スパイク・チュンソフトは、パブリッシングもパートナー作りも焦らない。「10年先」を見据えているから

スパイク・チュンソフトのアドベンチャーゲームとの関わりやパブリッシング事業のこれからの展開について、スパイク・チュンソフトの執行役員および米国支社CEOの飯塚康弘氏に話を訊いた。

スパイク・チュンソフトといえば、自社開発タイトルと海外タイトルの国内向けリリースの2本の柱を軸にヒット作を重ねているゲームデベロッパーでありパブリッシャーだ。近年では、パブリッシングにおける海外向け展開を強めている傾向にある。また、『ダンガンロンパ』シリーズや『AI: ソムニウム ファイル』シリーズ(以下、『AI』シリーズ)など、アドベンチャーゲームに多くのヒット作をもつことも特徴だ。

『伊達鍵は眠らない – From AI:ソムニウムファイル』

そんなスパイク・チュンソフトのアドベンチャーゲームとの関わりやパブリッシング事業のこれからの展開について、スパイク・チュンソフトの執行役員および米国支社CEOの飯塚康弘氏に話を訊いた。なお本インタビューは、『AI』シリーズ最新作『伊達鍵は眠らない – From AI:ソムニウムファイル』に関する同氏へのインタビューから引き続いて行われたものだ。本記事と関連する内容も含むため、興味のある方はぜひそちらもご覧いただきたい。

期待されるものを作り続けたい

──『AI』シリーズのお話でもありましたが、アドベンチャーゲームの開発は予算のバランスを取るが難しいですよね。それでもアドベンチャーゲームを出し続けるのには、何か理由があるのでしょうか。

飯塚康弘氏(以下、飯塚氏):
ビジュアルノベルはうちの強みの1つだと思っています。Steamでの展開に力を入れている『ダンガンロンパ』シリーズ、『AI』シリーズを始め、コンシューマーに関してもMAGES.さんから『STEINS;GATE』の海外展開を任せてもらっていたりと、なにかとビジュアルノベルと縁があるんです。実は意図して始めたわけではないんですが、最近では「日本テイストのビジュアルノベルといえばスパチュンだよね」と思ってもらえるようになってきていると感じます。

『STEINS;GATE』

そういう風に認知してもらえたらやっぱりそのジャンルを継続して作りたくなりますし、逆に今からうちが格ゲーをいきなり作っても、すでにノウハウがあるところには絶対勝てないじゃないですか。

──意地悪な質問ですが「流行りのジャンルゲーム、売り上げ何百万本!」みたいなのを見て、そういったジャンル挑戦してみたくなったりはしないんですか。

飯塚氏:
作れるならやってみてもいいとは思いますけどね。その何百万本の売り上げに到達するまでに彼らが掛けたコストとリスクを考えると、やっぱり難しいですよ。ずっとトマト農家をやってきたのに、いきなり作物をイチゴに切り替えるようなものですからね(笑)

もしそういったチャレンジをうちがやるとしても、ほかのプロデューサーにやってもらうことになると思います。僕がそういうことをやらない理由は、洋ゲーのパブリッシングでチャレンジ欲が満たされているからなんですよね。超ハイエンドでめちゃくちゃお金の掛かったゲームをローカライズして日本で売るというのは、ある意味では自分のタイトルを出しているようなものじゃないですか。

うちがフロム・ソフトウェアさんみたいなゲームを作れるかと言ったら、それは作れない。そんななかで「うちがパブリッシングした『ウィッチャー3 ワイルドハント』も『バルダーズ・ゲート3』もすごいでしょ、ゲーム・オブ・ザ・イヤーなんですよ!」と言って満足しているわけです(笑)

『ウィッチャー3 ワイルドハント』

“10年先の縁”のためのパブリッシングを

──スパチュンさんのパブリッシングといえば、去年はグローバル展開強化の一環として『御伽活劇 豆狸のバケル 〜オラクル祭太郎の祭難!!〜』をリリースされました。パブリッシング事業は今後どのように展開していくのでしょうか。

飯塚氏:
タイトル数で勝負しているわけではないので、焦っているということはないです。うちのパブリッシングの目的は、うちと組んだらもっと売れると思ってくれる会社さんと仕事をしていくことにあります。

『御伽活劇 豆狸のバケル 〜オラクル祭太郎の祭難!!〜』

──頑張って数を引っ張ってこようというスタンスではないんですね。

飯塚氏:
むしろ、うちがそのタイトルに関わることによって売れるようになるという自信がない限りはやっちゃいけないと思っています。ミーティングを重ねていく中で、もしデベロッパーさん側で問題を自己解決してくれたならそれでいいんです。それでも弊社と一緒にやりたいと言ってくれるのであれば、話を進めるという形式です。

──うまくいかないかもしれないと言っちゃうんですか。正直ですね。

飯塚氏:
はっきりと言いますよ。「うちはこのジャンル苦手だから、一緒にやっても売れないよ」みたいなことから、「5ドルのタイトルを20万本売ったとして、お互いの取り分はこれぐらい。仮に御社だけでも20万本、うちが携わっても20万本の売り上げなら、うちがいない方がよくないですか」みたいな話までします。

僕らとしては搾取するような気はなくて、僕らと携わった会社が後々もっとすごいものを作った時にふとスパチュンのことを思い出して仕事につながったらラッキー、ぐらいのスタンスなんです。10年後僕がこの業界いるかどうかはわからないけど、そういう縁を大事にしています。

そもそも洋ゲービジネスも、そういう風に縁を大事にやってきたんですね。『ウィッチャー3 ワイルドハント』のCD Projektさんや『ARK: Survival Ascended』のStudio Wildcardさんも長く付き合いがある会社さんですし、長くやっているからこそ関われる面白いことってあるじゃないですか。逆に言うと、目先のことにはあまり興味がないんですよね。

──……飯塚さんは執行役員です。経営レイヤーの1人として、早くタイトルをリリースして予算をクリアしなければというような焦りはないのでしょうか。

飯塚氏:
(笑)もちろん経営者として予算はクリアしなきゃいけないですが、こういったサポートビジネスを予算クリアのためのツールとして使ったことはないですね。

──予算のためにゲームを急いでリリースしない、好きなスタンスです。

飯塚氏:
記事にも太い字で書いておいてください(笑)真面目な話、この活動を通じてうちの会社を新規の会社さんに理解してもらうだけでも、すごく効果は高いと考えています。

僕はお金を稼ぐことは得意な方なので、利益に関してはこのサポートビジネスとは別の分野で確保しています。サポートビジネスを通じて、日本もしくはアジアの独立系の開発会社さんがパブリッシングでつまずいてもうゲームを作らなくなってしまう状況に陥らないためのアドバイスができたらいいなと思っています。

──これからは海外を重視した展開を広げていくのでしょうか。

飯塚氏:
こういった海外展開も広げてはいますが、一番大事にしているのは日本のマーケットなんです。日本のゲームは、日本でしか作れないものですから。また、日本のゲーム業界が強くなければ、Steam展開やアメリカ支社などのうちの海外のビジネスも上手くいかなくなってしまいますよね。

それに日本のマーケットが強いことは、洋ゲーにとってもメリットだと考えています。あれだけ予算を掛けて作っているものなので、日本でも成功できるだけの市場を保ってあげたいですよね。

──近年では、海外マーケットを狙った日本の大作タイトルも増えてきている印象です。

飯塚氏:
『ドラゴンボール Sparking! ZERO』みたいな形であれば、うちでも大作ゲームを作ることはできますね。ただ、自社IPでそういったものが作れるようになるのは、まだまだ先なんじゃないかと僕は考えています。

ただ、分かりませんよ。僕が会社にいるうちにとんでもない天才が出てきて、大作ゲームが作れるようになるかもしれませんから(笑)

──スパチュンさんの発想力には今までも驚かされてきたので、これからの展開にも期待しています。ありがとうございました。

[執筆・編集:Daijiro Akiyama]
[聞き手・撮影・編集:Ayuo Kawase]

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