『LA-MULANA 2』とNIGORO、Kickstarterへ挑む

Kickstarter が始まった『LA-MULANA 2』などについて、NIGORO 楢村匠氏にお話をうかがいました。

Kickstarter が始まった『LA-MULANA 2』などについて、NIGORO 楢村匠氏にお話をうかがいました。以前のインタビューはこちら。

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NIGORO 楢村匠に訊く 2[前編] TGS 振り返り

NIGORO 楢村匠に訊く 2[後編] 『LA-MULANA2』のコンセプト

なお、本インタビューが収録されたのは2014年1月10日。公式にもアナウンスがあったとおり、Kickstarter 開始は予定よりも1週間ほど(さらに)後ろ倒しになっています。その影響で若干のタイムラグがあることをあらかじめご了承ください。

 


 

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――まずは最初に、このインタビューが公開されるころには Kickstarter が始まっている予定です。まだゴールが見えたわけでもなく気が早い感じですが、ひとまずはご苦労さまでした。

――そもそも Kickstarter を始めたきっかけを教えてください。Steam や PLAYISM はじめ、『LA-MULANA』が露出する機会が増えていますが、それでも2を始めるには厳しい状態でしたか?

実はずいぶん前から KickStarter を使う計画は立ちあがっていました。そしてもともとは『LA-MULANA2』で KickStarter をはじめるつもりではありませんでした。

 

――別の目的で Kickstarter を使うつもりだったのでしょうか?

去年のBitSummitでも予告を出していたシューティングゲームで使うつもりでした。

 

――それを今回LA-MULANA2で使うよう軌道修正したのはどのような意図がありましたか?  シューティングゲームが思うようなクオリティに達しなかったというのは以前おうかがいしましたが、ほかに動機はありましたか?

我々の計画というか希望では、『LA-MULANA』を WiiWare で出しさえすれば必要な売り上げが出てビジネスになると思っていたのです。でも実際はそれだけでは足りず、海外でも売らないと、他の機種にも出さないと、 Steamで出しても突発的に数万売れるわけじゃないらしいぞと、厳しい事態に直面することになりました。ひとまず開発ストップしたシューティングや 『LA-MULANA 2』に限らず、ゲーム作りに集中するには初期資金が必要だと考えたんです。

Kickstarter である以上、成功しなければ資金を得られません。そこでまだ固まっていない新作シューティングよりは知名度のある、つまり成功率が高いであろう『LA-MULANA』の続編でいこうという流れです。

 

――では最初のまとまったお金として約2000万円という数字がはじき出されたということになりますが、これの内訳というか、どのような計算で弾き出された数値なのかお教えいただけますか?

我々と PLAYISM とで目標資金を達成するプロジェクトにするにはどうするかという研究を結構長く続けていました。その1つに目標資金が高すぎると危険っていうものもあり、 だから最初は700万円とか1000万円とかもっと低い金額で計画を進めていました。しかし実際には2000万円に着地しました。1000万では最初の 数ヶ月の足しになるぐらいにしかならないのはわかっていたからです。

 

――いきなり踏み込んだ話になってしまいますが、それでは今回の資金の最低ライン2000万円で想定される開発期間はトータルで何ヶ月くらいですか?

何を基準で2000万とするかは複雑なんですけど、こちらとしては『LA-MULANA』と同じ規模のものを創るわけですから、1年半ぐらいは開発 に集中できる資金が集まらなければならないと考えてます。しかもそれはかかわっている人間に、「月にまぁこのぐらいなら家族も納得できるでしょう」ぐらい のカネを渡して1年半持つのが2000万円というだけです。実際には、広報などの活動をしっかりするためには2000万円でも足りないと思っています。

 

――なるほど。前作と同様の3名が1年半開発に集中するとしての2000万。インディー界隈の事情はさておくとしても、クリエイターの賃金相場で考えると妥当なセンであるように思えます。

――先ほど PLAYISM の名前が出ました。今回の Kickstarter ではどのような支援を受けましたか?

当然、最初は自分たちの中で Kickstarter を使えないものかというところから始めていました。でも調べれば調べるほど、厳しい部分が浮き彫りになりました。たとえば北米に住所を持つ会社でないと使 えないという制約、担当者との契約、実施中の Backer (Kickstarter で出資・投資してくれた人)とのやりとりなど、自分たちの力だけでは不可能だったのです。より具体的なところだと口座関係。Kickstarter を利用するには米国か英国の銀行口座ならびに居住地の証明が必要だったのです。これを我々単独でクリアするのは困難でした。

まあ、今までの海外の壁と同じような問題です。それなら今までどおりPLAYISMに協力してもらい、PLAYISM も我々をモデルケースにして後々他のゲームでも Kickstarter が使えるノウハウを獲得してもらおうと狙ったわけです。

 

――いつもどおりの実験場状態というわけですね。若干オフレコめいた話になりますが、Kickstarter 開始が若干後ろ倒しになっていた印象があります。何か苦労・障壁等ありましたか?

これまたいつもどおりというか、海外の会社の担当者が連絡返してこないとか、今まで散々経験してきた海外対応トラブルつめあわせをいただいたからですね。

 

――つまるところ、Kickstarter の運営からの反応がにぶかったということでしょうか? Steam で、たとえば『Fez』あたりと並んで配信されているインディーゲームの続編であるにもかかわらず?

そういった審査めいたたぐいではないです。我々も最近 PLAYISM に海外対応を任せて安心になりすぎてましたね。海外で事を起こすなら、こちらの思う予定のさらに2ヶ月前から動かないといかんとあらためて思い知らされま した。ようは、仕事のメールをもらったら読みましたよメールがすぐに返ってくる日本ビジネスの感覚じゃだめだったってだけの話です。

次に PLAYISM で Kickstarter を使うインディー開発者はもっとあっさり始められると思いますよ。我々が散々苦労した Greenlight が今じゃすんなり通るようになっているのと同じです。

 

――順調に日本サイドの開拓が進みつつあると。

――では、後進はもう少しスムースに事を進められるとして、今回『2』で Kickstarter を始めるまでにトータルでどれくらいの時間がかかりましたか? アイデアレベルではなく実際に動かそうとしてから何日~何ヶ月かかったのか、ということです。

これも予定が大幅に狂ったので正確なところは難しいですが、『2』でやろうと決めたのは2013年7月ぐらいですね。そして本来なら同年10月には 始めたいと思って必要な素材や文章や仕込みなどの準備をしました。Steam で『LA-MULANA』セールを連発してたのも仕込みのひとつだったんですけど。販売ページに1/16に新情報!とうつのが精一杯でしたね。かろうじて 空振りを避ける形になりました。

ちなみに、東京ゲームショウの前にはプロジェクト用のムービー撮影旅行に出かけていました。Kickstarter 期間中に総力戦をしかけますのでご期待ください。なにしろ10月スタートを目標に駆け足で準備したにもかかわらず2ヶ月アイドルタイムができてしまったの で、プロジェクトページ作成にずいぶん力を入れることができましたからね。

逆に言えば今回のプロジェクト紹介の出来栄えは、そうした期間があったからこそという側面があるわけです。もし今後日本から Kickstarter に挑戦する方がいらっしゃるならば、その点を考慮して、むやみに萎縮しないでいただければと思います。

 

――今から Kickstarter に挑むとすれば、今回の事例をふまえれば PLAYISM の協力があれば3ヶ月くらいでスタートできる(かもしれない)ということですね。

まぁ我々が咲くのか散るのか見届けてからにして欲しいですけどね。

 

――ここは笑うべきところなのかもしれませんが若干笑えません。

 

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――さて、もう少し Kickstarter の話を。ストレッチゴールがかなり細く設定されているのが印象的で、以前お話があった「キャラクタースイッチ」が60万ドル(ストーリー分けて70万ドル)とかなり高めに設定されていますが、やはり工数が跳ね上がりますか?

跳ね上がりますね。実装だけではなくデバッグ期間が長くなるのは間違いないです。ストレッチゴールにかんしては、決めたこちら側も疑問に感じながら決めましたね。

 

――笑ってしまいました。ということは、緻密な計算に基づいて!とかではなくわりとざっくりしている? 90万ドルの多言語対応も、『1』の魅力・価値を再現するために必要な経費なのかと最初に見た時感じたのですが、そのあたりもどんぶり勘定気味だったりしますか?

成功しているゲームプロジェクトを参考にストレッチゴール項目を決めたんですが、創り始めてもいないゲームのコンシューマー移植なんて決定できるわ けないですし、おカネしだいでステージ数やキャラが増えるっていうのがそもそも疑問なんです。おカネが集まったからってグラディウスのステージが50も あったらゲーム性崩壊するじゃないですか。ですからざっくり決めたというよりは、ストレッチゴールの中には「達成しようがしまいが『2』を作るとなったら これは実装するよ」ってものも含まれてます。

 

――非常に力強いお言葉です。では、達成しまいが実装するものではない、という前提ですおうかがいしますが、最後のストレッチゴールにMODツールが鎮座しているのはどのような意図でしょうか?

達成すると思ってないからですね。

 

――いいクロスカウンターをありがとうございます。……映画化はストレッチゴールに入らなかったんですね。

調べていくうちに、ストレッチにもリワードにも上限があったんです。

 

――冗談でやることもできなかったと。意外に Kickstarter もケチですね。

もともと、プロジェクトとの関連性が弱いストレッチゴールは設定できない規約になっているのです。法律がらみの問題もあるかもしれません。

 

――トレイラーが映画だということにしておきましょう。

 

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――そろそろゲームについておうかがいします。まず、開発の進捗はいかがでしょうか? TGSバージョンは当座のものとのことでしたが、本物の『2』は現段階で開発率は何割くらいでしょうか? 無茶な質問ですが、概算・イメージでお願いします。

これも先ほどのストレッチの話にからむんですが、たとえばキャラクタースイッチなんかをやろうとすると主人公のプログラムのやり方から違ってくるん です。なので Kickstarter が終わるまでは仕様が定まりません。それまでは開発を進めず準備と研究だけにすると決めていました。

ですが10月に始められず、いつになるか分からない状態で待機し続けたので11月は完全に腑抜け状態。12月になってさすがにまずいということで、 さっき話した「やるとなったら資金にかかわらず実装するライン」を僕のほうで決めて、まずは3月の BitSummit2 でまた新しいバージョンを見せられるように開発を始めたところです。

見切り発車する部分があるわけですから、おそらく BitSummit で出すことが出来るバージョンにもばっさり捨てる部分なんかが含まれていると思います。

 

――現段階では何割・何パーセントという状態にはないということですね。逆に言うと、準備と研究にあてられた部分、たとえば世界観やコンセプトといった部分については以前うかがったものから変化はない?

そうですね。自分が12月にしたことはおぼろげだった全体像を、頭の中でゲームが動いている絵が思い浮かぶぐらいにまでは練りこみました。

 

――Kickstarter での紹介にもありますが、基本的には北欧神話ベースで進むわけですね。いかにもサプライズが仕込まれていそうではありますが。

そこも自分の中では繊細な問題でして。

 

――期待します。

北欧神話を扱うゲームって結構ありますからね。同じような世界やストーリーにしないように考えています。

 

――やはり他のゲームを意識しますか? パーツとして北欧ネタを使っているゲームなら山ほどありますし、モロ直球で北欧ネタを取り扱ったタイトルもいくつかあります。『ヴァルキリープロファイル』などです。

北欧神話であろうとすると、オーディンやロキなど外せない登場人物がいるじゃないですか。ただこの人たちに長々と会話デモをさせたら『LA- MULANA』とは違うものになると思ってます。ですから、「他のゲームが」というよりは、『LA-MULANA』というゲームが北欧神話だけに侵食され ないように気を使ってます。

 

――なるほど。そういえば『1』でも敵キャラとの会話というのはまったくありませんでしたし、NPC との会話でも説明的なものはあまりありませんでした。やはり今回も碑文を読み解くゲームになりますか?

肝はそこになります。ただ『2』と名乗る以上、会話の仕組みなんかにもバージョンアップした要素は入れたいですし、NPC との会話もあれば面白いかもしれません。そういった「やりたい要素」の絞込みもまだまだこれからですね。

 

――もう1つのコアであるアクション部分について、どのようにメスを入れるかはやはりまだ検討中ですか? 以前から楢村さん直々に「しゃがみ」の案などについてアイデアが紹介されています。

現段階ではどういったアクションを追加するというところまでは決めています。もちろんこれからプログラマに作ってもらって実際に操作してみて、 「やっぱりいらない」となるものもあると思います。しゃがみ案なんかはアクションゲームとしての進化ならという視点で出てきたものですが、『LA- MULANA』である以上は採用されたアクションはボスの攻略にも役立つし、謎解きにまで絡めなければなりません。『1』では、しゃがみもしないのに、 「”迷いの門”でひざまずけ」って石碑もありました。

 

――ではすでにかなり具体的な案が出ているのですね。

そうしないと BitSummit に間に合わないんですよ。

 

――少し話がそれますが、BitSummit について。昨年度の BitSummit や TGS とくらべて、力を入れる部分はありますか?

去年の BitSummi では、展示する新作が何もなかったのが一番の反省点でした。今年もあるというのは主催者から前もって聞いてましたから、なんとしても3月に何か見せられる ものを用意しないといけないと考えていました。そして TGS ですでに即席バージョンを見せている以上、BitSummit に展示するなら新しい要素が入った状態でなければなりません。

 

――BitSummit では真の『2』が見られるわけですね。

 

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――戻ります。さきほどボリュームに比例して増えるデバッグの話がありました。『2』は Backer 向けにアーリーアクセス権を与えてベータテスター化させますか? 昨今ではオーソドックスな手法です。

リワードの中にオープンアルファというものを用意しています。これは『2』を作るために考え出した、アーリーアクセスよりもっと踏み込んだものです。

 

――具体的には?

どの段階になるかは未定ですが、アルファ段階からアーリーアクセス権を動かします。そのアルファバージョンはプレイ動画の公開も許可する予定です。

 

――プレイ動画の公開・コメントというのは、やはりニコニコ動画や Twitch など各種動画配信サービスとの連携ということでしょうか?

Backer は海外が多いでしょうから、特にどこと連携ということはなく、公開する人にお任せですね。

 

――ゲームの機能として映像を出力できるであるとか、ちょっと昔のPCゲームみたいにデモファイルを出力するであるとか、そういうものではないと。

違います。Backer しか遊べないアルファ版ですが、守秘義務なんかを設けないということです。どうぞお好きにプレイ実況してくださいということです。登録も管理もしません。

 

――ワイルドかつ通常運行ですね。

前の取材でも『2』が『1』と同じだけの練りこみができるかどうかが問題と言っていたのがまさにこれで、開発段階からフィードバックを得てしまえと いう考えです。思い返せばオリジナル版の『LA-MULANA』も1面だけの体験版、仮完成版、完成版と数回リリースされていて、そのたびにフィードバッ クを取り入れてましたからね。

 

――40ドル出資からのオープンアルファではありますが、秘密主義ではないということですね。

 

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――ディストリビューションについて。現状で名前があがっているのは PLAYISM と Steam ですが、協調関係にある PLAYISM での配信にボーナスを設けますか? 価格・特典その他。

そこまでの計画はまだですね。ただ、PLAYISM で最初に出すことは間違いないと思います。あとは1の時に開拓できた GOG や Steam なんかには当然話を持っていきます。

 

――Kickstarter の各種グッズについて「2015年12月発送予定」とあって、2015年末リリースなのか? と考えてしまう向きもあるかと思います。ストレートにおうかがいしますが、今年中のリリースは無理?

いやです。

 

――すばらしい。

グッズはいろいろと問題があるんですよ。グッズ製作に手間や時間を取られすぎて、肝心のゲーム開発が遅れたり頓挫したりすることなんてあってはならないですからね。だから一応前提としてはゲームができあがってからの準備と考えていただければと思います。

 

――海外のサイトで『2』を2014年発売扱いしているところがあったりしますが、基本的にそれは間違いで、2015年内のリリースを目標にしていて、ある程度メドがたってからグッズを作り始める。だから2015年12月、ということですね。

そうです。ゲームが出来てないのにサントラなんて作れませんからね。むしろ2015年内には出すぞという決意表明ということにしておきます。

 

――では最後に3つメッセージをお願いします。1つ目は、Kickstarter に貼りついているゲームファンへ向けて 。弊誌読者はほぼ全員日本人ですので、その中でも日本人向けに。2つ目は、前作のファンへ向けて。3つ目は、BitSummitに来場される関係者とイン ディーゲームファンへ向けて。

1つ目。NIGORO のスタンスは『1』を作っていたころと変わりはないです。早くから注目・支援をしてくれた人が最も楽しめるようにお祭り騒ぎしながらみんなと作っていきます。

2つ目。前作ではオリジナル版を遊んでいた人がリメイク版で初挑戦者を導いて愉快なコミュニティが出来上がりました。『1』では初心者だった人も今回から先輩考古学者です。当然我々はその先輩考古学者すら手玉に取ろうと企みます。

3つ目。3日間と規模が大きくなった BitSummit2 ですが、これは去年の日本のインディーが盛り上がっていった結果が生んだものの1つだと思っています。今回の Kickstarter も同様で、あくまでスタートラインに立てたにすぎないと思っています。これからも応援……というよりは楽しんでください。楽しそうにしている人たちの元に より多くの人が集まるものだと思っています。

 

――ありがとうございました。

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(More Coverage: Kickstarter, 日本語版『LA-MULANA2』公式サイト

Nobuki Yasuda
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