インタビュー Epic Games Japan 河崎高之 [前編] いわく「開発効率はUE4最大のテーマ」


Epic Games Japan代表の河崎高之氏へインタビューしました。Epic Gamesといえば言わずと知れたUnreal Engine(以下UE)の開発元であり、一つの世代を作ったとすらいえる『Gears of War』シリーズのデベロッパーでもあります。その日本法人がはたしてどのような役割を担っているのか、UEは今後どのように展開しうるのか、そして河崎氏ご自身の思想信条などについてうかがいました。

[収録日: 2014年9月9日]


――Epic Gamesと聞くと、ゲーマーならばおそらく誰しもが知っている会社です。しかしEpic Games Japanについては意外と知られていないかもしれません。まずこの点について、日本法人がどのような役割を果たしているのか、どのような業務を主としていらっしゃるのかをお聞かせいただけますか。

Epic Games Japanは2009年に設立され、もうすぐまる5年をむかえます。基本的には、われわれEpic Gamesで開発とライセンスをおこなっているゲームエンジンUEの、日本のお客様に対するライセンス営業と技術サポートのご提供、そしてエンジンに関連するドキュメント類・マニュアルの日本語化といったこともやっています。あとはユーザー様に直接届くところですと、弊社グループ会社のChair Entertainmentが開発したiOS『Infinity Blade』シリーズの日本語ローカライズも担当しました。

 

――Epic内でローカライズしたということですね。ローカライズ作業を他社に振るケースも少なくはありませんが。

そうですね。あれは行きがかり上、私がやることになりました。『1』・『2』・『3』の和訳はすべて私が一人でやっています。

 

――壮大なストーリーを一気にまとめる作業をなさったわけですね。

正直に言うと、『1』のころはそんなにストーリーがなかったので。非常にシンプルで、テキストも少なかったですし。……もともとアメリカでローカライズを外注に出したのですけれど、そこであがってきた日本語のクオリティがひどかったので、「だったら私がやるよ」ということで手をあげました。それで『1』をやったら、流れ上『2』も『3』もやることになってしまって。どんどんボリュームが増えていったので、大変な思いをしました。

 

――たしかに『2』と『3』は『1』と比べるとテキストベースの情報が多かったと記憶しております。いまのお話だけですと、日本のEpic Games Japanと、親会社Epic Gamesとどういう連携をとっているのかイメージがわきづらいのですが、そのあたりのお話をお聞かせいただけますか?

エンジンの開発はアメリカ本社でやっています。ただ、それを実際使われるお客様は世界各国にいらっしゃいます。そのようななかで、日本でUEを使っていただいている方へ弊社から技術サポートをご提供しております。また、ライセンスを購入していただくにあたっての契約の交渉やご案内も日本法人でおこなっております。

連携という点では、サポートにおいて日本法人だけで手に負えない・わかりかねる部分については本社の支援も請いますし、契約自体のサイナーも本社になります。そういう意味でも、密接にやりとりをしています。

 

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――現在Epic Games Japanには何人ご在籍でしょうか?

いまは全部で9名です。

 

――少数精鋭でUEの国内サポートをされていると。

これでもだいぶ増えています。5年前は私一人でしたので。

 

――当時はどのような経緯でEpic Games Japanに関わることになられたのでしょうか?

Epic Gamesが日本に事務所をかまえようとしていて、そこで日本法人の立ち上げを任される形で雇われたのです。ですから、会社の登記から私が始めています。

 

――では本当の意味で最初の立ち上げから現在までの運営にたずさわっていらっしゃったと。

日本に関してはそうですね。

 

――では少し話題を変えて。Epic Games Japan、UEとゲーマーがいま聞いてすぐに連想するのはアカデミック版のサポートかと思います。どのような発想で展開されたのでしょうか?

もともと3月にサブスクリプションをご紹介した段階で、大学や教育機関に関しては、1ライセンス19ドルで学内のPCに無制限で導入できるよう、アカデミック向けの特別な形態を用意していました。しかし、サブスクリプションを導入しようとすると、どうしてもクレジットカードが必要になります。なかなか専門学校や大学などではクレジットカードでお支払いいただくのが難しかったりしました。「興味はあるけれど手続きが面倒だ」といったご意見をいただきました。実際問題、われわれとしましても1校からそれぞれ19ドルいただいたところで、大きな収益になるわけではありません。ならばいっそ無料にして広く使っていただこうということになりました。

目的としてはもちろん学生のみなさんに若いうちからUEに触れていただいて、使えるようになっていただくことです。そして将来ゲーム業界や映像業界などでお仕事されるとき、もっとUEを使っていただけると理想的です。つまり、位置づけとしては先行投資です。

 

――現段階で、教育機関からのオファーはどのような状態でしょうか?

発表したのが先週の木曜だったのですが、朝起きたらメールボックスが大変なことになっていました。われわれには「セールス」というグループエイリアスがありまして、アメリカ・ヨーロッパ、そして日本など世界中のセールスマネージャーが属しています。そこに加入の申し込みメールが最初は全部飛んでくる仕組みにしてたのですが、それでも本件について送信された膨大な量の問い合わせは目立ちました。ものすごい数でした。

 

――具体的な数字はいただけませんか?

数字は公開しておりません。それでも一夜にしてすごい量のお問い合わせをいただいた、ということは間違いありません。このままでは通常の業務に支障を来たすので、専任の担当者を設けて振り分けルールを変更したのですが、今でも毎日たくさんのお問い合わせをいただいています。

 

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――ユーザーに早くからUEに慣れてもらう、という目的からまっさきに思い浮かぶのはインディーゲームです。国内ではインディーにUEを使っている作品はあまり目立たない印象があります。

インディーのカテゴリに入れていいのかすこしわかりませんが、稲船敬二氏の『Mighty No. 9』が1つ前のバージョンのUE3です。露出・期待という意味では同作が現在最高だと思います。

それ以外の事例は、インディーについていえばまだ多くありません。サブスクリプションを始めたのが今年の3月でまだ半年経っていません。ゲームは一度製作を始めると半年や一年のスパンになります。すでに手がけているタイトルが一区切りつき、つぎのタイトルを考えるときに「じゃあUEでやってみよう」となるのです。実際にそうおっしゃってくださるデベロッパーもちらほらあらわれているという感じですね。

 

――逆に、海外のインディーゲームだとUEを使っているところが多いという指摘が弊誌メンバーからありました。そのあたりのご印象はいかがでしょうか?

基本的にはいま申しあげたとおり、ひとつのサイクルが終わらないといけません。途中でエンジンを変えるというのはなかなかできませんから。海外にしても、3月にサブスクリプションを使えるようになって、これからというところです。

ただ、インディーゲームデベロッパーは絶対数が日本よりも海外、とくにアメリカに多いです。それに、趣味ではなく商業ベースで、つまりビジネスの範疇でインディー開発をされているところも多くあります。そういった意味では、単純な母数の問題でUEを活用したタイトルが多く見えるというのはあるかもしれません。

 

――日本国内のインディーでUE、というとUE4ぷちコンを連想します。

ぷちコンは、インディーというよりも……どう表現すればいいのか難しいのですが、どちらかといえばアマチュア寄りの方をターゲットとしています。プロとしてチームを組んでゲームを創ろうという性質ではなく、UEを使ってなにか動かしてみよう、くらいに気軽にご参加いただいているものです。ですから、インディーシーンのデベロッパーとはやや毛色・傾向が違うのかなという気がします。

 

――成果物のレベル的な面では、同水準のゲームジャムは世界中でひらかれています。1日や2日でゲームを創るゲームジャムイベントをEpic Games Japanが今後展開される可能性は?

ぜひやりたいと思っています。ただ、ゲームジャムの場合一番のネックになるのが開発機材です。とくにUE4が動いて、かつノートPCとなるとなかなか敷居が高いのです。単純に場所だけおさえて、みなさんご自身のパソコンを持ってきてください、といってもなかなか必要スペックを満たすPCを持ってこれる方はいらっしゃいません。そこがボトルネックというか、検討課題ではあります。

ただ、Global Game Jamにも積極的に参加していきたいですし、弊社独自のゲームジャムイベントもどんどん開催したいとは思っています。

 

――では今後もしかするとUEのみのゲームジャムがあるかもしれない、と。いまゲームジャム作品を眺めると、率直に申しあげてUnityを使ったものが多いです。そこには切りこめますか?

切りこむというか選択肢を増やして、UEを使ってみようという方が増えたら望ましいなと考えています。

 

――サブスクリプション制度導入やアカデミック版開放など、エントリーレベルからUEを使うよううながす流れを拝見するに、Unityをライバルとしてとらえていらっしゃると想像します。Unityに対するアドバンテージとご認識されている部分はありますか?

Unityにかぎったことではないのですが、われわれはあまりコンペティターがどう、ライバルがどう、という考えはしておりません。基礎技術・基幹技術にあたるものですので、どっちが良くてどっちが悪い、こちらしか使わない、ということではなく適材適所でユーザーに選んでいただく性質のものだと思っています。ですから、われわれとしてもとくにUnityを意識して、Unityに勝つためになにかをするというような発想はありません。ほかにはCryENGINEなどもありますが同様です。もっとインフラ的に、選択肢として心に留めていただければよいという方針でビジネスを展開しています。

ですから、「あそこと比べてここがどうだ」といった比較はあまりしていません。ただ、UEの強みとしていえば、当然自信が一番あるのは表現力の部分です。プリレンダに匹敵するクオリティをリアルタイムかつインタラクティブでも出せます。パーティクルやテクスチャ、シェーダーなどの綺麗さではほかの追随を許さないクオリティだと自負しています。

UE4になって一番力を入れているのは開発効率の部分です。といいますのも、ゲーム機の世代がPlayStation 4やXbox Oneへ移りつつあります。そこでたとえば単純にテクスチャの密度が増えるということはそれだけ情報量が増え、製作にかかる工数も増えることを意味します。一方でおそらく前世代のインストールベースと比べると今世代のインストールベースが上回るのはなかなか難しいと予想されます。かつタイトルもどんどん大型化して本数は減り、ミドルクラスも減る傾向にあります。ゲームが大型化し時間も予算もかかるようになるなかで、「ではどういう解決法があるだろう」となったとき、開発効率を上げるしかないとわれわれは強く感じています。最悪でも前世代の工数で次世代のクオリティを出せるというのが、UE4の最大のテーマです。

表現力と開発効率はある意味では矛盾します。その2つをうまくパッケージしてご提供しているのがUE4だと思います。

 

――デベロッパーが気にする大きな要素のうちのひとつが「いくらかかるのか」です。サブスクリプションはまだ浸透に時間がかかるとのことですが、開発規模や売上などによる支払いについての仕組みをお教えいただけますか?

サブスクリプションはものすごくクリアにして、ホームページにも書いてあります。開発者1人につき19ドル、ゲームが発売されたあとには売上の5%をロイヤリティとして頂戴します。

 

――他社と比べることはないとのことでしたが、ほかのミドルウェアではマネタイズの仕組みが煩雑でわかりにくい、結局高いという声も個人的に耳にしたことがあります。うかがったお話ですと、かなりわかりやすく安上がりという印象をうけます。

UE4のサブスクリプションについては、初期費用は月19ドルだけです。5人のチームですと月約100ドル。1年で創ったとしても1200ドル、12万円くらいですみます。ですので、初期費用は低くおさえていただけると思います。

 

――ちなみに、いまおっしゃった5人ではたとえばどのようなプラットフォームでの開発を想定されていますか?次世代機向けか、PCか、モバイルか。

それはデベロッパー次第です。『Minecraft』はほとんど一人で創ったようなものですし、『Terraria』も数人です。創り方次第でXbox OneやPS4であっても少人数チームで製作できると思います。一方で『Infinity Blade』ですと、Chairだけで20人近くのチームです。スマホだと少なくてコンソールだと多い、とは言いきれません。3Dでリッチなタイトルを創ったり、デバイスのパワーをフルで活用したりということであれば、もちろんそのぶんチームの人手はかかるでしょうが。

小規模なチームであっても大規模なチームであっても、かわらず効率よく開発していただけるというのがわれわれの狙いです。

 


中編へ続きます(9月17日公開予定)。

 

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