大ヒットJRPG『Clair Obscur: Expedition 33』開発者インタビュー。少人数開発の裏側や、欧米が抱えるターンベースRPGへの偏見、そしてAAゲームの未来まで、根掘り葉掘り聞いた

世界的にヒットを飛ばしたターンベースRPG『Clair Obscur: Expedition 33』の開発会社「Sandfall Interactive」へのインタビューを実施した。

神奈川県は横浜市、みなとみらいにて「CEDEC2025」が開催された。ゲームに関する技術や知識を共有する国内最大級のカンファレンスだ。これに合わせて、世界的にヒットを飛ばしたターンベースRPG『Clair Obscur: Expedition 33』の開発会社「Sandfall Interactive」へのインタビューを実施した。今回は開発環境や、AAゲームの今後について聞いてみた。

今回のインタビューは、Epic Games Japan協力のもと、Guillaume Broche氏 (CEO & Creative Director)ならびに、Tom Guillermin氏 (CTO & Lead Programmer)に対して行われた。

[AD]

――『Clair Obscur: Expedition 33』は大ヒットしています。ここまで売れるのは想定していましたか?

Guillaume氏:
本作はニッチなジャンルのゲームだと認識していたので、ここまで売れるとは思っていませんでした。今でも驚いていますし、同時に嬉しく思っています。

――御社は少数精鋭のスタジオとして名が広まっています。気になるのはゲームを開発、販売するにあたって、社内のリソースを「どのように分配したか」です。本作の開発においては、何を外注して何を内製しましたか?

Guillaume氏:
基本的に、ゲームエンジン(Unreal Engine)を直接触る必要がある部分に関しては内部で作業していますQuality Assuranceや、ローカライズ、マーケティングに関しては外注しています。中でも各プラットフォーム対応に関して、PC以外のところはEbb Softwareにたくさん手伝ってもらいました。

理由としては、パブリッシャーさんから紹介を受けました。彼らは『Scorn』(※)を、我々と同じくKepler Interactiveからマルチプラットフォームで発売しています。ただ、彼らとの連携自体は難しかった。というのも、私はUbiという完全内製が可能な大きな会社にいたものですから、仕様に関する情報の共有を他社と行うという経験があまりなかったんです。

※『Scorn』……ホラーFPSアドベンチャー。H.R.ギーガーやズジスワフ・ベクシンスキーから影響を受けたとされるアートスタイルで著名。

ですが、Ebb Softwareさんは本当に頼もしかったです。彼らのお陰で、私たちはゲームづくりに専念することができました。最適化については我々も少し対応しましたが、ほとんどはEbb Softwareさんにお願いしましたね。

――おめでとうございます。ユーザーに提供する体験を考える上で大切にしていることはなんでしょうか?

Guillaume氏:
「場面ごとにプレイヤーの感情を揺さぶる」にはどうすれば良いのかを意識して開発しています。そのために、隅々まで注意を向けました。脚本をはじめ、俳優さんへの演技指導といった部分まで、目を光らせました。

――本作は特にビジュアル、戦闘メカニクス、BGM、ストーリーという4つの要素に力が入っています。ただ少人数開発という都合上、どの要素にリソースを集中するか議論があったと思います。どのような議論をして、どのような選択をしたのでしょうか。

Guillaume氏:
あなたがいま例に挙げたような「目立つものに力を入れる」というのは、予算の都合はもちろん、そこにリソースを集中することで、自分たちが作っているゲームの方向性が、プレイヤーのみならず、開発メンバー内でも分かりやすくなる、という狙いもありました。

何に社内のリソースを割くのか、というのはUnreal Engineの機能をもとに決めました。背景美術の担当が5人。ストーリーが2人。シネマティクスが3~6人などといった感じですね。あと音楽は4人でやりました。

――本作は音楽が豪華ですが、たった4人ですか。

Guillaume氏:
めちゃくちゃ優秀なメンバーだったので(笑)

――音楽だけでなくどのパートも少人数で、まさに少数精鋭ですね。どこからそんな人材を集めてきたんですか?

Guillaume氏:
会社を立ち上げて、最初のメンバーを集めるための面接は200回近くやりましたね。選考は厳しかったですよ(笑)そのあと行った面接に関しては、私達の意向として、業界のシニアな熟練者ではなく、ガッツのある若い人材を採ることに集中しました。

――若いクリエイターはフランスにたくさんいるのでしょう?

Tom氏:
いますね。VFXアーティストとキャラクターアーティストの2人は当時、専門学校を卒業したばかりで、初めての仕事が本作でした。キャリアが浅いゆえに、働き方に対してこだわりがない、というのも良かったかなと思います。特殊な働き方に柔軟に合わせてくれていた(笑)

開発規模は拡大しない

――そんな中で、今後開発規模を拡大したいと思いますか。

Tom氏:
とりあえず今は少人数がいいなと思っています。理想的なチームの規模は……わかりません(笑)ただ、フルプライス級のターンベースRPGをまた作るなら今のくらいが丁度いいかな。

――本作は日本のターンベースなRPGが作品のベースになっていますが、筆者が思うに、まだ欧米において「日本のターンベースRPGはつまらない」という偏見はあると思っています。(メタファーなどの躍進を鑑みても)特に欧米のゲーマーに向けて販売するうえで、どういった工夫を作品に組み込みましたか。

Guillaume氏:
その偏見に対する愚痴は何時間でも話せるよ(笑) 個人的にはXbox360まで凄く日本のターンベースRPGは人気だったけど、ゲームメディアを通じてオープンワールドゲームが流行り始めたあたりから「ダサい」っていう偏見が生まれたと思ってます(笑)実際『ペルソナ』シリーズをはじめ、ターンベースのRPGは数字としては売れているんだけど、偏見はまだ解消されていない感触はあります。

ただ、ターンベースRPGへの偏見の対策としてパリィアクションや物語体験を作ったわけではありません。自分たちが作りたかったからです。そもそもパリィシステム自体は本作に最初から入れようと思っていました。しかし、うまくいかなかった。そんな折、当時プレイしていた『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』にインスピレーションを受けて、今の形になったという経緯があります。

今後のゲーム開発はどうなるか?

――ゲーム業界において膨れ上がる開発費が問題となっている昨今ですが、御社のような開発スタイルは今後流行すると思いますか。

Guillaume氏:
コストの肥大化を通じて、我々のようなAAクラスのゲームを制作していく、という形は増えていくと思います。Unreal Engineのお陰で制作規模に対し、かけるべきリソースの大きさが分かりやすくなり、比較的少人数でも効率よく面白いゲームを開発することができるようになりました。最近だと『The Alters』(※)がいい例ですね。

(※)『The Alters』……11 Bit Studiosが開発・発売したサバイバルゲーム。主人公は並行世界の自分を模したクローン“オルター”を生み出し、彼らと共に極限の環境を生き抜くことになる。

Tom氏:
青天井のクオリティUP要求についていけるメーカーがそこまで多いと、私は思っていません。応えることができるのはRockstar Gamesくらいでしょう。よって、開発予算にも上限ができて、必然的に我々のような開発形態に落ち着くところが増えるのではないかと思っています。

――今後も期待しております。ありがとうございました。

Guillaume氏とTom氏:
こちらこそ、ありがとうございました。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

記事本文: 292