中編から引き続き、Epic Games Japan代表 河崎高之氏へのインタビューです。シミュレーターとUEとの相性の良さ、河崎氏のオールタイムベストゲーム、そしてゲーマーとデベロッパーへのメッセージなど。
――シミュレーションと一口にいってもいろいろな分野があります。具体的な実績をお教えいただけますか?
一番多いのは建築です。昔、UDKで竹中工務店さんに使っていただいたことがありました。ニュースでも取りあげていただきました。
ある大きな大学病院を、今ある古い病棟の横の駐車場に建て替えて、古いほうを取り壊す、というプロジェクトがあったのです。それに竹中工務店さんが応札されたのです。いままでのプレゼンだと、パース絵があって、図面があって、模型があって、というものが主流でした。それを全部UEに持ってきて、3DCGを作りました。
そのプロジェクトで最大の課題とされたのが、古い病棟の横で工事をすることそのものでした。「工期のこの段階だとこの病室の前にクレーンが来て圧迫感がある」などの情報は、病院側は非常に気にされるところです。それを『シムシティ』みたいな感じで、建築して、破壊して、クルマの導線と来院者の導線が重ならないようにして、といった風にDay Oneから工事完了まで時系列で把握できる3Dモデルで作ったのです。好きなタイミングで、好きな空間から確認できるシミュレーションです。それがとても説得力があるということで入札でも好評だったそうです。
ほかにも大規模な不動産、たとえば駅や街の再開発での実績はあります。あと、アメリカであった事例としてはNFLのスタジアム。UEでシミュレーションして、「この席で観戦したらこう観える」をウォークスルーで確認できるようになっていました。
もっと小規模なものだと、マンションのモデルルームの3D表示ですね。すぐに壁紙を替えたり家具を置いたりできますので。建築系が一番多いです。
あとはアメリカだと軍事系も多いです。
――フライトシミュレーターのような?
そうですね。あと、陸軍であればそれこそFPSゲームのような兵士訓練用シミュレーターです。
――普通にSteamで配信されている『America's Army』などとは違う、ワンオフの訓練用のものでしょうか?
『America's Army』はゲーマー向けというか、PRのためのものです。そうではなく、兵士が実際に兵士が訓練で使うものです。
――NFLもそうですが、そうしたお話をうかがうと尋常ではない資金の動きを想像してしまいますが、実態としてはゲームと比較するとどうでしょうか?
ゲームの場合は大ヒットすると1000万本以上売れてしまいますから。かたやシミュレーションは、病院を建てるのには何百億かかるとしても、プレゼンには何億円もかけられません。たしかに軍用シミュレーションはかなりカネが動きますが……。建築はプレゼン費用のなかのごく一部しか割けないので、ゲームに比べると経済規模はすごく小さいです。
――ゲーマー気質ゆえ軍用シミュレーションについてもうすこしおうかがいしたいのですが、アメリカ以外でそうしたオファーはありましたか?
ヨーロッパでもやっているようです。くわしくは私も聞いておりません。
――メジャーなソリューションではある?
軍用シミュレーション向けのCG技術はひとつ大きな業界として存在しています。
――ということは競合もたくさんある?
はい。
――あまりゲーマーには馴染みのないような企業でしょうか?
そうですね、本当に軍人を訓練するためのソフトウェアですので。一般ユーザーが目にする機会もありませんし、かなり特殊です。
――残念ながらプレイすることはできなさそうですね。ちなみに、日本ではそういった事例はありませんか?
自衛隊に売り込みにいったことはあるのですが、日本の場合ハードウェアの納入業者が決まってしまっているので、そことあわせて使われていることが多いみたいですね。
――では日本の自衛隊員がUEで訓練されることは当面なさそうと。
日本でも売り出したいのですが、完全に役所が判断する部分ですので。
――アメリカこそハードウェアとソフトウェアがワンセットで売られていても不思議ではなさそうですが。
アメリカは規模が比較にならないほど大きいですので、入りこむ余地が充分にありました。
――余談ですが、最近なにかハマっているゲームはございますか?
いまはPS4版『Diablo III』ですね。ゲーミングPCを持っていないので、PC版『Diablo III』はプレイできていなかったのです。まだまだ途中ですが楽しいですね。
――いままでプレイされたなかで最高のゲームはなんですか?
その質問をいただくと、いつも1本で答えられないので10本あげることにしています。オールタイムベストテンをつねに決めていて、新しいのが入ってくると入れ替えて、10本を維持するようにしています。
……ひさびさなのでタイトルがスラスラ出てこないのですが……『スーパーマリオワールド』『ゼルダの伝説時のオカリナ』『ファイナルファンタジー6』『ドラゴンクエスト3』『Wizardry』『ポピュラス』『Call of Duty: Modern Warfare』『Gears of War 2』『Batman: Arkham City』『GTA V』ですね。
――なるほど。古いものから新しいものまで。
新し目のものは入れ替わった作品ですね。
――前半は動きようがない感じです。
そうですね、思い出補正も入っていますので。
――あまりUE製のタイトルにはこだわられないのですね。
『Gears of War』と『Batman』はUEです。
――『Gears of War』はなぜ『2』なのでしょうか?
『1』で成功して、期待度が上がりきっているなか、それに応えたからです。続編を創るのは難しいものです。
――さらに雑談を続けてしまいますが、『Infinity Blade』は『2』以降一気に難しくなった印象があります。その点、いかがでしょうか。
デバッグ向けのテストプレイもしていたのですが、何周もするのイヤなので『1』の時点で「いかにして1周目でゴッドキングを倒すか」にかけていました。じつはバランス的には『1』のほうが難しいんですよ。『2』はパリィやドッジがすごく簡単になっているので。『1』のパリィは本当に角度があっていないとだめだったのですが、『2』以降はなんちゃってでもできるようになりましたから。
――『1』は比較的簡単で、『2』、『3』と一気に難しくなった印象を個人的には持っていたのですが、そうではないと。
強い敵が出てくるという意味ではそのとおりです。ただ、ゲームシステム的には『1』のほうが難しいです。『1』がシビアすぎたので『2』でプレイしやすく調整した形になっています。システムも二刀流が入るなど、大きく変わりました。しかし『3』は基本的に『2』からはあまり変わっていません。ソーシャルなどネットワーク要素は入りましたが、ゲームの根幹はそのままです。
――『Gears of War』のシリーズ展開に関してはいかがお感じですか?
『Gears of War』については、私がまだMSいたころに『1』のローカライズにからんでいたりもしました。付き合いも長いですし、思い出深いタイトルではあります。ただ、『1』から『3』まで10年くらい本社の人間は『GoW』ばかりやっていたのでみなかなり疲弊していたところはありました。
どこでもそうなのですが、ひとつの世界観で同じことをずっとやっていると、まったく違うことをやりたくなるものです。そういう意味では、いいタイミングでの幕引きだったのかなとは思いますし、結果MSでも続編を創っていただいているので、ファンにとってもいい流れになったのではないでしょうか。
――では最後に、これまでのUE製作品のなかで「これぞUnreal Engine」と呼びたい作品はどれでしょうか?
ゲームでは個人的には『Batman』が好きですが、本社の者をふくめUEを一番使いこなした、エンジンを提供している側が予想もしないような使い方をされた、という意味では『GUILTY GEAR Xrd -SIGN-』です。社内全員がびっくりしていました、「これがUEとは思えない」と。
UE製のタイトルはギラギラした暗い色の作品が多い印象が強かったのです。どうしても『Gears of War』で作られたシェーダーやマテリアルを同じような形で使われて、「アンリアルっぽいタイトル」が増えてしまったのですが、そんななかで『GUILTY GEAR Xrd -SIGN-』は一番アンリアルっぽくないタイトルです。可能性をしめしてくれたタイトルともいえます。
ゲーム以外については、サブスクリプションが発表されて間もないためまだお伝えできるものが少なく、古い話になってしまいますが……アメリカの救急救命士のトレーニングソフトがUEで製作されたという事例があります。ロールプレイングゲームみたいな形で、ガス爆発や列車事故などの現場に行くと人が倒れていたり火が燃えていたりして、怪我している人と話をして、必要な情報を的確に聞き出して、状態を見極めて、トリアージ・優先度を決めて、という内容です。
あと、同じ会社が作ったのですが、消防署の訓練シミュレーションもあります。ある消防署の管轄地域をすべて3DでUE上でCGモデルとして作っておいて、消防士がウォークスルーで体験できるようにしていました。ドアの位置なんかを普段から把握できるわけです。もし電源が落ちて視界が悪くなっても対応できる、という目的のソフトです。
――そろそろ締めに入りたいと思います。比較的ゲームをハードにプレイしている層が多いと思われるAUTOMATON読者へ向けて、なにかメッセージをいただけますか?
デベロッパーではなくゲーマーへ向けてということになりますと……ゲームエンジンやUEは耳にする機会は増えていると思います。しかし私自身もゲーマーですので常々思うのですが、「ゲームエンジンを使っているから良いゲームなのか」さらにいうと「UEを使っているから良いゲームなのか」というと、そんなことはありえません。結局ゲーマーが求めているのは面白いゲームと体験です。ガワの部分よりゲーム本来の面白さの部分のほうが大事です。ですから、ゲームエンジンが、UEが、というのはゲーマーの立場からは見えづらいと思います。
しかしです。ゲームにかけられるエネルギー、おカネや時間そのほかすべての要素をふくめ、それが100あったとします。ゲームエンジンを使わず創ろうとすると、屋台骨の部分・根幹の部分に50や60割かなければならないところを、ゲームエンジンを使うことで10や20に低減させられます。そこで余ったエネルギーをゲームの本来の面白さの追求に使えます。そうした部分で、間接的にお役に立てているのがゲームエンジンです。そういう意識でゲームを見ていただけると、われわれのやっている仕事をご実感いただけるかと思います。
――それでは、あわせてデベロッパー向けにもメッセージをいただけますか?
大企業ではなく、おもにインディーや学生へのメッセージになりますが……まず日本でインディーというと、どうしても「パブリッシャーは悪であり自分たちで好きなものを好きなように創るのがインディーである」というナイーブさやピュアさがあります。そうした解釈をされがちなのですが、それはあまり正しくありません。
インディーであっても、モノを売るのはすごく大事です。モノを売っておカネを稼がないと製作の体制が維持できません。趣味でやるならば別ですが、プロとしてインディーでやっていくのならば、モノを売ることを考えざるをえませんし、売れるものを創ることは目標ではなく最低条件になります。
日本ではたくさん売ることや儲けることが卑しいことと取られがちなのですが、ビジネスとしてやる以上、利益を出さなければ次につながりません。そこをきちんとおさえていかないと、今せっかくもりあがっている日本のインディーも一過性のブームで終わってしまうのではないかな、と最近危惧しています。
どのエンジンを使えばいい、ということはありません。しかしゲームをただ創っていて楽しい・いじっていて楽しい、のレベルからもう一歩進み、出荷して流通に乗せて、となるとUEはかならずお役に立てます。
真剣なインディーとして、モノをちゃんと創ってちゃんと多くの人に手にとってもらいたい、と考えると、当然競合を意識しなければなりません。クオリティのより高いものを創らなければなりません。そのとき、UEがお役に立てるとインディーデベロッパーのみなさまにお伝えしたいです。真剣にゲームを売っていこうとするのならば、ぜひUEをご活用ください。
――ありがとうございました。
[聞き手: 安田伸毅]
[写真: Mon Gonzalez]
インタビュー Epic Games Japan 河崎高之 [前編] いわく「開発効率はUE4最大のテーマ」 | AUTOMATON
インタビュー Epic Games Japan 河崎高之 [中編] いわく「ノンゲームのお問い合わせも増えている」 | AUTOMATON
インタビュー Epic Games Japan 河崎高之 [後編] いわく「真剣にゲームを売るのならばUEを」 | AUTOMATON
アンリアル・フェス 2014開催に関するお知らせ
2014年10月13日(月曜祝日)に、Epic Game Japan主催のイベント『アンリアル・フェス 2014』がひらかれます。すでにUEを導入しているデベロッパーだけでなく、UEに興味を持たれている方にも開放されているため、「関係者オンリー」なイベントではありません。。なお、当日来場者全員に30日限定のUE4プロモーションコードが提供されます。
本イベントの目的は「アンリアル・エンジン4の技術やノウハウを紹介するため」。初心者から上級者まで楽しめる内容とのことです。参加費は無料(事前登録制)。『FORTNITE』に関連する話題もあるようです。
場所はパシフィコ横浜会議センターメインホール。定員は1000名。開場9時/開演10時、18時30分終了予定です。
登壇するのはEpic Games Japanからサポートマネージャーの下田純也氏、サポートテクニカルアーティストのロブ・グレイ氏、サポートエンジニアのジョー・コンリー氏など。
タイムテーブルは以下のとおり。
午前の部 [どちらかというと初心者向け]
10:00~ ようこそアンリアル・エンジンの世界へ(株式会社ヒストリア 佐々木瞬氏)
10:30~ Welcome to the Jungle:ブループリント・ライブ!(ロブ・グレイ氏)
午後の部 [前半は映像系・ノンゲーム系、後半は中・上級者向けの話題]
13:00~ 映像系のお話・タイトル調整中(株式会社フレイム 北田能士氏)
14:00~ UE4におけるフォトリアルな人物表現の制作ワークフロー(株式会社wise 尾小山良哉氏)
15:00~ Paper 2Dによる、2Dゲーム制作生実況!(UE4コミュニティサポーター 中村匡彦氏)
16:00~ Epic最新作『フォートナイト』:シェーダーとブループリントが作る、生き生きとした世界(ジョー・コンリー氏)
17:00~ 日本一詳しい人が教えるUE4(エピック・ゲームズ・ジャパン 下田純也氏)
18:00~ 質疑応答
興味を持たれた方は、早めの事前登録をお忘れなきようご注意ください。