Paradox歴史ストラテジー『Europa Universalis V』は「史上最高・最大の戦略ゲーム」を目指した、なので他シリーズのいいところも取り入れて“パラドゲー集大成”に。狂気じみた作りこみを開発者に訊いた

歴史グランドストラテジーゲーム『EU5』の開発目標や、日本のParadoxファンに対して抱いている思いなどを開発者にうかがった。

Paradox Interactiveは『Europa Universalis V』(以下、EU5)を11月5日に配信中だ。対応プラットフォームはPC(Steam)で、ゲーム内は日本語表示に対応している。

本作は歴史グランドストラテジーゲーム『Europa Universalis』シリーズの最新作だ。前作のリリースからおよそ12年ぶりの新作となる。本作ではキャラクターたちの結婚相手を選ぶことができ、統治者を政略結婚させることが可能。子どもの外見は両親の遺伝子に基づき変化するという。またPOPと呼ばれる民衆ひとりひとりの挙動がシミュレートされており、プレイヤーはPOPの需要を満たして満足度を高めていく必要がある。

こうした要素はこれまでの『EU』シリーズというより、『Crusader Kings』や『Victoria』などParadoxの他作品で強く扱われてきた要素だ。『EU5』は他シリーズの要素も取り込んだ、壮大な作品になっていることが伺える。しかしなぜ本作にはここまで多くの要素が盛り込まれたのか。弊誌は東京ゲームショウ2025会場にて、『EU5』開発者へインタビューを実施。本作の開発目標や、日本のParadoxファンに対して抱いている思いなどをうかがうことができたため、本稿でその内容をお伝えする。

Paradoxの集大成を目指した

――自己紹介をお願いします。

Stefan Vonboe Lang氏(以下、Lang氏):
Stefan Vonboe Langと申します。Paradox Tintoで『EU5』の開発をしており、3DCGチームコーディネーターとキャラクターアーティストを務めています。

Paradox Tintoは2020年にスペインのバルセロナ近郊に新設されたスタジオです。『EU』シリーズの開発に特化したスタジオとなっていて、これまで『EU4』のDLCの制作と並行して『EU5』の開発を進めてきました。

――本作の開発チームはどの程度の規模でしょうか。

Lang氏:
社内スタッフの数でいうと30人ほどです。大人数ではありませんが、主要部分はすべて社内で開発しつつ、外部委託も多く活用しています。細部のアートなどはフリーランスに委託しており、スタッフロールに名前が載る人数は500〜600人にのぼります。

――『EU5』がどんなゲームなのか、あらためて説明をお願いします。

Lang氏:
『EU5』は究極のグランドストラテジーゲームです。プレイヤーは世界中の勢力から自分の国を選び、1337年から1837年まで操作します。我々は本作の開発において、歴史上のこの時代に起きたあらゆる出来事を網羅すべく努めました。プレイヤーは戦争をおこない、交易をし、住民を管理して、疫病に対処することになるでしょう。

――1337年スタートというのは前作『EU4』より100年ほど早い設定ですが、なぜこの年代を選ばれたのでしょうか?

Lang氏:
この年を選んだのは、非常に興味深い歴史的事件の数々が始まる直前だからです。ヨーロッパでは百年戦争が始まった年であり、黒死病が猛威を振るいだす寸前でもあります。また日本でも内戦が起き、北朝と南朝の争いが始まっています。また中東でも巡礼が非常に重要な出来事として起きていました。世界各地の情勢が興味深く、ゲームを始めるのによい年だと判断したため1337年を選びました。

――本作の開発の目標を伺ってもよいでしょうか。他のParadox作品の要素を多く取り入れているようですが、狙いは何ですか?

Lang氏:
本作における我々の目標は、「史上最高かつ最大のグランドストラテジーゲーム(the best and grandest grand strategy game ever)」を作ることでした。そのためにはほかの作品の良い部分を認め、それを活かすべきだと考えました。『Crusader Kings III』のキャラクター要素や『Victoria 3』の経済システムなど、さまざまなタイトルの最良の部分を『EU』シリーズに取り入れることで最高のゲームを作れると考えたのです。Paradoxの集大成となるゲームを目指したとも言えます。

――史上最高のストラテジーゲーム。とても野心的です。

Lang氏:
はい。実際『EU5』のスローガンは「Be ambitious(大志を抱け)」なんですよ。

初心者でも楽しめるようにAI補助を導入

――壮大な作品であることは伝わってきましたが、要素が多くて圧倒されてしまうのではないかと少し不安に思っています。たとえばParadoxのゲームをこれまで遊んだことがない初心者でも、本作は楽しめるでしょうか。

Lang氏:
本作にはAI自動化機能があり、プレイヤーは国家運営のさまざまな部分をAIに任せることができます。たとえば本作の交易を自力で運営するのが難しいと思ったら、交易部分だけAIにゆだねて、プレイヤーは戦争と建築だけに集中することもできます。AI機能を活用すれば、初心者でも楽しめる作品になっていると思います。

――AIが助けてくれるので圧倒される心配はないと。

Lang氏:
その通りです。一方でプレイヤーが望むならAI機能を適宜オフにして、すべて手動で運営することも可能です。初心者からベテランまで、幅広い層が楽しめるバランスというのが、本作の開発において常に意識していたことです。ただ大国はどうしても管理すべき要素が多くなってしまいますので、初心者の方は最初は中小規模の国を選ぶことをオススメします。

初プレイおすすめはデンマーク

――具体的に初心者におすすめの国はどこですか?

Lang氏:
私はデンマーク出身なのですが、デンマークは手ごろなサイズで初心者のファーストプレイにはおすすめです。そのほかではアラゴン・ポルトガル・ナポリあたりも、ゲームに慣れるまで遊ぶのに向いている国家だと思います。

――Paradoxのゲームではスウェーデンが初心者におすすめされることも多いですが、本作のスウェーデンはどうでしょうか?

Lang氏:
スウェーデンもよい国ですよ。初プレイの候補に入れてもよいと思います。ただ私は申し上げた通り、デンマーク出身なので……デンマーク、おすすめですよ(笑)

――(笑)ゲームに慣れてきたプレイヤー向けの、チャレンジングな国も教えてください。

Lang氏:
フランスは難しいですが、面白い国家になっていると思います。ゲーム開始時点でイングランドが目の前に立ちふさがっており、彼らはフランスより強力です。プレイヤーは格上のライバルに挑み、百年戦争を切り抜けなくてはなりません。程なく黒死病も襲来するためゲーム開始直後の状況は厳しいですが、イングランドからフランスを守り抜くのはよいチャレンジになるでしょう。

――黒死病についてもう少し詳しく教えてください。

Lang氏:
黒死病は交易や敵軍の存在を通じて感染が広がります。交易を断って世界から孤立すれば被害を抑えられますが、何もしなければ国の人口の半分を失うかもしれません。どう対処するかはプレイヤー次第です。

――疫病の対処についてAIに頼ることはできますか?

Lang氏:
いえ、黒死病の蔓延のような重大な事件については、プレイヤー自身が判断する必要があります。AIが補助するのはあくまでも国家運営の基本的な部分です。重要な出来事にどのように対処し、どんな物語を紡いでいくか、というのが本作の肝の部分であり、選択はプレイヤーの手に委ねられています。

国としても、“いち大名”としても遊べる

――本作における日本の状況はどのような感じでしょうか。

Lang氏:
南北朝時代の日本はゲームスタート時点で内戦下です。無数の大名が派閥に分かれ、互いに争っています。統一された日本としてプレイすることも可能ですが、大名から自勢力を選んで日本国内の一大名としてプレイすることも可能です。ただ初プレイで遊ぶなら、統一された日本で始める方が分かりやすいと思います。ゲームに慣れてきたら小さな大名家を選んで、勢力拡大しながら日本統一を目指すのも楽しいですよ。

――国家そのものだけでなく、大名などさまざまな形態の勢力で遊ぶことができる。

Lang氏:
はい。本作には通常の国のほかに、軍隊ベースの勢力や建物ベースの勢力などがあり、それぞれユニークなメカニクスをもっています。また政体も君主制、共和制、司教領、遊牧民など、さまざまな形態が用意されています。プレイする国によって、ゲームプレイもまったく変わってきます。

――それぞれの国に固有の仕組みがある?

Lang氏:
はい、すべてユニークです。とても膨大でクレイジーな規模です(笑)

リサーチは徹底的に。でも史実にプレイヤーを縛らない

――世界中の歴史や文化を調べ、ゲーム内容に反映させるのはとても大変だと思うのですが、どのようにリサーチに取り組まれているのでしょうか。

Lang氏:
Paradoxには素晴らしいコンテンツデザインチームがおり、あらゆる文化・宗教・歴史的要素について徹底的にリサーチを行っています。歴史学を専門とする教授も参加しており、可能な限り史実に忠実になるように、懸命に取り組んでいます。

――歴史的正確性とゲームプレイの自由度のバランスについてはどのようにアプローチしていますか?

Lang氏:
ゲームはあくまでもゲームであり、ドキュメンタリーではないと考えています。我々が目指しているのは「歴史的に正確(historical accurate)」なことではなく「歴史的に真実味がある(historical authentic)」ことです。史実の名のもとに、プレイヤーを束縛することはしたくありません。基本的にゲームでは、プレイヤーがやりたいことを自由にできるサンドボックスを提供したいと考えています。

イベントの選択肢がよい例になるでしょう。本作の多くのイベントでは、史実でどの選択肢が選ばれたかというのが分かるようになっています。しかし特定の選択肢を選ぶようにプレイヤーに強要したりはしません。プレイヤーは自分の望んだとおりにプレイできるのです。史実通りにプレイしたいなら、それはそれでまったく問題ありませんが、別の道を選ぶこともできます。

ゲームではモロッコでスペインを占領してもよいし、日本で世界征服を試みてもよいのです。重要なのはプレイヤーに選択肢を与えることだと思っています。史実通りに遊びたいプレイヤーと、自由に遊びたいプレイヤー両方が満足できるように、バランスをとることが重要です。

注目各国の情勢いろいろ

――個人的に気になる国々についてお伺いしたいのですが、本作のオスマンの状況はいかがでしょうか?

Lang氏:
この時代のオスマンはまだまだ小国にすぎません。しかし地域の状況をつぶさに見ると、支配的だったビザンツ帝国は衰退しており、一方のオスマンには勢いがあります。ビザンツ帝国からコンスタンティノープルを奪い、周辺の小国を征服すれば、皆さんがよく知るオスマン帝国が誕生しますよ。

――ビザンツ帝国の状況はどうでしょう?個人的に一番気になっている国です。『EU4』では滅亡寸前で、風前の灯火でしたが……

Lang氏:
ビザンツ帝国はいつでもファンのお気に入りですからね(笑)前作よりはマシな状況ですが、それでも勢力を維持するのは難しいです。とはいえプレイヤーが操作して頑張ればもちろん生き残ることもできます。

――神聖ローマ帝国では300の諸侯が実際に登場するとうかがいました。

Lang氏:
狂気じみてますよね、本作の神聖ローマ帝国はすごいですよ。無数の法律を導入することができ、都市国家一つ一つに至るまで気にかける必要があります。個人的にはやることが多すぎて圧倒されてしまいますが(笑)チャレンジを求めるなら、神聖ローマ帝国を運営してみるのはよいと思います。初心者向きではないですが興味深い勢力です。

――モンゴル帝国はどうですか?『Crusader Kings III』では非常に強力でした。

Lang氏:
本作でも依然として強力です。ただ全盛期は過ぎ去っているので、『Crusader Kings』ほどではありません。実を言うとモンゴル帝国は調整が難しく、開発中のバージョンでは強くなりすぎたり、あるいは弱くなりすぎてしまったりしています。遊牧民らしさを出すために、宣戦布告なしで土地を奪える仕様を導入したこともあったのですが、あまりに強すぎたため削除しました。適切なバランスを模索して現在も調整中です。

――中国の状況はいかがでしょうか?元朝の時代だと思いますが。

Lang氏:
そうですね、ゲーム開始時点ではモンゴル人が支配階級となっています。中国として遊ぶならモンゴルと戦いつつ、ほかの軍閥に土地を奪われないように賢明に立ち回る必要があるでしょう。非常に広大で、プレイするには難しい国です。日本もそうですが、中国には大変熱心なプレイヤーコミュニティが存在しており、彼らからフィードバックが開発に役立っています。

日本のファンは“パラドゲー”を熱烈に愛してくれている

――近年、Paradoxのゲームは公式で日本語にローカライズされるようになっています。本作も発売初日から日本語に対応とのことですが、日本市場に力を入れているのでしょうか?

Lang氏:
ええ、もちろんです。日本におけるPCゲーム市場の拡大にともない、弊社作品の日本人プレイヤーベースが大幅に拡大しています。彼らは本当に素晴らしいファンで、Paradoxのゲームを熱烈に愛してくれていると感じています。こうした様子は見ていて本当に嬉しいものです。私たちは常に日本のコミュニティからフィードバックを求めており、ゲーム内の日本を可能な限り正確に表現し、翻訳もできる限り高品質なものにするように努めています。

――リリース後のアップデートやDLCは予定されていますか?

Lang氏:
はい、弊社のほかの作品と同様に、常にアップデートやパッチを提供していきます。すでにDLCのロードマップを公開しており、最初はビザンツ帝国に焦点を当てたものが登場予定です。次にスペインとモロッコ、さらにその後にはフランスとスコットランドをテーマとしたものが登場します。

――最後に、日本のプレイヤーにメッセージをお願いします。

Lang氏:
これまでと同じように、これからもコミュニティの一員として素晴らしい活動を続けてください!フィードバックもいつでも歓迎しています。皆さんが本作を楽しんでくれることを心から願っていますが、あまり寝不足にはならないように(笑)

そして本作のスローガンの通り、大志を抱いてください!(Be ambitious!)本作は世界征服がかなり難しくなるように調整したつもりです。よろしければお好きな日本の大名から始めて、世界征服にチャレンジしてみてください。もし達成したらSNSでその偉業を共有して、ぜひ私たちに教えてくださいね。達成したら自慢できるようなユニークな実績もいろいろと用意していますよ。

――ありがとうございました

『Europa Universalis V』はPC(Steam)向けに、11月5日より発売中だ。ゲーム内は日本語表示に対応する。

Akihiro Sakurai
Akihiro Sakurai

気になったゲームは色々遊びますが、放っておくと延々とストラテジーゲームをやっています。でも一番好きなのはテンポの速い3Dアクションです

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