「三部作ゲームは第三作目が一番売れない」のが普通、でもケモノSRPG『戦場のフーガ』が三部作を展開して完走できた理由。開発者に訊く“意味”

サイバーコネクトツーは5月29日、『戦場のフーガ3』を発売した。本作は三部作から成る同シリーズの最終作だ。

『戦場のフーガ』シリーズは、サイバーコネクトツーが手掛ける「戦争×復讐×ケモノ」をテーマに贈るシミュレーションRPG。ケモノの少年少女たちが巨大戦車に乗り、それぞれが戦争の中で捕虜にされた親たちを救うために旅に出る。旅の中では敵対者たちとの戦い、そして時には残酷な選択を迫られることも。そんなケモノの少女たちの生き様をドラマチックに描いている。

本シリーズは本稿執筆時点で、Steamのユーザーレビューにおいて三部作すべて「非常に好評」のステータスを獲得中だ。ゲームシステムや世界観、そして“ケモノ愛”が評価されているようだ。

本稿では、サイバーコネクトツーの代表である松山洋氏にインタビューを敢行。『戦場のフーガ』のこと、サイバーコネクトツーのこれからのケモノ展開について話を訊いた。『Aeruta』開発者とのインタビューもあわせて見てほしい。

“選ばれる1本”を作ることが鉄則

――お時間をいただきありがとうございます。前回松山さまにインタビューさせていただいたのが非常に好評で(該当記事1該当記事2)、今回は違った角度のお話を伺いたいと思った次第です。まず、自己紹介をお願いします。

松山洋(以下、松山)氏:
『戦場のフーガ』三部作シリーズを手掛けているサイバーコネクトツー代表の松山です。よろしくお願いします。

――前回のインタビューが『戦場のフーガ3』発売前で、そろそろケモノ愛を再び語っていただきたいと思いまして……。

松山氏:
良い勘所していると思います。ありがたいです。今回は燃える予感しかないですよ。

――も、燃え……。

松山氏:
この界隈って定義づけが結構曖昧で、なので当事者というか実際にケモノをテーマにした作品を作っている人間たちが、どう思って作品を作っているかというのは世界中の人たちがすごく気になるところだと思うんです。だからAUTOMATON、なかなか香ばしいところを攻めてくるなぁと。でも、すごく良いと思いますよ。

――褒められてないですよね……!ひとまず導入として、『戦場のフーガ』をご紹介ください。

松山氏:
『戦場のフーガ』はサイバーコネクトツーが2021年から展開しているRPGのシリーズになります。弊社の完全オリジナルタイトルを発信するプロジェクト「復讐三部作」のひとつに数えられるタイトルとして、『戦場のフーガ』は「戦争×復讐×ケモノ」がテーマとなっています。

その中で『戦場のフーガ』シリーズは1タイトルで三部作になっていて、1本ずつ独立しているのでどこから遊んでいただいてもいいんですが、もちろん第1作目から遊んでいただくとより楽しんでいただけます。本作は12人の子供たちが戦車に乗って旅をしながら成長していく、戦争に巻き込まれた子供たちの話で、こう聞くとちょっと重い話に感じられるかもしれません。でも実はやっていることは壮大なスケールの少年漫画なんですよね。ちなみに、サイバーコネクトツーにはそもそも、『テイルコンチェルト』や『Solatorobo それからCODAへ』という作品があり、これらは我々の「リトルテイルブロンクス」というケモノのイヌヒト・ネコヒトたちが暮らす世界観の中で展開されている作品です。『戦場のフーガ』シリーズもその世界観で描かれている作品になっています。

現在『戦場のフーガ』はシリーズ累計で53万本ほど出ていて、ここからさらに売り上げを伸ばして全世界100万本を目指している最中と。世界中から大好評をいただいておりまして、ありがとうございます。

――三部作を最後までやりきって、しかもしっかり評価が高いというのはすごいです。三部作はいろいろなプロモーションに尽力してもどんどんターゲットが絞られていきますが、実際調子はいかがでしたか。

松山氏:
おかげ様で3作とも売り伸ばすことができていて非常に好調です。漫画でも何でもそうですけど、普通は1巻から買っていくじゃないですか。なので、1・2・3ってナンバリングが付いている以上、『戦場のフーガ』の売上も横並びにはもちろんならずに右肩下がりではあります。でも、新規参入してくれる人は基本的には1作目からプレイしてくれるのがほとんどなので、『戦場のフーガ3』まで遊びやすくするために1作目、2作目にファストモードをアップデートで実装して、テンポ良く物語だけを楽しむっていうモードも入れて好評いただいています。

――3作目が発売すると、当然3作目のセールスばかり注目してしまいますが、過去作も動くのは会社的にはやっぱり大きいのでしょうか。

松山氏:
そりゃあそうですよ。まずは1作目、漫画で言う第1巻から販売して。3作目が出て、1作目と2作目の売れ行きも連動して伸びていきます。

――ちゃんとビジネス的に旨味があるんですね。『戦場のフーガ』3部作はプロダクトとして最初から最後まで、しっかり全力でやりきりました。どうやってここまで初志貫徹で三部作をやり切れたんでしょうか。

松山氏:
これはもう歴史が証明していますが、我々がやっているビジネスの鉄則っていくつかあると思うんです。大規模なプロモーションを見ていると派手に見えるので惑わされがちですけど、まずは本物を作る、お客様に選ばれる1本を作ることが我々の鉄則だと思うんですよ。そうすると一生、未来永劫売れるし、宣伝なんか必要ないんです。

――なるほど。

松山氏:
たとえば世界中にゲームの広告がいっぱいあるじゃないですか。いっぱいありますけど、興味がない人からすると、目に入っていないのと一緒なんです。で、それらに興味がある人は「おおっ」って注目しますけど、興味がない人は目に入らない=遊ばないので、だから正直に言うと、あれは今いるお客様を喜ばせるだけで、新規の顧客開拓には繋がっていないと私は思っています。結局、自分が興味ない作品を手に取る瞬間って、口コミしかないと思うんですよ。

自分の周りの友人・知人から、そうでなければネット上にいる赤の他人からの口コミが、自分の心の鍵を突破してくれるかどうかがすべてで。人の心を動かして、実際にゲームソフトを購入させることってすごく高いハードルだと思います。どこかのウェブサイトで見た記事ですが、Steamで今年リリースされたゲームの40%が登録費用の1万5000円すら回収できていないと。とてもお行儀のいい、性格のいい記事ですね(関連記事)。

――いつも弊誌が……すいません。

松山氏:
でも、これが実態だと思うんですよ。やっぱり、ちゃんと選ばれる1本、そして長く愛してもらえる1本を作っていかないことには、ビジネスがそもそも成立しないんです。これはスタジオジブリとかが証明していると思うんですよね。たとえば「天空の城ラピュタ」は1986年に公開された作品ですが、今まで何十回も金曜ロードショーで放送されていて、何十回見ても飽きない。そういう作品が選ばれる1本ということだと思います。

きっと宮崎駿さんも同じ思考で作品を作られたはずです。本物を作れば一生儲かる、一生売れるんです。だって色あせない本物なんですから。だから我々のもの作りというのは、「NARUTO -ナルト-」のゲームでも「鬼滅の刃」のゲームでも『戦場のフーガ』でも、いつの時代に手に取っても色あせることのない、ずっと愛してもらえる1本を作る、中途半端なことはしないということがポリシーなんです。

――とにかく面白いものを作ることが大切だと。

松山氏:
そうですね。だから、売り上げが低いからどうするというのは一過性のものでしかなくて、三部作をきっちりとリリースすることによって、波状的に『戦場のフーガ』というタイトルの認知拡大ができて、続編が出るたびに前作が売れると。で、前作を売るためにファストモードを実装するといった、お客様の入り口とハードルをコントロールするということが大切ですね。目の前の数字や世の中の流れ、トレンドはもちろんありますけど、そういったものに左右されたくはないですね。

――たとえば、1作目をリリースする前って、無限の可能性が広がっているじゃないですか。100万本売れることすら夢じゃない。

松山氏:
もちろんそうですね。

――それが1作目をリリースして現実的な数字が出て、夢はなくなる。そういった理由で続編作りが揺らぐことはありませんでしたか。

松山氏:
まったくありませんでしたね。作っている最中も完成間近も、私自身もスタッフも笑いながら作っていて「こんな面白いものをまた作っちゃったよ」と(笑)。「これは売れるぞ」って高いテンションで、もう確信と自信しかなかったですね。

――もっともっと作れるぞと。

松山氏:
そうですね。で、1作目で出し切った後に2作目をゼロから作るわけですが、1作目の改善・改良点をピックアップしてパワーアップした2作目を作り、そのパワーアップ内容を1作目にも反映させてと。これは内製で作っているからこそできることですね。他社から資金を出していただいてやっていると、1作目のビジネスは終わったので2作目に集中してもらっていいですか、となっちゃいますので。とはいえ、3作目を作っていたときも1作目と2作目をアップデートしているわけで、常に3本のラインが走っているような状態で大変でしたね。

今後もケモノ系ゲームを「やるに決まっている」

――『戦場のフーガ』シリーズが3部作で一区切りしましたが、自社開発で三部作を作り切った経験は、個人的にサイバーコネクトツーをまた新しいレベルに引き上げたのではないかと思っています。今後、『戦場のフーガ』シリーズを作った経験は、どんなふうにサイバーコネクトツーに還元されると思いますか。

松山氏:
今のサイバーコネクトツーは、基本的には受託でお預かりしている案件が中心です。「ドラゴンボールZ」や「鬼滅の刃」といった多くのファンがいるIPを取り扱っていますので中途半端なことはできないし、世界中のファンの期待に応えるという、すごく大きい責任があります。だからかかるお金も時間も、労力もすごく大きいんです。そういった大きい開発はもちろんですが、ベテランと新人がなるだけ短い期間で1本のゲームを最初から最後まで完成させるということもひとつの経験値になります。プロモーションも含めて自分たちで自社IPを開発できたということは、今後にも繋がると思います。あとは結果的な話になりますが、『戦場のフーガ』を社内でやり切れたこと以外に、それが世界に発信して通用したというところはやっぱり大きくて、そこはすごく社内的にも良かったなと思います。

――今受託を中心にしている会社で、自社IPを立ち上げて結果を出しているスタジオってほとんど存在しないですよね。

松山氏:
パッと頭の中には出てこないですよね。過去にやったことがありますというところは思いつきますが、それが持続されているところは多くはなさそうですね。

――サイバーコネクトツーが今後もオリジナルの自社IPタイトルを出していく可能性はあると思いますが、それもケモノ系でいくのか、お話しできる範囲で結構ですので教えていただけますか。

松山氏:
言える範囲も何も、やるに決まっているよね。

一同:
(笑)

松山氏:
元々『テイルコンチェルト』から始まった会社なので、「リトルテイルブロンクス」というシリーズはサイバーコネクトツーのある種のライフワークなんです。このIP、世界観が弊社で途切れることは、少なくとも私が生きているうちはないと思いますね。あと150年ぐらい生きるので、それくらいは続くんじゃないでしょうか。

――たしかに松山さまは年齢を感じさせないですよね……。

松山氏:
たぶん200歳ぐらいまでは生きていけると思います。

――あ、はい。この先の「リトルテイルブロンクス」の展開も期待しています。ありがとうございました。

戦場のフーガ』シリーズは、PC(Steam/Epic Gamesストア)/Nintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One向けに販売中だ。

AUTOMATON JP
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