インタビュー GhM須田剛一 [前編] いわく、「新作のレーティングはZも振り切りたい」

“カルト的な人気をほこる”なる表現がこれほどふさわしいクリエイターもなかなか存在しない、それがグラスホッパーマニファクチュアSUDA51こと須田剛一氏です。今回は2015年リリース予定の新作『LET IT DIE』について、ほぼダメ元の突撃気味にインタビューしました。

“カルト的な人気をほこる”なる表現がこれほどふさわしいクリエイターもなかなか存在しない、それがグラスホッパーマニファクチュアSUDA51こと須田剛一氏です。今回は2015年リリース予定の新作『LET IT DIE』について、ほぼダメ元の突撃気味にインタビューしました。

当然、リアクション「にんともかんとも……」率が(一般的なメディアでは原稿そのものがボツになりかねないレベルで)高くなりましたが、かいま見えた事柄もいくつかあります。ファンの想像&妄想に役立てばなによりです。それではどうぞ。

 


――去年のTGSのおりに『リリィ・ベルガモ』のブースに近づいてお話をうかがおうとしたんです。けれど、いつも取材陣に取り囲まれていらっしゃって、ご挨拶もできず……。

須田氏:
ええーっ? 本当ですか? そんなことなかったですよ?

 

――気づいたら『LET IT DIE』になっていました。びっくりです。これは別のメディアからのインタビューがあったところだとは思いますが、この大きな方針転換の動機や理由はどのようなものですか?

須田氏:
大きくシフトチェンジしたのは去年の12月です。それまでずっと『リリィ・ベルガモ』を創ってきたのですが、非同期オンラインの要素自体はすでにあったのです。その部分が遊びとして特徴的かつ面白くて、「ああ、ここを強くしてゲームをまとめていったらいいんじゃないか」と考えが浮かびました。つねに非同期オンラインの状態で遊ぶようにしたほうがあたらしいゲームになる、という流れのなかで自然とその部分が拡張していった感じですね。拡大解釈したことによって、『LET IT DIE』の方向性が生まれ、スッと切り替えました。

 

――かなり思い切りのいる決断だったと推測します。須田さんのなかで「もったいないな」といったような気持ちはありませんでしたか?

須田氏:
んー……もったいないオバケ出るんじゃないかなと(笑)でも背景アセットはそのまま使っていますし、舞台装置そのものは設定として活かされています。だから、すべてを捨てたわけではありません。アクション部分のリソースだったり、そういう部分ももちろん活用できています。

 

――『リリィ・ベルガモ』のキャラクターデザインからすごい進化ですね。いつの間にか釘バット持ってましたから。

須田氏:
そうですそうです。らしさをより前面に打ち出そうと。ただ、これまでのグラスホッパーらしさというよりは、あらたなイメージみたいなものを模索しています。バイオレンスは得意分野ではあるのですが”新生グラスホッパー・マニファクチュア”として、まったくあたらしい印象をあたえていければな、と思っています。

特徴的なのはシナリオベースでない点です。「まず遊びから」です。非同期オンラインのなかでどうやって遊んでいくのか、そこを重視しています。今回は「死の上積み」や「死の増幅」がひとつのテーマになっています。それらが軸になって、ゲームができて、設定がついてくるという創り方です。

だから、これまで比較的多かった僕がシナリオをさきに書きおこして、そこからゲームに落としこんでいくという形ではないです。挑戦であって、新鮮なものができあがると思っています。

 

――システムを作ってから、ストーリーを作る。

須田氏:
そうですね。設定が仕様ベースからできあがっていく感じですね。

 

――サイトを開いたときに表示される”DEATH CANCELS EVERYTHING. EXCEPT THE TRUTH”のフレーズも、そうした設定を反映されたテーマなのでしょうか?

須田氏:
テーマを表したひとつの言葉ではありますね。

 

――死んでもそこになにかが残る、そして対戦ではない……と聞くと、たとえば『Demon’s Souls』や『Dark Souls』のメッセージシステムのようなものをまっさきに連想します。ああいうものとは全然違いますか?

須田氏:
今回もうある程度情報出してるよね? [微妙な間]……?あれ?言ってなかったっけ。言ってないか、どんな仕組みか。でも、コンセプトイメージは公開してますよね。そう、プレイヤーの死がほかの人が遊んでいるところに乗っかってくる感じなんです。死のビッグデータが積み重なってゆく。世界各地でプレイヤーが死んで、その死んだ痕跡がほかのプレイヤーのところに飛び越えて現出する。

 

――たとえばなにかしらのオブジェクトを壊して死んだら、つぎのプレイヤーはその壊れたオブジェクトでなにかが起きる、とかでしょうか?

須田氏:
もっとダイレクトです。

 

――死んだプレイヤーが襲いかかってくる?

須田氏:
まさに。NPCとして出てきます。

 

――ふみいってしまう感じなのですが、すでにNPCとして動いている死んだプレイヤーが、もう一回ログインして遊ぼうしたらどうなるのでしょうか?

須田氏:
これはですね……言っていいのかな。ダメ? ……いや、すいませんがまだ言えませんね。ここはシステムの根幹なので。いろいろ工夫しています。

 

――ではすこし話題を変えて。「ジャンル: サバイバルドアクション」。この響きを聞くとなんとなく『Shadows of the DAMNED』の「どパンク地獄ホラー」あたりを思い出します。では、この「ドアクション」のこころは?

須田氏:
んー、なんて言えばいいのかな。もうちょっとしたらお伝えできると思います。まあ、アクションゲームの肌触りとしての面白さは追究しています。ただ普通のアクションゲームとしてではなく、サバイバル。すなわち生き残るということですね。その「塔」の中でどうやって生き延びていくか。ただ相手を殺すだけではない、という要素は今後いろいろ出てくると思います。

 

――殺すだけではない、ということはほかのプレイヤーと協力することもありえる?

須田氏:
にんともかんとも……。

 

――なるほど。ゲームとしては基本的にひとりでプレイする。そのなかに、ビッグデータの介入がある。そういう形と解釈してよろしいでしょうか?

須田氏:
にんともかんとも…。

 

――サバイバルの部分に関しては特徴的な部分はありますか?

須田氏:
サバイバルは……にんともかんとも……。

 

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[スタッフの方]:
E3で公開したPVはご覧になりましたか?

 

――はい、もちろん。

[スタッフの方]:
裸一貫で始めて、武器を集めていくという映像内容でした。

須田氏:
現地調達していくというのが軸にあります。パン一(パンツ一丁)でスタートして、倒して、武器なり装備なりを入手して、がんがんパワーアップしていく。それがひとつのサバイバルではあります。

 

――そうしたフローをうかがうと、『DayZ』や『Rust』あたりを連想します。『Rust』なんかはパン一どころか全裸からのスタートです。しかし、『LET IT DIE』はそうした作品とは一線を画しますか?

須田氏:
そうですねえ、同じものにするつもりはまったくありません。まだ情報を出せない部分が多くあるので、「どこが一線を画するのか」については今後徐々に公開してゆきます。

 

――ちなみにですが、先ほど名前をあげた作品のように、プレイヤーは死んだら装備などは全部ロストしますか?

須田氏:
にんともかんとも……。

 

――では、当たり障りのなさそうなところを。『LET IT DIE』のタイトル名がビートルズ「Let It Be」にかけたというお話が4Gamerのインタビューでありましたが、ほかになにか影響を受けたゲーム・映画・マンガ・その他もろもろはありますか?

須田氏:
やっぱり……『アナと雪の女王』(一同爆笑)キてるじゃないですか、もう。「Let It Go」で『LET IT DIE』だろう……と思われたらやだなというふうには感じていましたよ(笑) これは声を大にして言いたい。『アナと雪の女王』の影響ではない!

[スタッフの方]:
『アナと雪の女王』が出た段階でもう『LET IT DIE』って言ってましたもんね。

須田氏:
うん。知らなかったし。映画もまだ公開されてなかった。現場ではずっと『LET IT DIE』って言ってました。ただ、Foo Fightersにちょうど「Let It Die」って曲があるんですよ。

最初はどうなのかなと思ってたんですよ。3単語なので。もっとコンパクトなほうがいいのかとか、「Let It Be」のイメージもあるし。それで『アナと雪の女王』が流行っちゃったから、「影響を受けてると思われたらいやだよね」ってなって。SCEで発表するときめちゃくちゃ悩んだんですよ。でも、最終的にはいいんじゃないかということになりました。

 

――ゲームの内容面で影響を受けた他作品はありますか?

須田氏:
うーん……ゲームの内容は……

 

――『パズドラ』とか(笑)

須田氏:
『パズドラ』の影響は……まったく受けていないと思います(笑) 影響ということでいうと、そもそも本作は僕だけの発想ではなくて、どちらかというと現場が中心なんです。僕や本社の森下(注: ガンホー代表取締役社長森下一喜氏)もそのなかに入って、それぞれの意見で創っていっています。みんながいろいろなゲームを思い浮かべて考えたところからアイデアが出ているでしょうし、逆にまったくのオリジナルの発想もあるかもしれない。だから「とくにこれの影響」というのはありません。

ただ、僕がこのゲームの舞台を構築するにあたりイメージしたのは永井豪先生の『バイオレンスジャック』です。関東地獄地震で関東が本土から切り離されるんですよ。そこで起こる群雄割拠の物語です。それを想起して、あの舞台が作れたらいいな、とは思いました。ああいう隔絶された場所では何が起こるのか、というのはすごく意識しながらアイデアや設定周りを考えています。

 

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――お話をうかがうに、ガンホー傘下に入り様々なアイデアが出るようになったようです。さきほどお話のなかで森下社長のお名前があがりましたが、やはりガンホーサイドからも開発に関して意見が出されたりするのでしょうか?

須田氏:
ガンホーからということではありません。森下はGhMの取締役でもあるので。ガンホーの社長としてではなく、いち企画マンとしての参画です。「ガンホーの意見」というふうには森下本人も思っていないでしょうし、ガンホースタッフもそんな考えは持っていないでしょう。面白くなければ却下になりますし、面白ければ採用します。

 

――2年かけてうまく融合できたということですね。当時はおどろいたものです。あのグラスホッパー・マニファクチュアがガンホーに!いったいどうなってしまうのか!と。『LET IT DIE』が公開されたいまでは、「ああ変わらないんだな」とは思えますが。

須田氏:
そうですね。より濃さは増したと思います。『リリィ・ベルガモ』も面白い企画であったのですが、でもより濃厚になりました。”昇華”という言葉をよく使うのですが、練りあげたうえで『LET IT DIE』になったので。濃さはまだまだ足りないくらいです。

 

――ではいま一度ゲーム部分のほうへお話を戻したいと思います。お聞かせいただける範囲を想定しながら、ということになりますが……。E3トレイラーで出てきた武器は釘バット、電鋸、ハンドガン、「狙撃武器」などです。ほかにどんな”面白い武器”が出ますか?

須田氏:
それはもう超・にんともかんともですね。

 

――超ですか。ビーム・カタナ出ませんか!?

須田氏:
ビーム・カタナは出しません。

 

――そこはかとなく『Shadows of the DAMNED』に似ていたりしますが、ボナーは出ませんか!?

須田氏:
出ませんねえ。そこはですねえ、出せません。

 

――キャサリン(注: 『花と太陽と雨と』に登場する重要アイテム)も出ない。

須田氏:
出ません。過去作とは無関係に創りたいというか、過去にとらわれてもしかたないので。現場からビーム・カタナの案は出たんですけどね、僕が却下しました。ただし、運営フェーズでは検討するつもりです。

 

――須田さんのタイトルは根っこの世界観があり、そのうえに創っていらっしゃるようでした。しかし今回はバサッと切り離すかたちなのでしょうか?

須田氏:
これまでのタイトルのしがらみを自分たちに持たせたくなかったんです。本当の意味でのブランニュータイトルなんです。ルーキータイトル、まじりっけのないものにしたいという想いがありました。

 

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――ややシビアな質問になってしまいますが、アートのタッチなどから推察するに、やはりターゲットは海外中心でしょうか?それとも日本人も範囲に入っている?

須田氏:
ワールドワイドです。

 

――現段階では、PS4は日本国内だけでいえば苦戦しています。

須田氏:
ああ、数字を見ればですね。ハードを牽引するのはソフトですから。『LET IT DIE』がその役割の一端を担えれば最高です。とにかく、マーケットは関係なくワールドワイドで出すというのは最初から決めていました。

 

――そこで気になるのがお約束の「CEROの壁」です。今回は予定としてはレーティングは?

須田氏:
レーティングはまだ言えません。が、「振り切りたい」なと。

 

――「振り切る」?

須田氏:
もうね、DどころかZすらも振り切りたいですね。なんといえばいいのか、あんまりレーティングを気にしたりしたくないんです。バイオレンスやゴアはテーマなのですが、そこだけで勝負するのではありません。たとえば『モータル・コンバット』のゴア表現ってすばらしいじゃないですか。あれは設定や世界観の歴史が分厚くとにかく洗練されている。そこが突き抜けているからこそ評価されているわけです。だから、自分たちなりのゴアやバイオレンスを考えています。「これが『LET IT DIE』だ」と言える表現とか。

 

――なにかとCERO Dでとどめたがるような風潮はありますが、そういうことはないと。

須田氏:
あまりそこを考えてものを創るつもりはありません。そもそも今回はフリーミアムですので、パッケージのことは意識せずにやっています。そこもあたらしい挑戦ですし。

 

――お答えが返ってこない覚悟のうえでおうかがいしますが、課金はどのような形にされますか?

須田氏:
Pay to Winではないです。ここは明言しています。

 

――スタミナ制では?

須田氏:
にんともかんとも……。

 

――ガチャを回すと釘バットが出てきたりとかは?

須田氏:
にんともかんとも……。ただひとつだけお伝えすると、Free to Playではあるんですが課金要素はあります。以上です(笑)

 

――有利に進む、程度ですか?

須田氏:
森下がよく言っていることで、いわゆる課金は”塾”であるべきだと。勉強しなくてもできる人はいます。そして勉強が苦手な人については”塾”でフォローアップして追いつく。”塾”のような役割が一番だと考えています。ズルではけっしてありません。裏口入学ではないのです。ここは課金の考え方の骨子であり、そこはつらぬきます。

 

――ここまでうかがったお話・サバイバル・アクション等などから妄想しても、いったいどういう課金スタイルなのか想像もつきません。本当に気になる方も多いと思うのですが、なにかヒントだけでもいただけませんでしょうか?

須田氏:
僕もよく知らないですよ(笑)

 

――ええっ(笑)

須田氏:
ミーティングしてもすぐ忘れちゃうんで。すいません(笑)

 

――ということは、あまりマネタイズの部分にガッツリというよりはゲームにガッツリと。

須田氏:
冗談です。もちろん、両方にガッツリです。

 

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――なるほど。そうした思想の真逆をいく作品が多数ある昨今、非常に痛快な印象を受けます。

須田氏:
スマートフォンではないですからね。PlayStation 4で創っていますから。日本にかぎらず海外でも慣れていない部分があるでしょうし、フリーミアムについてもアレルギーを持つゲーマーがいらっしゃるかもしれない。そういうハードだからこそ、きちんと考えて、受け入れてもらえるものを創っていきたいです。

だから、課金のアイデアもひとつひとつ丁寧に考えています。プレイヤーが嫌な気持ちにならないようなものを、と時間をかけて入念に練っています。そこで失敗してしまうとお客さんが離れてしまいます。運営するからこそ長く遊んでもらえるものにしたいです。

 

――すごく期待しています。私の個人的な考えで恐縮なのですが、世間は「気持ちのいい課金」と「気持ちのよくない課金」にばっくり分かれてしまっていると思っています。いくつかのゲームでは「むしろおカネ払わせてくれよ!」と思うことすらありますし、残念ながら「なんでこんなものにカネ払わなきゃならないんだ」となることもあります。それをふまえ、課金コンセプトから練りこんでいる『LET IT DIE』に期待します。

 


「にんともかんとも」に屈することなく後編へ続きます(8月29日公開予定)。

 

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Nobuki Yasuda
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