コジプロ開発者に訊く『DEATH STRANDING 2』ゲームエンジン「DECIMA」の強み。“あのシーン”はなんとポリゴン数2500万、ぬるぬる動かす描画性能

『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』の開発者に、前作以上にパワーアップした映像表現が実現された背景を訊いた。

KOJIMA PRODUCTIONSが手がけた『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』(以下、DEATH STRANDING 2)は、フォトリアルなグラフィックが安定したパフォーマンスで描画される点でも高い評価を受けてきた。砂嵐や巨大BT同士の戦闘など、前作以上にパワーアップした映像表現はどのように実現されているのだろうか。KOJIMA PRODUCTIONSにてチーフテクノロジーオフィサー(CTO)を務める酒本海旗男氏に話を伺った。

『DEATH STRANDING 2』は、『DEATH STRANDING』の続編となるオープンワールドアクションアドベンチャーゲームだ。舞台となるのはデス・ストランディングと呼ばれる現象の発生により人類が分断され、滅亡の危機にある世界。本作でもサム・ポーター・ブリッジズを主役に、前作の11か月後から始まる物語が描かれる。本作でも配送を主体とするアクションは健在。未知の荒野にて、変化する時間・天候・自然そのものがさまざまな景色と挑戦を与え続ける。

前作に引き続き、本作にはゲームエンジンとして「DECIMA」が用いられている。『Horizon Zero Dawn』などの開発元として知られるGuerrilla Games(以下、Guerrilla)の内製ゲームエンジンだ。フォトリアルなグラフィックが特徴となる『DEATH STRANDING』の開発にあたっては、Guerrillaとの協力体制でDECIMAに改良が加えられていったという。

今回弊誌はKOJIMA PRODUCTIONSにてCTOを務める酒本海旗男氏にメールインタビューを実施。『DEATH STRANDING 2』にて進化を遂げた映像表現の裏で、DECIMAがどのように用いられているのかを訊いた。

──酒本さまの自己紹介をお願いします。どのようなキャリアをお持ちなのでしょうか?

酒本氏:

KOJIMA PRODUCTIONSでCTOを担当しております酒本です。KOJIMA PRODUCTIONSには設立直後からジョインしており、入社1年後からCTOを担当しております。

以前は大手ゲーム会社に所属しておりました。以前からグラフィックスのプログラムを行っていた経緯から社内で利用するゲームエンジンの開発に関わることになり、またそのエンジンを利用して制作を行っていたタイトルの開発に関わっておりました。

──KOJIMA PRODUCTIONSではゲームエンジンに「DECIMA」を使われていますが、DECIMAへの第一印象と、いまの印象に変化はありますか?

酒本氏:

DECIMAの導入を検討している際に自分の方でも評価をさせていただいたのですが、実際にオープンワールドのゲームをチームで制作する際に欲しい機能が揃っているな、という印象でした。商用のゲームエンジンに比べてとっつき難い部分はありますが、ランタイムで動作するレンダリング解析機能等は他のツールを起動することなく多くの情報を得ることができ、とても開発に役立っています。また多人数で開発することが想定された開発環境は、前職で開発していたゲームエンジンでこうしたかったなと思っていた機能のいくつかが実現されておりました。これらを踏まえて導入を決めました。

使い始めてもうすぐ10年ですが、もちろん他のゲームエンジンに何もかもが勝っている訳ではありませんが、DECIMAだからできていることも多くあるなと考えています。

──『DEATH STRANDING 2』は、モデルだけでなく環境の美麗な描写も非常に高く評価されています。特に冒頭シーンは象徴的で、凄さの秘訣を教えてください。

酒本氏:
冒頭の風景は、カリフォルニア州に実在するFonts Pointという場所をゲーム内で再現するにあたり、徹底した現地取材を行い、リアリティの追求を目的として膨大なリファレンスを収集しました。

見渡す限りが砂岩で構成された壮大な地形を表現するには、大量のジオメトリとライティングが鍵となるため、特にこの点に注力して制作を進めました。ジオメトリについては圧倒的な物量が必要になることから、砂岩単位でデータ構成とLOD(Level of Detail)段階を調整した3種類のデータを用意しました。これらを描画距離に応じて動的に切り替えることで、密度感のある自然地形を再現することが可能となりました。最終的なポリゴン数は約2500万に達しましたが安定したフレームレートで描画できたのは、DECIMAの描画性能によるところも大きかったと感じています。

ライティングに関しては、実際の照度計測をもとに、ゲーム環境内で物理的に正しいライティングが行えているか検証と調整を重ねました。また実写リファレンスとの比較を通じて、GI(グローバルイルミネーション)とSSAO(スクリーンスペースアンビエントオクルージョン)だけではアンビエントが支配的になる時間帯においてオクルージョン成分が不足していることに気付きました。

そのため中遠景でSkyLightを制御するための専用オクルージョンマップを追加し、最終的な画のクオリティ向上に大きく貢献しました。これらの技術的な工夫と、DECIMAが持つ描画能力の融合により、美しい風景を実現することができました。

──ポリゴン数2500万も……。フレームレートの安定感といえば、前作よりも派手なオブジェクトが動き回るようになりましたが、花火だらけのシーンでもパフォーマンスが安定したままで驚きました。

酒本氏:
花火についてはコンセプトアートの段階にて「メキシコの死者の日のお祭り」を想像するような、多くの花火を出したいという要望がありました。元々は『DEATH STRANDING』の時にBT向けにパーティクルを多く出すシステムを用意していたのですが、それを発展させる形で改良をし、花火も表現できるように対応しました。専用化したおかげでリフレクションの実験もしやすくなりました。

──BT向けのシステムが発展を遂げて花火になっていたとは。ところで、DECIMAを扱うのはプログラマーのみでしょうか?過去のインタビューでは、シェーダーをアーティストが作れるようにしている、といったコメントをお見受けしました(Game Watch)。

酒本氏:

ゲームエンジンというと、ゲーム自体の表現に関わる部分に注目が集まりがちですが、実際にはゲーム開発に利用できる機能が多数用意されています。そういう意味では、職種によって利用するツールの数や機能は異なりますが、一切業務にDECIMAが関係しないという開発者はいないと思います。

──なるほど。チーム一丸でDECIMAを扱っていらっしゃるのですね。DECIMAについてはKOJIMA PRODUCTIONS側が改造して使用することはありますか?

酒本氏:
KOJIMA PRODUCTIONSとGuerrillaでは、同じ様に見えるものでも表現に対して求められるものが違う場合があります。その機能を求めているのがKOJIMA PRODUCTIONSのみであれば、KOJIMA PRODUCTIONS側で改造を行ったり、場合によっては新たな機能の開発を行っています。またその内容はコードレベルでGuerrillaに共有しています。

──『Horizon Forbidden West』では酒本さまがSpecial Thanksとしてクレジットされていましたね。

酒本氏:
DECIMAの利用開始時にあわせて定例ミーティングをするようになったのですが、それは今でも続いています。『Horizon Forbidden West』にクレジットされる程の貢献ができているかは分かりませんが、そのミーティングでKOJIMA PRODUCTIONSで行った改造した内容や追加した機能、検証した内容等を共有しています。そのいくつかについては参考にしてGuerrillaの環境にも反映されているのかなと思います。

──DECIMAを通して、2つのスタジオ間では今も協力が続いているのですね。ありがとうございました。

DEATH STRANDING 2』はPS5向けに発売中だ。PC(Steam/Epic Gamesストア)向けにも3月19日に発売予定。

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