海賊版の撲滅狙うコピーガード「Denuvo」を18禁美少女ゲームに導入する理由とは、あかべぇそふとつぅ代表インタビュー

AUTOMATONでは三舛社長にインタビューを実施。18禁美少女ゲームをめぐる海賊版の現状や、これまで弊誌でも数回にわたり取り上げてきた「Denuvo」を導入するにいたった経緯など、違法ダウンロードがより身近なものになったインターネット社会における、新たな挑戦について質問した。

先日、18禁美少女ゲームメーカーAKABEiSOFT2(あかべぇそふとつぅ)が、難攻不落と名高いオーストリアのコピー防止技術「Denuvo Anti-Tamper」(以下、Denuvo)の導入を決定したことを明らかにした。同社代表であり、ソフトウェア倫理機構の理事も務める三舛 啓氏が自身のTwitterアカウントで言及したもので、“エロゲ業界初”の試みとしてSNSを中心に大いに脚光を浴びている。今回、AUTOMATONでは三舛社長にインタビューを実施。18禁美少女ゲームをめぐる海賊版の現状や、これまで弊誌でも数回にわたり取り上げてきた「Denuvo」を導入するにいたった経緯など、違法ダウンロードがより身近なものになったインターネット社会における、新たな挑戦について質問した。

 

 

「Denuvo Anti-Tamper」は、オーストリアに拠点を置くソフトウェアメーカーDenuvo Software Solutions GmbHが開発した改ざん防止技術。ゲームソフトを特定のユーザーアカウントと紐付けることでコンテンツの無制限な利用を規制するデジタル著作権管理(通称、DRM=Digital Rights Management)とは異なり、Valve CorporationのSteamライセンスマネージメントシステムやElectronic ArtsのOrigin Online Accessといった、既存のDRMプラットフォームそのものを保護するようデザインされている。デバッグ作業や逆行分析、実行ファイルの改ざんを防ぐことで、DRMをバイパスできないようにプロテクトすることを目的としている。そのため、DRMが組み込まれていないゲームに対しては何ら意味をなさない。

相対費用の観点から今のところ一部のトリプルA級タイトルにしか導入されていないが、発売日を待たずして違法コピーがインターネット上に蔓延するPCゲームの“割れ”事情に革命を起こした実績を持つ。今年1月、中国のクラッカー集団Warezグループ(通称、3DM)は、スクウェア・エニックスのアクションアドベンチャー『Just Cause 3』のコピーガードを突破できない実情から、2年後には世界から海賊版ゲームがなくなるかもしれないという不安感を露わにした。翌月には、今後少なくとも1年間はシングルプレイヤーゲームの違法コピーに着手しないことを表明。海賊版の撲滅がセールス増加へ繋がるのかを窺うのが狙いと説明しているが、その背景にクラッカーを絶望の淵に突き落とした「Denuvo」の存在があることは言うまでもない。

 

“割れ厨”と”購入厨”、逆転した倫理観への挑戦

あかべぇそふとつぅ代表の三舛 啓氏
あかべぇそふとつぅ代表の三舛 啓氏


――PCゲームの違法コピーは業界全体を通して常に販売元やデベロッパーの悩みの種ですが、18禁美少女ゲームにおける海賊版の現状と認識についてお聞かせください。

三舛 啓氏
これは18禁美少女ゲーム業界に限った話ではないのですが、今現在色々なコンテンツが溢れている中、非常に音楽やゲームの違法な形での視聴・プレイが蔓延し、罪悪感が薄くなってきている印象があります。ただユーザー側の意識を変化させることは私たちメーカー側にはもちろん出来ないことだと考えていますので、「Denuvo」のようなサービスを利用しメーカーは違法コピーに対するコンテンツの自衛をし、正規のユーザーだけがコンテンツを楽しめる状況を整備するのが今やるべきことの一つではないかと考えています。もちろんそれだけをやっていてはダメだとは思いますが、重要な事柄の一つだと思っています。

――18禁美少女ゲーム業界における 「Denuvo」の導入は前例がないと思います。どのようなきっかけで同技術について知り、いつ頃から注目していたのでしょうか。また、「Denuvo」のプロテクトは、リバースエンジニアリングや実行ファイルの改ざんを防ぐことで、デジタル著作権管理をバイパスしてアクセスできないようにすることが目的と認識しています。国内の18禁美少女ゲームでSteamやOriginのようなDRMソリューションが実装されているケースはほとんど聞きませんが、「Denuvo」の導入に際して、そうした独自プラットフォームの開発を進めているということでしょうか。

三舛 啓氏

昨年11月にDRMシステムの「Buddy」という商品を、ソフトウェア倫理機構での情報交換会の際に知りました。その際に、プロテクトの強度などに興味を持ち調べていく中で社内スタッフより「Denuvo」の提案もあり、存在は知っていました。ただ、前作は「Buddy」自身のプロテクト機能・強度を試してみたかったこともあり「Buddy」のプロテクトのみを搭載する形でゲームをリリースさせていただきました。残念ながら認証回避をされてしまったようですので、次の段階として「Denuvo」の導入をさせていただきました。

「Buddy」を実装した『働くオトナの恋愛事情』
「Buddy」を実装した『働くオトナの恋愛事情』

私どもの認識といたしましてはDRMのシステムが前提にあり、且つ「Steam」が18歳未満禁止となっておりますので、今回は「Buddy」を利用させていただきました。独自プラットフォームの開発については今現在特段考えておりません。

――国内における18禁美少女ゲームの売上が減少傾向にある中で、「Denuvo」のような新技術を導入するのは勇気のいる決断だったのではないでしょうか。導入を決断するにいたった経緯や理由について、お話できる範囲でお聞かせください。

三舛 啓氏
私自身英語が出来ないため、英語が出来る社内スタッフから伝え聞いた話にはなりますが、「Denuvo」のホームページ上でのコンテンツ保護への取り組みに真摯な姿勢を感じました。ネットが普及し、情報が氾濫している社会で所謂「割れ」や「違法ダウンロード」がアンダーグラウンドの世界でごく一部のネットに詳しい人たちが知っていることではなく、非常にメジャーになってしまいました。

以前、私のTwitterのアカウント上でも触れさせていただきましたが、10年前までは購入者が多数で“割れ”を行っている人々の事を“割れ厨”(商用ソフトウェアを違法にコピーし配布・所有している人々のこと)と呼ぶ流れができ、現在は“購入厨”(正規に商用ソフトウェアを購入している人々のこと)という言葉が生まれ、倫理観が逆転してしまいました。買い支えてくださっているユーザーにプロテクトなどをかけて、負担をかけないようにしようと思い“割れ”対策への問題を先送りし続けてきた結果が、今の状況であると感じていますので遅まきながら最新技術のプロテクトを試していこうという考えにいたりました。

――一部の正規品ユーザーの中には、ソフトウェアのプロテクトが強化されることに不満を抱く者もいると思います。「Denuvo」を導入することで生じ得る弊害はあるのでしょうか。ユーザーからの反響も踏まえてお聞かせください。

三舛 啓氏
環境が変わると、ユーザーの場合は中古ソフトの買取が出来なかったり買取価格が下がってしまう等の不利益を被ったり、販売店の場合は中古ソフトがないと成り立たないという意見もあるのですが、こういったプロテクトで中古市場に少なからず悪影響を与えていくことはあるかとは思います。ユーザーはユーザーの利益を阻害されているかと思いますが、今回メーカーとして、メーカーの立場として利益を守る為の施策を打った結果、このような措置になりました。

私どもはコンテンツを守るためには如何なる手段を用いてでも行っていきたい。しかしながら、そこにユーザーへの不利益、販売店の不利益に関わる中古市場への影響が出ているので、これからも様々な弊害が出てくるのではないかと思っています。難しいことだとは思いますが、皆さんが納得していただけるような形を模索していきたいと思っています。

 

プロテクト強化の動きと正規品ユーザーへの弊害

AKABEiSOFT2は、福岡市に本社を構える国内の美少女ゲームメーカー。元々は同人サークル「AKABEiSOFT」として活動していたが、2005年に有限会社として法人化した。これまで「あかべぇそふとつぅ」「あかべぇそふとすりぃ」「しゃんぐりら」「暁WORKS」「hibiki works」をはじめとした複数の開発ブランドから、数々の18禁美少女ゲームを世に送り出している。代表作には、2005年の『車輪の国、向日葵の少女』や、2008年の『G線上の魔王』が挙げられる。美少女キャラクターのビジュアルやセックスシーンのエロスのみを売りにするのではなく、涙腺を緩めるような感動的なシナリオを前面に出した“エロゲらしからぬ”作風が特徴だ。

次回作『オモカゲ』にはプロテクト非搭載
次回作『オモカゲ』にはプロテクト非搭載

今年1月、同社は『働くオトナの恋愛事情』(あかべぇそふとすりぃ)の発売を前に、オンライン認証によるプロテクトを実装したことを発表した。その際導入されたのが、インターレックス社が開発したネットワーク認証型DRM「Buddy」である。三舛氏は自身のTwitterで、「今度実装するプロテクトは、割られないと思います。割られたら意味ないんで、割られたらすぐに実装をやめると思います」と、逆転した倫理観への挑戦に期待を寄せていた。これに対し一部のSNSのユーザーからは、「どんな対策をしようとも割れ厨の方が上」といった、イタチごっこを指摘する冷ややかな声が挙がった。もちろん、絶対に破られないプロテクトは理論上存在しない。三舛氏も、「プロテクトを割るという競技(ゲーム)を楽しんでるような人には割られる可能性があります」と、後に発言を補足している。

しかし、新たな試みへの期待も虚しく、1月29日に発売された『働くオトナの恋愛事情』のプロテクトは、海外のクラッカーによって僅か2日で突破されてしまう。直後、三舛氏は「残念ながらプロテクトが割られてしまったようだ」と報告。なお、明言はされていないが、今回の違法コピーも中国を拠点に世界へ悪名を轟かせるクラッカー集団「3DM」の仕業だと思われる。そして、今月はじめ、AKABEiSOFT2は「Denuvo」の導入を決定したことを発表。すでに実装しているDRM「Buddy」のプロテクトをバイパスできないよう、更なる防衛策に出たというわけだ。

一方で、海賊版の蔓延を防ぐためのオンライン認証プロテクトにより中古買取が困難になり、国内における流通の妨げになるとの指摘がある。事実、「Buddy」を搭載した『働くオトナの恋愛事情』は、開封済の商品買取が消費者とのトラブルを招きかねないという理由で、ソフマップや駿河屋をはじめとした多くの大手通販店において、未開封パッケージのみを買取対象としていたようだ。駿河屋にいたっては、未開封か開封済かに関わらず、買取を一時停止する処置を取っている。こうした背景から、一部の美少女ゲームファンの間では、ただでさえユーザー人口が減少している同業界の低迷をさらに加速させる発端になるといった手厳しい意見もある。なお、インタビューの中で三舛氏も触れているとおり、AKABEiSOFT2側もこの事態を把握しており、流通業者にシリアルコードを発行するなどの解決策を模索している。

最新作『PURELY×CATION』には別プロテクト実装
最新作『PURELY×CATION』には別プロテクト実装

正規ユーザーだけがコンテンツを楽しめる状況を整備するため、同社は『働くオトナの恋愛事情』以降にリリースする新作タイトルには、今後もオンライン認証プロテクトを導入する予定で開発を進める姿勢を明確にしている。同時に、「発売予定タイトルのオンライン認証プロテクトに関するご案内」を公式サイトに掲載。3月25日発売予定の次回作『オモカゲ』(あかべぇそふとすりぃ)に関しては、仕様の再協議や作業状況から実装が難しいと判断したため、プロテクトを搭載しないと発表した。また、4月28日発売予定の『PURELY×CATION』(hibiki works)においては、「現行プロテクトのバージョンアップや、別プロテクトの実装も視野に入れ、海外の企業様とも商談を進めておりますため、搭載予定のままとさせていただきます」と説明している。別プロテクトが「Denuvo」を指しているかは今のところ定かではないが、3DMを休業にまで追い込んだ鉄壁の要塞を引っさげて反撃に転じる日が近いことは確かだろう。

[聞き手 Ritsuko Kawai]

Ritsuko Kawai
Ritsuko Kawai

カナダ育ちの脳筋女子ゲーマー。塾講師、ホステス、ニュースサイト編集者を経て、現在はフリーライター。下ネタと社会問題に光を当てるのが仕事です。洋ゲーならジャンルを問わず何でもプレイしますが、ヒゲとマッチョが出てくる作品にくびったけ。Steamでカワイイ絵文字を集めるのにハマっています。趣味は葉巻とウォッカと映画鑑賞。ネコ好き。

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