“物語がサンドボックス”に展開される『A Place for the Unwilling』の正体とは?スペインの開発スタジオ「AlPixel Games」に聞く

スペインに位置するインディーデベロッパー「AlPixel Games」は、オープンワールドアドベンチャーゲーム『A Place for the Unwilling』を開発中だ。

スペインに位置するインディーデベロッパー「AlPixel Games」は、オープンワールドアドベンチャーゲーム『A Place for the Unwilling』を開発中だ。本作は「生きている町」を舞台に様々なストーリーが描かれるタイトルで、プレイヤーは流れの行商人としてこの地に足を踏み入れ、日銭を稼ぎつつそれらの物語を追ってゆくことになる。現在はKickstarterにて2万ユーロの獲得を目指すクラウドファンディングを実施している。

AlPixel Gamesの公式サイトやKickstarterのキャンペーンページでは、非常にポエティックかつ抽象的に紹介されてきた同作だが、はたして具体的な中身はどうなっているのか。今回はAlPixel Gamesの代表者でありデザイナーのLuis Diaz氏に、興味深い本作のディテールについて直接うかがった。

選択によっては”町の一部が消失する”

『A Place for the Unwilling』は、見下ろし視点の2Dアドベンチャーゲームである。プレイヤーは行商人として舞台の町で日銭を稼ぎ、様々な物語に関わってゆく。本作のルーツには、海外ではアドベンチャーゲームの古典名作として挙がる『Monkey Island』があるが、Diaz氏は「最終的に本作はどんなゲームとも似つかない作品になるだろう」と話す。

では具体的なゲームプレイはどうなのか、ジャンルはホラーなのかサスペンスなのかと聞くと、Diaz氏自身もどう説明していいのかわからないといった雰囲気。代わりに返ってきたのが、”ナラティブ・サンドボックス”というキーワードだ。本作では、「生きている町」を舞台に多数のストーリーが展開されおり、プレイヤーはそれをサンドボックスゲームのように、自身で選択しながら組み立ててゆくのだという。どういうことだろうか。

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基本的なゲーム画面。所持するアイテムを管理するインベントリ機能や、新聞を呼んだり扉を叩いて人を呼んだりといったインタラクティブ要素がある。ただゲームとしてはパズル要素などは薄く、物語に没入することがメインとなるようだ

『A Place for the Unwilling』の基本的なゲームプレイはこうだ。プレイヤーである行商人は、生活費を稼ぐための仕事を終えたあと、新聞を読んだりほかのキャラクターと交流しながら、1日を過ごしてゆく。そのなかで新たなキャラクターや物語と出会い、そのストーリーラインを追うことになる。ゲーム内は時が流れている上に、特定の時期や場所にだけ展開される物語もあり、これを逃すと特定のストーリーを追えなくなることもあるという。

そしてユニークなのが、”プレイヤーが関わらない人や場所は排除される”という本作特有のデザインだ。まず町中に居る人々は最初”黒い影”で覆われており、プレイヤーが彼らの物語に関わることで初めて影が解かれ素性がわかる。また町の各エリアも、プレイヤーがその場所に関する物語に関わることでアクセスできるようになる。特定のストーリーを追わなかった場合、その町の人や場所を永久に知ることなくゲームを終える場合もあるという。その際には人々の影は解かれず、また町の一部も現れない。つまりそのまま消失してしまうというわけだ。

単に人や場所が消失するというだけでなく、物語はプレイヤーの選択によって大小様々な変化を遂げるという。ネタバレを考慮してか具体的な例は教えてもらえなかったが、物語がまったく異なるものになる可能性もある。『A Place for the Unwilling』では、プレイヤーの選択によって町の人々や場所などその姿がまるで”生きている”かのように変貌し、独自の物語がつむがれるというわけである。これをAlPixel Gamesは”ナラティブ・サンドボックス”と表現しているようだ。

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筆者が聞いてなんとなく思い出したのは『かまいたちの夜』。選択肢によって物語がどれぐらい大きく変化するのかは教えて貰えなかったが、同作ほど中身もジャンルも変化するのならばかなり面白い作品となりそうだ
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『A Place for the Unwilling』には様々な物語が存在するものの、メインとなるストーリーもあり、ゲームとしてエンディングを迎えることは可能なようだ

ゲーム中に登場するキャラクターは合計で17人前後に絞られている。Diaz氏は、作家Terry Pratchett著のファンタジーコミック「Discworld」のような、癖のある登場人物たちばかりだと伝える。完全な善人でも悪人でも無い彼らは、この町で生々しい生活を送っている。町の重大な問題として貧富の差があり、プレイヤーの分身である行商人と商売をする富豪も居れば、彼らを妬む貧乏人たちも生活している。

たとえば小さな話の1つとして、プレイヤーと取引をしている富豪が運営するバーを舞台としたものがある。バーを訪れていた貧乏人たちは酔いが回ったのか、富豪を妬んでいるのでバーを燃やしてしまおうなどと計画を立てている。プレイヤーはここで警察に通報するのか、あるいは見逃すのかを選択することができる。警察に通報すればあなたは感謝されるかもしれないが、もし見逃したのなら、燃え落ちたバーを再建するために富豪に資材などを売りつけることができるかもしれない。

メインストーリーでも、こういった町の貧富の差が1つの大きなテーマとして扱われることになるという。

インディーデベロッパーになって1年

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Luis Diaz氏(via official blog

AlPixel Gamesは、スペインの首都マドリードに位置する設立1年のインディーデベロッパーだ。Luis Diaz氏を筆頭に、2DアーティストのRuben Calles氏、サウンド・デザイナーのCeler Gutierrez氏、ライターのAngel Luis Sucasas氏が所属している。子供のころには『スーパーマリオブラザーズ』や『ゼルダの伝説』といった任天堂タイトルを遊んできたそうで、現在は『Dark Souls』『Bloodborne』といったフロム・ソフトウェアタイトルに夢中だと話す。『A Place for the Unwilling』も、『Dark Souls』や『Bloodborne』のような”間接的に物語を伝える”手法に影響を受けているという。

そして前述した『Monkey Island』も、彼らが子供の頃に遊んでいたゲームの1つだ。『Monkey Island』からさらに出来ることはないのか、という考えから『A Place for the Unwilling』の開発はスタートした。ほかにもスペインの作家Italo Calvinoが1972年に出版した「Invisible Cities」や、アニメーション作品の「Over the Garden Wall」といった作品からも影響を受けたとDiaz氏は語る。ただそういった作品からインスピレーションを得たとしつつも、作品はオリジナリティが溢れるものになると自信をにじませていた。

「AlPixel Games」はとても小さな規模のデベロッパーで、現在は仕事で日銭を稼いだり、親や友人たちにお金を借りながらゲーム開発を続けているという。Kickstarterで集めている2万ユーロは、それらの資金に追加し、さらに開発を加速させるために費やしたいと考えているようだ。今回のインタビューでゲームの全貌がわかったようには思えないが、「ナラティブ・サンドボックス」という夢が果たして完成するのか、今後も彼らの物語を追っていきたい。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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