インタビュー Epic Games Japan 河崎高之 [中編] いわく「ノンゲームのお問い合わせも増えている」


前編から引き続き、Epic Games Japan代表 河崎高之氏へのインタビューです。多くのゲーマーの頭上に「?」マークを浮かばせた例の作品などについて。

 


――いまちょうどモバイルのお話が出ました。iOS『Infinity Blade』は間違いなくEpic GamesとUEとChairを代表するタイトルです。そんななか、最近『Flappy Bird』のクローンゲームにあたる『Tappy Chicken』がEpic Gamesからリリースされ、みながある意味おどろいたところです。あの作品の狙いはなんだったのでしょうか?

『Tappy Chicken』は単純に遊んでいただくためのゲームとして製作して配信しているわけではありません。完全に無料で配っており、マネタイズもしていません。純粋なサンプルとしてご提供しているだけです。

UE4の新機能に、ブループリント、ビジュアルスクリプティングがあります。箱をノードでつないでいくとロジックが組めます。つまりプログラム、コードを書かずにゲームの仕組みを作れるのです。じつは『Tappy Chicken』はコードを一行も書かず、ブループリントだけで製作されています。

さらにいうと、本作はEpic Gamesのアーティストが1人で4時間で創ったものです。つまり、プログラマを使わず、グラフィッカーが単独かつ4時間でゲームを創れて、そしてそれをApp StoreやGoogle Playで配信できるとお伝えするためのサンプルです。ですので、ゲームとしての最先端のクオリティをEpic Gamesから提供するであるとか、ゲームプレイのすばらしさを見せようという意図ではありません。コードを書かずにゲームを創れるという趣旨です。

どうしてもUEというと『Gears of War』などのハイエンド・AAAのイメージが強いです。簡単な2Dのゲームは創れないんじゃないか、あるいは創れるにしても逆に面倒なんじゃないか、と思われる向きもあります。それは違います、と強調したいです。

 

――先におっしゃられていた開発効率をアピールするための技術デモという側面もあったと。

1人で4時間ですから、あまり効率は関係ないかもしれません……。ただし、あらためて申しあげますが、やはりプログラムを一行も書いていないのは大きいです。

 

――『Tappy Chicken』についての注目点として、Android版がGoogle Playで出たことがひとつあげられます。『Infinity Blade』のイメージが強すぎるからだとは思いますが、Epic GamesというとiOS向け作品の印象があります。今後はUEとしてはiOSもAndroidも同様にカバーしてゆくということでしょうか?

UE3の時代でもAndroidはもちろん対応していました。iOSと同じく重要なプラットフォームとして認識しています。ただ、『Infinity Blade』に関しましては流通の部分でAppleとの強いパートナーシップがありました。ですから、iOS専用という商流になっていました。ですが、エンジンとしてiOSとAndroidを等しくサポートするのは昔からの方針ですし、そこはUE4でも変わっていません。

 

――ということは恥ずかしながら私の方に誤解があったということになります。Epic GamesはAppleと不可分であると勘違いしておりました。

もちろんAppleとのパートナーシップ自体はいまでもあります。E3の前の6月のWWDCでMETAL(新API、ゲーム開発者向け)を発表したとき、本社のTim Sweeneyが登壇し、『Zen Garden』というデモをご紹介しました。スティーブ・ジョブズ氏が存命のころから『Infinity Blade』のMustard兄弟(Donald Mustard氏とGeremy Mustard氏)をステージに上げていただいたりもしていました。Appleが新しいデバイスやテクノロジーの実例としてUEやUEで作ったコンテンツをコマーシャルに使うというケースは昔からあります。そういう意味ではAppleと緊密なパートナーではあります。

ただ、だからといってAndroidをサポートしないだとか、iOSを優先するだとか、そういうことはありません。

 

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――お答えが返ってこないことを前提でうかがいますが、まさしく本日(インタビュー時9月9日)、新iPhoneの発表があります。そこになにかしらUEやEpic Gamesが関わっていたりしますか?

もちろんスマートフォン向けにもEpic GamesもChairも開発していますが、タイトルはまだお答えできません。iOSのサポートという意味では、WWDCでも発表していますし、METALにも対応しています。現段階でお伝えできるのはここまでです。

(注: 当日とくにEpicやUEに関する目立った発表はありませんでした)

 

――いま国内でもUE4を採用したAAAタイトルが増えつつあります。『鉄拳7』、『Scalebound』などです。こうした作品の製作現場に対し、具体的にどのようなサポートをおこなっていらっしゃいますか?

開発会社各社さん、バンダイナムコさんやプラチナゲームズさんやグラスホッパー・マニファクチュアさんなど、UEをお使いいただいているクライアントからご質問をいただいたら、それに対して日本語で回答させていただくのがまず基本です。あと、時と場合によっては弊社の技術者が先方の現場まで行って、1日~2日かけて集中的なレクチャーを展開したり、質疑応答に対応したりと、ご要望に応じてなんでもやっております。

UEを使うにあたり、習熟度が問題になってきます。導入したての場合ですと、最初期の段階で2、3日かけて特別レクチャーをプログラマーとアーティストに向けておこないます。普段のやりとりはメールなどのウェブベースです。ある程度開発が進行してきた段階で、困っているところやクオリティを上げたいところなどについても、現場に入ってサポートさせていただいています。

発表されていないタイトルもふくめると、大阪でUEを使っていただいている会社は結構多いです。ですので、弊社の技術者も2か月に1回か月一くらいでは大阪まで足を運んでいます(注: 弊誌本拠は大阪)。

 

――サポートをなさっている技術者は、9名のEpic Games Japanの構成員なのでしょうか?

そうです。

 

――本社から人員が来るようなことは?

もちろんあります。ちょうど先日のCEDECで本社の者が一人やってきて講演しました。CEDECの前後でお客様のほうへ向かいミーティングしたりもしました。

 

――サポートは有料でしょうか?

法人向けのカスタムライセンスの場合、ライセンス料金の一部に含まれます。ですので個別の訪問時やメールのやりとりごとに料金がかかるということはありません。

 

――個人と法人は当然切り分けられていると思いますが。

サブスクリプションとはべつにカスタムライセンスと呼んでいます。いわゆるBtoB、企業様に対してのライセンスです。サブスクリプションの方は弊社からの直接のサポートはご提供しておりません。

 

――サブスクリプションの契約者がなにかしら技術的なアドバイスが必要になった場合、どのような解決策がありえますか?

申し訳ありませんが直接的な技術支援はご提供していません。コミュニティのなかでやりとりしていただくことになります。公式のQ&Aフォーラムがあるほか、Facebookにもユーザースペースがあります。もちろん弊社の者も手が空いているならばそうした場所を覗くようにしていますが、サブスクリプションの場合どうしても数がすごく多いですので、すべてにひとつひとつ対応することは不可能です。そこもふくめての低料金ということでご理解いただければと思います。

 

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――ところで、弊誌内でUEをさわった者が、Oculus RiftへのUEの対応、「つないだら動く」におどろいていました。OculusやMorpheusのようなVR HMDへの展開についてはどのように考えていらっしゃいますか?

See also: ScaleformOculusはファウンダーのBrendan Iribe……もともとScaleformのファウンダーでもあったんですが……彼がScaleformをやっていたころからEpic Gamesの本社と親密なコミュニケーションをしていました。Oculusも創業当時から緊密にやらせていただいています。

おっしゃるとおり、何も考えずに3Dのコンテンツを作っていただいて、Oculusに流せば自動で立体視になるようエンジン側で対応しています。今後もOculusのサポートは手厚くしていくと思います。Morpheusも同じくソニーさんと緊密に連携しています。9月1日のSCEJA Press Conference 2014で発表された鉄拳チームの『サマーレッスン』もUE4で創られています。

 

――OculusのデモはUEで創られている印象があります。

ジェットコースターなどですね。あれはUE3世代のUDKというもので創られています。オフィシャルのものではなく、アマチュアのいちファンのかたが製作してくださったものです。現在、OculusDK2で動いているリビングルームをローラーコースターで動くようなもの、あれもファンのかたによるコンテンツです。

 

――ということは小規模な体制で立体視タイトルを製作しようとすると、やはりUEにアドバンテージがある?

HMDにしろVRにしろ、没入感をいかに出すかというのが大きなテーマとなります。グラフィックのクオリティや表現力は没入感に直結する部分です。ですので、OculusやMorpheusなどとUEとの相性はすごくいいと思います。

 

――ところで、もうすぐ東京ゲームショウがありますが、なにか出展されたり登壇されたりはされますか?あまりEpic GamesのロゴをTGSでは見かけない印象がありますが。

いいえ。東京ゲームショウにはブースを出したりイベントをしたりはしていません。これは以前からそうです。基本的にTGSは一般のゲーマー向けのイベントです。われわれのお客様はデベロッパーまたはデベロッパーになりたいかたです。ですから、TGSの会場にいらっしゃる層とはややズレがあります。TGSのフロアになにかを出すのは考えていませんし、今後もそれはたぶん変わりません。ミーティングだけですね。

 

――ミーティングというのは?

ゲーム業界の関係者が集まりますので、そのビジネスミーティングということです。

 

――TGSに出展されるタイトルでUE製のもので、注目されていらっしゃるものはありますか?

See also: Project Morpheusを体験!

出展される作品をきちんと把握しきっていないのですが、私が聞いている話ですと『LET IT DIE』です。あとは、先もお話した『サマーレッスン』も出展されるとうかがっています(注: 展示の中止が発表されています。ご注意ください。)。あれは私もやってみたのですが、すごいです。おすすめです。

 

――すごい、というと具体的には?

ゲームって最近ですと体験版がネットで配信されてしまって、会場に行く意味が薄れてきています。しかしVRものはデバイスをつけてみないと体験できませんし、ネットで動画で観るのと実際にHMDを通して観るのではまったく違います。フロアに出るのかははっきり聞いていませんが、もし体験できる形で出展されるのならば、強くおすすめしたいタイトルですね。女の子が本当にそこにいるという臨場感・現実感が半端ではありません。

 

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――まだ現段階ではVR HMDは日本はもちろん、海外でもそれほど行き渡っているとはいえません。いますぐにOculusが全家庭に普及するということはありえないとは思われますが、現状をふまえたうえで今後何年くらいで広まっていくとお考えですか?そのなかでUEは非常に重要なパーツになると思いますが。

そうですね……。Oculusに関してはかなりハイスペックなPCが必要になるというのが日本市場にかぎっていえばボトルネックになるのかなと思います。Oculusをフルに動かせるPCがあるというのは、趣味としてPCゲームをプレイしていなければなかなかないシチュエーションです。全家庭にOculusが、というのは難しいと思います。その点では日本においてはMorpheusは市場性があるかもしれません。PS4さえあれば動きますので。

ただ、やはりOculusにしてもMorpheusにしても家庭でいちユーザーが使うというよりは、ゲームセンターや博物館などの公共の施設、あるいはショールームなどでの導入が先に動いてくると思います。そういう部分ではかなり可能性があります。この2、3年のあいだに多くのところで採用されるのではないかなと予測しています。

 

――私、ゲームセンターがけっこう好きなのですがあまり意識しておりませんでした。おっしゃるとおり、ゲームセンターにも3D系の大型筐体作品がじわじわと増えてきています。

たぶん、VRデバイスとスロープを組み合わせるような作品は有力でしょう。あるいは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンやディズニーランドのようなテーマパークでの導入もありえます。

いきなり「BtoCで個人がヨドバシカメラで買う」というような方向にはいかず、BtoBというか、あいだにそのデバイスをもってなんらかのサービスを提供するビジネスが先に出てくるかなと思います。

 

――個人的にはOculusが国内で流行るかどうかについては若干懐疑的だったのですが、なるほどそうした形ならば充分に可能性があるように思えます。

ショールームで壁紙の色を変えてみたり、キッチンのシンクやユニットの配列をチェックしてみたり、そうしたことがVR空間のなかで確認できます。ノンゲームでシミュレーション的に使う、ビジネス用途がまず入ってくると推測します。

 

――視覚的な美しさ・演出力の面、そしてVRへの対応、もろもろ鑑みてこのフィールドではUEがほかを一歩リードしているということですね。

そうですね。実際、そういうノンゲーム系のシミュレーションをされているところからのお問い合わせやご相談も多いです。

 

――ということは、すでに世の中に出ているものもある?

作られているところもあります。ただ、Oculusはまだ開発キットしか販売されていませんので見かける機会はほとんどないでしょう。デバイスを売るようになれば一気に増えると思います。すでに構想段階は抜けています。

 

――もしかすると、近い将来には家のショールームに行ったらUEのロゴを見かけるようなことが?

ロゴはたぶん出ないと思います。ただ、UEを使っていただくところは確実に出てくると思います。

 

――では、ゲーム以外の分野へのUEの進出も強く考えていらっしゃるのでしょうか?

サブスクリプションを始めて一番お問い合わせが増えたのがノンゲームです。映像系、シミュレーション系ですね。逆に言うと、ゲームのデベロッパーにはすでにUEそのものが周知されていたということかもしれません。つまり、それ以外のリアルタイムCGを取りあつかうかたへ強く訴求できました。

 


後編へ続きます(9月18日公開予定)。

 

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