『ハンドレッドライン』の作曲家・高田雅史氏に、曲について“いっぱい”解説してもらった。「あれがあれに似ていますが」「あのボーカル曲なぜ採用」「SIREIのBGMは……何?」

本稿では、高田氏による楽曲についての網羅的な解説や開発秘話についてお届けする。ゲームを振り返るように読んでいただけると幸いだ。

アニプレックスは1月16日、「HUNDRED LINE -最終防衛学園- Original Soundtrack」を発表した。同サントラは、ダウンロード版・ストリーミング版が1月17日より配信予定。112曲にわたる、『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』におけるゲームサウンドが楽しめる。また、ブックレット付き・CD4枚組の「HUNDRED LINE -最終防衛学園- Original Soundtrack Director’s Edition」が4月24日に税込5500円で発売予定である。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』は、“極限”と“絶望”をコンセプトとするADV+SRPGだ。パブリッシャーはアニプレックスで、トゥーキョーゲームスとメディア・ビジョンが開発を担当する。普通の高校生・澄野拓海をはじめとする15人の学生たちは、消えない炎に包まれた最終防衛学園へ集められる。特別防衛隊として、正体不明の敵「侵校生(しんこうせい)」から学園を100日間守り抜く、絶望に染められた学園生活が繰り広げられる。

同作においては、“高田節”とも言える、不穏サウンドが特徴。そしてめでたくそんな同作のサウンドトラックが発売されるという。ということで、このたび、弊誌は『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』のサウンドを手掛けた、トゥーキョーゲームスの高田雅史氏にインタビューを実施。本稿では、高田氏による楽曲についての網羅的な解説や開発秘話についてお届けする。ゲームを振り返るように読んでいただけると幸いだ。


高田氏の作る楽曲にはさまざまなギミックが仕込まれている

――『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』(以下、ハンドラ)のサウンドトラックCDに収録される、ゲーム中の楽曲についてお伺いさせていただきます。本作の楽曲制作で、最初に完成した曲は何でしょうか。

高田雅史(以下、高田)氏:
最初はWebサイトで流れていた曲だったはずなので、「HUNDRED LINE 」かなと思います。

高田氏:
特に何も起こっていない時に流れる日常の曲ですが、その裏にある非日常な状況を暗に匂わせるため、不穏さや不安定さを感じさせる響きで構成しています。3rdをあえて抜いたり、9thを多用したりといった和声的な意識はありますが、最終的には本作のプロットから感じ取った不穏な空気感や揺れ動く感情を、ピアノを弾きながら少しずつ練り込んでいくように作りました。今回は特にベースラインでかなり自由に遊んでいますね。

――「HUNDRED LINE 」はいろいろなアレンジもされていますが、最初にメインテーマを作るのは大事なプロセスになるのでしょうか。

高田氏:
そうですね。最初に日常曲みたいな楽曲が決まると、起承転結の起点になるので、そこに戻れるようにしようとか、いろいろ派生するようにしようとかを考えやすいんです。ゲーム内でのノーマルポジションというかニュートラルというか、コアになるものなので、決まっていると後々の楽曲が作りやすくなりますね。

――逆に最後に完成させた曲は何でしたか。

高田氏:
最後の方は、カットシーンのバックで流れる曲をひたすら作っていました。カットシーンのひとつひとつにユニークな 楽曲を作っていったので、部隊長絡みの曲が最後の方だったかなと思います。

――本作のために相当数の楽曲を作成されたと伺っていますが、一番作るのが大変だった曲は何でしたか。

高田氏:
これは「SIREIのご指導」ですね。トゥーキョーゲームスでは毎月みんなで集まり進捗を話し合う定例ミーティングがあるのですが 、その会議のときに確か 3回ぐらい、「SIREIの曲、まだ苦戦しています」っていうことを言ったような気がします。

小高としては、この曲をいろいろな場面で使いたかったようで、できればもう少し早い段階で完成してほしかったという思いがあったようです。実際にはプロジェクトの後半になってようやくこの曲が完成したため、小高自身もスクリプトを書き、演出を組んでいる中で、曲の鳴らしどころを調整する必要があり、かなり大変だったのではないかと思います。

ただ、すごく重要なところであの曲が使われているので 、SIREIのちょっと変わった感じというイメージができたのかなと思います。SIREIに普通のBGMを流してもあまり面白くないと思いましたので、キャラクターそのものの存在感をうまく表現できたんじゃないでしょうか。

――この曲は苦労して完成したとき、バチッとハマった感覚がありましたか。

高田氏:
いろいろなパターンを考えて、これがハマるなというものを絞り出した感じですね。モノクマのときもそうだったんですが、変化球を投げたらうまくハマった、という一番気持ちの良い完成でした。それができていないときが一番苦しいんですが……。ただ、完成したときはこの曲が一番海外でもウケるだろうと思っていました。

――「SIREIのご指導」、本当に掴みどころがない楽曲ですよね。どういう曲かと聞かれたときに説明に困るというか。

高田氏:
そうですね。この曲はフルバージョンで聞くと最初に四つ打ちが始まって、その後に五つ打ち、最近の流行りで言えばCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」のようなリズムに変わっていくんですが、これはテクノ的な四つ打ちから現代の五つ打ちへという流行りの変遷があるんですね。

冒頭では五つ打ちを感じさせる上物を流して、でもキックは四つ打ちというのをあえてやっていて。そうすることで聞いた人が「五つ打ちじゃないけどちょっと面白いよね」と感じて、そこで聞いている人はちょっとモヤモヤしつつ聞くんですよ。そこで2ループ目で五つ打ちを解放してあげることで、その瞬間に聞いている人が好きになってくれるという感じになる狙いで。

――なるほど。テクニカルな思惑が込められている楽曲なんですね。ちなみに、こうしたギミックが仕込まれている楽曲は、ほかにもあるんでしょうか。

高田氏:
もうそれは……たくさんあります!聞いている人の頭の中でフレーズを鳴らしてもらうというのは、よく考えています。たとえば2ループ目でメロディを抜いているとか、リズムの中で入ってほしい合いの手をあえて抜くとか、これって雅楽っぽい時間構造のアプローチ なんです。

雅楽って大勢でフレーズを弾いていて、1人、2人とだんだんフレーズが抜けていくんです。で、フレーズが抜けたけど、聞いている人の頭の中ではそのフレーズが鳴っているという。そうすることによって聞いている人の記憶に刷り込まれやすいんですよ。そういうことをしている曲がたくさんありますね。

――ということは、高田さんの場合は2ループ目、3ループ目もいろいろな仕組みを入れているんですか。

高田氏:
入れていますね。僕の1曲が長いという楽曲は、大抵そういう理由で長いですね。ゲーム音楽ならではだと思います。

――それは面白いですね。これから高田さん の楽曲を聞くときに、どんなギミックがあるのか探るのも楽しめそうですね。

プレイヤーの感情変化に寄り添う数々の楽曲

――ここからはほかの楽曲について伺いたいと思います。まずはタイトル画面の曲である「Day By Day」は、プレイヤーのどういう感情を狙った曲でしょうか。

高田氏:
あえて感情をはっきりと明示せず、これから何が始まるのか、どんな体験が待っているのかをプレイヤーそれぞれが想像できる余白を残しています。期待と同時に少しの不安も含んだ感情をそっと持ち上げて、物語の入り口に立ってもらうための曲です。

また、本作でさまざまな体験をした後には、違った印象を受けるようにも作っています。タイトル画面の楽曲は「Day By Day」に限らず、入り口としての役割と、再開した後に記憶を定着させる役割を常に意識して作っているんです。切ない質感をピアノで表現していますが、物語を進めていくとそのフレーズから決意のようにも感じられるし、次第に重い意味を帯びていくようにも感じられるのではないでしょうか。

――「侵攻 -invasion-」はいわゆる戦闘BGMですが、こちらはどういったイメージで作られたのでしょうか。

高田氏:
本作はシミュレーションRPGなんですが、開発初期には自分は全体像を把握してなかったので、将棋のような思考系なのか、それとはまた違ったものなのか、どうなんだろうと考えていたんですよ。そんな折、小高から参考曲を提示されて、彼が狙っているのは将棋みたいな感じではなくて爽快感、仲間と一緒に戦っている感覚を出したいんだろうと思って、場の空気を鼓舞するようなイメージで全体を組み立てています。

――曲中に入っている声は何なんでしょう。

高田氏:
あの声は特定の意味があるというわけではなく、聴感として印象に残って、「ここが一番格好良い」というタイミングで鳴ることを重視して 位置している、音楽的なフックとしての役割のものですね。

――「侵攻 -invasion- [Crasy Mix] 」「抗戦 -resistant-」も戦闘BGMですが、こちらも「侵攻 -invasion-」と同じような共闘感がイメージですか。

高田氏:
「侵攻 -invasion- [Crasy Mix] 」は当初から特殊な位置づけで、仲間割れのバトルをイメージして作りました。同じ戦闘曲でもどこかハラハラするような、不安定なノリを意識しています。流れる場面は多くはありませんが、物語上、重要な局面で使われることを想定した楽曲です。

「抗戦 -resistant-」は「侵攻 -invasion- [Crasy Mix] 」に近い印象を受けるかもしれませんが、こちらはバトルが進行した後、いわゆるwaveが進んだ状態を表現した曲です。ちなみにこの曲名はメディア・ビジョンさんに命名させていただいたのですが、wave3では抗って戦うというニュアンスがしっくりくるという判断だったのだと思います。

――「衝突 -engage-」もハイテンポな戦闘BGMですが、ほかの戦闘BGMと意識的な違いはありますか。

――「contact!!」もハイテンポな曲ですが、こちらはいかがでしょうか。

高田氏:
通常の戦闘とは少し異なる、テンポ感のあるインスタントな戦闘に向けた曲です。ゲームの音楽演出としてあえて要素をそぎ落した構成にすることで、変化球のような印象を与えつつ、同じ世界観、同じ心境の延長線上で楽しめるようにしています。

作りとしてはフレーズを減らすことで曲の細部まで意識が届きやすくなっていて、その積み重ねがゲーム全体を通した体験として、より強く残っていくよう意識しています。こうした細かな刷り込みを重ねていくことで、将来的にアニメや舞台、映画といったかたちでIPを展開していった際にも、ゲームをプレイしていたときの情景や感情が一気に蘇るような、トータルな体験を音楽によって包み込めるのではないでしょうか。

――「命を捨てて 」は恐らくゲーム中に一番聞くことになる曲です。この曲はどんなイメージだったのでしょうか。

高田氏:
この曲は、部隊長バトルに向けた曲ですね。部隊長バトルの音楽に関しては当初小高の中に別のイメージがあったようなのですが、実際に部隊長たちを見たときにより壮大で、命を賭して戦う重みを正面から受け止めるような、クワイアの曲の方が合うのではないかと感じ、この曲を一旦は仮として実機に組み込みました。

その後、別の方向性も考えたのですが、いつの間にかスタッフの間でこの曲が強く刷り込まれていて、これ以外の音楽が考えられないほど浸透していました。結果として、プレイヤーにとっても部隊長バトルという体験と強く結びつく曲になったのではないでしょうか。

――「受け継がれる命 」は、「命を捨てて 」をより壮大にした曲ですよね。

高田氏:
仰るとおり、「受け継がれる命 」は「命を捨てて 」をさらに押し広げた位置づけの曲です。いわゆる真のラスボス戦を意識していて、これまで積み重ねてきた経験や背負ってきたものすべてを抱えた上で、それでも避けることのできない戦いに向き合うという感覚が、自然と音ににじみ出るかたちを目指しました。

曲の中に重ねられたさまざまな声のコーラスは、個人の感情というよりももっと大きな流れや意志のようなものが立ち上がることを意識しています。プレイヤーには緊張感だけでなく、覚悟や重みのような感情を受け取ってもらいたいですね。

ちなみに、この曲では福田(※トゥーキョーゲームス所属サウンドクリエイター兼ギタリスト。高田氏とは20年以上共にサウンド制作を続けている)のギターが冴えわたっていますが、完全に彼に任せて出てきたフレーズです。毎度のことながらすごいなと思いつつ、非常に感謝しています。

――「いーじーごーいんぐ」は飛び抜けて間の抜けた曲ですが、この曲はなぜ生まれたのでしょう。

高田氏:
これは(とあるルートに出てくる) ○ 頭のキャラクターを見たときの第一印象をそのまま音にした曲です。正直に話すとあまり深く考えず、「これはもうこういう音楽だな」と思いながら作りました。結果的に想像していた以上にいろいろな場面で流れることになって、個人的にも楽しく聞ける曲になりました。特にこだわっているのはリズムボックスの音で、この曲の間の抜けた感じを支えていると思います。

――「cacophony」は非常に高田さん らしい気持ち良さと気持ち悪さが詰まった曲だと感じています。

高田氏:
これは、既視感を感じさせることを意識して作った曲のひとつです。特に音色はどこかで聞いたことがあるような記憶とのマッチングを予感させつつ、そこから少しずつずらしていくことでプレイヤーの感覚をミスリードできたら面白いなと考えていました。

音色や転調による気持ち良さは、意識的に強く出しています。中でもフィルターの変化はやはり聴感としてとても心地良いので、まずはそこで惹き付けます。一方で、フレーズ自体はミニマルに反復させたり、あえて「来そうで来ない」音を置いたりすることで、安心しきれない不安定さも同時に残しております。

――一方で「incoming ゼツボウ」はわかりやすく絶望的で、聞いていて不快感さえあります。狙いどおりですか。

高田氏:
ええ、狙っています。「知らない世界線」に触れてしまったときの気持ち悪さを意識しています。当初は12平均律から外すことも考えましたが……、映画「未知との遭遇」のことを思い出して思いとどまりました。

――「going キボウ」はちょっと聞き覚えがある音色ですが……法廷の……。

高田氏:
こちらも意図的に既視感を含ませたシリーズのひとつです。ただし、今回は決意や勇気といった感情を前に押し出したかったので、構成や展開、音の重心はかなり変えています。でも、これだけ手を入れてもどこかで聞いたことがある気がすると感じてもらえるのは、シンセサウンドならではの特性で、本当に面白いですね。

――次の曲は「秘匿事項」。この曲のように、高田さん の作られる「謎が明かされるときのBGM」は安心感と高揚感がありますね。

高田氏:
この曲のような謎が明かされる場面のBGMを作るとき、いつも思い出す風景があるんです。それは高台にある夕方の学校で、部活が終わって生徒がほとんど下校した後、校門 へ続く下り坂の景色です。どこか懐かしくて、1日の終わりを感じさせるような空気感ですね。「蛍の光」が流れているような感覚に近いのかもしれません。

なぜかわからないんですが、そのときの心境が謎が明かされる感覚ととてもよく重なるんです。その感覚が一番しっくり来るんですよね。

――「h4lluC!n4t!On」や「ララルララ」は一風変わった曲ですが、どういう流れから作られたんでしょうか。

高田氏:
どちらも小高のアイデアによるものです。「h4lluC!n4t!On」は変な民族音楽を鳴らしたいというオーダーがあって、太古から大勢で太鼓を叩く行為がトリップ状態や洗脳に近いものだろうと考えて意図を汲んだかたちです。洗脳音楽として太鼓を主体にしたサウンドを選んだのは、そうしたプリミティブな感覚からですね。

「ララルララ」は、正直理屈では説明しきれない曲ですが、こういう悪ノリは大好きなので作っていてとても楽しかった曲のひとつです。歌は福田が歌ったものを女性ボイスに変換するという、あえて変な作り方をしています。

――「Todome Select」は、選択することの重みを感じさせられた楽曲でした。どうしてこういう感情を抱かせることができるのでしょうか。

高田氏:
個人的にもとても印象に残っている曲ですね。重い選択を迫られる場面では、昔から自分の中で流れていたんじゃないかという気がしています。

低域で蠢くリフのようなシンセの上に、不安定なストリングスが美しさと不穏さの両方を帯びながら進行していきます。コード感も定まらないままにして、善悪や正解がはっきりしない、どうしようもない状況を表現するような響きを意識しています。この重さは嫌悪感を煽るというよりも、逃げ場のない決断に向き合うための重さという感覚に近いかもしれません。

――「くすんだココロ」「さよならhope」なども不安にさせる音楽が際立っています。不安にさせるために必要な音楽要素はどのようなものでしょうか。

高田氏:
不安を感じさせる曲で意識しているのは、不協のさせ方です。ただ暗くしたり重くしたりするのではなく、どこかポップさを残したまま少しだけずれた不協を入れる、いわば「ポップな不協」ですね。聞きやすさがある分、その中に混ざった違和感がより強く引っかかり、不安としてユーザーの中に残っていくような感覚を狙っています。

――「先にある光」や「blue drops」も非常に良い曲ですが、不穏さのある曲と比べると構成がシンプルな気がします。

高田氏:
その2曲はたしかにほかの曲と比べるとシンプルに感じられるかもしれませんが、これは意図的な部分が大きいですね。ハッピーな感情って多くの人が日常的に求めているもので、その一助として音楽も世の中にあふれています。そのため、ゲームの中で改めて強く演出し過ぎると、体験としては逆にしらけてしまうこともあると思っています。

最近のゲーム音楽では、ハッピーな場面をこれでもかとハッピーな名曲で押し切る演出
も見かけます。個人的にそれはゲーム全体の流れや感情の起伏をあまり信用していない作りのように考えていて、そこまでやってしまうと感情の居場所がなくなってしまうんですよね。

そうした流れへのささやかなアンチテーゼとして、これらの曲はあえてシンプルな作りにしています。派手に盛り上げるのではなく、ゲーム体験の中で自然に機能し、プレイヤーの感情を過剰に邪魔しないことを優先しています。

ゲームにマッチした3つのボーカル楽曲

――本作には、ボーカル曲が3曲採用されていて、そのうちの1曲、Paleduskの「RUMBLE」は既存曲でした。ゲームに非常に馴染んでいますが、既存の曲を採用するのはなかなか変わった判断をされていると思うのですが、これはどういう経緯だったのでしょうか。

高田氏:
「RUMBLE」がゲーム中で流れるシーンは非常に重要で、これまでと違って振り切った、全然違った雰囲気にしたいというのが最初にありました。かつ、タイアップして宣伝に繋がるといいなという考えもあったんですね。

そこで弊社のスタッフに音楽業界との繋がりがある者がいて相談したところ話が進んで、いろいろな曲を検討することになり、そのなかで「あ、この曲が合うな」となったのが「RUMBLE」でした。

――あるシーンで「RUMBLE」が流れたときは、楽曲の格好良さも相まって印象的でした。混沌としている展開をシャウトで表しているような、ちょうど良くハマったとは思えないマッチ具合だったと思います。

高田氏:
僕も実機で初めてこの曲が鳴った瞬間の衝撃はよく覚えています。「これは面白い」と思いましたね。僕が感じた衝撃をユーザーの方々も味わってくれたんじゃないでしょうか。

――Sincereさんの「セダム」 は、高田さん からオーダーして歌ってもらったんですか。

高田氏:
そうですね。最初に「セダム」をちょっと泣かせたいところで何か歌ものでいきたいよねっていうところから始まりました。で、Sincereさんにシナリオを読んでもらい、こんな感じでこういう歌詞でということを何回か会議をして書き起こしていただきました。最初のバージョンでは大サビとかがない状態だったんですが、そこで入れた方がいいんじゃないですか、という感じのやり取りを何度か繰り返してできあがった曲です。おかげさまで、ゲームにマッチした、とても素敵な曲になったと思っています。

「セダム」はゲームの構造上、何度も繰り返し体験されていく物語の中で、ひとつのエンディングのかたちとして位置づけられた楽曲です。実は、「セダム」が流れる直前の音楽は、この曲のイントロが流れた瞬間にスッと感情が繋がるように全体を設計していました。

――「セダム」はエンディングを狙い撃ちで作られた楽曲なんですね。

高田氏:
はい。まあ、途中で宣伝でも使いたいという意向もあったので、エンディングテーマでありつつ、本作を歌で表すとこういう感じだと示す役割もできたらいいなと思いながら、Sincereさんと作った楽曲ですね。

――ただ、プレイヤー的には「Carousel」も印象的です。エンディングでよく流れますので……!

高田氏:
(笑) 物語のひとつの区切りに歌が流れてほしいという漠然としたイメージがあって、ほかのエンディング曲が必要だと。そこでZineeさんにお願いして 「Carousel」を作ることになりました。必ずしも物語の終わりというわけではなく、そこで一度、これまでの感情や体験を受け止め直す場所という感覚です。こちらも僕もすごく好きな楽曲で、本作によくハマっていると思います。

――「Carousel」はあるルートでだけバージョンが違いますが、これは高田さんのアイデアだったんでしょうか。

高田氏:
それは(ルートシナリオディレクター)打越のアイデアですが、とても良い演出だと思いました。とはいえ、実際に成立させるのは相当難しいことで、Zineeさんをはじめ、皆さんの協力があってこそ実現できた演出でしたね。

――全体的に見て、実機で聞いてみたら思った以上にマッチしていたという楽曲はありますか。

高田氏:
「Todome Select」ですね。実際に作中で流れて「ハマるなあ」と思いましたね。作っているときよりも、画面で見て想像以上にハマった感じです。あと、「incoming ゼツボウ」ですね。この曲を作っているときはあまり意味がわかっていなかったんですが、これも実際に見て聞いて、「そういうことなんだ」と納得しました。

ゲーム体験を面白くするための音楽作りを

――ちなみに、せっかく同席いただいているのでお聞きしたいのですが、プロデューサーの稲生さんは『ハンドラ』の楽曲でどの曲が一番好きですか。

稲生舜太郎(以下、稲生)氏:
僕、本当に「SIREIのご指導」が好きなんですよ。これまでも高田さんがサウンドを手掛けたゲームをプレイしましたが、今までにないタイプの楽曲だという印象でして。

――たしかに、新しい引き出しという感じがしますよね。

稲生氏:
そうなんです。聞いた瞬間、これはすごいなと。音楽がちゃんと入った状態のゲームをテストプレイしたとき、SIREIの登場シーンって作品的にすごく重要で、だからこそ曲を作るのが大変だったと思うんです。その苦悩を知らない状態でゲーム中で楽曲が流れたときに、なんか「すごいの聞いちゃったな」と。

SIREIのポップだけどダンディ路線もあってという、いろいろな印象を受けるシーンで「SIREIのご指導」が流れてきて、この登場シーンにユーザーも心をつかまれるだろうなって感じました。そういう意味も含めて、とにかく圧倒されて一番好きな曲ですね。

ただ、ここまで高田さんのお話を聞いて、それらがある種の仕掛けにもなっていて、プレイヤーのゲームの進捗とか、その日の気分によって音楽の印象が違うという話は新鮮でした。ゲーム音楽について言語化してもらうと思っていた以上にいろいろな役割があって、非常に勉強になりました。『ハンドラ』のおかげで、ゲームサウンドに対する解像度というか、プライオリティが変わったなと感じましたね。

――たしかに、高田さん が音楽を手がけた作品は、明確に音楽が本作の舞台装置のひとつになっているというのは感じられますね。

高田氏:
ただ、最近 少し気になっているのは、ゲームの中で流れている音楽自体はすごくリッチで、クオリティも高いものが多いのに、それがゲームの体験とあまり噛み合っていないな、と感じる場面が増えてきたことです。正直に言うと、ゲームを作っているというよりも、良い音楽を作っているだけになってしまっているように見えることが結構あります。

――たしかに、ゲーム体験と音楽で分離されているイメージがありますね。

高田氏:
そうなんですよ。ゲームのレビューを見ていると「音楽は良かった」と書いてあるものがあって、それは音楽に対する称賛ではなくて、ゲームより音楽の方が立っているということなんですよね。なので、ゲームを作っているわけではなくて、ゲーム体験と音楽がちぐはぐになっているんですよ、という風に考えてほしいです。だから、僕が音楽を作るときはそういったところもちゃんとゲーム全体の体験として面白くなるようにしたいと、常に思っています。

――最後に『ハンドラ』のサウンドトラックに対する思いをお聞かせください。

高田氏:
改めてマスタリングをして、それがすごい耐久レースで楽しかったですね。

――相当な時間をかけられたんですね……。

高田氏:
はい(笑)でも、本作自体、クリアまですごく時間がかかるゲームです。それを1回クリアしてくれて、ふと『ハンドラ』熱が下がったときに、音楽を楽しんでもらって心を動かされたシーンを振り返ってほしいですね。サウンドトラックでは、本作の流れを感じるような曲順とかにエディットし直してもいます。これを聞いてまた『ハンドラ』に戻ってきて、みたいなループをしてもらえると嬉しいなあと思います。

――ありがとうございました。

「HUNDRED LINE -最終防衛学園- Original Soundtrack」は、1月17日よりSteamおよび音楽配信サイトで配信予定。4月にはCDも発売予定だ。

[執筆・編集:Koutaro Sato]
聞き手・編集:Ayuo Kawase]

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