ローカライズ、バンドル、クリエイターとの関係。PLAYISM水谷俊次氏インタビュー [後編]

PLAYISMの成り立ちや変遷などを語っていただいた前編に引き続き、水谷俊次氏へのインタビューをお届けする。後編はPLAYISMの舞台裏を中心に語ってもらった。

PLAYISMの成り立ちや変遷などを語っていただいた前編に引き続き、水谷俊次氏へのインタビューをお届けする。後編はPLAYISMの舞台裏を中心に語ってもらった。

 
――売上にかかわる話をさせてください。少し前『メゾン・ド・魔王』のダウンロードが1万本を突破したというのが、ニュースになりました。PLAYISMでリリースしてこれが売れた!みたいなのがあればトップ5を教えていただけますか。

水谷氏:
やはり『メゾン・ド・魔王』ですね。なんだかんだでそろそろ20000本くらいいきそうで……。本数的に言えばトップですね。『メゾン・ド・魔王』『Papers,Please』『片道勇者』『LA-MULANA』『ケロブラスター』ぐらいがトップファイブです。

 
――ところで、PLAYISMでゲームを買うと、Steamキーもあわせて提供するタイトルが多くあります。それだけでなく、PLAYISMが日本語版をリリースしたときにSteam側にも日本語を提供し、英語版を持っているSteamユーザーが日本語版を無料で手に入れることができるといったケースも多くみられます。僕は『To the Moon』の日本語版を遊ぶためにPLAYISMを利用しましたが、こういうふうに「日本語版を遊べるのはうちだけだよ」というのもひとつの販売戦略だと思うのですが、なぜそういった日本語版の提供をおこなったりしているのでしょうか。

水谷氏:
最初はうちだけで日本語版を販売するつもりだったんですけど、やっていくなかで、そもそもPCでゲームを遊ぶ人が日本では少ないと感じました。でも、その当時でもやっぱりSteamにはそれなりのユーザーが集まっていて、そのユーザーの人たちをもっと大事にしないといけないし、そうしないとPCでゲームを遊ぶ人口自体が増えないなと。つまり、うちの売上を増やすには、母数を増やさないとどうしようもなかったので、まず母数を増やす方向にシフトしたということですね。あと、単純にいちユーザーとして、こっちで買ったけど日本語版がないからあそこもう一回買い直さないといけないのは嫌だなというのは理解できましたし。

『To the Moon』は、主人公のふたりが依頼人の願いを叶えるために記憶を冒険するアドベンチャーゲーム。
『To the Moon』は、主人公のふたりが依頼人の願いを叶えるために記憶を冒険するアドベンチャーゲーム。

 
――どちらかというとボランティア的な感じですか。

水谷氏:
そうですね。直接利益にならなくても名前が売れればそれでいいっていう(笑)

 
――PLAYISMのそういった姿勢を支持する声もネットでは時折見受けられますよね。

水谷氏:
うーん、戦略としては日本語版を高値で売るか、ボランティア的に宣伝として使うかもうどちらかしか思いつかなかったんですね。必要に迫られた時に、後者の方は誰もやってなさそうだったし、「じゃあ、こっちの方が目立つな」と(笑)もしかしたらPCゲームファンがこっちに向いてくれるかもしれないと。もし今、良いパブリッシャーと評価していただけているならば、ああ、あの時の目論見はうまくいったなという気持ちです(笑)

 
――そういったスタンスはPLAYISMの規模が大きくなっても変わらないと。

水谷氏:
そうですね。喜んでいただけているならば、できるだけ維持したいと思ってます。日本語版を提供するときは、どこかしらPLAYISMというクレジットは入れてもらうようにしているので、ユーザーさんに「PLAYISMってとこがやったんだな」と思ってもらえば、宣伝になるかなと思っています。

 
――日本語版をSteamに提供して受け取るものは“ブランド”のみということですか。

水谷氏:
そうなりますね。

 
――えっと、では……

水谷氏:
『To the Moon』?(笑)

 
――(笑)

水谷氏:
『To the Moon』に限らずですけど、契約上の問題や技術的な問題やいろんな事情ですべてが実現できない場合というのは必ずあります。デベロッパーさんの判断もありますし。
なので、全部が全部というわけにはいかない場合もでてくることはもちろんあります。どういうもならない場合もありますし、どうにかできる場合もあります、ということですね。

 
――『To the Moon』といえば最近次回作である『Flying the Paradise』というタイトルがアナウンスされました。そちらの予定はどうですか。

水谷氏:
そうですね。ぜひやりたいですね。

 
――売上の話に戻ります。PLAYISMは定期的にHumble Bundleでバンドルを提供していますよね。バンドルはユーザーにとっては安価でたくさんのゲームが手に入るのでお得感が強いですが、パブリッシャーとしてはどうなのでしょうか。

水谷氏:
それはもう良いところと悪いところがあって、1週間か2週間で何千万円という売上が全体としては立つので、すごくいい取り組みの反面、やっぱり焼畑農業に近いです。どんどん市場を小さくしていってしまう。定価でゲームを買う人がどんどんいなくなっていく(笑)

 
――どうせバンドルに入るし、みたいな。

水谷氏:
そうですね。バンドル入りを待とうっていう人も出てきますよね。だから、短期的には儲かりますが、長期的には胸が痛いです。

 
――買い控えによる影響なども実際に出たりしているんですか。

水谷氏:
そうですね。ただまあ、パターンがいろいろあって、数万本が急に売れることによって、宣伝効果というか、さらにそのフレンドに広まって、というふうに売れるきっかけになるというのも確かにあります。もちろん逆にそれをやった後にセールをやっても、全然売れなくなるというパターンももちろんあります。だから、なんともいえませんね(笑)そのあたりはHumble Bundle自身も悩んでいるところだとは思いますけど。Humble自体も年々売上は下がっていると思います。昔はHumble Indie Bundleというと100万本近く売れましたけど、今は10万本いったらやっと、という感じです。もうユーザーも「こんなに買ったけど結局やらない」になりつつあり、その結果買わない方向に進んでいて、供給過多になってきているような感じがします。

 
――セールやバンドルもそうなんですが、PLAYISMはどんどんSteamへの進出の規模が大きくなってますよね。セールなども頻繁にやるようになって、かなり結びつきが強くなってきています。そちらもプラットフォームとして収入源としてさらに展開していく予定はあるんですか。

水谷氏:
そうですね。Steamは世界最大のPCプラットフォームなんで、そこは引き続きつづけていきますね。

 
――そこにはゲーム販売サイトであるPLAYISMとの間のジレンマというのはあるのでは。

水谷氏:
ありますけど、僕らのことよりユーザーさんのことを考えると、Steamで出たほうが便利ですよね。僕らの規模ではあまり独占とかをしても、意味ないなと。なので、ユーザーさんの手に届きやすいようにしていきたいなと考えています。

 
――ローカライズのことをお聞きします。今でこそPCゲームの日本語版が出ていますが、一昔前までは“有志訳”が多かったように思います。ローカライズの専門家として思わず目を見張った有志訳などはありますか?

水谷氏:
たまにチェックしますね。『Dear Esther』とかは比べましたけど、やっぱりうちのほうがいいなと(笑)『DreadOut』とかも有志訳が出てましたが、やはりうちのほうがいいなと感じました。ただ『Legend of Grimrock』は日本語が入らないらしいのですが、日本人ファンコミュニティサイトみたいなのがあって、そこのゲーム内容を補足するような日本語訳は素晴らしかったです。あれ書いた人を雇えないのかと一時期思っていました……。

LiEat
LiEat
今やっている取り組みとしては『LiEat』という日本のゲームがあるんですけど、それを海外に持って行こうというときに、すでにファンローカライズが存在していて、それのクオリティも結構よかったので、ファンローカライズの人と話をして、そのローカライズを使わせてもらえないかというような話をさせてもらいました。多少話をしながら調整させてもらって、それでリリースします。日本のファンローカライズは、あまり質が高いのを見たことないですが、海外はすごくて、『LA-MULANA』とか『東方』シリーズとか特にファンローカライズがすごい、みたいなところがあるので、そのへんのファンローカライズの文化っていうのも一緒に協力しながらやっていける体制というのは今後作りたいなと思いますね。

 
――ファンローカライズの方とつながって、PLAYISMとしてローカライズに取り組むのは今回が初めてですか。

水谷氏:
そうですね。今後は誰か売り込んでこないかなと思ってます。「俺の翻訳買ってくれ!」みたいな、来てくれてもありがたいです(笑)やっぱりゲームのことが一番好きな人が翻訳するべきだと思うんで、僕らも好きですけどもっと好きな人がいるならば、それがいいのかなと。

 
――ローカライズといえば、チラッと出た話ですが、『Her Story』の日本語版がPLAYISMから出るという噂を聞きました。あのゲームはたくさんの賞を受賞した期待作ですよね。それと『Her Story』以外でもローカライズが進行しているタイトルがあれば教えて下さい。

水谷氏:
『Her Story』の情報はチラッと出しましたね。『Her Story』の日本語版は終わってまして、もうリリースできるところまで来てるんですよ。でも、バグがひとつあって、Unityのアップデートを待っているんです。アップデートされると、検索を日本語でできるようになるはずです。

『Her Story』は、検索した動画からヒントを見つけ真実を探すアドベンチャーゲーム。
『Her Story』は、検索した動画からヒントを見つけ真実を探すアドベンチャーゲーム。

 
――あの検索を日本語で、ですか。かなり大変だったのでは。

水谷氏:
そうですね、その直し方がどうしてもわからなかったそうで、Unityのアップデートを今待っている段階ですね。それが終わればリリースできます。本当にIGFとってくれて助かりましたね(笑)

うちがあまりローカライズタイトルをなかなか言わないのは、リリースする直前になってそういう事情で作業が完全に止まってしまったり、時にはデベロッパーさんがバカンスに出ちゃって音信不通になったりとかもたまにありますが、進捗がスケジュールどおり動かないことが結構あるからなんです。本当に出す直前までわからないんです(笑)

 
――約束できないと?(笑)

水谷氏:
そう、約束できないんです。実は『Her Story』のローカライズは去年終わっているんです。はやく出したかったんですけど、その1個のバグを待ってる、みたいな状態ですね。

今他ので言えるのでいうと、PCの日本語版はすでに出ていますけど、『Never Ending Nightmare』のPS4版とVita版がそろそろリリースできると思います。いやーほかにはなんだろうな。契約決まってるのはあるんですが……あ、そういえば一個、今一番人気のインディータイトルのデベロッパーさんとGDCで話をして、やりましょうっていう話になったんですけど……。

 
playism-interview-part-2-001――言明しにくいですね(笑)

水谷氏:
相当言明しにくいです(笑)

 
―― 一方で、発表すれば購入意欲を抱くユーザーもいますよね。

水谷氏:
そうなんですよね。ただ、それから1年待たせたりとかなっちゃうことがあるんでなかなか言いにくいんです。あとは、コンシューマーになりますが、『MOMODORA -月下のレクイエム-』は移植しているので、それもお楽しみに、というところですね。あとは、5月ぐらいに面白い発表があるかもしれないので、それは期待していただいて。

 
――最後に、AUTOMATON読者に向けてメッセージをお願いします。

最初にも言ったように、面白いゲームが出てくる土壌というか、環境が日本にちゃんと根付いていかないといけないと思うんです。そのためには面白いゲームを買って、遊んで、「面白いよ」って言ってくれるユーザーさんが必要です。面白いゲームを面白いよと言っていただいて、面白くないものは面白くないと言っていただいていいので、ユーザーさんと一緒にゲームというものを、ゲーム作る人だけじゃなくて遊ぶ人も含めてゲーム文化というものをよりよいものにしていきたいです。つまりは、引き続きゲームをお楽しみくださいということです!

 
――ありがとうございました。

 

[聞き手: Minoru Umise]

[写真: Mon Gonzalez]


PLAYISMとAUTOMATONは株式会社アクティブゲーミングメディアによって運営されています。今回のインタビューは、PLAYISMと面識のないライターを聞き手に選びました。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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