い出が蘇るかもしれません。

ほかには、本作で主人公たちはキャンピングカーに乗ってアメリカを横断する旅をするのですが、ときには車を止めて風景を写真撮影することも可能です。道中で入手したアイテムや写真を車のなかに飾り付けるのも、本作のやりこみ要素になっていますね。旅で使うキャンピングカー自体が、プレイヤーにとっての魂のような、こだわりと思い出を詰め込んだ存在になると思っています。

「ハマるものの70%」が日本のコンテンツで彩られた青春

──本作の特徴はなんといっても世界観かと思います。ゲームタイトルにも含まれていますが、「昭和」という時代にどのような印象をもっていますか?

羅氏:
私は1983年に中国で生まれました。昭和でいうと昭和58年ですね。ちょうどその頃は、日本の文化やアメリカの文化が中国に入ってくるタイミングだったんです。幼少期から学生時代にかけて、私は中国に輸入された日本の漫画、アニメ、映画などで青春を謳歌することができました。

当時は「昭和」という言葉の意味はよくわからなかったけれど、日本のたくさんの文化的なコンテンツが私たちの国の文化と混ざり合って、楽しい子供時代を過ごすことができました。とくにメカ系のおもちゃが大好きでした。結果として異国の昭和という時代に憧れましたね 。成長していくうえで自然と好きになっていったエンタメやおもちゃなどが、私が抱いた昭和の印象につながっています。

──昭和の日本に支配されたアメリカ合衆国という『昭和米国物語』の世界観は、どのような発想で思いついたのでしょうか?

羅氏:
私の少年時代の70%は、日本から輸入したコンテンツで成り立っているといってもいいほどでした。残りの30%はアメリカのものです。そういう子供時代があったからこそ、日本とアメリカの文化が融合した独自のものをプレイヤーに見せたいと思っています。そこで、昭和の日本に支配されたアメリカ合衆国という世界観を構築したんです。今まで誰もやってこなかった発想でゲームを作り上げたら、プレイヤーも驚いて好きになってくれるんじゃないかと思いました。『昭和米国物語』の世界観を発想したとき、ハリウッドが日本風になっていたり、自由の女神像が着物を着ていたりと、そういうイメージが次から次へと思い浮かびました。

当時中国に入ってきた日本のコンテンツは、日本から数年のタイムラグを経て輸入されたものが多かったです。タイムラグが存在したこともあり、中国からコンテンツを見たときと日本からコンテンツを見たときの感触や思い出はまったく変わってきます。 昭和の日本やアメリカのコンテンツをもとにしつつも、それぞれの解釈、それぞれの思い出、それぞれのイメージから作り上げられた『昭和米国物語』には独特な魅力があると思います。

ゾンビが「1つの種族」となったアメリカ

──独特と言えば、登場人物のなかでも和服のテキサス州知事・五光が気になっています。アメリカ合衆国の大統領が五光を責めるような場面がありましたが、2人の関係について教えてください。

羅氏:
五光とアメリカ合衆国大統領の関係性はネタバレになってしまいますので、深く言及することはできません。五光というキャラクターは見た目こそ典型的なアメリカ人ですが、着物を愛用するほど日本が好きで、とても日本文化に詳しい人物です。五光はテキサス州の知事ですが、テキサス州の土地を日本に売った張本人でもあります。五光の土地売却によって、本作の世界ではさまざまなことが連鎖的に発生しました。五光のしたことが本作の世界にどのように影響を与えたかについて、楽しみにしていてください。

本作のアメリカでも、アメリカ合衆国の大統領は存在しています。ゾンビがあふれた世界でアメリカの大統領はどういった立ち位置なのでしょうか。それはプレイヤー自身がゲームプレイを通じて楽しんでいただきたいところですね。

──最新トレイラーでは五光が意味ありげにゾンビについて語るシーンがありましたが、本作に登場するゾンビはどのような存在なのでしょうか?

羅氏:
本作に登場するゾンビは、一般的なゾンビとは異なります。たとえば、生前に好きだったことをやり続けるゾンビもいますし、ある程度の知性があるといっていいでしょう。実を言うと、本作ではゾンビはストーリーにおける1つの独特な種族のような存在です。主人公はゾンビのキャラクターとも交流していくので、ゾンビの人生にも思いを馳せてほしいですね。

『昭和米国物語』の開発におけるこだわりとは

──これだけはどうしても訊きたかったんですが、主題歌に大事MANブラザーズバンドの「それが大事」が使われているのはなぜでしょうか?

羅氏:
私自身が当時よく聴いていた曲だからです(笑)バブル崩壊後に落ち込む人々を元気づけるようなパワーのある曲として印象に残っています。そうした力を持つ「それが大事」という楽曲は、本作にマッチしていて主題歌にピッタリだと考えました。

──こだわりの一曲だったんですね!最後に、開発においてこだわったところもアピールしていただけますでしょうか。

羅氏:
『昭和米国物語』の主な魅力としては、4つ挙げられると思っています。もっとも大きいのは独特な世界観です。2つ目は日本の文化と融合したアートのデザインのインパクト。3つ目はメインストーリーです。詳細はまだ言えませんが、ほかのゲームとはまったく異なるストーリーになっています。最後の4つ目はバトルです。近接武器と遠距離武器がたくさん存在していて、プレイヤーの好きなタイミングで入れ替え可能です。連続ヒットやコンボなどを追求できる武器の多種多様さも魅力の1つだと思っています。

ゲームプレイの詳細については、まだお話していないこともたくさんあります。2025年発売に向けて随時続報を発表していくので、現時点では公開済みのトレイラーを観て想像を膨らませていただければと。

──ありがとうございました。

昭和米国物語』は、PS5/PC向けのアクションRPGとして開発中。2025年の発売を目指して鋭意開発が進められているところだ。最新トレイラーでは、2024年冬にさらなる情報が予告されている。本作に興味がある場合は、Steamのウィッシュリストに追加しておこう。

[聞き手・編集:Ayuo Kawase]
[聞き手・執筆:Ryuichi Kataoka]

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