大人気開拓スローライフ『Dinkum(ディンカム)』、実は『ムジュラの仮面』の影響を受けている。任天堂強火ファンの開発者に“いきなり8年個人開発”やSwitch展開の裏側を訊いた
Nintendo Switch版が発表された『Dinkum(ディンカム)』の開発者に、さまざまな裏話をうかがった。

KRAFTONは今年11月6日、『Dinkum(ディンカム)』のNintendo Switch版を発売予定。『Dinkum(ディンカム)』といえば、オーストラリア風の未開の島を開拓していくサバイバルライフシミュレーションゲームだ。まずは2022年7月にPC(Steam)向けに早期アクセス配信されて高い人気を得たのち、今年4月にはついに大型アップデートと共に正式リリース(関連記事)。今回のNintendo Switch版は、満を持してのコンソール展開となる。
このたび弊誌はそんな『Dinkum(ディンカム)』の開発者であるJames Bendon氏へのインタビューを実施。これまでの開発におけるエピソードや、大の任天堂好きだという同氏が影響を受けた作品などを訊いた。

―― 自己紹介をお願いします。
James Bendon氏(以下、Bendon氏):
James Bendonです。オーストラリアで、個人でゲーム開発をしています。もともとゲーム開発は趣味の活動でしたが、現在は専業開発者として『Dinkum(ディンカム)』を制作しています。
好きな要素をすべて詰め込んだ
―― 本作の特徴を教えてください。
Bendon氏:
端的に言えば、『Dinkum(ディンカム)』はライフシムとサバイバルを組み合わせた作品です。本作には、私がほかの類似ジャンルのゲームで好きな要素をすべて詰め込みました。いろいろな要素がありますが、すべてを網羅する必要はなく、プレイヤーは自分が遊びたい要素に集中することができます。ゲーム内でプレイヤーが自己表現でき、自分らしく遊べる作品を目指して制作しました。
ゲームプレイとしては地形を改造できる広大なマップが特徴で、プレイヤーは探索や冒険を楽しめます。ゲーム当初はサバイバル要素が強めですが、プレイを進めて生活基盤を固めていくと、徐々にスローライフを送れるようになっていきます。

――本作は可愛らしいグラフィックですがサバイバル要素が強めで、結構殺伐としたところもありますよね。類似ジャンルの作品には完全に平和な世界観の作品もあると思いますが、なぜ『Dinkum(ディンカム)』には危険な要素を盛り込んだのでしょうか。
Bendon氏:
私はサンドボックスゲームで冒険から家に戻ってきたときの、ほっとする感覚が好きなのです。野外に危険が潜んでいると、ハウジングも安全な避難所づくりとして、より大きな意味をもつようになります。『Dinkum(ディンカム)』の開発における私の目標の一つは、ゲーム内の毎日を冒険に変えることでした。個人的な好みもありますが、ちょっとした危険はゲームの魅力を増すのに役立つと思い、盛り込みました。
――世界観としてはオーストラリアの自然の厳しさが反映されているとのことですが、それでも親しみやすい雰囲気があります。危険と親しみやすさのバランスという面で、意識したことはありますか。
Bendon氏:
本作ではオーストラリアの自然をちょっと誇張することで、ややコミカルに描いています。たとえば『Dinkum(ディンカム)』に登場する、タスマニアデビルをモデルとした動物は火を吐きます。もちろん現実のタスマニアデビルは火を吐きませんので、危険度でいえばゲーム内の生物の方が高いでしょう。ただ火を吐く動物というのはちょっと現実離れしており、ありのままの自然の脅威をそのまま描くほど、生々しい怖さはないと思います。こうしたバランスは意識しました。

「1年だけ」と約束して専業で開発……でも実際は5年
――本作の開発経緯について教えてください。『Dinkum(ディンカム)』以前にゲーム開発の経験はあったのでしょうか。
Bendon氏:
もともと若いころから個人の趣味としてFlashでゲームを作っており、その後Unityに移行して、2Dゲームをいくつか作りました。プログラムや3Dモデリングなどについて独学で学び、Unityにも慣れて3Dゲームも作るようになると、やがて私にとっての「夢のゲーム」を作りたいという気持ちが湧いてきました。大好きなジャンルであるライフシムとサバイバルを組み合わせた、自分が本当にプレイしたいと思えるような作品です。そうして取り組み始めたのが『Dinkum(ディンカム)』です。
また2017年にオーストラリア内で州をまたぐ引っ越しをして、当時勤めていた仕事を辞めました。貯金がいくらかあったので、次の仕事に就く前に一度『Dinkum(ディンカム)』の開発に専念したいと思い、妻に「1年間フルタイムでゲーム制作をしてもよいか?」と訊きました。するとOKがもらえ、専業で開発できる環境になりました。
ただ、実際はSteamで早期アクセス配信を開始できるまで5年もかかったので、1年という当初の見込みはちょっと楽観的すぎました。しかしそれでも、妻は100%私を支えてくれました。本作がリリースできたのは彼女のサポートのおかげで、心から感謝しています。
――個人でゲームを制作されていたとのことですが、個人開発のメリットとデメリットについて教えてください。
Bendon氏:
個人開発の最大のメリットは、とても自由が利くということでしょうね。プロジェクトのすべてを自分で把握でき、コードも隅々まで理解していますから、新機能の追加もスムーズです。ある意味では、チームで制作するより早く開発を進められるという面もあると思います。デメリットとしては、自分で解決するのが難しい問題に直面したときも、誰かのサポートを得るのが難しいということです。またひとりだと、どうしても集中力を維持するのが難しいということもありました。

――早期アクセスを始めるまでの開発で心がけていたことはなんでしょうか?
Bendon氏:
いったん早期アクセスを始めると、ゲーム内容やバランスを大きく変更するのは難しくなるだろうと考えていました。大規模な調整だとセーブデータの互換性が失われてしまいますし、変更前の内容が好きなプレイヤーも必ずいるからです。そのためリリース前に家族や友人にテストプレイしてもらい、調整を重ねました。家族や友人相手なら遠慮はいらないと思いましたので、稼ぎがよすぎると判断した要素はつぶすような、ちょっと意地悪なアップデートも気兼ねなくおこなえました。
このときの印象深い出来事として、友人や家族は必ずしもテストプレイに乗り気ではなく、最初のうちは私が「お願い、いっしょにテストして!」と頼み込んで遊んでもらっていました。ただあるときから私が頼まなくても、みんな自分からプレイするようになったんです。本作の出来に手ごたえを感じた瞬間で、本当に嬉しかったのを覚えています。
――2022年に早期アクセスを始めてからは、新コンテンツをどのように開発していたのでしょうか。
Bendon氏:
早期アクセスを開始した後は、プレイヤーの皆さんからフィードバックを集め、ゲームに反映させていきました。とても情熱的なコミュニティが形成され、プレイヤーの声を聞きながらいっしょにゲームを形作っていけたのは、素晴らしい喜びでした。ただ開発の際に意識していたのは、プレイヤーの要望を取り入れるときはそのまま実装するのではなく、私自身のアイデアも加えるということです。
たとえばプレイヤーから「アイテムが入った状態のチェストを移動できるようにしてほしい」という要望がありました。そのままシステムを変更することもできましたがそうはせず、代わりに中身入りのチェストを運べる新アイテムの手押し車を実装しました。プレイヤーの要望を満たしつつ、ゲームプレイ体験を広げる方法を考えるというのが、私のアップデートのスタイルでした。
またアップデートの際は、可能な限りセーブデータの互換性を保つように努めました。ライフシム系のゲームでは自分が作った村にとても愛着を抱いているプレイヤーが多く、一貫してひとつのセーブデータで遊べるのが重要だと考えていたからです。大変なこともあり、開発に時間がかかった理由のひとつとなりましたが、強く意識して取り組んだ点でもあります。
――その後約3年の早期アクセス期間を経て、本作は2025年の4月にSteamにて正式リリースされました。当初は早期アクセス期間は1年という予定だったと思いますが、予定より長くなったのは特別な理由はありますか?また、なぜ正式リリースを決断されたのかの理由もお聞きできれば。
Bendon氏:
妻との「1年だけ専業で」という約束を守れなかったのと同様に、早期アクセス期間が延びたのも、私がゲーム開発の大変さを甘く見ていたためです。アップデートをできる限り良質なものにしたいと考えて開発に励むうちに、時間が経ってしまいました。
実際のところ早期アクセスの終了条件に明確な指標があったわけではないので、ずっと早期アクセスのままにしておくことも考えました。ただ早期アクセスの期間では、大型アップデートは春夏秋冬それぞれの季節をテーマにしたものにすると決めていました。そして4回の大型アップデートで四季を網羅できたとき、正式リリースして区切りをつけるのにはよいタイミングだと感じました。コンテンツが充実し、「完成した作品になった」という実感が湧いたんです。
今後も『Dinkum(ディンカム)』の開発は続けていくつもりですので、正式リリースも実質的にはそれほど大きな変化ではありません。ただ「初めてのゲームを完成させた」と胸を張って言い切れるようになったので、それは嬉しく思っています。

『ムジュラの仮面』からも大きな影響
――今回Nintendo Switchでもリリースされるとのこと、おめでとうございます。Nintendo Switch向けへの展開というのは、開発当初から構想にあったのでしょうか?
Bendon氏:
実は開発のごく初期段階では、『Dinkum(ディンカム)』はコンソールでのリリースを目指していました。操作方法もマウスとキーボードは考慮せず、コントローラーのみで遊ぶゲームでした。ですが個人開発ならSteam向けにゲームを出す方がはるかに容易だと気づき、それからはPC向けに開発していきました。コンソール版は具体的な計画というよりは、夢に近いものだったと言えると思います。
ただ私は任天堂の大ファンなので、いつかは任天堂のコンソールでゲームを出したいという夢を抱いていました。それが今回Nintendo Switchで実現し、とても嬉しく思っています。Nintendo Switchは歴代の任天堂のゲーム機の中でも大のお気に入りですし、2017年に『Dinkum(ディンカム)』の開発を始めたとき、Nintendo Switchはちょうど発売されたばかりの最新ハードだったからです。まさしく当時の夢が叶ったような気持ちです。
――個人開発でNintendo Switch向けに展開するのにハードルはありませんでしたか?
Bendon氏:
Nintendo Switchへの展開については、パブリッシングパートナーのKRAFTONと5minlabのサポートが得られています。動作の実現や最適化など、移植についてもさまざまなアドバイスや支援をいただいています。個人開発の期間が長かったので、相談できる相手がいるというのはとてもよいことだと感じています。
――任天堂の大ファンとのことですが。よろしければ好きな作品を伺ってもよいでしょうか。Nintendo Switchで一番好きなゲームと、歴代の任天堂の作品で一番好きなゲームを教えてください。
Bendon氏:
ひとつだけ選ぶのは難しいですね(笑)Nintendo Switchでは『スーパーマリオ オデッセイ』も大好きですが、たぶん『スプラトゥーン』シリーズのどれかが一番だと思います。『スプラトゥーン』はシリーズ通して数千時間遊んでいる、大のお気に入りの作品なんです。一番たくさん遊んだのはたぶん『スプラトゥーン2』ですが、『スプラトゥーン3』も同じくらい大好きです。
歴代で一番の作品を選ぶのも難しいですが、私は『ゼルダの伝説』シリーズの大ファンで、なかでも『ムジュラの仮面』が一番のお気に入りです。なのでおそらく、『ムジュラの仮面』が一番好きな作品と言えると思います。『ムジュラの仮面』には子どものころから多大な影響を受けていて、『Dinkum(ディンカム)』にも通じるところがあると思っています。
――『Dinkum(ディンカム)』は『ムジュラの仮面』から影響を受けているんですか?よければ詳しく教えてください。
Bendon氏:
そうですね。私が『ゼルダの伝説』で好きなのは、村人と交流するところなんです。私にとって村はダンジョンよりも魅力的な場所で、ダンジョンは次の村に行くために攻略するところ、という認識でした。特に『ムジュラの仮面』は、人々が抱える問題を解決するために多くの時間を費やす作品で、村人たちもスケジュールに合わせて動きます。『Dinkum』は『どうぶつの森』が大きなインスピレーションの元になっていますが、『ムジュラの仮面』とも共通点があり、無意識的にもデザインに大きな影響を受けたと思います。


――Nintendo Switch版の『Dinkum(ディンカム)』の魅力や、リリースへの意気込みなどお聞かせください。
Bendon氏:
Nintendo Switchはユーザーの皆さんから、展開してほしいとの要望がもっとも多いコンソールでした。私も本作の日常的なゲームプレイは、携帯機で遊ぶのに向いていると感じています。Nintendo Switchではライフシムはとても人気のあるジャンルですし、本作は類似ジャンル作品を踏まえつつ独自性もあるゲームですので、きっとNintendo Switchユーザーに受け入れてもらえると思っています。任天堂のコンソールでゲームをリリースするのは生涯の夢でしたので、実現できることに心の底からワクワクしています。新たなプレイヤーの皆さんに、『Dinkum(ディンカム)』を楽しんでもらえることを願っています。
今後も長く開発を続けたい
――PC版も含め、今後の『Dinkum(ディンカム)』の開発予定について教えてください。
Bendon氏:
プレイヤーがいる限り、『Dinkum(ディンカム)』の開発は続けていきたいと思っています。アイデアはありますし、実際に今も次のアップデートの開発に取り組んでいるところです。ただ今後は一回のアプデの規模を小さくして、もっと頻度を高めていけたらと思っています。具体的な計画やロードマップは定めていませんが、本作についての情熱はまだまだあるため、今後長く制作を続けていけたらと思います。
――最後に、日本のプレイヤーにメッセージをお願いします。
Bendon氏:
早期アクセスの開始当時、本作は英語のみの対応で、日本語を含む多言語に対応できたのは2025年2月のことです。しかし日本語対応するよりずっと前から、多くの日本の皆さんに本作を遊んでいただけました。早期アクセス期間中にプレイしてくださった皆さんと、11月のNintendo Switch版をプレイ予定の方々に、心から感謝申し上げます。私の夢はゲーム開発者になることでした。そして今、『Dinkum(ディンカム)』をプレイしてくださった皆様のおかげで、その夢が叶いました。本当にありがとうございます。
私は自分のゲームのプレイ動画を観るのが好きで、日本の皆さんのプレイもTwitchやYouTubeなどで視聴しています。私は日本語はわかりませんが、それでも喜んだり怒ったりと、ゲームについての反応は伝わってきます。異なる言語の国の方にも『Dinkum(ディンカム)』を楽しんでいただけているのを観るのは、とても心が温まる体験でした。日本のプレイヤーのプレイを観ると、素晴らしくデコレーションされた町を作る人がいる一方で、とても効率的な都市を作り上げる方もいるようです。本作は自由なゲームで、楽しみ方はそれぞれです。これからも自分なりの遊び方で楽しんでもらえればと思っています。
――ありがとうございました。
『Dinkum(ディンカム)』はPC(Steam)向けに発売中。Nintendo Switch向けには11月6日にリリース予定だ。
[執筆・編集:Akihiro Sakurai]
[聞き手・編集:Hideaki Fujiwara]