Paradox中世シム『クルセイダーキングス Ⅲ』開発元によると、DLCの「平安時代」の描写がめちゃくちゃ大変だったらしい

Paradox Interactiveは『Crusader Kings III(クルセイダーキングス Ⅲ)』を配信中だ。対応プラットフォームはPC(Steam/Microsoft Store)/PS5/Xbox Series X|Sで、ゲーム内は日本語表示に対応している。

『Crusader Kings III(以下、CK3)』は中世世界を舞台にした歴史ストラテジーゲームだ。本作では国や勢力ではなく、有力者の一族を操作することになる。一族の当主の視点で領地を運営しつつ、代替わりを繰り返して子孫を繁栄させていく。

『CK3』のSteam版は、今年の10月29日に公式日本語対応がされたばかり。またあわせて、日本を含む東アジアを舞台とするDLC「All Under Heaven」もPC版向けに発売されている。そこで今回弊誌は、本作開発元にメールインタビューを実施。平安時代の日本をゲームで再現する苦労やこだわり、ファンへの想いなどについて話を訊いた。本稿にてその内容をお伝えしよう。

──自己紹介をお願いします。

開発チーム:
こんにちは!私たちは Paradox Development Studio Black です。スウェーデン・ストックホルムのオフィスで、『Crusader Kings III』を制作しています。

『CK3』はロールプレイング・ストラテジーゲーム

──『CK3』はキャラクターにフォーカスしているなど、Paradoxのほかのストラテジーゲームとは違った特色がある作品だと思います。改めて本作の特徴や魅力を教えてください。

開発チーム:
まさにその、キャラクターにフォーカスしている、というのが最大の特徴です。Paradoxの多くのゲーム、特に『Victoria 3』や『Europa Universalis V』は人々を「集団」として描いていますが、『Crusader Kings III』は人々を「個人」そして「家族」として描いています。

プレイヤーは一人のキャラクターとして世界を眺め、支配しようとすることになり、そしてそのキャラクターの後継者として、世代を重ねていくことになります。もちろん、帝国同士や軍隊が争うグランドストラテジーゲームとしての枠組みはありますが、それと同時に、キャラクター同士がこの中でどう関わり合うか、という点も重要なのです。

また『Crusader Kings III』では、キャラクターのストレスという概念を導入しました。これは、大局的に見て好ましい戦略を選ぶことが、ときにキャラクターの性格と相反してしまうことがある、というアイデアです。たとえば、操作中のキャラクターが「公正」な性格にもかかわらず、ライバルを不当に処刑しようとすると、キャラクターは精神的に傷つくことになります。

この仕組みによって、プレイヤーはキャラの立場に立ち、本当の意味でロールプレイをすることが促されます。私たちはこのロールプレイ性こそが、『Crusader Kings III』を他の作品と決定的に差別化している要素だと考えています。

日本には相当数のファンがいる

──『CK3』は2020年にリリースされたゲームですが、今回ついに公式日本語化されました。なぜこのタイミングで実装されたのでしょうか。要望が多かったのですか。

開発チーム:
そうですね。日本には私たちのゲームを楽しんでくださっている相当数のファンがいます。また、ゲームデザインの観点から見ても、ストラテジーRPGというジャンルは日本に強いルーツがあります。そのため以前から、本作もいずれ日本で存在感をもつことになるだろう、という予感はありました。

近年、我々はアジアのファンとの交流を強化しています。日本語ローカライズを実現するのは自然な流れで、あとはいつ実施するかという時期の問題だけでした。そして、アジアの歴史をテーマにした「All Under Heaven」のリリースは、日本語ローカライズを配信するのに絶好のタイミングだったのです。

──ローカライズと同時に、最新の大型アップデートでは日本を含む東アジアが追加されました。『CK』シリーズでこの地域が登場するのは初めてですよね。なぜ今回、東アジアを実装したのでしょうか。

開発チーム:
初代『Crusader Kings』のように、マップをヨーロッパや地中海地域に留めることもできましたが、シリーズが成長するにつれて、私たちの野心も大きくなっていきました。『Crusader Kings II』では拡張パックでインドや西アフリカを追加しましたが、『Crusader Kings III』では、中世世界全体を視野に入れるべきだと最初から考えていました。そのため『CK3』では初期バージョンからインドと西アフリカ地域を含めました。

そして、私たちが語りたい物語を考えたとき、東アジアを無視することはできませんでした。中国や東南アジアをマップに含めずに、モンゴル帝国やインド、あるいはマルコ・ポーロの物語を本当に語れるでしょうか?さらに、日本は長年ゲーム文化において重要な位置を占めており、また近年は韓国音楽やドラマの人気も高まった影響で、私たちのコアコミュニティの間には東アジア文化への強い関心があります。

また歴史的に見ても、本作が扱っている年代は、東アジア史において非常に興味深い時代でもあります。中国では唐から宋、そして元へと王朝交代が起きましたし、日本でも平安時代から武家政権への移行が見られます。

平安日本の独自性をできる限り正確に描写

──DLC「All Under Heaven」では、天皇が象徴的な権威を有する一方で、実権は関白や将軍が握る平安期の日本の政治構造が描かれています。日本を実装するにあたって、開発ではどのようなことを意識しましたか。

開発チーム:
ある程度は、DLC「Roads to Power」で導入したビザンツ帝国の「官僚帝国」システムが助けになりました。これは非世襲的な権力と、貴族家門同士の競争や対立を表現する仕組みで、日本の政治構造に近い部分がありました。

しかしこの時代の日本で見られた、貴族から武士への権力の移行という、徐々に進んだ歴史的プロセスを忠実に再現するのは難しいものでした。貴族の権力をあまりに簡単に打ち破れてしまうと、プレイヤーはその体制の意味を理解する間もありません。しかし一方で難しすぎると、多くのプレイヤーが望む「将軍になる」という目標が遠のいてしまい、北海道の一角を300年統治するだけでゲームが終わってしまうかもしれません。

開発チーム内では、日本の政治状況の独自性をできる限り正確に描写することが常に意識されていました。「侍たちの闘争」というイメージに寄りすぎることは避けつつも、歌人や女房が中心の貴族政治に寄せすぎることも避けたかったのです。最終的に、私たちはこの二つの間で良いバランスを取りつつ、律令制から源平合戦までに至る、日本の歴史を表現できたと思っています。特に1178年開始シナリオの状況はよくできていると思いますね。

また、日本の政治状況を描くためのもう一つの大きな課題は、陣営システムのバランスでした。陣営システムは複数の家が集まって同盟を形成し、内では主導権争いをしつつ、組織として外部へ力を行使できる仕組みです。

陣営システムが面白く機能するためには、陣営が強すぎても弱すぎてもいけませんし、物語的にも納得できる必要がありました。たとえば、関白藤原家が率いる陣営が、正当な理由もなくいきなり武士の統治者を受け入れることはないでしょう。

最後に、日本を舞台にした「もう一つの歴史」をプレイヤーが体験できるようにする、という目標がありました。将軍になることに魅力を感じるプレイヤーもいれば、ゲーム開始時点ではほとんど実権をもたない天皇としてプレイし、関白から徐々に権力を取り戻して親政をおこないたいと考えるプレイヤーもいるでしょう。

実際の歴史では天皇親政は確立されませんでしたが、AIにはほぼ不可能だとしても、プレイヤーには実現可能性を残したかったのです。このような高難度の任意目標こそが、『CK3』を歴史サンドボックスたらしめている要素だと考えています。

時代考証は「できるからやる」

──Paradox作品は歴史的ディテールへのこだわりで知られています。『CK3』では、最古の開始年が867年にもかかわらず、天皇家の系図は継体天皇まで遡れます。ゲーム性に直接影響しない部分まで作り込んでいる理由は何でしょうか。

開発チーム:
できるからやった、で答えになるでしょうか?こうした歴史的つながりは、シンプルに興味深いと思います。天皇家のほかにも、たとえばゲーム内ではカトリック教皇の系譜は聖ペテロまで遡ることもできます。

もちろんほとんどの場合、こうした設定はゲームプレイに大きな影響はありません。すべての人物に詳細な家系図があるわけではないので、3世紀の男爵の、孫の孫のそのまた孫が、ゲーム中に突然重要人物になる、ということはまずありません。ですが、ゲーム中に何世紀も過ぎ去り、プレイヤーに今の代だけでなく未来への責任を考えさせるゲームだからこそ、遠い過去を思い出させる背景があって然るべきだと思うのです。

──これほどの歴史考証は非常に大変だと思います。調査はどのようにおこなっているのでしょうか。

開発チーム:
本当に多くの人から助力を得ています。深い歴史知識をもち、コンテンツ開発チームを正しい方向へ導いてくれる国際的なファンコミュニティと協力して、調査と開発をおこなっています。インターネットのおかげで調べ物も30年前よりはずっと簡単になりましたが、より重要なのは正しい情報と歴史的文脈を理解している賢明な人々とコンタクトをとることです。

──平安時代は日本でもなかなか人気の時代で、特に貴族たちの華やかな文化が有名ですが、その点はご存じでしたか?

開発チーム:
ええ、もちろんです。平安時代は、日本史に興味がある人なら誰でもよく知っている時代だと思います。平安時代は絵画や文学など、雅やかな芸術で名高いですが、私たちにとっての課題の一つは、この時代を美術や詩歌だけに焦点を当てずに描くことでした。『Crusader Kings III』は恋愛や裏切りといった人間ドラマを描くのに優れていますが、根本的には政治のゲームでもありますから。「All Under Heaven」は多くの西洋プレイヤーにとって、平安時代の政治的側面を知る入口になっていると思います。

──日本でも、今回の東アジア追加に喜ぶ声は多く見かけます。日本のParadoxファンについてはどのような印象をお持ちですか。

開発チーム:
グランドストラテジーゲームのファンは、好みが非常にはっきりしていることで知られていますが、日本のファンも例外ではありません。とても協力的であり、一方で要求も高い。私たちは、そこがとても気に入っています。

これからも何年も『CK3』を改良し続ける

──今後もアップデートや改善は期待できますか?

開発チーム:
もちろんです。『Crusader Kings III』のマップはこれでほぼ完成したので、これからは細部を充実させ、リリースから5年分のプレイヤー要望に応えることに時間を割けます。2026年に向けても、とても刺激的な計画を用意していますよ。私たちの最良の時代は、まだこれからです。

──最後に、日本のプレイヤーへメッセージをお願いします。

開発チーム:
皆さまの幸運を祈るとともに、日頃のご支援に感謝いたします。これからも中世の世界を探検し、過去を舞台にした新たな物語を紡いでいただければ嬉しいです。

また「All Under Heaven」をプレイしてくださった皆さん、誠にありがとうございます。皆さまからの支持に深く感謝し、今後も何年にもわたって『Crusader Kings III』を改善し続けていきます。

──ありがとうございました。

『Crusader Kings III(クルセイダーキングス Ⅲ)』はPC(Steam/Microsoft Store)/PS5/Xbox Series X|S向けに配信中だ。ゲーム内は日本語表示に対応している。また現在各ストアでセールがおこなわれており、Steamでは1月6日までゲーム本体が定価の70%オフ。DLC「All Under Heaven」と本体がセットになった『Crusader Kings III: Celestial Edition』は、定価の40%オフで販売中だ。

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Akihiro Sakurai
Akihiro Sakurai

気になったゲームは色々遊びますが、放っておくと延々とストラテジーゲームをやっています。でも一番好きなのはテンポの速い3Dアクションです

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