「皆もっとラフにゲーム作りをはじめてみるべき」。ゲーム開発ツール「RPG Developer Bakin」の開発理念について訊いてみたら、ゲーム制作応援の熱意がすごかった 

スマイルブームは8月28日、「RPG Developer Bakin(以下、Bakin)」を正式リリースする。対応プラットフォームはPC(Steam)。

「Bakin」は、プログラミングの知識がなくとも直感的な操作でRPGが制作できる、PC向けのゲーム開発ツールだ。パネルを配置するだけでイベントが作成できるエディター機能のほか、3Dのポストエフェクト表現の充実したビジュアル表現力を強みとしている。2D素材と3D素材の両方に対応しており、3Dならではの表現と2Dのアセットを組み合わせることで多彩なゲームが作れるとして注目されている、新進気鋭のゲーム制作ツールである。

今回弊誌では、「Bakin」開発チームリーダーである長井伸樹氏にインタビューを実施。「Bakin」の歩みからはじまり、現在のユーザーコミュニティの動きや今後の展望まで、長井氏の「みんなに気軽にゲームを作ってほしい」という熱い想いを感じることができた。ゲーム開発に興味がある方のほか、創作活動が好きな方の背中を押してくれる内容となっているので、ぜひお読みいただきたい。

―― まずは自己紹介をお願いいたします。

長井伸樹(以下、長井)氏:
長井です。「Bakin」の開発チームリーダーとして、制作と販売の全てを統括しています。具体的には、デバッグから大まかな仕様の策定、サンプルゲームやサンプルデータの作成、販売計画の立案、セールス施策の考案、バナー制作、動画制作など……多岐にわたる業務を担当しています。

―― 業務内容が「ほとんどすべて」とも聞こえるのですが……(笑)

長井氏:
はい、少数精鋭でやっていますので、いろんなことを端から端までやって忙しくしてます(笑)ゲーム好きで制作ツールにも詳しいコアメンバーと描画エンジンを手掛けるメンバーに、他のプロジェクトの状況で手が空いたスタッフに適宜手伝ってもらう形で進めています。次々やることが変わるライブ感あふれる開発スタイルなんですが、みんないろいろな現場を切り抜けてきたメンバーなのでここまでスピード感を持って続けてこられました。

―― 「Bakin」についてのご紹介もお願いします。ノーコードのゲーム制作ツールですが、どのような流れで開発がスタートし、正式リリースへと至るのでしょうか。

長井氏:
「Bakin」の前身は、2016年にリリースした「スマイルゲームビルダー」いうツールです。「Bakin」と同様、初心者でもノーコードで3Dのゲームが作れるというツールでした。

「スマイルゲームビルダー」

長井氏:
「Bakin」の開発は2017年頃からスタートしています。私が入社したのは2019年で、そのときにはすでに骨組みができている状態でした。とはいえ、どんなゲームを作れるツールなのかは曖昧で、漠然と「何でも作れます」というツールでした。その状態から方向を定めて、ツールの強みをまとめていったのが今の「Bakin」です。

私は2019年の入社のときに少し「Bakin」チームに参画し、それから一度別のプロジェクトのために離れ、2021年の末頃にチームに戻ってきたんです。戻ってきた当初はまだ完成しそうな感じがなかったのですが、そこからなんとか2022年10月に早期アクセスに漕ぎ着けました。早期アクセス版のリリース直前なんかは、もう何をやっていたか思い出せないくらい忙しかったですね。

―― リリース当初はかなり大きな反響がありましたよね。話題になっていたので、弊誌でもインタビューをさせていただきました。

長井氏:
はい、それに気を良くしてさらに開発を進めてきました(笑)大型アップデートはこれまでに15回ほど、細かなアップデートは年に数十回、実施しています。ユーザーの皆さんからご意見をいただくことが多く、それをもとに改善を重ねて今に至ります。

―― 「Bakin」にはどんな開発理念があるのでしょうか。

長井氏:
自分の作ったキャラクターやストーリー、世界を自由に表現できるツールを目指して開発しています。ユーザーの皆さんに、ゲームを作ること自体を楽しんでいただけるのが理想ですね。

初心者はまず「シンプルなゲームから」

――ゲーム制作未経験でも、小説やイラスト、3Dモデルなどを制作したことはあるという方は少なくないと思います。そういった「創作経験はあるけれど、ゲーム制作は初めて」という人が「Bakin」でゲームを作る場合、どのようなところからスタートするのをおすすめしていますか。

長井氏:
私たちは小学生向けのワークショップも開催しているんですが、そこでお勧めしているのは、まず「Bakin」の基本機能で作れるオーソドックスなRPGを作ってみることです。マップがいくつかあって、その中を冒険して、仲間を集めてモンスターとバトルして、最後にボスを倒して宝物をゲットするというようなやつですね。

ワークショップの様子

長井氏:
宝箱を開けたり仲間が増えたりといった頻出のイベントは、「イベントテンプレート」という機能で簡単に設定できます。まずはイベントテンプレートからイベントを配置して自分の世界を作り、「Bakin」での表現の仕方を試していただくのが一番良いと思います。

―― まずはシンプルなゲームを作ってから応用していくという感じですね。私も触ってみたのですが、「Bakin」は「とりあえずやってみる」のターンがすごく楽しく作られていると感じました。ブロックを積み重ねるようにして、手軽にマップが作れますよね。

長井氏:
マップを作るのが楽しいという意見はよくいただきますね。地形を盛り上げたり、掘り下げたり、木などのオブジェクトを置いたりと、絵を描くように気持ちよく作れるように工夫しています。他にも、グラフィック機能……特にポストエフェクトを簡単に扱えるのも「Bakin」の大きな特徴です。ライティングを整えたり、遠くの風景をぼかしたりといった効果は、他のツールと比べても手軽につけることができると思います。

―― ポストエフェクトについては好評の声もよくお見かけしますね。3D方面の知識がない人でも手軽に演出がつけられるのは「Bakin」の強みかと思います。開発にあたって工夫した部分はありましたか。

長井氏:
まず優先したのは、デフォルトのプリセットを多く設けることです。「Bakin」のエディターではプリセットを切り替えるだけで、パッと世界の見た目が変わります。その変わった見た目は、すぐにマップエディターに反映されるようにしています。何かを設定した後に画面を移動して確認するのではなく、パラメータを変えるとリアルタイムで世界が変わっていくよう、レスポンシビリティに気をつかいました。手軽にいじることができるので、まずは怖がらずに適当にとりあえず触ってみてほしいなと。

―― まず触ってみて、ユーザーにどんなツールなのかを分かってもらうことに重点が置かれているのですね。

長井氏:
はい、最初のうちはよくわからなくても、ポチポチいじっているうちにコツが掴めて、だんだんと世界を作る感覚が身につくようになっています。成功体験をストレスなく積み重ねていけるツールなので、とにかく触ってみてください!

活発なユーザーコミュニティに感謝

―― プログラミングができない人も制作を楽しめる一方、「Bakin」ではC#を用いたプラグインによるカスタマイズも可能です。ユーザー制作のC#プラグインについて、印象的な事例があれば教えてください。

長井氏:
まだ歴史が浅いツールなのでそれほど多くのプラグインが投稿されているわけではないのですが、例えばアイテムクラフト機能なんかはプラグインを丸ごと作ってくださったユーザーさんがいて、それが多くの人に使われています。ユニークなものだと、AIと会話するプラグインやゲーム内に動画を表示するプラグインなど、いろいろな実験的なものが出てきていますね。

―― 素敵ですね。プラグインを通じてユーザー間のつながりも生まれているみたいです。コミュニティが活発だと、やはり開発者的にも嬉しいですか。

長井氏:
そうですね。SNSでは毎月18日に「#プレミアムバキンデー」という非公式イベントがあり、ハッシュタグをつけて作品が投稿されているんですが、これもユーザーが自発的に始めてくれたイベントです。多くの作品が作られているのを見ることができるので、すごくありがたいですね。Discordでも海外を中心に情報交換が行われていて、ユーザー同士が助け合う形でコミュニティが形成されています。ユーザーの皆さんに助けられながら「Bakin」は進化していますね。

―― 意見交換が多いとフィードバックも多いと思います。ユーザーの声から機能が改善したことはありますか。

長井氏:
ほとんどのアップデートがユーザーからのご意見をうけてのものと言っても過言ではないです(笑) もちろん、大きな機能の実装は私たちが決めていて、VRMモデルの活用やトゥーンシェーダー、UIなどのマスク機能など、基本的な機能は当初のロードマップに沿って制作しています。ですが、実装した後の使い勝手やイベントパネルの機能など、細かい部分の改善はユーザーからの意見を反映しています。

―― 具体的にはどういう事例があるのでしょうか。

長井氏:
コモンイベント(ゲーム中いつでも参照できるイベント)を呼び出すタイミングを細かく指定できるスイッチを追加したことがあります。それを東京ゲームダンジョン(デジタルゲームのオフライン展示会)で展示したら、あるユーザーさんから「これは革命的です」と熱く語られたんです。……文字にしてもちょっと地味で、なかなか伝わらないかもしれないんですが(笑)

―― 開発側とユーザー側との関係性がうまく構築されているんですね。

長井氏:
そう思っていただけると嬉しいです。ただ、ユーザーの皆さんはそれぞれ作っているものが違うので要望もバラバラです。Aさんはあれが欲しいけど、Bさんはこれが欲しい、と意見が分かれることも多いので、要望を受け取った上で何を実装するかは私たちで整理しています。ユーザーさんもそれを理解してくださっていると思います。

―― 長井さんは「Bakin」のコミュニティをかなり見ていらっしゃいますよね。ユーザーの皆さんが開発したゲームについて、驚いた事例はありますか。

長井氏:
たくさんあります。というか、毎日驚かされています!物量的な話でいうと、様々なタイプのマップを2〜300個も作っている方がいてびっくりしました。また、1年間で100個のミニゲームを作った人もいます。RPGだけでなく、アクションゲームやクイズゲームなど、週に2個ずつくらい作っていたんですよ。すごいですよね。

「Bakin」ではアクションゲームがよく作られるのですが、それ以外にもRPG部分を省いてアクション要素だけを使ったサイドビューのアクションゲームや、シューティングゲームなどを作られている方もいますね。FPSを作っている人もいますし、『スーパーロボット大戦』シリーズのようなSRPGを自前で組んで作っている人もいます。

―― あれ? SRPGって「タクティカルRPG」のことですよね。“今後”実装予定とロードマップで拝見した記憶があるんですが……。

長井氏:
そのとおりです。しかし、その方は自作のプラグインや他のユーザーさんが作ったプラグインを利用して制作してらっしゃるみたいですね。「『スパロボ』っぽいゲームを作っている人がいるけど、どうやってるんだろう……」と開発内で話題になりました(笑)

とにかく皆さんいろいろなゲームを作られていて、ユーザーさんから問い合わせがあった際にプロジェクトを見せてもらうと、初めて見るような仕組みに出会うこともよくあります。そんなことは日常茶飯事なので、世の中には素晴らしい作品がまだまだたくさん埋もれているのだろうなと思います。

あるイベントでお話した方は、「『Bakin』に出会う前はパソコンも使えなかった」とおっしゃっていましたね。本職はゲーム開発なんて全く関係ない方で、パソコンとは無縁だったのに「Bakin」に出会ってゲーム制作を始めたんだそうです。現在も作品を開発中で、イベントでお会いしたときに「僕はバキンっ子なんですよ」と言ってくださったのが印象的でした。

―― 「Bakin」の裾野の広さを感じさせるエピソードですね!

餅は餅屋、「Bakin」はその器になりたい

―― 「VRoid Studio」で作ったVRMモデルをインポートできるなど、「Bakin」以外のツールを活用しての制作も意識されていると感じます。この辺りのお考えについてお聞きしたいです。

長井氏:
餅は餅屋ということで、グラフィックを制作するツールを「Bakin」内に実装することはあまり考えていません。「Bakin」は他のツールで制作されたアセットをインポートできる器のようなものになれたらいいなと思っています。

―― ユーザーの声のなかには、「公式のアセットが足りない」という意見も見かけます。ちょっと意地悪な質問になってしまうのですが、よそで調達するのも歓迎ということでしょうか。

長井氏:
ストアによっては、購入したらどこで利用しても良い規約のアセットもありますよね。私たちとしては他のツールで作られたものもなるべく受け入れられるように「Bakin」側を整えて、インポートできる幅を増やしていきたいという思想で開発をしていますね。あ、もちろんうちのDLCも買ってほしいですが(笑)

『コープスパーティー』作者とのやり取りに手応えアリ

―― 『コープスパーティー』を手がけた祁答院慎さんが「Bakin」でサンプルゲームを作るという発表がありましたが、現時点での制作進捗はいかがでしょうか。

長井氏:
祁答院さんには、数か月という短期間でどんなゲームが作れるかにチャレンジしてもらっています。祁答院さん自身はプログラミングに堪能な方ではないので、そんな方が数か月でどこまでできるか、センスや工夫でどんなことができるかを見せてほしいとお願いしています。 現在はプロットができあがったところで、まずは「Bakin」に慣れるためのテストゲームを作っていただいています。

―― 「Bakin」について、祁答院さんからの手応えはいかがですか。

長井氏:
かなり盛り上がっていて、質問もたくさん来ています。Discordでやり取りをしているのですが、夜にメッセージが来ることもあって……(笑)それにお返事をしながら、これはきっと面白いものができると感じています。

―― 祁答院さんに「Bakin」での制作をお願いして良かったと感じたことはありますか。

長井氏:
祁答院さんは学生時代にプログラミングができなくてもゲームを作りたいと思い、当時のノンプログラミングツールでゲーム制作を始めた方です。その後も様々な作品を作ってきた方が「Bakin」で作品を作っていくというのは、巡り合わせとしてとても良かったと思いますね。

―― テストゲームの制作中、祁答院さんならではの発想はありましたか。

長井氏:
まずはオーソドックスなRPGを作ることをおすすめしたんですが、そのサンプルゲーム自体にも祁答院さんならではの、あっと驚く工夫がありました。この開発の途中経過については順次ブログなどで発表していく予定です。シャレの効いた作品になっているので、ぜひ楽しみにお待ち下さい。

―― 楽しみです!

※本日8月22日に公開された第2回ブログはこちら:
開発ブログ「Made with RPG Developer Bakin」第2回:ゲーム作り 始めた僕も 大勝利

「Bakin」のこれから

―― 正式リリース以降に登場する機能で、特に注目してほしいものはありますか?

長井氏:
地味かもしれませんが「控えメンバー」機能が追加されます。「Bakin」では8人パーティーの戦闘で4人をバトルに参加させ、4人を控えにすることができます。ですが、現在はその控えメンバーをうまくバトルに参加させたり、控えメンバーが経験値を得たりすることができません。これをできるようにします。 また、味方キャラクターに指示を出して自動で戦闘を進める「オートバトル」機能も実装予定です。

長井氏:
「タクティカルバトル」も作れるようになります。実は、タクティカルバトルは初期から開発していたのですが、チーム内で「これではダメだ」という話になって一度作り直しになった経緯があるんです。それに、タクティカルRPGには様々な「流派」があるので……(笑)それぞれの流派のことを考慮して開発を頑張っています。

―― ひとくちに「タクティカルRPG」と言ってもいろいろな種類がありますものね。

長井氏:
そうなんです。ひとつのゲームを作るだけなら比較的簡単に仕様を決められますが、「Bakin」はゲームを作るためのツールなので、様々なケースを想定しなくてはいけません。ただ、ユーザーが考える全てのケースを想定することは不可能なので、ユーザーの皆さんに実際に使ってもらいながら、フィードバックをもとに機能を追加・改善していきたいと思っています。

―― 「Bakin」は開発とユーザーの協力で出来上がっていくのですね。

長井氏:
ユーザーの使い方は千差万別なので、すべてを想定した状態ではリリースできません。いただいた意見にどう対応できるかを考えながら、少しずつ良くしていくつもりです。アップデートを重ねて「Bakin」で作れるものの幅が広がっていくよう、邁進していきます。

―― 最後に、「Bakin」でこれからゲームを作ってみたいと思っている方に向けてメッセージをお願いします。

長井氏:
もっと身構えず、ラフにゲーム作りをはじめちゃってほしいんです!「完成しないと意味がない」とか「すごいものを作らなければいけない」と思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません!

絵を描く人はみんなプロ志望でしょうか? ただ楽しいから描いているだけの人も多いはずです。パラパラ漫画を描いている人だって、全員がプロのアニメーターになりたくて作っているわけではないでしょう。それなのにゲーム制作はハードルが高くて、すごいものを作らなければいけないと思っている人が多い気がします。ゲーム作りだって、気軽に手を出してみてもいいんじゃないでしょうか。

ゲーム作りは始めただけで大勝利です。人生の中でゲームを作るという体験をすること自体に価値があります。ステージの1面だけ作って終わってしまっても、全然構いません。作っている本人が楽しいならそれでOKなんです。

その最初の一歩として、「Bakin」を触ってみてください。制作ツールは筆のようなもので、「Bakin」以外にもいろいろな種類があります。まずは触りやすいものから始めて、合わなければ他のツールに移ってもいいんです。とにかく一度、ゲーム制作という体験をしてみてほしいです。

―― ありがとうございました!

『RPG Developer Bakin』は8月28日、PC(Steam)向けに正式リリース予定だ。

Aki Nogishi
Aki Nogishi

ポストアポカリプスとドット絵に心惹かれます。AUTOMATONではFF14をメインに担当します。

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