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“カグラ1作目では賭けに出た、ブレるのが嫌だった”

――高木さんは実際にお会いすると、イメージとはまったく違いました。目の奥に何かが秘められている感じがします。「おっぱいが~」なんてやりながらも、じつはものすごく計算されているのでは?

高木謙一郎氏:
計算というほどは計算していないかもしれないですけど、当然失敗しないようには考えてやってきたつもりです。あとはやっぱり――怨念が強いと思います。「ゲームを作りたい」とか「自分のタイトルを世に確立させたい」ということに対しては、とくに3本目ぐらいまでは“ギリギリ”していましたね。「俺は絶対にやれる!」みたいなのは、自分の裏にありました。今もありますけど。

 

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――なるほど、それが高木さんの目の奥に秘められているものですね。

高木氏:
実際、おっぱいだなんだのってやっても、けっこうなお金がかかっていて、たくさんの人が関わってくれています。みんなそれぞれの人生がありますし、一緒にやってくれた人に対して「失敗しました。お給料は払えません」ってなっちゃうとよくないですよね。そういうのも含めて、ファンもスタッフもみんな幸せになれるにはどうしたらいいんだろうって考えながら、「おっぱい!」って叫んでいるんです。(笑)

 
――(笑)。爆乳プロデューサーとして体を張られていますけど、僕だったら恥ずかしいと感じる瞬間がありそうです。

高木氏:
僕はないかもしれないですね。一番恥ずかしいのって、納得していないものを売らなきゃいけなくなった時だと思うんです。それは本当に恥ずかしいですし、汚点になっちゃうので、それだけはやりたくない。それと、どうしてもやりきれていない部分もあるんですけど、基本的に僕は自分の中で納得できたものしか出していないつもりなので、恥ずかしいと思うことはないです。「おもしろいでしょ?」と出したものを「おもしろい!」と言ってくれる人が増えてきたので本当にありがたいです。

 
――「プロデューサーとはこういうものだ」という考え方はありますか?

高木氏:
プロデューサーを定義付けるとしたらシンプルで、「利益を上げること」だけです。それをやるための手段は自由です。人を動かしてやる人もいますし、みずからの手を動かしてやる人もいます。「プロデューサーだからこうだ」みたいなのは無いと思ってるので、あまり意識していないです。

もともとプランナーとして業界に入ってきたので、ただゲーム仕様の決定権が欲しかったんです。「俺が決める!」っていろいろやっているうちにディレクターになり、プロデューサーになりました。偉くなりたかったわけではなくて、ただ作品に対しての決定権は、お金より欲しい。それだけです。

 
――なるほど。でも、「俺に決めさせてくれ」とやっているだけでは、今のポジションまでのぼれなかったのでは?

高木氏:
そうですよね。本当に運が良かったんです。先輩や仲間、導いてくれた人たちに感謝しています。すごくラッキーだなって、いつも思います。僕は子供のころからゲームしか好きなものがないので。それが今、何作か成り立っていて、飯を食えて。

 
――夢がかなったというか、そういうことはなかなか実現できないですよね。

高木氏:
本当にラッキーです。もし今の自分になれなかったら、どうなっていたんだろうって。

 
――運もあるかと思いますけど、ほかにも要因がありそうです。

高木氏:
それはきっと、賭けに出たタイミングかもしれないですね。

 
――賭けに出たタイミングですか。

高木氏:
自分のプロデューサーとしてのオリジナル1本目『勇者30』は、少ない予算で小さなチームで「ワーッ」と作ってただけなのに、後から結果がついてきて、思っていたよりも高い評価を得て、本数も出ました。2作目を作るとき、それなりに予算もかけて、早い段階で宣伝・営業・会社を交えて「どう売っていくか」「10万本を売るためにはどうすればいいか」など、僕も経験が浅かったので、いろんな人の話を聞いたんですけど、それによって方針がブレちゃったんです。

 
――人の声を聞きすぎてブレてしまった。

高木氏:
ゲームは遅れながらもいつもどおり面白く出来上がったんだけど、売れ行きは1作目に届かなくて。うまくいかないときって、みんな心配になるし、それぞれがいろんなことを言うので、ブレが止まんなくなるんです。それで最終的にストレスを抱えちゃって。

『閃乱カグラ』1作目をやるときに会議で言ったんです。「とにかくこれは、宣伝・営業・会社の誰の意見も一切聞きません。すべて僕に決定させてください。結果を出すから。」って。そうしたら「わかった」って言ってもらえて。だから『閃乱カグラ』1作目のときは、「俺がこうだって思ったことは、絶対にこうしてくれ」って、一切誰の意見も聞かなかったです。そのときの威力は、5年経った今も、さらに強くなって残っています(笑)。

もし失敗したら、今ここに僕はいないけど、自信があったし、言い訳できないように自分を追い込む意味もあって、賭けました。

 
――賭けは大成功でしたね。ゲームはヒットし、遊んだ人は笑顔になれた。

高木氏:
最高ですよね。『閃乱カグラ』2作目以降は、宣伝・営業・制作、みんな良いバランスで協力して、全力でやっています。その結果、本数も上がっています。

とはいえ、ひとつだけ後悔があるとすれば2作目の『Burst』の時に1作目が全て入っているという情報を初報で自分は出したかった、出すべきだと考えたのですが、「出さないでくれ」という意見を抑えられなかった、ってのはあります。事情はわかる部分はあったんですが、納得していないことを許してしまった、今でも思い出す反省点です。

 
――話は変わりますが、『VALKYRIE DRIVE -BHIKKHUNI-』(ヴァルキリードライヴ ビクニ)がドイツとオーストラリアで発売禁止になったニュースがありました。日本と海外の規制の違いで、何か感じることはありますか?

高木氏:
ドイツとオーストラリアは昔から厳しいので、そもそも出せるとは思ってなかったんです。「試しに審査出してみよう」「やっぱり落ちたね」ぐらいの感じです。

 
――出せなかったことは驚きではなかったんですね。

高木氏:
海外からすると、日本の美少女キャラクターはすごく幼く見えます。子供の性にも厳しいですよね。もちろん僕もそうあるべきだと思っています。でも今のところは修正していないですね。変えないっていうスタンスがあるんです。たまにイラストでこれはちょっと……っていうのはあるんですけど、安易に肌の露出を隠すとかは絶対にしないです。そうするぐらいなら、別の絵を描きなおします。直さない、出せないなら出さない、そういうスタンスです。

 
――そこは貫き通されているんですね。

高木氏:
もともと予算も少なくて大きなこともできないですから、少人数を、ゲームだと3万人ぐらいを、しかも日本だけをターゲットにしていたんです。結果的にそれが海外の興味をひいて、広がっていきました。

 
――世界にファンが増えることで変化もありそうです。

高木氏:
たとえばヨーロッパ、E3とかのインタビューだと、「キミは女性をどう思ってるんだ?」というような、厳しい質問を受けます。もちろんそれは差別だとか僕を貶めようとかいう意思はないんですけど、「そう感じる人たちもいるんだな」と思うようになって、少しずつ意識するようにはなりました。トゲがなくならないようにはしたいんですけどね。『閃乱カグラ』が世界に広がっていって、遊びたいって言ってくれる人も増えてきたので、そのへんも気を使わなければならない時期になってきたのかなと。

笑えるスケベ、楽しいエッチ。
笑えるスケベ、楽しいエッチ。

――じつは僕、二次元の女の子にまったく興味がないんですよ。『閃乱カグラ』をすすめられたとき、単純にエロなゲームだと思っていたので、購入するのがめちゃくちゃ恥ずかしかったんです。でも実際に遊んでみたら、最初に感じたのは「なつかしさ」でした。僕が子供のころに読んでいた月刊少年マガジンに掲載されていた、ちょっとエッチで思わず笑ってしまうマンガに近いと感じたんです。

高木氏:
『いけない!ルナ先生』とか?

 
――そうです、そうです。

高木氏:
基本的には、ああいうノリなんです。中高生の性の目覚めを手伝うみたいなコンセプトがあるんですよ。笑えるスケベとか、楽しいエッチというのは、めちゃくちゃ意識しています。

 
――乳首が絆創膏で隠れているとか、まさに僕が子供のころに読んでドキドキしたやつだなと。(笑)

高木氏:
『いけない!ルナ先生』とか『やるっきゃ騎士』とか、ああいうノリですよね。あと、永井豪さんのノリとかも。

 
――ああ、服が破れるのはまさに永井豪さんですね。

高木氏:
『キューティーハニー』とかね。昔から伝統芸のように繰り返されてきた表現。(笑)

 
――キャラクターが発する「いや~ん」という声、久しぶりに聞きました。

高木氏:
現実では聞くことがないですからね。一度誰かに言わせてみたいですけど。(笑)

 
――キャラクターの設定は高木さんの好みが反映されていると思いますが、実在する人物、たとえば中学生時代のクラスメートとかがモデルになることってあるんですか?

高木氏:
基本は自分の好みがベースで自分の好みの子しか出てこないんですが、現実の誰かをモデルにはしていないです。普通キャラクターって、いろいろな趣味の人を考えてデコボコを作るんですよ。『閃乱カグラ』はそれを一切やってなくて、「自分が好き」だけで並べてます。ある意味、僕の性癖博覧会みたいなもので、それはちょっと照れくさい時期はありましたね。「あー、高木はこういう子が好きなんだ」みたいに思われるわけですから。(笑)

 
――その性癖についてくる人もたくさんいますね。

高木氏:
そうなんですよ。好みの方向性が一緒だったらハマってくれるんだと思います。

 
――僕にとって『閃乱カグラ』は、とてもなつかしくて、ちょっとエッチだけど笑えるゲームです。ニッチだけど、そこを狙われているんですね。

高木氏:
そこは守らないとっていうのはありますね。ただのエロとかセクシャルになると、ちょっと『閃乱カグラ』とは違うなと。そこを守っているのが『閃乱カグラ』の独自性だと思っています。18禁にしないとか、やりすぎなようでやりすぎていないところですね。

 
――こだわりですね。

高木氏:
さっき「買うのが恥ずかしい」って言われてましたけど、じつは「恥ずかしい」と思った瞬間からゲームは始まっているんですよ。どこの店でどう買おうとか、昔だとエロ本をどうやって手に入れよう、おばあさんがレジにいるときを狙って持って行こうとか、何冊かの本に挟んで隠そうとか、これはもうゲーム性なんですよ。(笑)

 
――たしかにゲームですね。(笑)

高木氏:
そうです。(笑)

 
――『閃乱カグラ』もそうですが、ゲームキャラクターのおっぱいは実物のおっぱいとは違いますよね。大きくなればなるほどニュートンには勝てないけれど、ゲームでは綺麗な形を保っています。そこでですね、パッケージでいいので、「登場するおっぱいは実物とは異なります」という一言を書き加えてほしいなと。

高木氏:
「実在する人物とは一切関係ありません」みたいな?「現実とは異なる挙動をします」とか。(笑)

 
――信じちゃう人っていると思うんです。ゲームキャラクターのおっぱいが、実物と同じだって。

高木氏:
信じている人ってけっこういるかもしれないけど、巨乳がブラ外すとデローンとなるとかってのは、現実の世界で体験してもらえればいいかな。「外してもあのままだと思うなよ!」みたいな。(笑)

注意書きは、『閃乱カグラ』が1作で50万本ぐらい売れて、影響力が大きくなって、これは危ないと感じたら書くかもしれないですね。(笑)

 
――(笑)。最近はエロがどんどん過激になってきているというか、僕らの子供のころとは変わってきましたよね。

高木氏:
簡単に手に入るようになりましたね。インターネットがありますし、入手経路が増えました。僕が小中学生のころは、エロ本なんて命がけで探してましたからね。山の裏とかに捨てられていて、友達と一緒に探しに行って、濡れてパリパリになったページを開いて「オオーッ」って言いながらね。

 
――『UPPERS』は高木さんのSNK愛が含まれていると聞いたことがあるのですが、『ビー・バップ・ハイスクール』の影響もあるとか。エロ本探しも含めて、ご自身が子供のころに感じたことや体験など、それらがゲームづくりに影響しているんですか?

高木氏:
やっぱりそうですね。小中高大、学生時代に触れたものというのが、すごく色濃く根っこに残ってますよね。大人になると、マンガとかゲームとかって簡単に手に入ってしまうので、ひとつひとつへの思い入れって薄くなっちゃう。でも子供のころに苦労して手に入れたもの、触れたものっていうのは、完全に僕の根っこになっていますね。

 
――学生時代の高木さんと同じような気持ちでゲームを買ってくれる人がいると嬉しいですね。

高木氏:
恥ずかしさとか楽しさとかを、ゲーム以外の部分でも体験してもらえたら嬉しいですね。あと、「エロのゲームなんでしょ?」という誤解はまだまだあるので、それを解いていきたいなと思っています。少しずつでも。

 
――遊んでみたら印象がガラっと変わりますし、僕らの世代の人が遊んだら、月刊少年マガジンを思い出して、なつかしいって言いますよね。

高木氏:
あはは。淡い思い出がよみがえりますよ。

 
――本日はありがとうございました。

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収録日: 9月某日

[聞き手: Shinji Sawa]

ご存知のとおり、新作『閃乱カグラ PEACH BEACH SPLASH』が発表されました。揺れる公式サイトは一見の価値ありです。

公式サイトを見たときからゲームが始まっていることをお忘れなく。

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