「ケモノ好きであることを気軽に公言できる社会に」……極限ケモノRPG『戦場のフーガ』開発者がケモノに執着する理由、年月をかけて進められる大いなる洗脳計画
なぜそんなにケモノに執心するのか?サイバーコネクトツーの社長である松山洋氏に話を訊いた。

サイバーコネクトツーは5月29日、『戦場のフーガ3』を発売予定だ。対応プラットフォームは、PC(Steam/Epic Gamesストア)および、Nintendo Switch/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S。
本作は、“戦争×復讐×ケモノ”をテーマとしたドラマティックシミュレーションRPG『戦場のフーガ』シリーズ3部作の完結作。同シリーズは、動物を擬人化したイヌヒト・ネコヒトという、いわゆる“ケモノ”たちが生きる世界が舞台となっている。戦争に巻き込まれ、家族や故郷を奪われた子供たちの過酷な戦いや生き様が、かわいらしいキャラクターのドラマとして描かれていく。
開発元のサイバーコネクトツーは、受託開発をかたわらにコンスタントにケモノゲームを果敢に自社開発している。なぜそんなにケモノに執心するのか?サイバーコネクトツーの社長である松山洋氏に話を訊いた。ケモノゲームの市場の大きさについて訊いたインタビューも参考にしてほしい。
ケモノに執心する理由
――そもそも、松山さんやサイバーコネクトツーはなぜケモノに執心なんですか?
松山氏:
サイバーコネクトツーは、「週刊少年ジャンプ」の「NARUTO -ナルト-」「ジョジョの奇妙な冒険」「ドラゴンボールZ」「鬼滅の刃」といった少年漫画のIPをお預かりさせていただくことが多かったゲーム会社です。そんななかで、自社でいくつかオリジナルIPのゲームを展開している中で、今から30年前。わずか10人で有限会社サイバーコネクトという会社を立ち上げて、最初に手掛けたのが『テイルコンチェルト』というケモノをモチーフにしたアクションアドベンチャーゲームなんです。

――一発目からケモノをモチーフにした作品でしたね。やっぱり、ケモノに対する思い入れは強いんでしょうか。
松山氏:
やっぱりサイバーコネクトツーの原点はここかな、というのがありますね。で、今から10年ぐらい前、サイバーコネクトツーが20周年を迎えまして。まあ、普通のゲーム会社はなかなか20年続かないんですよ。なので、ここまで続いたらもう明日突然潰れることはないかなと思って、自社で何か新しいことをやろうと考えたんです。
そこで今までの受託開発だけではなくて、いよいよ自社でパブリッシングをやろうということになりました。じゃあ何を作ろうとなったとき、最初にお手本を示すべきは自分かなということで、一発目となる『戦場のフーガ』を私自身が企画をして、作るんだったら『テイルコンチェルト』と『Solatorobo それからCODAへ』に連なる、サイバーコネクトツーの“リトルテイルブロンクス”と呼んでいる世界観を舞台にしたRPGを作ろうということで始まったのが『戦場のフーガ』シリーズなんです。

そんなシリーズ3部作が完結するので、今は私もスタッフも、完全に最後まで完遂してやり切ったという感覚ですね。
――『戦場のフーガ』の企画は松山さん主導で立ち上がったということは、ケモノに執着しているのは松山さん?
松山氏:
私をはじめとした、一部のスタッフ……っていう感じです(笑)
――なるほど。『テイルコンチェルト』から脈々と続くケモノという存在は、アイデンティティとしてあるものなんですか。それとも、ただ自分たちが好きなもので作ろうというのがきっかけだったんですか。
松山氏:
両方ですね。まず、私の原体験として一番大きいきっかけが「名探偵ホームズ」というアニメだったんですよ。ただ、それ以前にもケモノではなく、動物たちが活躍する「ジャングル大帝」といった手塚治虫作品があったじゃないですか。普通の少年少女が頑張る作品よりも、「ジャングル大帝」とかに感情移入していた子どもだったんです。
この世界が魅力的だなぁと、ずっと子どものときから思っている中で、頭の中で歯車がカチリと噛み合ったのが「名探偵ホームズ」だったんです。子どもながらに、最高の作品が始まったなと思ったんです。ただ、「名探偵ホームズ」の番組自体は打ち切りで終わってしまったんですね。
当時の私は「嘘でしょ」と。あの世界観で、あの主題歌で、あの作画で、「なんで世の中はこれでピンと来ねえんだ」っていうのが、自分の中でずっとモヤモヤしていて。後に高校生くらいのとき、「宇宙船サジタリウス」という、厳密にはケモノではなくて宇宙人ものの作品があって、あの作品にもドハマりしたんですが、こちらも世の中的にはどうやら全然ピンときていなかったっぽくて……。
そこで何度も自問自答したんです。多くの人が良いと感じないということは、「俺が特殊なんだ」と。「俺が世の中とずれてるんだ」と子どもの頃は思っていました。でも、大人になって正気を取り戻しました。「違う、俺が間違っているんじゃない。間違っているのは世の中だ」と。
――松山少年が大人になるにあたって、世の中が間違っていることにケモノが気づかせてくれたと。
松山氏:
そうです。世の中がまだこのケモノの作品世界の魅力に気づいていない。10年早かったか、くらいの感覚で物事を見るようになりましたね。それじゃあ、時代が追い付いて、次の10年で誰がやるんだ、いつやるんだ、何が来るんだ。そう思っていたら「もうやるか、自分たちで!」と始めたのが、きっかけです。
――やっぱり松山さんが執着してた。
松山氏:
いやいや、私だけじゃないんですよ(笑)たしかに私が筆頭ではありますけど、スタッフも執着していて、「やるんだったらやっぱりそうっすよね!」っていう人間がワラワラと、しかも定期的に集まるんですよ。だからうちは、10年に一度ケモノを作るんです。
――10年に1度……発作みたいなものですか?
松山氏:
だって諦めきれないんですよ!だから最初に『テイルコンチェルト』を作って、それから10年経って『Solatorobo それからCODAへ』を作って、それから10年経って『戦場のフーガ』を作り始めたわけです。

――入社試験とか、いざ入社というときに、新入社員の方がケモノ好きをアピールするんですか。それとも、「ケモノは好きですか?」とリサーチするんですか。
松山氏:
全然聞かないし、言ってくれないですね。ほとんどみんな、「NARUTO -ナルト-」が好きでとか、「鬼滅の刃」のゲームが作りたくて、「ドラゴンボールZ」のゲームが作りたくて、子どもの頃に遊んだ『.hack』が忘れられなくてとか。そう言ってくれるのは嬉しいんですけども、ただ誰も入社時に『テイルコンチェルト』とか『Solatorobo それからCODAへ』とか言わないんですよ!
ただ、入社すると社内で何が動いているかわかってくるわけじゃないですか。そうするとやっぱり気づくわけですよ。『戦場のフーガ』っていうケモノのゲームが動いているということに。そうすると、「動いているんですね!」みたいにアピールをしてきて、「おい、どうしたお前……急に尻尾を振り始めて」と聞いてみると、「私、実はそうだったんです……」みたいな。なぜかみんな、ケモノ好きを1行目に言ってくれないんですよ。
だから最初はケモノ好きであることを明かさず、作っているということを知ると「あのチームってどうやったら私も入れるんですか」と聞いてきたり。サイバーコネクトツーの中にいても、世の中的にも、やっぱりケモノってなんだかんだマニアックだという自覚はあるんですよ。だからこそほじくり甲斐があるし、ここから大きくメジャーに広げていけると、私は信じて疑っていないんです。
ただ……、サイバーコネクトツーだと、やっぱり「何が好きですか?」と聞かれたときに「週刊少年ジャンプ」って言わなきゃいけない病みたいなのがあるんですよ。
――それは……、わかります。先ほどの新入社員の方が言う好きな作品もそうですけど、評判が良いからこそサイバーコネクトツーといえば「週刊少年ジャンプ」というイメージがありますね。
松山氏:
これ「サイバーコネクトツー病」なんです。そうなったときに、やっぱり1行目では言いにくいのかなとは思うんです。でも、飲み会とかで新入社員を掘り下げていくと、「いや、実はケモノが好きなんですよ」みたいなことが判明するっていうこともあります。だから、『戦場のフーガ』を世界にもっともっと広げていって、みんなが1行目で「ケモノが好きです」と言える世の中にしていきたいなと思っています。
――ケモノが好きと大々的に言っても大丈夫な市民権を得られるようなプロパガンダをしているわけですね。しかも、グローバルに。
松山氏:
そうです。結局我々が先頭を歩くしかないと思っているので。漫画やアニメだとやっぱりハードルが高いんですけど、ゲームだと結構国境を越えやすいですから。
『戦場のフーガ3』の前に、過去作を忘れた人はファストモードを
――そうした流れを経て『戦場のフーガ3』が出ると。
松山氏:
『戦場のフーガ』シリーズは、第1作目から『戦場のフーガ3』まで、1本ずつ独立した作品のように見えつつ、当然ですが実は『.hack』のように、少年漫画的に第1部、第2部、第3部みたいな感じで物語が繋がっているんですね。
なので、『戦場のフーガ』1作目の伏線を、2作目、3作目で回収するみたいな作りになっています。なので、ユーザーの皆さんが、『戦場のフーガ』のあれは伏線で、『戦場のフーガ3』で回収されるのでは、みたいにいわゆる本来の少年漫画的な楽しみ方を嬉々として楽しんでくれているんですよ。
で、当然ですけど我々はその期待に応える会社なので。『戦場のフーガ』であえて触れなかった、暗に隠して来た伏線回収が当然『戦場のフーガ3』で回収されます。皆さん今出ている情報の範囲内でワクワクしてくれていて、そういったファンアートも発売前から描いてくれているので、その続きはぜひゲームで楽しんで、確認していただきたいですね。
――僕は『戦場のフーガ』第1作目をプレイしたのがだいぶ前で、正直なところ細かい部分の記憶がないんですが、今から最初から遊ぶ人が一番楽しめそうですね。
松山氏:
そうですね。そのためのファストモードですよ。バトルをスキップしながら反応弾で敵を殲滅しながらサクサク先に進めます。プレイ時間は通常プレイの4分の1から5分の1くらいで終わるので、何なら昔『戦場のフーガ』をプレイしたという人も、今からもう1回ファストモードで遊び直してみてほしいですね。
――『戦場のフーガ』はゲームプレイのメカニクスが凝っていて、ゲームデザイン的にも面白い取捨選択があって、選択の重要性があるゲームじゃないですか。そんなゲームで選択はいいから、もうストーリーを楽しんで、というファストモードを実装したことは、かなり思い切ったことだったのでは。
松山氏:
はい。現場にファストモードの話をしたときには、結構賛否というか……、「え、僕らがやってきた仕事を否定するんですか」とか、「RPGですよね?バトルスキップ……?」みたいな議論があったんですけど、なんとか納得してもらって。
――(笑)
松山氏:
これからクリアに15時間から20時間かかるRPGを2作品やって、しかも『戦場のフーガ3』もやってくださいって、「そりゃつらいよ」と。やりたい人はぜひプレイしていただきたいんですけど、もうとにかくストーリーだけを追って、『戦場のフーガ3』でちゃんと完結作をプレイしたいっていう人や、『戦場のフーガ』や『戦場のフーガ2』の途中で止まっている人もいるだろうから、きっかけを与える意味でも、ファストモードを作ろうぜ、と動き出したわけです。その結果、ディレクターの新里(新里裕人氏)が、あの絶妙なファストモードの仕様を作ってくれて、非常に良いモードが『戦場のフーガ』シリーズには入っています。皆さんに活用してほしいですね。
――個人的な意見として、発売後もちゃんと過去作をアップデートしていくのは『戦場のフーガ』の好きなところですね。
松山氏:
ありがとうございます。そこは意図的にやっていたところですね。だから、現場的には早く『戦場のフーガ』第1作目のデータをクローズしたかったんですが、「絶対クローズなんかさせないからね」「『戦場のフーガ2』の開発を進めながら『戦場のフーガ』のアップデートをするからね」と。で、今は『戦場のフーガ3』を開発しながらやるわけで。絶対にデータを閉じるなと言い続けてきて現在に至り、本当にゲームが進化し続けて、同時並行で開発もしてきたので、本当に現場はよく頑張ったなと思います。
『戦場のフーガ4』はないけど……
――『戦場のフーガ3』は、前2作品と比べて、やっぱりケモノ属性が健在の作品なんでしょうか。
松山氏:
もちろんケモノ属性は健在ですが、正直に言うと彼らの物語に特に注目してほしいですね。今まで張ってきた伏線を『戦場のフーガ3』ですべて回収するっていうのが、シリーズ完結作としての務めなので。ケモノとしてのゲーム部分はもちろんありますけど、それ以上にやっぱりこの壮大な物語の帰結を、皆さんに見届けてほしいです。皆さんが愛したゲームのラストシーンを見てもらえると、今まで味わったことのない作品だなって、感じてもらえるのではないかと思います。
――『戦場のフーガ3』では、実は隠していましたみたいなエンディングはないですよね。
松山氏:
え、いっぱいありますよ。だってエンディングだけで19個あるんですよ?
――完結作というからもう隠し事はないのかなと思っていました。
松山氏:
頑張ってください(笑)ちなみに『戦場のフーガ』シリーズは、この『戦場のフーガ3』でちゃんと完結しています。『戦場のフーガ4』はないです。
――歯車が揃ったら、『戦場のフーガ4』のシルエットが浮かび上がるとかはありませんか。
松山氏:
……何も言わないっす。
――いやいやいや(笑)
松山氏:
だから『戦場のフーガ4』はないよ!『戦場のフーガ4』はないけど……、っていう。
――要するに、何か仕込みが用意されているわけですね。
松山氏:
ありますよね……。
これからもケモノ好きと共に文化を広げ続ける
――最後に『戦場のフーガ3』が気になっているケモノ好き、あるいは全世界のケモノ好きのポテンシャルをもつケモノ好きにメッセージをお願いします。
松山氏:
これ、世の中の人でどれだけ知っているかわからないので改めて主張させてください。ケモノ好き=”ケモナー”という言葉を検索すると、ケモナーに関するWikipediaが出てくるんです。で、ケモナーの言葉の用語の歴史について見てほしいんですけど、ケモナーの語源は諸説あるって言われているものの、一説によると「2000年代に発売されたPS2のゲームである『.hack//G.U.』作中で取り上げられたことがきっかけで普及した」って言われているんですよ。
――面白い。
松山氏:
そうなんです。ケモノとかケモナーという言葉がどこから始まったかっていうのはわかりにくい部分ではあるけれど、少なくともサイバーコネクトツーが今までやってきたことや、古くは『.hack』シリーズの頃から作中で“ケモナー”という言葉を普通にシナリオの中で使っていて、それで言葉自体がいろいろなところで一人歩きしたということはやっぱりあると思うんです。それで、ケモノ好き文化を広げるということを、ずっと一緒にやってきたので。洗脳してきたので。
――一緒にやってきたのはどなたと?
松山氏:
ケモノ界隈が好きな人たちと、ですよ。
――界隈の人を勝手に仲間にしているんですね。
松山氏:
それはそうですよ。みんな一緒です!今はケモノ作品の世界観とかはちょっと特殊で、あんまり一般的じゃないと思われがちですけど、我々、少なくとも私は、これがいつかメジャーになる日がきっと来ると思ってずっとやってきています。それを一緒に見届けて、目撃する仲間たちが今この記事を読んでくれていると思っているので、『戦場のフーガ』シリーズは『戦場のフーガ3』で完結して、一区切りを迎えますけど、この作品と共に皆さんと一緒にケモノ好き文化を広げていけると嬉しいと思いますし、そんな皆さんのことを我々は仲間だと思っています。
――共同体なわけですね。締めでいうのもなんですが、ケモノというジャンルはセンシティブなものなので、この記事が燃えないかドキドキしています。
松山氏:
そう。その予感はね、俺もしてる。
――え?
松山氏:
燃えるときはいっしょに燃えましょう。
――やめてください。本日はありがとうございました。
『戦場のフーガ3』は5月29日に、PC(Steam/Epic Gamesストア)/Nintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One向けに発売予定だ。
[執筆・編集:Koutaro Sato]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]