『クロックタワー』の精神的続編『NightCry』はPC向けに3月29日発売、生みの親が語るインディーゲームへの想い
3月21日、秋葉原ハンドレッドスクエア倶楽部にて、クリックポイントホラーゲーム『NightCry』のPC版完成披露会が、メディア向けに開催された。イベントでは、完成版がプレイアブル展示されたほか、ローンチトレーラー上映にあわせて発売日が3月29日であることも明らかにされた。また、開発者によるトークセッションには、本作の原点ともいえる『クロックタワー』シリーズの生みの親であり本作のディレクターを務めた河野一二三氏をはじめ、共同製作者として映画監督の清水崇氏、そしてクリーチャーデザインを担当した伊藤暢達氏が登場。質疑応答も交えつつ、本作に寄せる想いに熱弁をふるった。
『NightCry』は、『クロックタワー』シリーズの生みの親として知られる河野一二三氏が率いるヌードメーカーが開発し、PLAYISMから2016年3月29日16時にPC版の配信を予定しているクリック&ポイント形式のホラーアドベンチャーゲーム。『クロックタワー』誕生20周年に向けたホラーゲーム製作企画「Project Scissors」として2014年に発表されたもので、KickstarterとCAMPFIREにおけるクラウドファンディングの支援を受けて、同作の精神的続編として開発が進められていた。『クロックタワー』を象徴する「シザーマン」を彷彿とさせる敵キャラクター「シザーウォーカー」や、航海中の豪華客船という逃げ場のない舞台など、閉鎖環境で巨大なハサミを持った殺人鬼に追いかけられる恐怖をトラウマティックに再現している。共同製作者に、「呪怨」シリーズをはじめ数々のホラー作品を手がけてきた映画監督、清水崇氏を迎えたことで大いに脚光を浴びた。また、『サイレントヒル』シリーズで知られる伊藤暢達氏がクリーチャーデザインを担当。ホラージャンルの第一線で活躍するベテランクリエイターが総力を結集したタイトルといえる。
清水崇監督が製作に携わったことで、一部では映画化への期待もささやかれている本作。今回の完成披露会に際して、同氏と交友関係があり、「死霊のはらわた」や「スパイダーマン」で知られる映画監督、サム・ライミ氏からもコメントが寄せられている。「清水崇の『NightCry』は、明かりを点けたまま眠りたくなるようなタイプの体験である。殺人鬼のストーリーは、ファンタジー的なビジュアルで彩られる。今日のビデオゲームでこのような素晴らしい作品があるとは。このホラーの船旅に出航し、どっぷりとその旅を楽しむのが待ちきれない〔ママ〕」。本作の舞台が洋上に浮かぶ豪華客船であるということに掛けて、ゲームならではの独特のホラー体験を“船旅”と表現している点は、いかにも映画監督らしい。
とりあえず死んでみるのも一興
完成品のプレイアブル展示では、多くのホラーファンにトラウマを植えつけた『クロックタワー』の恐怖が20年ぶりに蘇った。『NightCry』でプレイヤーを執拗に追いかけまわすのは、前作の「シザーマン」とは一風変わって女性キャラクターの「シザーウォーカー」。身の丈を超えるような巨大なハサミは健在だ。軍人でもなければもちろん戦闘経験もない丸腰の非力な主人公を、クリック&ポイント形式で間接的に操作して生存を目指すゲームデザインも、古き良きホラー体験として変わらない。洋上で孤立した閉鎖空間でのサバイバルは、「通常探索モード」と「逃走モード」が切り替わりながら進行していく。
「通常探索モード」は、「シザーウォーカー」に遭遇していない通常の状態。事件の真相を突き止めると共に、殺人鬼が徘徊する恐怖の閉鎖環境から脱出する方法を模索する謎解きパートだ。過去作と同様、プレイヤー視点は固定カメラにより映し出される。3人の主人公が織りなすストーリーには、多くのブランチポイントが用意されているとのことで、クリックできる箇所や謎解きに使用するアイテムなど、攻略プロセスによってシナリオの展開が多様に分岐していくようだ。今回の展示では時間の都合上、序盤の体験に留まったが、ベストエンディングを含めた複数の結末が待っているという。
また、「シザーウォーカー」は神出鬼没。絶対に安全だと油断するような場面や、誰も予想しないような奇想天外な方法で登場するほか、気がついたら殺されていることも少なくない。一度も死なずにクリアするのはほぼ不可能といえるだろう。なお、セーブ機能はシーンごとのオートセーブに加えて、キーアイテムとなるスマートフォンを充電することでも手動で記録できる。充電部屋が唯一の安全地帯となりそうだ。
謎解きパートの静寂を破って「シザーウォーカー」が乱入すると、ゲームは手に汗握る「逃走モード」に突入する。プレイヤーができることは、トラップやアイテムを駆使してとにかく逃げ切るのみ。基本的に不死身の「シザーウォーカー」を倒すことはできない。ベッドの下やクローゼットの中でやり過ごすか、消火器など身の回りの物を使って一時的に撃退するまで延々と追い掛け回される。「逃走モード」ではカメラが主人公を後ろから追従する視点に切り替わり、右クリックでいつでも背後を確認できる。薄暗い廊下で迫り来る殺人鬼を振り返る緊張感は、死に直面した恐怖を一段と際立たせてくれるだろう。
一方で、恐怖のあまり死に物狂いでダッシュし過ぎると、非力な主人公はすぐに息切れを起こして動けなくなってしまう。周囲の状況や身の回りの設置物を見極める冷静な判断能力が試される。そんな中、絶対の自信をもって隠れた場所でコミカルな死に方をする場面も少なくない。こうしたバリエーション豊かな死亡シーンにはコンプリート要素があるとのことで、全部観ることで解除される実績もあるようだ。
インディーズは諦めることを知らない
ディレクター河野一二三氏、映画監督の清水崇氏、クリーチャーデザイナー伊藤暢達氏に加えて、開発の中心を担うプランナーの池田祥也氏とサウンドエフェクト担当の小池令氏を交えて行われたトークセッションでは、本作が『クロックタワー』の精神的続編である理由やインディーゲームとして企画した背景など、ホラーゲーム『NightCry』に馳せる信念や各々の想いを語ってくれた。
まず話題に挙がったのは、作っている人間もゲームの内容も『クロックタワー』でありながら、どうして精神的続編という名の新規IPなのかという点。それは一重に、『クロックタワー』がヌードメーカーのIPではないため正式な続編を作る権利がないという理由だけではなく、ホラーゲームとしての同作を「違うベクトルに進化させている」からだと、河野氏は話す。決して過去の栄光に立ち返るのが目的ではなく、新たな原点を築くための新規IPということなのだろう。また、『NightCry』というタイトルの由来や意味するところは、最後までプレイすれば自ずと理解できるとのこと。プレイヤーにとっての楽しみの一つとして、あえて真意に関する言及を避けた。
次に、結果的にはPLAYISMがパブリッシャーを担当することに落ち着いたが、インディーゲームとしてクラウドファンディングを立ち上げたきっかけに迫った。河野氏によると、クリック&ポイント系のホラーゲームはパブリッシャーから開発費用が出ないのだという。近年、そもそもホラーゲームに出資するパブリッシャー自体が少なくなり、さらにクリック&ポイントタイトルとなると誰も興味を示さないのが現状だと説明する。トリプルA級タイトルはマーケットを意識して開発されるため、パターンがマンネリ化しやすい。絶対に倒せない敵をメインに描く逃走系ゲームの開発には、不死身の敵に対するユーザーのフラストレーションをどう処理するかという議題が必ずついてまわる。河野氏がインディーの道を選んだ真の理由は、まさにユーザーの呪縛から解放されることにある。
「フラストレーションを溜めればいい。敵を倒す爽快感を売りにするのは大きなマーケットで意識することなのだから」。多くのユーザーに満足してもらえることに越したことはないが、それ以上に自分が作りたいものに情熱を注ぎ込みたい。トリプルA級タイトルが売れることを意識してデザインされるのに対して、インディーゲームは開発者が本当に作りたいと思ったものを形にしたタイトルが多い。河野氏は、そういうゲームがあってもいいと語る。「僕はどうしても作りたかった。そうする為にはインディーでやるしかない」。クラウドファンディングという選択肢は、こうした開発者たちの夢を大いに支えているのだ。「クロックタワーのファンがプレイした時に、良くも悪くもクロックタワーらしいと思ってもらいたい」という言葉からは、たとえ古臭いと言われようとも貫きたい原点に根ざした信念が垣間見える。
続けて、クラウドファンディングのキャンペーンが終わってから、開発途中にしてグラフィックを大幅に作り直したことに話は及ぶ。河野氏は、Kickstarterページに掲載したモデリングとは全く別物に進化したと豪語する一方で、巷でささやかれていた多額の借金説にもコメント。「正直なところ、お金は大丈夫じゃなかった」と、周囲の問いに対して笑いながら振り返った。「面白いからいい」「何千万くらいならすぐ返せる」という強気な姿勢の根底には、「インディーズは諦めることを知らない」という河野氏の哲学がある。グラフィックの変化を最も間近で確認してきた清水氏も、同氏の熱意を如実に物語っている。Kickstarterに掲載するための実写PVを依頼された段階と比較すると、その後に提供された素材のクオリティは急激に向上していったそうだ。物怖じしないクリエイターのこだわりに賛辞を呈している。
一方で、予算や時間の都合上、妥協せざるを得なかった点も決して少なくないという。カットしたシーンは数知れず、純粋に本編を作り込むことに精一杯で隠し要素を入れる余裕もなかったとのこと。また、かねてより予定していたPlaystation Vita版に関しては、ゲームエンジン「Unity」のコンバート作業について試行錯誤はしているが、対応時期などは完全にノープランである現状を報告した。なお、コンソールに対応するとなるとCEROによるレーティングは避けて通れない。一部の残虐的なシーンは修正を迫られるだろう。
河野氏自身、PC版の完成までは作家性だけで突っ走ってきたというが、本音としてはPlaystation 4やVR、果ては実写映画化まで持っていきたい意気込みを持ち続けているのだとか。また、「シザーウォーカー」にはもう一つのプロトタイプが存在するらしく、伊藤氏いわく「俺にとっては出ない方が本物のシザーウォーカー」。河野氏はボツになった案にどうしても活躍の場を作りたいとも付け加えている。そうした多方面におけるIPの展開に向けて、某国の王族と会うことも考えていると謎めいた発言もしているが、続編を含めた今後の展開はPC版の売れ行きや評判次第となりそうだ。