極限ケモノRPG『戦場のフーガ』開発者によると「ケモノゲームの市場はでかい」。ケモノセールで3倍、ファンはイベントにくる。でもゲーム内ではケモノたちは酷い目に遭う
今回のインタビューでは、『戦場のフーガ』のケモノ要素にフィーチャーして本シリーズの魅力、そしてサイバーコネクトツーが抱いたケモノへの想いについて改めて迫っていく。

サイバーコネクトツーは5月29日、『戦場のフーガ3』を発売予定だ。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア)、およびNintendo Switch/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S。
本作は、“戦争×復讐×ケモノ”をテーマとしたドラマティックシミュレーションRPG『戦場のフーガ』シリーズ3部作の完結作。同シリーズは、動物を擬人化したイヌヒト・ネコヒトという、いわゆる“ケモノ”たちが生きる世界が舞台となっている。戦争に巻き込まれ、家族や故郷を奪われた子供たちの過酷な戦いや生き様が、かわいらしいキャラクターのドラマとして描かれていく。
弊誌は、本作を手掛けるサイバーコネクトツーの代表取締役である松山洋氏にインタビューを敢行した。今回のインタビューでは、『戦場のフーガ』のケモノ要素にフィーチャーして本シリーズの魅力、そしてサイバーコネクトツーが抱いたケモノへの想いについて改めて迫っていく。
――自己紹介をお願いします。
松山洋(以下、松山)氏:
サイバーコネクトツー代表の松山洋です。弊社は実は、今年で第30期となっていまして、来年の2026年2月には会社設立30周年を迎えることになります。そんな弊社が2021年から展開してきた『戦場のフーガ』シリーズが、5月29日に発売となる『戦場のフーガ3』でシリーズ完結を迎えます。
ケモノ熱が熱い国アメリカ、意外な伸びを見せた中国
――『戦場のフーガ』のシリーズ全世界累計ダウンロード数は50万本に到達する勢いと聞きました。国別やプラットフォーム別の売り上げの傾向はいかがですか。
松山氏:
売り上げは明確にアメリカがNo.1です。その次に日本、中国、フランスと続くかたちになっています。プラットフォームに関しては、Steamが4割でNintendo Switchが3割、このふたつでほぼ7割強という感じですね。

――やっぱりアメリカがNo.1ですか。ケモノ好きの人口が多いということでしょうか。
松山氏:
アメリカが強い理由として、もちろん元々ケモノ好きが多いということがあると思います。ただ、それ以上にゲームファンが多いんですよ。だから『NARUTO -ナルト- ナルティメット』シリーズも『ドラゴンボールZ KAKAROT』も、『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』も『.hack』シリーズも、やっぱり売り上げが一番大きいのは北米市場です。だから、アメリカって本当にゲーム大国なんですよ。
その中でケモノのゲームって、言うほど種類が出ていないじゃないですか。だからこそ、アメリカでは高い熱量で『戦場のフーガ』が世界観を含めて、ゲームとして楽しんでもらえていると思っていますし、その自覚があるからこそ、我々も定期的にアメリカのケモノ系コンベンションで、9000人以上の参加者が集まる「Anthrocon」などに明確に戦略をもってお伺いして、ファンを広げていくという活動をおこなっています。
サイバーコネクトツーが初めてパネルをおこなったのが2023年のAnthroconですが、初参加にもかかわらず170人ものお客様が我々のもとにいらっしゃってくれました。それ以降は毎年Anthroconのパネルに申し込んでいますね。

Image Credit : Anthrocon
――普通のゲームイベントを訪れるファン以上の熱量を感じますか。
松山氏:
皆さんやっぱり熱がありますね。特に『戦場のフーガ』のケモノは、分類的にちょっと今の主流とは違っているのかなと思っていて。それも受け入れられるひとつの要因になっているのではないでしょうか。
――海外のケモノ好きユーザーを現地で、その目で確認していると。
松山氏:
物理的に会いに行っています。
――でも熱量って売上に結びつくんですか?
松山氏:
これがね、結びつくんですよ。SteamのAnthro Festivalで『戦場のフーガ』のセールをおこなったとき、売り上げが大きく伸びました。Anthro Festivalは元々潜在的にいたアメリカのケモノファンを呼び覚ますきっかけになってくれましたね。売り上げが3倍に上がったんですが、ほぼアメリカの方です。
――実際に数字を目の当たりにして、ちゃんとファンベースがあることは明確に実感しているわけですね。アメリカのほかに、ケモノ熱が熱いなと感じた国はありますか。
松山氏:
ちょっと意外だったのが中国でしたね。そうなんだ、って我々も思ったくらいでした。ちなみに『戦場のフーガ』って、ゲームの対応言語に繁体字と簡体字も入っていますが、中国では正規販売していませんからね。それなのに皆さんVPNを利用してアメリカや日本経由で買ってくれているんです。それで売り上げを見ると、中国元での売り上げがあるから「なんで?」と。最初からわかってやっていたこととはいえ、アメリカ、日本の次に売れる、中国でもそんなにプレイしてくれる人がいるんだ、とちょっと意外でしたね。
あと売り上げ4番目のフランスですが、実は『戦場のフーガ』シリーズの舞台であるガスコという大陸のモチーフがフランスで、フランス語も作中に少し出てきているんです。意図的にフランスで売りたいという考えがあって、戦略的にフランス語を取り入れていたんですよ。
――その結果、国別に見てフランスが4位に食い込んだと。
松山氏:
そうです。これは狙いどおりですが……、やっぱり中国は意外でしたね。
――ファンベースが広がっている印象はありましたか。
松山氏:
もちろんです。年々『戦場のフーガ』シリーズは売り上げを伸ばしていて、もう少しで全世界シリーズ累計ダウンロード数50万本を達成しそうなんです。『戦場のフーガ3』が発売となるタイミングで間違いなく達成しますね。ファンアートや、公式の配布素材を利用したいわゆるネットミームも増えていて、ファンベースはどんどん広がっていると感じていますね。
サイバーコネクトツーは、なぜケモノを酷い目に遭わせるのか
――そんな『戦場のフーガ』シリーズではケモノたちがひどい目に遭います。ケモノ好きの人たちにわざわざエグめのコンテンツを供給しているわけですが、怒りの声などはこないのでしょうか?ケモノの子どもの命を犠牲にして形勢逆転する、ソウルキャノンという邪悪システムがあるわけで……。

松山氏:
それはまったくないですね。本作の特徴のひとつである「子どもの命を犠牲にして放つソウルキャノンという兵器がある」という要素を箇条書きにすると、随分酷いことをするなぁ、ってなりますが、実際に遊んでみると、結局ソウルキャノンをいかに撃たずに勝利するかっていうことを求めるゲームなのは、もうわかっているじゃないですか。なので、皆さんそこの駆け引きを「絶対撃つもんか」っていう気持ちで、心をひとつに頑張ってくれているので、皆さんすごくポジティブに受け止めてくれていますね。
――とはいえ、ストーリーの不可避な部分で、ケモノたちが酷い目に遭います。なぜ。
松山氏:
だって、少年漫画の成長に障害はつきものでしょう。
――酷い目に遭わせる理由、少年漫画ルーツだった。
松山氏:
だからプレイヤーは一丸となって、「俺が何とかしてやるぜ」と頑張ってバトルをしてくれるわけです。ちゃんとそこを設計していますからね。
――キャラクターの成長とプレイヤーを奮い立たせるためには、犠牲は仕方ないと。
松山氏:
酷い目に遭わせないでねっていう。酷い目に遭いにいくこともできるけど(笑)まあ、戦争に巻き込まれているので……、仕方ないです。
――ケモノの平和に暮らしてもらいたいという気持ちはなく?
松山氏:
平和に暮らしてもらいたいからこそ、勝ち取ってもらうんです。だから戦火を突き進むしかないんですよ!酷い目に遭いながら。

――かわいい子には旅をさせろ、と。
松山氏:
そうです。成長なくして真の平和は訪れないです。
――怖めのお父さんの発想ですね(笑)でも、そのハードな設定も踏まえて、受け入れられているわけですね。ちなみに、特に欧米のユーザーは本作をどのように受け止めていますか。
松山氏:
やっぱりちゃんと狙ったとおりのところに刺さっていますね。たとえば、これはメディアさんからいただいた声ですが……、第1作目の『戦場のフーガ』のとき、チュートリアルでソウルキャノンを撃たせるじゃないですか。「ソウルキャノンを撃った後、服を着たままシャワーを浴びて反省した」っていうコメントをいただきました。
――(笑)
松山氏:
どれだけショック受けたの、っていう話ですよね。その辺りのユーモアも含めてアメリカの方らしいなと思いますね。ケモノたちの凄惨な戦いと運命を描いたゲームで、それを受け止めた上で前に進んでいかなきゃいけないっていう、子どもたちの葛藤もゲームの中で表現して、それを皆さん素直に受け止めてくれています。メタスコアも85点って……、いや、なかなかのスコアだと思うんですよ(第一作目・第二作目共に85点前後を記録)。なので、ゲーム的にも物語的にも、すごくポジティブに受け止めていただけていて、手応えを感じていますね。
――プレイヤーの人がゲームの展開を見て「うわ、ショックだ」ってなっているのを見て、松山さまはやっぱりニヤニヤされているんですか。
松山氏:
……するよね。
――悪っ。
松山氏:
いやいや、するでしょそれは!だって設計しているんだから!そう思ってほしくて作っているんだから、ショックを受けてくれたら、それはもう、してやったりですよ。

――それはやっぱり、憎めとか、ショックを受けろって思いながら見ているんですか。
松山氏:
いやいや、負の感情だけじゃなくて、一喜一憂してほしいっていう。で、感情を揺さぶるために我々は設計しているんで、やっぱり絶妙な匙加減が必要なんですよ
胸糞はやっぱり駄目なんですよ。「ふざけんな、なんやこれ!」って、それで怒らせて終わったら駄目なので、このギリギリのところなんですよ。ギリギリのところを攻めて、「いや、俺が何とかしなきゃいけない感じなの?まあ、やるけどね」っていう背中を押す気持ちに、生かさず殺さずで前に進ませるっていう。これがある意味ゲームデザイナーというか、設計者のある種の誉れみたいなところがあるので、狙いどおりにハマってくれるとやっぱり嬉しいですよ。
――ひとりのプレイヤーとして、胸糞悪いのラインを越えていると感じますが……。
松山氏:
守ってるよ!何ならちょうどいいわ!……まあ、そこは人それぞれのところかもしれません。
――開発者としてはちょうど良いラインを常に狙っていると。
松山氏:
「うしおととら」や「からくりサーカス」を読んで、エグ過ぎるとか胸糞が悪過ぎるって思わないじゃないですか。そういう話もありつつ、ギリギリのところで物語が太陽に向かっているんだなっていうのは、やっぱり作家性から感じるじゃないですか。それと一緒ですよ。
――仰るとおりだなと思います。『戦場のフーガ』は、鬱ゲーとは言われませんし、弊誌でも過酷とか絶望、極限というワードを使っていて、特に過酷という言葉が似合うゲームだなと思います。
松山氏:
過酷であることは間違いないですね。
――はい。
『戦場のフーガ3』は5月29日に、PC(Steam/Epic Gamesストア)/Nintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One向けに発売予定だ。
[執筆・編集:Koutaro Sato]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]