Steam『スカイ・ザ・スクレーパー』は「家賃支払いに追われ、上長の評価を気にしながらパラメータを強化する清掃アクションゲーム」なぜそんなゲームを作ったのか?

HYPER REALは7月30日、『SKY THE SCRAPER(スカイ・ザ・スクレーパー)』をPC(Steam)向けに発売した。『スカイ・ザ・スクレーパー』は、ビル清掃テーマをとしたアクションとシム要素を組み合わせたゲームだ。アクションパートではビル清掃員として仕事に励み、生活シムパートでは税金や家賃の支払い、休息や娯楽などを行っていくことになる。それぞれのパートがお互いのパートに影響を及ぼすことも本作の大きな特徴だ。

本作は、個人ゲーム開発者であるRyo Kobuchi氏が手がけている。リアリティとゲームらしさ、そして若者の甘酸っぱさと苦しみが混じりあったこの異色作について訊いてみた。

──自己紹介をお願いいたします。

[AD]

Ryo Kobuchi(以下、Kobuchi)氏:
Ryo Kobuchiと申します。ゲーム業界で実際20年以上働いてまして、職種としてはプランナーやゲームデザイナーといった形でゲーム開発に携わってきました。個人でゲームを作るのは今回で2作目なんですが、実質的には本作がほぼほぼ初作品という位置づけです。

──そんな変わった開発経緯の『スカイ・ザ・スクレーパー』は、ずばりどのようなゲームなのでしょうか。

Kobuchi氏:
一言で言ってしまえば、「ビル清掃アクションアドベンチャー」というジャンルになります。自分自身の人生に思い悩む青年が、ビル清掃という仕事を通して自分の進路やこれからの自分のあり方を見つけていくというゲームになります。

──デモ版では主人公の親がこちらの生活を心配するようなメッセージを送ってくるシーンもありますが、主人公はどのような境遇のキャラクターなのでしょうか。

Kobuchi氏:
主人公は、実家から都会に出てきて1人立ちを始めたばかりなんです。まだ右も左も分からないような状況ながら、これからは1人で生きていくんだというちょっと背伸びした志をもって生活をスタートさせている人物です。

──後ろ盾もお金もなく、今からなんとかしないといけない状況なんですね。

Kobuchi氏:
「とりあえずビル清掃という仕事は掴めたぞ、これからどうやって生きていこうかな」ぐらいのメンタルのキャラクターです。

──かなり過酷な環境ですよね。

Kobuchi氏:
そうですね。開発初期は一般的な上京物語をイメージしていたんですけど、本作には複数のエンディングがある関係で物語の建付けも各シナリオに応じて異なります。なのでゲーム全体で共通してる人物像としては、これからの自分の将来像について悩む若者ということになります。

──本作のゲーム的なタイムリミットは、家賃の支払いという形で表現されていますよね。ほかの目的としては上長から良い評価を得ることであったりと、全体的に世知辛い印象があります。なぜこんな辛いゲームになっているのでしょうか。

Kobuchi氏:
辛いと言われたら、確かにそうかもしれません(笑)そもそも本作は、人生の壁を乗り越えていくところをゲームにするというコンセプトから始まっています。そこをストレートに表現するために、自分自身や周りの人の過去やいろいろな作品などから普遍的な題材を引っ張ってきて形にしています。

──Kobuchiさんにも、家賃に追われたり上長からの評価を得なければいけなかった経験がある、というわけですか。

Kobuchi氏:
……(笑)そこまで極端にはないかもしれないですけど、私も1人暮らしをしていた時期がありますし、給料をもらって生活をしている以上そういう感覚はあります。まあ、本作の主人公はだいぶ厳し目の状況に置かれているとは思いますが(笑)

──本作はビルを清掃するアクションパートと、休日をどう過ごすかを決める生活パートの2つに分かれています。この生活パートがユニークで、昼にパチンコをして夜はお酒を飲んで寝る、みたいな選択肢も選べますよね。このような自由度の高い生活パートには、なにかモチーフがあるのでしょうか。

Kobuchi氏:
生活パートを作り始めた当初は、やはりカフェや映画に行くなどのストレートな発想から始まりましたね。自由度の高さに関しては特に深い理由やモチーフがあるわけではなく、若者の生活をリアルに表現できるアイデアを詰め込んでいった結果です。

──等身大の若者の生活を描くというコンセプトがあるんですね。そもそも、なぜこういった若者の甘酸っぱさを描こうと思ったのでしょうか。

Kobuchi氏:
実は、本作はアクションパートから制作が始まったんです。ビル清掃の経験がある友人から聞いた話をモチーフに遊び半分でアクション部分を作ったら、すごく面白かったんですね。これをゲームとして拡張するためにはどういう題材が合うだろうと考えた時に、ビルのある都会と言えば上京、上京と言ったらやっぱり若者だろうという発想で繋がりました。

自分としても、20代の頃の「やってやるぞ」みたいな野心や辛かったことなどがだんだん霞んできている感覚があって、それらを形に残しておくという意味でも今このタイミングじゃないと作れない題材かなと思ったのがきっかけです。

──本作を取り上げた記事では、本作のリアリティの高さについての言及が多く見られました。取材などはどのように行われたのでしょうか。

Kobuchi氏:
先ほどの友人からは、かなり具体的に仕事の内容を聞いたり、実際に清掃をしている様子を見せてもらったりしました。生活パートに関しては、自分の経験や知識から広げていったという感じです。

──生活パートの選択肢はかなり幅広く用意されていますが、なにか変わり種のものがあれば教えてください。

Kobuchi氏:
本当に地味なインドア生活をするようなもの、たとえば部屋の掃除をするなんていうものもありますし、ちょっとはっちゃけたものであればクラブに行くようなものも用意してあります。プレイヤー1人1人のパーソナリティを反映できるような幅のある行動があればいいなと思って、いろいろと用意したつもりです。

──プレイヤー次第でノリよく生きていくこともできるし、休日は引きこもるようなこともできると。

Kobuchi氏:
そして、それらの選択肢に応じたパラメータが伸びていくというシステムです。

──エンディングはパラメータに応じて変化していくような形式でしょうか。

Kobuchi氏:
いえ、パラメータそのものというよりは、シナリオそれぞれのストーリーや出会いで主人公が選んだことがそれぞれの結果に結びつくというようなものがメインになるかなと思います。

──それぞれの選択肢は自己表現として用意されており、ゲーム的に“強い選択肢”が存在しているというわけではないんですね。

Kobuchi氏:
そうですね。ただ、それぞれの選択肢で伸びるパラメータが違って、それによってスキルの習得傾向が変わるので、それぞれで攻略の仕方も変わったりといったゲーム的な要素ともリンクするようにもなっています。

──自分の自由行動がパラメータの成長に繋がって、それがスキルの取得につながってるというシステムに関して、参考にしたタイトルなどはありますか。

Kobuchi氏:
たとえば、『パワプロ』シリーズのサクセスモードや『ペルソナ』シリーズなどでも日常行動でステータスを伸ばせますよね。そういったシミュレーションパートでやったことがアクションパートのコアな部分につながる構造のゲームが個人的に好きということもあり、参考にしている部分はあります。

──それらのタイトルと比べると、本作はパラメータの項目がかなり多く設定されていますし、アクション要素もあります。

Kobuchi氏:
アクティビティで伸ばせるメインのパラメータは「知」「芸」「愛」「悪」の4つに集約されていて、これらのバランスは自由に取れるようになっています。なので、上手にコントロールできれば自分の思い通りの方向に育成してスキルを習得できるような仕上がりになっています。

──「知」「芸」「愛」「悪」というのはちょっと不思議な取り合わせだと思います。「知」と「芸」はわかりますが、「愛」と「悪」は珍しいですよね。

Kobuchi氏:
要は、どれが一番高くてもいいよという形にしたかったんですよね。「悪」に関してもちょっと言葉は強いですけど、実際には要領よく立ち回るというイメージも含まれているんです。大人になっていく上で培っていく成分みたいなものを、自分の中ではイメージしています。

──パラメータは、具体的にゲームプレイのどういった部分に影響を与えるのでしょうか。

Kobuchi氏:
本作はスキルツリーシステムを採用していて、「知」「芸」「愛」「悪」それぞれのパラメータを伸ばしてスキルを獲得することができます。また、会話イベントでは特定のパラメータが高い場合のみ選べるような選択肢も用意しています。

シナリオによってかなり毛色が違うと思いますので、楽しみにしていただきたいです。

──『Oblivion』や『Fallout』を彷彿とさせるシステムですね。

Kobuchi氏:
そう表現するとすごく広がりがあるような感じになってしまいますけど(笑)シナリオを通してちょっとずつ自分のキャラクターを表現してもらえるようにはなっています。それによって結末が少し変化したり、というようなところも用意してます。

──気を抜くとすぐにゲージがなくなったりと、アクションの難易度的にはややストイックな作風を感じます。これはあえて難しくしているのか、それともKobuchiさん的には優しく作ってあるのでしょうか。

Kobuchi氏:
開発当初は自分にちょうどよい難易度で作っていたんですけど、いろんな人に遊んでもらったところ少し難しいという意見が返ってきたんです。そこで自分の感覚にちょっとバイアスがかかってるなと感じたので、ノーマルの難易度に関してはかなり優しめに設定したつもりです。ただ、現行のバージョンでも「すごく手ごたえがあって楽しいです!」という反応をもらうことも多いので、まだまだ勉強中です(笑)

──本作では、生活パートとアクションパート要素が非常に連動してるように感じられます。たとえばアクションパートで良い成績を出せばその分良い報酬をもらえて、その報酬でゲームプレイの幅が増やせる。そうすると好きな選択肢が選びやすくなって、その選択肢によってビル清掃がどんどん上手くなっていくというゲームループがかなり楽しいです。その分作るのは大変だったのではないですか。

Kobuchi氏:
大変すぎて、途中でちょっと後悔したところはあります(笑)ただ、やはりさっき言ったような『パワプロ』シリーズのサクセスモードのゲームシステムが好きなんですよね。野球のプレイと直接関係ない練習に参加してスキルを得て、それを試合で使うという流れは、ある意味で総合芸術ですよね。ゲーム内のスキルと自分の腕前の両方をフルで駆使してクリアできるゲームというのは、ものすごく贅沢なものだと思うんです。そういったゲームは自分で遊んでも好きですし、作ってみたいという強いモチベーションの源になりました。

──シナリオに関して、お酒を飲んで寝るだけの生活をしてもちゃんとシナリオは進んでいくんですよね。パラメータもビル清掃に影響が出るだけであって、例えば生活パートでひたすらカフェに行き続けても成立はすると。

Kobuchi氏:
ゲーム上のミッションで提示される課題さえクリアすれば、プレイヤーの好きなように進めてもらって大丈夫です。優秀なビル清掃員を目指してもいいですし、選択肢で面倒な状況を上手くすり抜けていくのもありです。幅広いプレイをプレイヤーが選択できれば、自分としてはいいゲームになっているなと感じます。

──製品版でどんなエンディングが待ってるのか、楽しみにしています。

Kobuchi氏:
今体験版で見せてる部分は実はほんの一部で、シナリオもバラエティに富んでいます。エンディングの数は……いくつと言ったらいいんでしょうか。解釈次第ですが30種類ほど、それぞれのプレイヤーが歩んだ道が結末になったと感じ取れるように、バラエティ豊かに用意しています。

──ありがとうございました。

『SKY THE SCRAPER(スカイ・ザ・スクレーパー)』は、PC(Steam)向けに7月30日より発売中だ。

[執筆・編集:Daijiro Akiyama]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

AUTOMATON JP
AUTOMATON JP
記事本文: 1017