ゲーム実況者よしなま氏が作ったゲームは「利益が出なくてもいい」と覚悟し個人で2500万円出してでもやりきりたい“執念のゲーム”だった。そのお金が絶対に必要だった理由

ゲーム実況者よしなま氏が制作するゲーム『マモンキング』は、2500万円の私財を投じた執念の作品だった。何が彼をそうさせたのか、訊いてきた。

ゲーム会社LiTMUSとゲーム実況者よしなま氏は12月11日に、『マモンキング』を発売する。対応プラットフォームはPC(Steam)およびNintendo Switch。

『マモンキング』はシングルプレイの育成シミュレーションゲームだ。本作では、「マモン」と呼ばれるモンスターを召喚し、育成やバトルをしていく。同作においては、よしなま氏が2500万円のお金を出して開発していることも話題となった。LiTMUSは、YouTuber事務所でおなじみのUUUM傘下のゲーム会社であることも興味深い。

どういう人達が、どういう狙いをもって開発しているのか。LiTMUSのCXOを務める戸塚友氏と、よしなま氏に話を訊いた。

――まずは軽く自己紹介をお願いいたします。

戸塚氏:
開発のディレクターの戸塚と申します。もともと前職で『チャリ走』というゲームをディレクターとエンジニアとして作っていました。その後、縁があってUUUMに入社することになりまして、UUUMで当時所属していたクリエイターと『脱獄ごっこ』というゲームを作りました。それがダウンロード数を伸ばすことができたので、LiTMUSという会社を立ち上げ、今は動画クリエイターとどうやって一緒にゲームを作れるかということを模索しています。

よしなま氏:
UUUM所属のゲーム実況者、よしなまと申します。昔から雑食なゲーマーで何でも大好きなのですが、主に『モンスターハンター』シリーズなどの実況をメインに活動させていただいております。

――『マモンキング』について改めてご説明をお願いしたいです。

よしなま氏:
『マモンキング』はモンスター育成シミュレーションゲームです。モンスターである「マモン」を育て、「マモンキング」を目指していくというゲームになっています。

――本作において、何か影響を受けているゲームはありますか。

よしなま氏:
やはり『モンスターファーム』シリーズですね。大好きなシリーズです。『マモンキング』は「モンスターを特訓して、パラメーターを上げて大会に挑んで、ランクを上げて、また育成する」というゲームサイクルでできていて、そのあたりもしっかり『モンスターファーム』からの影響を受けています。

――ゲーム実況者が本業のよしなまさんですが、「ゲームを作りたい」というのはいつから考えていたのでしょうか。

よしなま氏:
2年前ぐらい前ですね。もう本当に、突然欲求が降りてきたんです。何かがあったからではなくて、急にゲーム作りたいなってある日ふと思って、そこから行動しました。

――制作するジャンルに「モンスター育成ゲーム」を選んだ理由はなんだったんでしょうか?

よしなま氏:
なんかうまく作れそうだなと思えたのがモンスター育成シミュレーションだったんです。もちろん予算の問題もあるんですけど、やっぱアクションゲームなどでは、この規模の開発で勝負するのはかなり難しいんじゃないかなと。

――ゲーム開発についての情報はもともとご存知だったんでしょうか?

よしなま氏:
いえ、ずっとゲームをプレイする側でしかなかったので、ただの素人でした。戸塚さんに詳しい話を聞いて、「ゲームって作るのにこんなにお金がかかるんだ……」と、とんでもなく衝撃を受けましたね。ですが、どうしても作りたかったので、戸塚さんと組んで制作に踏み切りました。

売れなくても構わないから、とにかく作りたい

――戸塚さんから、ゲーム業界の率直なお金の話はされたんですか?

戸塚氏:

よしなまさんから今回のお話を頂いたタイミングで、アイデアを実際に形にする場合について、近いタイトルの制作費や、収益規模の具体例を出しながらお話をさせてもらいました。今はゲーム作るのもお金がかかるし、結果を出すのも大変ですよ、と。

――そうした話があっても、よしなまさんは「じゃあやめよう」とはならなかったんですね。

よしなま氏:
変な人かと思われるかもしれないですけど、「ゲームを作りたい。利益はいらない」という感じだったんですよね。ぶっちゃけると、これで黒字になるかって言われたらかなり難しいと思うんですよ。ゲーム制作においてはどこからの信用も得てないし、ただの一ゲーム実況者なので、実績ゼロですから。それでもゲームが作りたくて仕方なくて、これまでも「思い立ったら即行動」の人生だったので、今回も人生の挑戦の一部としてはじめてみました。

――「これくらい売れないと利益が出ませんよ」と言われても、構わないと。

よしなま氏:
僕自身もゲームの販売本数とか気にするタイプの人間なんですけど、戸塚さんに数字を聞いたときには「これは無理だ」と思いました(笑)ただ、もうそういうのは抜きにして、とりあえず挑戦してみようと思ったんです。

戸塚氏:
一応補足をさせていただくと、もともと僕の開発ラインはUUUMに所属しているクリエイターさんをはじめ、UUUMとは取引がない企業様からもデベロッパーとしてお声がけいただくことが多いんです。よしなまさんの企画自体、もともとはそのいくつかの企画のうちの選択肢の一つにすぎなかったんですよ。

僕がコンペを開催するみたいになっているのもおかしな話ですけど、正直なところ、よしなまさんとの仕事の優先度はちょっと下の方だったんです。リアルな話として、予算規模。あとはよしなまさんの作りたいものが割とニッチ寄りだと感じたので。

よしなま氏:
ニッチ……まあ確かに(笑)

戸塚氏:
もちろん、モンスター育成ゲーム自体は確立されたジャンルなのですが、やはり昨今の流行から見ると、今のトレンドではないですよね。また、よしなまさんの場合『モンスターハンター』シリーズの実況イメージもあったので、「アクションじゃないの?」みたいな思いも正直あったんです。

そんな中で懐疑的ではあったんですが、実際話してみたら「赤字でいいです」「それでもやりたいんです」というお話を聞けて、すごく覚悟が決まってるなと感じました。

僕らの会社であるLiTMUSはUUUMの子会社なので、「所属してくれてる人たちをサポートしよう」という目的も大いにあります。なので、「こんなに覚悟決まっている人を無碍にするわけにはいかない」と思って、ご一緒することを決めました。

よしなま氏:
結構ギリギリまで「僕」がコンペで走ってたんですね。

戸塚氏:
「売り上げが厳しくても、作りたいものを作りたい」というところに素直に感化されまして(笑)

――ゲームは覚悟決めないと完成させられないですよね。ちょっと節操のない質問になるのですが、よしなまさんの場合、多分ゲームを作らない方が得じゃないですか。逆に言うと、ゲーム制作はリスクしかない。自分がゲームを出したら批評もしづらくなり、むしろ配信者としての活動の幅が狭まる可能性はあるのかなと思うのですが、なぜ作る側に回ろうと思ったんですか?

よしなま氏:
「作りたい」という気持ちが、リスクを超えていったからです。確かに僕も、「このゲームここあかんやろ」みたいなことも配信で言っちゃったりするので、ゲームを作る側に回ることで色々言いにくくなることはあると思います。それでも、作りたいという気持ちが強すぎたので、やるしかなかった(笑)

――「ゲーム作ったら、配信者として今後こういうこと言われるかもしれない」みたいなことはよぎったりしたんですか?

よしなま氏:
めちゃくちゃ思いましたね。今はゲームの評価はすぐわかる時代で、最近では特にSteamの評価のレビューとかも存在感を表してきますよね。そんな環境で自分のゲームの評価が低かったら、今後「このゲームここ面白かったよね」とか、逆に「ここひどかったよね」とか言っても、「いやお前の作ったゲームもひどかっただろ」とか、「ゲーム作ってる側なのに何か言っちゃダメだろ」とか言われるかも……というのは、やっぱり考えました。

――でも作るんですね(笑)

よしなま氏:
止められなかったので(笑) 僕はもともとあんまり趣味がない人間で、本当にゲームと漫画ぐらいしか趣味がないんですよね。そのぶん、自分が熱中できるものを見つけた時の熱の入り方が多分強いんだと思います。

“2500万円”、自分で出してもらうのが一番いい

――ちなみに、なぜよしなまさん側が2500万円出資されたんでしょうか。

戸塚氏:
資本負担を求めたのは、こちらの事情が大きいです。10年くらい前、YouTuberの名前を使ってゲームを作る動きが流行ったんです。実際、僕が以前所属していた会社も動画配信者と一緒に作って大ヒットしたんですよ。

当時はそういったムーブメントがあったんですけど、残念ながらすぐなくなってしまったんです。やっぱりリアルで実在してる人をゲームで主体的に使い続けるのは難しかったんでしょうね。そういう流れがあって、全体的にYouTuberと呼ばれる人たちを使ってゲームを作ろうっていう流れが、ちょっと弱まっているというのが、まず前提としてありました。

今はVTuberのゲームが増えつつありますよね。VTuberはやっぱりデジタルの存在でキャラクター性が高いので、そのキャラクターをそのまま活かしたゲームを作りやすいというのがある。一方でリアルの動画配信者はゲームと距離が離れてしまっている。

そのため、今もUUUM所属の動画配信者に対して一緒にゲーム作りませんかというオファーはゲーム会社様から色々と頂けるんです。ただそういう座組で、配信者側が自由にプロデューサーとして口出せるかというとかなりシビアだったりします。そういう声をかけてくれる会社様は、コラボ出演だったり、基本ベースとなるテンプレートがあったり、こういうエンジンがあるから、これに合わせたものを作らせてくださいということがほとんどです。もちろん例外はあるとは思うんですが、その中でよしなまさんの希望のものを……要はテンプレを使わずにフルスクラッチでオリジナル作品を作ろうと言ってくれる会社様は非常に少ないと思っています。

そのため、予算感とか全部踏まえたうえでよしなまさんの希望を叶えようとすると、正直言ってよしなまさんからもお金を出してもらった方が良い結果になるなと。お互いにちゃんとリスクを取ろう、その上でよしなまさんの作りたいものを完璧に作り上げよう、という方法がベストでした

「動画配信者のリスクを減らしつつ希望をなるべく叶えよう」という座組では、正直あんまりうまくいかないケースもあったんですよ。そういうのを踏まえた上で、今回よしなまさんにお金を出していただきました。その代わりもう身を粉にしてちゃんと作りますよ、と。実際、それが一番良い方法でした。

よしなま氏:
僕が2500万円を出すということ話がすぐに進んだのには、そういう背景があったんですね。

――ただの監修ではなく、本当によしなまさんが作っていると。

よしなま氏:
そうです。著名人が監修したものは世の中にたくさんあるじゃないですか。その中には名義貸しのものもあるとは思いますが……『マモンキング』は、よしなまもしっかり関わっています。お金を出すことはその証明でもあると思っています。

――リスクをかけることで自分もちゃんとそこに入ってることを明らかにしたかったと。

よしなま氏:
そうですね。2500万円自腹で投資したという動画上げたら、「あ、名前貸したとかじゃなくて、本当にお金かけてゲーム作ったんだ」となるじゃないですか。そこはアピールしたいですね。

――では実際、よしなまさんはどのように開発に参加したんでしょうか。

戸塚氏:
最初によしなまさんから、ざっくり『モンスターファーム』みたいなゲームです、という希望をいただきました。それから、画作りや仕様によって開発費が変わってくるので、「よしなまさんの希望を叶えるのであれば、ここからここまではアセットで、逆にここの部分はちゃんとオリジナルの素材を作ることになります。そうすれば概算でこれぐらいで作れます」という話をまずしました。

戸塚氏:
次に、開発のベンチマークとして『モンスターファーム』などがあるので、それぞれのゲームの仕様を僕がざっくり書き出しました。その上でよしなまさんに、各仕様についてどう思うかを全部確認していって、「全然違う要素を入れたい」とか「新しくここはこうしたい」みたいな事をヒアリングして、2人で仕様を作りました。なので今回、よしなまさんにはプロデューサーとしてだけでなく、プランナーとしてもがっつり参画してもらっています。

――アイデアだけではなく、しっかりゲームづくりにも関わっていると。

戸塚氏:
例えばですが、本作は1対1のコマンド型の戦闘システムになっていますが、コマンド型の戦闘システムと最初に聞いたとき、1対1だとちょっと単調すぎる可能性があると感じたんです。そこで僕から、3対3にするとか、手持ちのモンスターを入れ替え形式にするとか、他ゲームのシステムも例として提案しました。そうして話し合っていった結果、よしなまさんから出てきたのが本作の「スキルポイントシステム」でした。

技を使うためにポイントが必要になるので管理しつつ戦略性をもたせるシステムなんですが、実際にたたき台を作ってみたらすごくいい感じにハマったんです。そのままどんどんデモ開発、本番開発と進んでいったので、『マモンキング』はよしなまさんがプロデューサー・プランナーとして、本当にきちんと企画したゲームなんです。

――よしなまさんとしては、システムについてはある程度目星を付けられていたのか、仕様のことを考えて組み立てていったのか、どちらなんでしょうか。

よしなま氏:
これまでずっとメモ帳にアイデアの殴り書きしていて。それを戸塚さんに一旦送ったんです。後から追加されていったアイデアもあるんですけど、自分の頭の中に土台はもうありましたね。

戸塚氏:
僕自身、仕様を意見したがるタイプなんです。なので、よしなまさんからもらったメモに、細かい仕組みも含めて色々と提案していて。そうする中でも、よしなまさんの中に明瞭たる骨格があるというか、実際やりとりしていて、本当に作りたい物の存在を感じましたね。

多くの人に手にとってほしい、お手頃価格

――本作のボリュームはどの程度なのでしょうか。

よしなま氏:
面白そうだと思ってもらえれば、10時間くらいはプレイしてもらえるんじゃないかと考えてます。戦略に関していろんなパターンや組み合わせがあるので、ゲームのシステムにどっぷり沼に浸かった人は、50時間でも100時間でも遊べるゲームになっています。

――定価1480円という値段設定は思い切っていると感じました。

よしなま氏:
やはり、色々な人にプレイしていただきたいんですよね。自分の実績がゼロなんで、利益目当てのお高い値段だとそもそもやってもらえないだろうと。利益より、とにかく自分のゲームに対してどういう評価をユーザーの方からいただくのかを重視しています。

あとは、このぐらいの値段でも世界中で流行ってる素晴らしいインディーゲームはたくさんあるじゃないですか。そういったゲームを自分でもたくさんプレイしてきているので、それ以上の値段にはできなかったです。こんないいゲームですらこの値段なのに、みたいな。そういう考えもありましたね。

―― ゲーマー・よしなまさんとしての肌感での値段設定なんですね。

よしなま氏:
そうですね!

戸塚氏:
僕は「もうちょっと高くしませんか」と持ちかけたんですが(笑)実際、あくまで本作はインディー作品だと思っているのと、中途半端な値段にするよりは、手の届きやすい値段にした方が最終的に伸びるとは思っています。そこはよしなまさんとも同じ意見だったので、こういう価格になりました。

最初にこのプロジェクトを始めた時点で、コストの回収はギリギリじゃないかなと。……とはいえ、よしなまさんの覚悟にちょっと乗っかった部分もあるので、最後までよしなまさんの希望をちゃんと叶えてあげたくて、値段設定も意向に沿わせるかたちにしました。

制作中はずっと幸せだった

――よしなまさん、今ゲームが発売されようとしていて、ある種悲願が成就されるわけですが、まだゲーム開発は続けたいですか? 

よしなま氏:
実況活動と並行してゲーム開発をするのはとにかく忙しかったんですけど、開発中はずっと幸せな気持ちがありました。すごく楽しかったので、『マモンキング』が世紀の大失敗みたいになっても、また数年くらいしたら何か作りたい思いはあります。

――ゲーム開発ってめっちゃしんどいものですよね。

戸塚氏:
作ってる最中は地獄だなと思ってることの方が多いものではあるんですが、作り終わった後にはやっぱりもう一回作りたいなって思うんですよね(笑)

――開発中には対立やトラブルなどもなかったのですか。

よしなま氏:
全然なかったですね。揉めないのは単純に、戸塚さんが人格者なのもあります。ただ、僕はプログラミングができないじゃないですか。そういうのは戸塚さんが担っていただいてて、僕は「こういうゲームにしたい」っていうのを戸塚さんにひたすら送り続けるだけだったんですよね。だからまあ、僕は楽しいです(笑)

――よしなまさんが明確にビジョンを持っていて、戸塚さんがそれをとにかくサポートに徹底していて。いいコンビですね。

戸塚氏:
まず僕は、いわゆる動画配信者……つまりゲーム開発を知らない人と長く開発をしてきたので、現場に詳しくない人とのやりとりにはノウハウがあるのが大きいです。相手が希望してることを、なんとなく「配信者の人だったらこうだよね」と先読みできるんですね。

その上で、最初によしなまさんと膝をつき合わせて一気に仕様とかを組み込んで、開発が始まる前に何回もやり取りをしていて。デモ版でも何回か話し合いをしているので。そして……ちょっと言葉があんまり良くないかもしれないですけど、やっぱりお金出してもらってるしな……とも思うので(笑)

お金を出してもらうことは、すごく重要なことなんです。よしなまさんが身銭を切って開発費を捻出してくれているので、よしなまさんの言うことはなるべく叶えなきゃという気持ちは正直めちゃくちゃありました。ただ、よしなまさんから来た意見も、変な要望は一つもなかったんですよ。なので、「お金もらってるからよしなまさんの意見をちゃんと聞こう」と気持ちよく考えることができました。よしなまさんのおかげで生活できてるんだぞ、みたいな(笑)

――自分でお金出したことがめちゃくちゃ開発に効いてるって、すごい面白いです。

よしなま氏:
(笑)

戸塚氏:
イニシアチブはそういうところからくるんですよね。お金をしっかり出している人が、決定権をもちますから。ちゃんとリスクをみんなで分担するって、すごく重要です。なのでLiTMUSは「リターンもリスクもきちんとフェアにやりましょう」を心がけてます。それが結局クリエイターの理想を叶えるための、一番の近道だと思ってるので。

――ありがとうございました。

『マモンキング』は12月11日にPC(Steam)およびNintendo Switch向けに、1480円(税込)で発売予定だ。

[聞き手・編集:Ayuo Kawase]
[聞き手:Shuhei Yamaguchi]
[執筆・編集:Haru Takitoh]
[編集:Aki Nogishi]

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