サービス終了予定ゲーム『トライブナイン』の「誰かの作りかけの物語の続きを原案者が同人で描く」という狂った試みは、なぜ発案されたのか?小高和剛氏・山口修平氏・杉中克考氏が語るは「怨念」か「信念」か

「『トライブナイン』の作りかけの物語の続きを原案者が同人で描く」という狂った試みは、なぜ発案されたのか?

アカツキゲームスは、理不尽都市アクション『トライブナイン(TRIBE NINE)』について11月27日にサービスを終了する。それを受けて、非公式・非営利二次創作活動をおこなう同人サークル「ねおねおんトライブ」が設立。元開発者が同人作品としてストーリーの完結を目指すという。

『トライブナイン』は、死にゲー×アクションRPGと銘打たれた基本プレイ無料ゲームだ。対応プラットフォームはPC(Steam)/iOS/Android。『ダンガンロンパ』シリーズを手がけた小高和剛氏率いるトゥーキョーゲームスが原案・音楽・キャラクターデザインを担当しており、アカツキゲームスが企画・開発・運営を担当している。本作は2月にリリースされ、累計プレイヤー数は1000万人を突破し、一定の評価を獲得。また、メディアミックスもおこなわれており、2022年にはテレビアニメやコミカライズ作品も展開されている。しかし、本作は11月27日にサービス終了となることが発表された。未実装となる第5章までのストーリーは公式サイトにて公開中だ。

こうした事態を受けて、本作の同人サークル「ねおねおんトライブ」が設立された。世界観原案を担当した小高和剛氏、終盤まで本作のプロデューサーを務めていた山口修平氏、物語づくりに深く携わった杉中克考氏の3名が集結。アカツキゲームスの承諾を得て、非公式・非営利二次創作活動として、本作の物語の完結を目指すという。前代未聞ともいえるこの取り組みをなぜおこなうのか。どういった形で公開されるのか。お三方に話を聞いた。

続きを描くのはファンのため、ネタ扱いされるのも癪だった

――自己紹介をお願いします。

小高和剛(以下、小高)氏:
トゥーキョーゲームスの小高です。『トライブナイン』では世界観設定とキャラクターの設定を担当してました。あとは弊社のデザインチームがキャラクターデザインを担当して、サウンドチームも参加していました。

山口修平(以下、山口氏):
89PRODUCEの山口です。元々はアカツキゲームスで、『トライブナイン』の企画段階からプロデューサーとして携わってました。やむを得ず途中でプロジェクトから外れることになり、アカツキゲームスも退社して、株式会社89PRODUCEを設立して今に至っております。

杉中克考(以下、杉中)氏:
クロノゲートの杉中です。『トライブナイン』では、スキットとチャレンジ担当でメインストーリーの演出だったり、サブイベントの実装と調整をしていました。僕はマネージャーとして、弊社から参加していた7名のスタッフの調整役もしておりました。自分は前職でゲームフリークに10年間勤めていて、『ポケットモンスター』のブラックホワイトからソードシールドまでのイベント・ストーリー関連の企画担当していたこともありまして、その後クロノゲートを設立して、開発経験を活かす形で『トライブナイン』に参加させていただいていたという感じです。

――「ねおねおんトライブ」とはどういうものか改めてご紹介ください。

山口氏:
色々な形で『トライブナイン』に関わっていた元原作者や元制作者たちが集まって立ち上げた、非営利の同人サークルが「ねおねおんトライブ」です。3か月という非常に短い期間で終了が発表された『トライブナイン』の物語の結末を、それまで楽しんでいただいたファンの皆様に届けたい。これが一番の目的で、そのために有志が集まった集団ですね。

――告知されている通り、アカツキゲーム様から承認を得て活動しているという認識で間違いないでしょうか。

山口氏:
はい、少し補足させていただきますと「非公式・非営利の二次創作」としての活動を承認していただいているかたちです。

――『トライブナイン』は、あくまでアカツキゲームスさん主導のプロジェクトでした。アニメがメインだった小高さんや山口さんは手が離れてから時間が経っている印象です。なので「関わっていたのは昔だから」と割り切るような温度感なのかなと勝手に想像していましたので、名乗り出られたのは意外です。なぜ物語を最後まで描ききろうとするのか、理由をお聞かせください。

小高氏:
おっしゃる通り、僕自身はゲーム版のシナリオにはほとんど関わっていませんでした。シナリオはあくまでアカツキゲームスで担当していただいていましたし、僕自身が表立って『トライブナイン』を宣伝したり、俺が原案みたいな発言はしないようにしていました。僕の作品みたいに見えてしまうと、開発現場の方々はいい思いをしないので、応援はしつつも一歩離れて見てましたね。とはいえ、ゲーム画面はすごく面白そうだったので、『ハンドレッドライン』の開発が一段落したら、重課金しようと思っていたんです。

そんな中で、サービス終了が発表されて残念な気持ちでいたら、やはりユーザーさんからは「小高が作ったなら小高が何とかしろよ」という声もたくさんありました。せっかく物語を始めたならば最後まで描き切ればいいのにという気持ちがあり、一方でアカツキゲームスさんではそれが非常に難しい状況にあるということも分かってきました。とはいえ、アニメ版で自分が作り出した世界観やたくさんのキャラクターたちが、3か月で終わってしまった作品としてネタ扱いされるのも癪に障るし、ユーザーの皆さんが結末を見れなかったという残念な気持ちを抱え続けるのも本意ではありません。

そこで、比較的自由があり、融通のきく小さな会社である僕らが、アカツキゲームスさんが書いたシナリオを引き継いで、完結まで描き切ろうと決意しました。物語を終わらせるにはそれしか道が残されてなかったんです。あとは、僕のようなキャリアで社長という立場の人間が、無償で何かを作るというのは、逆に面白いことなのではないかと感じたのも理由の一つです。

クリエイターとして作品を見てもらえることがメリット

――今回のお話はどなたが提案してどういう風に承認を得たのか、お三方の間ではどういうやり取りがあったのか教えていただきたいです。

山口氏:
僕はチームから外れていたので正式な連絡はなかったのですが、小高さんたちがアカツキゲームスさんと、なんとか続きを描けませんかといったやり取りをされているのを見てました。その中でアカツキゲームス側でやるのは無理そうだという状況で、小高さんから「自分たちが書いてもいいですよ」と提案していただいたんですよね。小高さんがそこまで言っていただいているのに、企画の言い出しっぺの僕が動かないわけにはいかない。ということで、『トライブナイン』の物語を何らかの形で完結まで描くための動きをすぐに始めたというわけです。

また、クロノゲートの杉中さんは現場にいらっしゃったので、おそらく最初に終了の知らせを聞いた立場だったと思います。やはり、ものづくりに携わる者として、こんな形で終わっていいのかという思いと、『トライブナイン』を気に入っていただいていたので、同じ時期に何かできないかとお話をいただきました。

こんなにも熱い想いを持っている人たちがいるなら何かできるんじゃないかと思い、あらためてアカツキゲームスさんにお話しました。当初は正式な許諾やライセンスを得て、『トライブナイン』の正史としてストーリーを提供したいと考えて交渉をしていたんです。しかし、さまざまな事情によりそういった形で進めることは難しく、非営利の同人サークル」という条件で許諾をいただくことができたという経緯です。

――『トライブナイン』の物語の続きを描くというのは、長い道のりのマラソンみたいなものだと思うんですけど、それも覚悟されてのご承諾ですよね。

小高氏:
もちろん覚悟しての話ですね。まあ元々、昔のフリーペーパーのような広告や課金要素が一切ないゲームを無償で作れたら面白いだろうなと考えていて、よくそんな話をしていたんです。まさかその対象が『トライブナイン』関連のものになるとはまったく思ってなかったですけど。だから無償でやることに対しては、最初からそんなに抵抗はなかったですね。『トライブナイン』の非営利同人としてなら動けるという話になったとき、「今がその時なんだな」と思って腹をくくりました。

あと、『ハンドレッドライン』の制作が本当に大変で、これが終わったら燃え尽きるだろうなと強く感じていました。もう作るのは終わりだなってすごく思っていたんですが、そんなタイミングで今回の話があって、俺は作り続けなければいけないんだと思い直しました。それもあって、一気に気持ちが切り替わったというのはありますね。

――会社の社長が非営利活動を自分から提案するのは、なんというか狂ってますよね。

小高氏:
そうですね、会社のみんなも驚いてました。しかも「ねおねおんトライブ」設立の日がうちの月一の定例会議の日で、会議が終わったらこれを発表しますと伝えたら、みんな「えっ」となってましたね(笑)

――狂っていて、トゥーキョーゲームスらしくて好きです。ただ、こういう取り組みはほぼ前例がないのでは?

小高氏:
おそらく探しても前例はないですよね。普通はグッズを作ったり、別の形で収益化したり、何かしらで営利活動をすると思うんですよ。今回はグッズ化もしませんし、媚びたりもしないですし、一切の営利活動をしません。しかも、プロのクリエイターがそれをやるというのは、過去に例がないのではないかと。

――メリットが見えなさすぎて不気味さも感じます。

小高氏:
そうなんですよ。不気味ですよね。まったくのノーメリットです。ストーリーの閲覧するのもハードルは低いと思います。そのシステムは現在クロノゲートさんが絶賛開発中なのですが、本当にメリットはないですね。まあ、綺麗事を言うとクリエイターにとっては作ったものを見てもらえるのがメリットですね。

――綺麗事……綺麗事じゃない部分はどこでしょうか。

小高氏:
……もう綺麗事しかないです(笑)ただ、今回の発表を出したあと、特に業界の方からは会うたびにあれやるのはすごいですねと声をかけてくれました。あと、僕らも一緒にやりたい、この企画に携わりたいという会社も声をかけてきてくれて、もちろんその方々も非営利でやりますと。ビジネスとは関係なく「一緒にものを作りたい」という賛同が集まるのは、やはりクリエイターとして、作品を作って誰かに見てもらいたいという純粋な思いが根元にあるんじゃないかなとは思いましたね。

特に運営型のゲームというビジネス的な観点で動かざるを得ないところから、非営利というもっとも遠いところへ一気に行くというのが、一緒にやりたいと興味を持ってくれたのかなとも思います。ユーザーさんにもこの流れは広まってほしいですし、『トライブナイン』を愛してくれる人が増えることが唯一のメリットですかね。

山口氏:
自分は『トライブナイン』にはポテンシャルを強く感じていて、アニメもすごく面白いものができたと思っています。だからこそ、今の評価にはちょっと納得がいかないところもあります。ゲームも、この先登場するはずだったたくさんのキャラクターや、用意していたストーリーが披露される前にサービスが終了してしまうことで、作品がちゃんと評価されていない状態なんじゃないかなと思っています。

今回の同人活動は、もちろんユーザーやファンの皆さんのためという気持ちはありますが、プロデューサーとして面白いと信じたものがどこまで通用するのかを証明したいというモチベーションもありますね。こういった思いは、クリエイターのみなさん誰もが抱くものではなかろうかなと。

杉中氏:
『トライブナイン』は、お客様からの声もすごく大きかったですし、我々も本当に全力を注いで作ったんですよ。アドベンチャーパートの演出を見ていただければ分かると思うんですが、自分でもかなり高水準なものができたと思っています。同人活動は、もちろんお客様のためという気持ちはありますが、僕は会社の社長なので、スタッフのモチベーションを考えて、スタッフのためにやるという思いもあります。『トライブナイン』に携われて良かったなと、スタッフが思えるような結末を描くことが、社長としての責務だと感じていました。そういったモチベーションもありますね。

IPを生み出すことで世界を変えているかもしれない

――山口さんは最近IPとして『たまんちゅ!』を立ち上げられましたし、小高さんはかねてより自社IPをしっかり作っていきたいと話されてました。IPの創出は実際に作った人しか分からない大変さがあると思うのですが、楽しいものですか。

小高氏:
うーん、楽しくはないですかね。

――楽しくないんですか。

小高氏:
IPというより新しい世界観のゲームを作るというのは、やはり大変なことの方が多いです。それでも、自分たちが作らなければこの世に存在しえなかったものと考えると、自分たちが作ったものが人の心を動かしたり、もしかしたら世界を変えてる可能性だってあるかもしれない。たとえば、自分が作ったゲームを影響力を持つ人がプレイして、何かの決断をしたことで、結果的に何かが変わったみたいな、バタフライエフェクトみたいなロマンはありますよね。

――世界に影響を与える手段、と。

小高氏:
ゼロから自分が生み出したものが世界に影響を与えるのはロマンですよね。だから『トライブナイン』も今回の話をやることによって、何かが変わるかもしれないっていうロマンをすごく感じてはいますね。

――世界に影響を与えるというのは既存のIPでもできると思うのですが、ゼロから生み出すところがやはり大事なんでしょうか。

小高氏:
そこは単純にクリエイター個人としての僕の考え方ですね。もちろん、既存のIPをさらに大きくしたり、100を1000にすることに生きがいを感じるクリエイターはたくさんいらっしゃると思います。僕はゼロからこの世に存在しなかったものを生み出すというところに、クリエイターとしての一番ロマンを感じているというわけです。だからこそ、それぞれの作品に対して愛を持ってるので、今回の『トライブナイン』も放っておけない気持ちになったということですかね。

――山口さんもこれまで『八月のシンデレラナイン』などを含めて IPを数多く創出されましたよね。

山口氏:
そもそも自分がゲーム業界に入ったのは、多くのクリエイターがそうであるように、かつてプレイしたゲームが面白くて、「こんなゲームを自分でも作ってみたい」という感情が生まれたところからです。それで作った作品の一つが『トライブナイン』です。

――杉中さんはどうお考えですか。

杉中氏:
僕自身、過去に『ポケットモンスター』シリーズのディレクション業務に関わった経験があるのですが、何年か経った後に、「あの作品、子どもの頃に夢中で遊んでいました」って声をいただくことがあるんです。

それって本当に嬉しくて、自分がつくったものが、誰かの人生の一部になっていたんだと実感する瞬間なんですよね。IPって、ただの“ゲーム”や“商品”ではなくて、人の心に深く根を下ろして、10年後、20年後にも語られる存在になれる。作り手として、それはもうロマン以外の何物でもないと思っています。

だからこそ今も、「もう一度、そういう“心に残る何か”をつくりたい」という気持ちは強くありますし、ゼロからつくったIPである『トライブナイン』は、自分にとっても本当に魅力的な存在でした。その物語を途中で終わらせてしまうのはどうしても嫌だった。きちんと最後まで描き切りたいという想いが、今回の行動の原動力になっています。

――今思えば『トライブナイン』自体が怨霊じみてますよね。開発も執念ですし、ユーザーも自分を含めて想いが強い。熱量がすごい。その思いの渦を皆さんが引き継いでいただけるのかなと、ファンの一人として感じました。

小高氏:
そうですね。何かの形として残っていれば、いつでも新しいユーザーさんたちが入ってこれるようになると思うし、そうやって残ってる熱があればまた新しい別の展開もできるんじゃないかっていう希望も抱いてはいますね。もしかしたらアカツキゲームスさんが新しい形でゲーム化しようと思うかもしれないですし。今はまったく分からないですけども。

成功事例ができれば同人活動として完結を目指す作品が増えていく

――企業としてIPを創出する場合は企業が資金を出している反面、最初にゼロから生み出したクリエイターが権利を持てないという現状があります。なので作った人は退職するとIPを持てない。皆さんはクリエイターであり経営者でもあるので、両方の側面が分かると思うのですが、この点についてどのようにお考えですか?

小高氏:
まあ、お金を出してリスクを負っている人が権利を持つのは仕方がないかなと思います。ある意味、会社員としてノーリスクで仕事をして、その上でゼロからIPを作らせてもらってるというところから始まっているので、そこは割り切るしかないかなと。

――山口さんも同じ考えですか。

山口氏:
そうですね。一般的に『トライブナイン』のような大型のゲームを作るのは、正直個人では絶対無理みたいな金額が必要です。そういった規模のものは会社でしか作れないと思いますし、そういう作品を生み出すチャンスを与えてくれたという意味で、会社には感謝しています。

ただ、他社さんでも長年続編が出ないタイトルだったり、新作を望まれてるのに作られないタイトルがいっぱいあるはずです。そういう作品についても、会社側がアクションをするつもりがないという前提で、外にやる気がある人がいるなら「やってみたらいいんじゃないか」というようなアクションがもっと積極的に許容されるような業界になってくれたらいいなとは思ってますね。

――確かに10年前にサービス終了したゲームの新しいアイデアがあると言って企画書を持ち込んで、それが優れていても各社からは有無を言わさず門前払いされそうです。

山口氏:
10年前の作品の権利関係を整理するのも面倒だと判断されて、うまくいかないことがほとんどだと思います。日本には、アニメや漫画を含めそういった作品がいっぱいあるんで、もう少し広い視点で日本のコンテンツを世界に発信していくことを考えた時に、こうした作品を流動的に動かせるようにしていくことは、日本も積極的にやった方がいいんじゃないかなと。今回の同人活動がその先駆けみたいになれたら、それはそれでまた面白いですね。

――「ねおねおんトライブ」が盛り上がったら、1つの事例ができるわけですね。

山口氏:
「価値がないと思われていた作品が再びビジネス的に価値がある状態になった」という事例ができたらみんなやると思うんですよね。今のゲーム業界は、成功事例がないと動けない風潮があるじゃないですか。似たようなゲームがいっぱい出てきたり、流行ったシステムのライク作品が増えたりするのは、やっぱりお金もかかるしある程度の実績がないと動けないからです。でも、一回成功事例が出てしまえば、そういうやり方もありなんだと広まっていったりするので、その道を切り開いていけたらいいなと思っています。

――とはいえ、今回のようにサービス終了したゲームをテーマに、原案者が無償でシナリオを完結まで書くケースはそう出てこない気はします。

小高氏:
そうかもしれないですね。しかもすでに公開されたシナリオはアカツキゲームスさんの中で作られて、僕にとっては知らない伏線がたくさん張られている状態なので、それをどう回収してくかっていう(笑)どう回収するつもりだったのかも分からないので、お題だけ出された感じですね。こういうのは僕の仕事としても二度とやんないことだろうなと思います。

杉中氏:
シナリオは最新まで熟知はしてますので、小高さんに文芸設定なども共有させていただいて
どうまとめていこうか!というところですね。

小高氏:
やっぱり運営型ゲームなので、買い切りゲームや小説と違ってちゃんとした結末まで用意されていたわけでもないです。元々書いていた人たちには、ふわっとしたアイデアはあったのかもしれませんが、それを聞く機会もないままサービスが終わってしまいました。本当にどうオチをつけるか、そこが一番の課題ですね。

――ちなみに本当に完結させる予定ですか。

小高氏:
もちろん完結させますよ。まだ出てきてないキャラクターもいっぱいいるんで、アニメのキャラクターたちは最低でも1回ずつは出さないといけないとも思ってます。あとはできる限り大団円ですよね。キャラクター全員が幸せになるかどうかは別として、ちゃんとアニメやゲームを楽しんでくれた人たちが納得できて幸せになるような物語にしたいです。なんなら新しいファンを増やせるような、これ読んでみてよっておすすめできるようなコンテンツを残しておきたいって感じですね。

――すごく大変な試みですね。すごい。

小高氏:
ありがとうございます。自分でも本当にそう思います(笑)だから「ねおねおんトライブ」に参加してる会社、これから増えてくかもしれない会社のみなさんは、本当に無償でもいい、面白そうなことやってんじゃん、みたいな感じで参加したいと言ってくれてるところが多いんです。『トライブナイン』のユーザーの方たちには、そういう下心のない会社のことを是非覚えておいてほしいですね。

――確かにビジネス的に旨味がありそうという動機で参加するプロジェクトではないですね。

小高氏:
そうですね。儲かりそうで来た人たちじゃないです。だからこそ、そういう会社ほどユーザーに覚えといて欲しいなと思いますね。

山口氏:
普通は、他人が考えた話の続きを書くという仕事を承諾してくれるクリエイターの方は本当にいないと思うんですよ。なので、この話を小高さんにするのは、ずっと申し訳ない気持ちでいるんですけど、小高さんがこの活動に、意義を見出していただいていて、面白がってくれていただけているのが、本当にありがたいなと思っています…。

オリジナル楽曲も用意してユーザー参加型のコンテンツにしたい

――現時点で確定していないとは思いますが、今後の物語は、どのような形式で、どのくらいのボリュームで提供していくか、公開できる範囲で構いませんのでどう展開していくのか教えていただけますか。

山口氏:
形式としてはWeb上で公開ですね。公式サイトがあるんですけど、そこに読み物だけでなく、音や絵や動きをある程度つけられるような感じで、クロノゲートさんが土台を制作していただいてます。単に文字を読むというより、もう少しゲームに近い、賑やかなものを読めるようになると思います。音楽については、トゥーキョーゲームスの高田(雅史)さんが『トライブナイン』っぽい同人楽曲を作っていただいてますね。

――無償で高田さんが音楽作っちゃうんですか。

小高氏:
やれるかやれないかで言ったら、やれるって言ってました。

一同:
(笑)

山口氏:
申し訳ないことしか起きないんですけど(笑)

小高氏:
ただ、絵についてはキャラクターが多いため、すべての場面でイラストを用意するのは難しいです。まだ出てきてないキャラクターについてはキャラクターデザインを公開するようにしますが、挿絵をたくさん入れられないので、そういうところはユーザーさんの二次創作として描いてもらいたいですね。それをどんどん取り入れて、ユーザー参加型のコンテンツとして見た目を良くしていきたいなとは思ってますね。

――ユーザー参加型、面白いですね。『トライブナイン』はファンアートもたくさん見かけるのでそのポテンシャルが活かされます。

小高氏:
場合によっては、人気漫画の先生に描いていただける可能性もゼロではない。今はそんな話はないですけど(笑)でも、『トライブナイン』がすごく好きというプロのクリエイターも、同人として参加できる仕組みではあるので可能性はありますね。

――ある程度長い期間は公開されるようなイメージですか。

杉中氏:
そうです。……クロノゲートがなくならない限りはずっと見れます。

山口氏:
反響次第ですけど、ちゃんと物理的な形に残るものにもできたらいいなとは思ってます。

杉中氏:
非営利の活動ではありますが、むしろだからこそ、最後まで物語を描き切れる可能性は高いと感じています。特にスマホゲームは、サービス終了と同時に物語が未完のまま閉じてしまうケースもあるので、今回のような同人形式のほうが、物語を完結させやすい一面もあるのかなと思っています。

利益ではなく損して得を取る世の中に

――今回のように、企業発のIPをオリジナルのクリエイターが同人として完結させるという展開は、今後増えてほしいですか。増えると思いますか。

小高氏:
増えてほしいと言っちゃうと他のクリエイターたちに負担を強いることになるので難しいと思うし、やれないでしょうとも思う。そんなに腹くくれないでしょうし、今後やる人がいたら大したもんだなと。そもそも、作ったIPがビジネス的に終了となるのはしょうがないですが、ユーザーに対して真摯な打ち切り方を考えないといけないとは思いますね。

――運営型のゲームはサービス終了がつきものですよね。始める時は終わることなんて考えてないですけど、いざ終わることに直面するといろんな問題が出ます。

小高氏:
もちろん、クリエイターはサービス終了を前提とした後ろ向きな作り方はできないので、しょうがない面もあります。でも作った責任として、何があってもどういう結末を迎えるのかということは、始めた時にやっぱり考えなきゃいけないのかなって思いはありますね。

――小高さんは利害関係やメリット云々よりも、「面白そう」という理由で動かれることが多いように感じます。かけるコストと得られるリターンがあまり見合っていないようにも見えて。その「面白そう」という直感には何か信頼があったり、その先に自己実現しやすい未来のような予感があるのでしょうか。

小高氏:
長い目で見た時の利益は考えてないですが、損して得を取る的な世の中であってほしいという気持ちはあります。どんな得があるのかはまったくビジョンが浮かんでないですけど、こういう姿勢で何かを作っていれば、きっといつか良いことがあるはず、信じられないような嬉しい仕事が入ってくるかもしれないみたいな。そもそも、そんなに得を考えてないというのもありますけど。

個人的には、日本のゲーム作りはクリエイター依存で属人性を高めていく方が良いと思っています。その方が日本らしいゲームがたくさん出てくるのかなと。僕はそれを目標としていますし、そうなると作品に対する責任も生まれます。小高でありトゥーキョーゲームスという名前を出したならば、実際の権利とは関係なく、良い時も悪い時もユーザーと真摯に向き合わなければいけないという責任感はありますね。

自分の歴史として、3か月で終了した『トライブナイン』みたいにネタとして言われるのはすごい癪に触るので、ちゃんといいオチをつけたい。「終了後に自ら結末を描いて物に残して伝説となった」みたいなオチをつけたい(笑)そういう思いもありますね。それが自分にとっての得で、自分への勲章みたいなところはあるのかもしれないですね。経営者的な観点は正直ないですね。

――小高さんの作品は、たいがい内容が露悪的なのに、クリエイターとしてはめちゃくちゃ誠実です。

小高氏:
そうですね。僕がいいやつってことは世の中みんな知った方がいい。……日本にとって大切だぞと(笑)

一同:
(笑)

――今回の話でいうとかなり説得力あります。

小高氏:
それと、11月27日に『トライブナイン』がプレイできなくなってしまうので、ユーザーの中にはサービス終了が決定した悲しみでプレイできていなかった人もいるかもしれません。物語はそこからちゃんと続いてエンディングまで描きますので、安心して終了までにゲームをプレイして欲しいなと思います。

杉中氏:
前向きに遊んでいただきたいですね。気合入れて作ったので是非遊んでください。

――ありがとうございました。

『トライブナイン』は、PC(Steam)/iOS/Android向けに基本プレイ無料で配信中だ。

[執筆・編集:Haruki Maeda]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

AUTOMATON JP
AUTOMATON JP
記事本文: 1034