ブシロード発VTuber×終末世界アドベンチャー『VIRTUAL GIRL @ WORLD’S END』は、どのように生まれたのか?なぜVTuber?ファンブックみたいなボリュームで話を訊いた(後半ネタバレあり)
本稿では『バチャガ』が生まれた背景を掘り下げつつ、どのような作品を目指したのかを中心に、1万字超の大ボリュームで訊いている。

『VIRTUAL GIRL @ WORLD’S END(以下、バチャガ)』はブシロードから6月12日に発売されたビジュアルノベルだ。終末世界を舞台に主人公「ミライ」とVstarと呼ばれる配信者たちの物語が描かれ、現代的なテーマやブシロード発のゲームとして注目している人も多いだろう。今回はプロデューサー兼シナリオライターの亀山武史氏と、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』で知られ、本作では原案とアートディレクターをつとめる信澤収氏にお話をうかがう機会を得た。
本稿では『バチャガ』が生まれた背景を掘り下げつつ、どのような作品を目指したのかを中心に、1万字超の大ボリュームで訊いている。また記事後半では発売後に公開されるインタビューとして、ネタバレありで作品について深掘りしているので、ぜひ気になっている人はもちろん、クリアした方は最後まで注目してほしい。
ブシロードらしくない尖った内容と作り方
――お二人の自己紹介をお願いします。
亀山武史(以下、亀山)氏:
株式会社ブシロードの亀山です。『バチャガ』のプロデューサーとシナリオライターを兼任しています。
信澤収(以下、信澤)氏:
Canvas株式会社の信澤です。『バチャガ』では原案とアートディレクターのほか、イラストなどを担当しています。
――『バチャガ』はどのようなゲームなのか、改めて説明いただけますか。
信澤氏:
『VIRTUAL GIRL @ WORLD’S END』というタイトルにテーマが集約されています。近未来の東京を舞台にした終末世界で、主人公「ミライ」とヒロイン3名がVstarと呼ばれるライバーとしての立ち位置でどういったことをしていくのかを、それぞれの視点で描く物語になっています。
亀山氏:
ゲームとしては、選択肢がなくストーリーに没頭できるビジュアルノベルです。信澤さんに描いていただいた可愛いキャラクターと、終末世界ならではの灰色だけど美しい世界が楽しめる作品になったかなと。VTuberが題材のため歌にも力が入っており、ヒロイン3名の楽曲のミュージックビデオが挿入されます。ゲーム外のYouTubeでも「歌ってみた」動画の投稿をしており、選曲にそれぞれの思いや生き様が詰まっているので、歌とストーリーの両方を楽しんでいただくことで、彼女たちを深く理解することができる仕組みです。
――「終末系ビジュアルノベルゲーム」というジャンルも作品を端的に表していると思います。ジャンル名はどのような経緯で決まったのですか。
亀山氏:
ゲームの公式ホームページを作るときに、プロモーション担当から「ゲームジャンルはどうしますか」と相談されて考えました。これまでブシロードが手がけてきた作品は、どちらかといえばポジティブで可愛い女の子のキラキラした青春を描くものが多かったのですが『バチャガ』はそうではありません。崩壊した終末世界には不条理と絶望があふれています。ジャンル名がビジュアルノベルだけでなく、「終末系」と付いているのは一言でシリアスな世界観を伝えたいと思ったからです。
――たしかにブシロードさんがVTuberをテーマにしたということで、明るい印象を持っていましたが実際プレイしたら全然違いました。そんな本作の企画はどういった経緯でスタートされましたか。
信澤氏:
2年ほど前にブシロードさんから、「IPの立ち上げをしたいのでアイデアはありませんか」と声をかけていただきました。おそらく『バンドリ!』などでキャラクターデザインをするときに、ひとり一人設定や背景から考えていたので「信澤さんなら原案もできるだろう」と思って頂いたすのではないかと。マーケットインのプロジェクトで考えると『バンドリ!』はひとつの答えですし、新たな企画として声をかけられたということは作家性を前面に出すべきなのだと解釈しました。もともとイラストを描くだけでなく、要素を組み合わせてアレコレ考えることが好きなので、『バチャガ』もいくつか案出しをした中から決定した企画でしたね。
――コンセプトの終末世界×VTuberという取り合わせは、あまり例がないように思いますがどのように考案されましたか。
信澤氏:
今回は私自身、終末世界モノや戦争モノの映画を好んでいるため、シンプルに好きな作品を作ろうと思ったのがスタートでした。どうしてそうしたジャンルが好きなのかを補足すると、現代社会は「自分のコアがどういう人間かわからない」と思えるほどに、モノや選択肢であふれる世界に支えられている実感があります。逆に文明的な支えがなくなった終末世界や戦争という状況は、その分人間の綺麗だったり汚かったりするピュアな部分が表れると考えており、私は「人間の本質」に興味があるんだと思います。
VTuberについてはお仕事でもさまざまなイラストを描かせていただいていますが、エンタメの種類が急増する現在、急激に台頭して大勢に受け入れられているVTuberというジャンルとはいったいなんなのかを、『バチャガ』の制作を通して理解を深めたかったんです。また私のひとつの売りは「可愛い女の子を描くこと」で親和性がありますし、ご質問していただいたように終末世界×VTuberの掛け合わせは未知数ですが、面白いものになりそうだなと考えたのが理由ですね。

――『バチャガ』のために一から考えたというよりは、興味があった題材をダイレクトに表現した企画になっていると。一方、亀山さんから見たブシロード側の動きについても教えてください。
亀山氏:
きっかけは信澤さんが仰られたとおり、会社から「信澤さんと1本ビジュアルノベルゲームを作ってほしい」とオーダーがあったことでした。せっかく作るなら「ビジュアルノベル」というジャンルを最大限活かした、自由で尖った物語を作ろうという方針で舵を切りました。ブシロードはこれまでゲームを作ったとしても同時にライブや舞台、アニメ・コミックなどメディアミックス前提のケースが多かったのですが、だからこそ尖った作品作りは難しいという課題もありました。たとえばアニメが終わった後にソーシャルゲームがリリースされて作品が続くとなると、同じキャラクターがずっと活躍し続けなければいけないんです。そのため主人公が亡くなったり世界が破滅したりするような不可逆な描き方をするのは難しいことが多いです。
――キャラクターの関係性は進展させられても、作品の土台となる要素は変えられないということですね。
亀山氏:
作品が終わらないのが、メディアミックス作品の魅力であり弱点でもあると思います。結果として「女子高生の青春の日々」みたいなものを描き続けるしかない。ただ世の中に作品があふれている現状で、新たにゲームをリリースして「面白い」と思ってもらうには突き抜けなきゃいけないですし、会社としてもそういった懸念があったからこそ『バチャガ』を承認してくれたのだと考えています。であれば、メディアミックスの定番ストーリーとは逆をいってとことん尖らせてみようと考えました。
――ゲーム内容もですが作り方もブシロードらしくなかったと。社内ではどういった立ち位置だったと思いますか。
亀山氏:
影が薄かったと思います(笑)開発当初、社内では私ひとりで動かしているプロジェクトでしたから。開発が進んでからは音楽担当やプロモーション担当が増えてチームとなりましたし、あとは信澤さんが『バチャガ』パーカーを作ってくれて、着ながら仕事をしてると「これ何のキャラですか?」と聞かれるのでそこきっかけで作品を啓蒙して、社内営業でゲーム外の展開を獲得するという動きをしていましたね。
――そもそもプロデューサーがシナリオライターを兼任するのは、商業作品ではあまり聞きませんが、大変ではありませんでしたか。
亀山氏:
めちゃくちゃ大変でした(笑)。
信澤氏:
余裕でしたって答えてほしかったですね(笑)。
――シナリオを執筆された経験はあったのですか。
亀山氏:
前職で他のゲームメーカーにいたとき、ソーシャルゲーム担当だったのですが、イベントシナリオは自分で執筆することが多かったですね。ただ物語を作ることには昔から関心が高くて、中学校の授業でラジオドラマを作ったのがきっかけでした。放課後に授業と関係なくラジオドラマの続きをひとりで作っていましたし、高校・大学では演劇部で脚本を書いていたなど創作活動にのめり込んでいました。
――それではゼロからスタートした訳ではなく、これまでの延長線上だったと。
亀山氏:
偉大なライターの先輩方から見れば自分の書いた文は稚拙かもしれませんが、。ただ今回プロデューサーとシナリオライターを兼任してみて、良い面もたくさんありました。特に、中間者がいないからこそ企画のコンセプトや意図をダイレクトに反映できた点はよかったんじゃないかと思っています。通常原案が人から人へ伝わっていく中で、細かいニュアンスを取りこぼしてしまうこともあるのですが、本作はそういったことがありませんでしたね。あとは開発中の不具合修正も即断即決できるので、“確認待ち”がない分クオリティーを上げることに時間を使うことができた点も良かったです。結果として、ゲーム満足度の総合点を伸ばすことができたのではと思います。
――たしかにプロデューサーとシナリオライターが同一人物なら即時判断できますね。お二人や企画の経緯についてお聞きしましたが、実際どういった流れで完成まで進めていったのですか。
亀山氏:
信澤さんの原案がおよそWordで5~6枚ほどの文量で、特に世界観設定が濃く書かれた内容になっており、残りのラストの展開やサブキャラクターの配置などはふたりで話し合いながら私がシナリオとして落とし込んでいきました。途中からは開発会社であるヘッドロックのディレクターさんが参加して、基本的にはこの3人でシナリオ・イラスト・ゲーム開発を並行して進めていくインディーゲームのような小規模開発でした。本当はそれぞれの担当分野を徹底した工場のラインのような進行が手戻りも少なくて良いのかもしれませんが、本作に関しては効率を度外視してミーティングのたびに修正について話が飛び交う「とにかく面白いゲームが作りたい」という情熱にあふれた現場でした。
信澤氏:
本当に楽しくゲームを作らせていただいて感謝しています。
――そうしたライブ感のある作り方は、どういった風にコンテンツに反映されていますか。
亀山氏:
たとえば物語序盤は主人公「ミライ」の無気力な心を投影して、グラフィックを灰色で統一していますが、シナリオ執筆にはそうした演出をしようと思っていた訳ではありませんでした。ディレクターから「アイとの出会いでミライの世界が色付くのを強調したい」と提案されて実装したもので、そういう風に話し合いから発展した要素が多数存在しています。

――ストーリーとしても「Vision Eye」が復活した流れですし、心情と重なった良い演出でした。
亀山氏:
ただ灰色のシーンが続くとつまらないかもと思い、関連して周辺の調整をしていきました。例えば、画面を賑やかにするために信澤さんからモブキャラクターを追加で描いていただいたり、鬱々とした展開なので元気なジャンク屋の登場頻度を調整したり、ミライ視点以外の「色があるシーン」を複数回挟んで、飽きさせないような工夫をしました。
――少人数開発はエモーショナルな側面に注目されることが多いですが、制作フローとしてもクオリティに繋がっている利点もあると。
亀山氏:
信澤さんとは別の会社同士ではありますが、一時期は毎日オンラインミーティングをしていましたね。お互い土日もずっと『バチャガ』について考えているので、「こっちの方が面白いと思うからこういう展開にしたい」と連絡すると5分くらいで返答があったり(笑)。本作はスピード感や熱量の一致など、少数精鋭の良さを前面に出せたプロジェクトでしたね
――逆に少人数開発だと、一人でも向いている方向が変わると軌道修正が大変だと思いますが、開発中に衝突はしませんでしたか。
亀山氏:
信澤さんに聞いたら違うと言われるかもしれませんが、不思議なくらい衝突はありませんでした。そもそも信澤さんの原案からスタートしたプロジェクトで、私は原案のファンとしてジョインしており、「原案を作品として仕上げること」を目標にしていたので信澤さんと意見が対立することはありませんでした。
――前提として原案を尊重したいという強い思いがあったのですね。
信澤氏:
原案担当として重要なシーンは考えましたが、ストーリーに起承転結をきちんと組み込むことはシナリオ執筆の専門家ではないので難しいです。亀山さんは経歴を聞いてもわかるようにこれまで物語を書かれてきたということで、上手く役割分担できていました。
――お互いの分野が異なっていたからこそ、衝突しなかったと。
信澤氏:
世界観はあくまで作品の裏側だと考えています。表側にあたるキャラクターがどれだけ魅力的に見えるかを優先してほしいので、設定も厳密に決めるよりフレキシブルにシナリオの展開に合わせて変更したことも多かったですね。

――先ほどもお話に出た開発担当のヘッドロックさんとの印象的なエピソードがあったら教えていただければ。
亀山氏:
ヘッドロックさんも私と同じく、信澤ファン・バチャガファンでいてくれているんですよね。ヒロインとの出会いシーンのイラストが最初期からあって、ゲーム開発前にそれを見たときから『バチャガ』のかわいいイラストに夢中になってくれていました。だから熱量がすごいんですよ、もうファンなんです(笑)。たとえばアイの表情差分は20個以上あるのですが、これはシナリオを読んだヘッドロック側のディレクターが「アイの表情はこれくらい必要だろう」とプランをだしてくれました。のちにこの数の表情差分をセリフひとつひとつに当てはめるのに大変な苦労をされるのですが、先の苦労は考えずに「いっぱい表情ほしいです!」という熱い勢いがありましたね依頼された形ですね。それから、デザイナーさんが手がけてくれた演出とエフェクトもすごく凝っています。特に私が気に入っているのはリンカ登場時のキラキラエフェクトで、トップアイドルという説得力が感じられるほどに仕上がっています。ファン目線の高い熱量で関わっていただき、情熱がある仲間と一緒に仕事ができて本当に嬉しいです。
終末世界に生きるキャラクターたちを深掘り
――ヒロインにあたるアイ、リンカ、マキのデザインコンセプトについて教えてください。
信澤氏:
アイは世界観を体現するキャラクターとして受け入れてほしかったので、くすんだ色合いと近未来的な服の素材を選びながら、表情が豊かで作中としては異質で変わった髪型などを掛けあわせました。リンカは現実の文化からの参照が多いアイと比べ、『バチャガ』世界観で「VTuber」を一番尖らせるのがテーマでした。トップアイドルなので黄色を強めにし、シルエットも三角形で重心の安定と左右対象を意識していて、不安定なデザインのアイと比較してリンカは安心感を重視しています。マキに関しては終末世界という舞台で配信活動をしていなくともアバターを持っている人物として、「ストリート風な衣装を着た泥臭く動ける女の子」がコンセプトでした。

――デザインを考えるときに、苦労されたり大変だったりしたことはありましたか。
信澤氏:
思い返してみると2点ありましたね。1点目は終末世界を舞台したキャラクターを描いた経験があまりなかったので、普段通りデザインするとトーンが明るくなって世界観に馴染まず、先に制作していた背景に合った塗りに調整する作業が必要でした。2点目も似た話ではあるのですが、『バチャガ』のキャラクターは『バンドリ!』などに比べて等身が高いんです。私が最初に描いたラフだともう少し可愛い印象でしたが、世界観を亀山さんと詰めていくなかで、ストーリーのシリアスさや周りの男性キャラクターの背丈に合わせて何回か修正しました。
――普段はキラキラとした画風だからこそ、終末世界という舞台に合わせるのに苦労されたと。ヒロイン3人のデザインについて伺いましたが、それぞれの持ち歌のコンセプトについても聞ければ。
亀山氏:
それぞれキャラクターの原点となる思いを詰め込みました。リンカであれば「自分の歌が世界を照らす光であらねばならない」という強い思想と、それに相反する精神的な弱さが描かれており、彼女の表裏がある人間性を感じられる曲になっています。マキの歌も表層的には「人も社会もくだらない」と吐き捨てながら、実は、過去の悲しみに囚われ衰弱し、救いを懇願しています。リンカとマキは人間でありそれぞれ理想の自分を目指しているのですが、首には縄がかかっていて背伸びしていくうちに地面から足が離れてしまいます。絶望して堕ちた瞬間、その縄が首に食い込む。縄は外れない。上に上がることでしか息をする方法はない。そんな彼女たちなんです。
聞き込んでいただくと、「絶望で、かがやけ――」という本作のキャッチコピーを体現するような、絶望が迫っている苦しい状況で必死に足掻いているキャラクター性を理解していただけるのではないかと。一方アイはAIなので弱さは表現しておらず、愚直なまでに「笑顔にしたい」という行動原理だけを歌唱しています。ヒロイン3名の楽曲はどれも会心の出来で、それは楽曲制作のPHYZさんがバチャガのストーリーを読み込んで歌詞を書き起こしてくれたおかげです。
――そんな3名を演じるのは、数百名におよぶオーディションを勝ち抜いた若手声優だと聞きましたが、選んだきっかけなど裏話があったら教えてください。
信澤氏:
アイのボイスに関しては過酷な世界で生まれていない故の陽気さや、良い意味での奇異さを持つ中毒性を重視していましたが、「橘杏咲」さんが演じていただいたのを聞いて「アイ」という存在が腑に落ちたのが決め手でした。リンカはデザインと同じくカリスマ性がセリフや歌から感じられるかを基準にしていて、「立花日菜」さんの演技で非常に表れているなと。マキに関しては一見フランクだけど…という複雑なキャラクター性を表現していただく必要があったので、演技の幅を中心に見て「橘めい」さんに決めました。
亀山氏:
ちなみにヒロイン3名の声優が全員「タチバナ」という姓なのは、審査には何も関係ありません(笑)。「名前で選んだの?」と言われることがあるのですが、良い演技だった人を選んだ結果、全員タチバナさんが揃ったというだけなんです。
――たしかに!オーディション終了時点で気づいていたのですか。
亀山氏:
オーディション直後に誰の演技が良かったかを話し合ったのですが、「全員タチバナさんになりそうだね」という話はそのときからありましたね。「良いんだから良い」と開き直っていたのですが、内心では木谷社長への結果報告時にツッコまれるかもしれないと少しドキドキしました(笑)
――実際「タチバナ」さん3名の演技はキャラクターに合っていたと思います。
亀山氏:
オーディション後も、この人たちを選んでよかったと思うことばかりなんです。バチャガのイラストをスマホの待ち受けにしたり、プレゼントした『バチャガ』のパーカーを着てSNSに写真を投稿してくださったり、収録中に感情移入して涙を流したり……。先日の「AnimeJapan 2025」でも、ブシロードブースにファンとしてフライヤーをもらいに来てくれたり、バチャガ愛にあふれたキャスト陣で本当に嬉しく思います。そして橘めいさんはマキの最古参オタクです(笑)。
以下は本編のネタバレを交えた内容のため、クリア後の閲覧を推奨したい。
VTuberやAIのモチーフから考えるエンタメの未来

――ヒロインにはそれぞれ中の人やモデルの人物がいますが、アバターとのデザイン差を設定する上で意識されたことはありますか。
信澤氏:
せっかくVTuberという題材なので、視覚的なギャップは明確にあったほうが良いだろうとは考えていました。VTuberについて「中の人はどんな人なんだろう」と一度は考えたことがあると思いますし、その欲求に対してある程度腹落ちするデザインにすることは3人共通で想定していました。「リンカ」と「凛」は前髪や髪の跳ね方という共通項は残しつつ、煌びやかなリンカとしての姿に対して、ミライの隣に立って馴染む色合いや表情の作り方で調整しました。アバターデザインの中心には内なる願いや本質が表れているのですが、それを形作っているのは周りの環境や、リンカで言えば親友の元Vstar「ハルカ」の願いが組み合わさっているので、逆にガワの装飾をすべて削ぎ落とした人物として「凛」をデザインしました。
マキは一番実験的なデザインでVTuberとはなにかを掘り下げたときに、「中身が本人ではなくても成立するのではないか」と考えたことが大きいですね。今回で言うと姉であるマイの姿を、アバターとして再現している「マキ(サキ)」はアバターとは似ている部分がないくらい真逆にして、「別人になろうと思えばなれる」という世界観も描ければと。アイのモデルとなった「常盤愛」に関しては、AIと人間の関係性をアイとの繋がりを通じて表現したかったので相棒としてデザインした点が、変身願望から生まれた人間二人とは違いますね。
――なるほど。このように多くのキャラクターが登場する本作ですが、お二人が特に好きなキャラクターについて教えていただければ。
信澤氏:
これまでメインキャラクターを中心に話させていただいたので、サブキャラクターについて触れますが「情報屋(秋葉零一)」が好きですね。実は『バチャガ』の世界を一番背負っている人物として配置しており、小うるさい老人ですがさまざまなしがらみに苦労しつつ、そのしがらみによって生かされている人物を極端に描きました。人間が生きるうえで抱えるしがらみは、正と負の両面合わせて人生なのだというメッセージが込められたキャラクターとして仕上がってよかったです。あと内田直哉さんのボイスが好きなので(笑)

亀山氏:
当然全員のことが大好きなのですが、個人的には「ハルカ」に注目してほしいですね。出番こそ多くはないですが、リンカを語るうえでは欠かせないキャラクターになっています。ハルカは「世界を照らす希望の光となる」という夢を叶えられません。でも、その夢を確かに次へ託した。スラムに落ちても、自分に失望しても、世界を諦めない。作中で一番メンタルが強いですし、終末とは逆を見ている存在です。

――スラムと言えば物語序盤でリンカに憧れる少女「サクラ」があっさり亡くなったことで、「いつものブシロード」というイメージを良い意味で裏切られました。過酷な世界観を描く上で気をつけたことはありますか。
信澤氏:
私は幸い、戦争を体験したり身近な人の死もあまり経験したりせずに生きてきたので、シリアスな舞台を設定してもプレイヤーが真に共感できるようなキャラクターが作れないかもしれないという悩みはずっと感じていました。ただ見たことがないからと言って他人や資料で見聞きした要素の継ぎはぎになってはいけないので、もし終末世界になったらどうなるだろうとシミュレーションしたときに、親の庇護がない子供は当然生きられないだろうと。残酷だと思いますがリアリティとして、あのシーンを設定させていただきました。
亀山氏:
シナリオ担当の私としては、ある種の祈りを込めて書いたシーンですね。作中のように希望が持てない世界で他人を助ける余裕はないと思いますし、人に対してカロリーを使うのは愚かかもしれません。一方でサクラの親友であるヤヨイの自殺をミライが止めたように、目の前で死に向かう場面を見てしまったら無視できないだろうとも考えているんです。終末世界でも人間とはそうであってほしいという希望を込めて一連のシーンを執筆させていただきました。

――そんなミライの決心が表現されているかのように、本作は大枠で考えると「やり直しループモノ」にあたると思いますが、ルート分岐は存在せず一本道で選択肢がありません。この構成は企画当初から決められていたのですか。
信澤氏:
企画当初の段階ではストーリー構成は決めておらず、マルチエンディングの可能性も含めてどうすれば良いのかを亀山さんと相談して分岐なしの一本道に決定しました。バッドエンディングからのやり直しという形式にしたことで、「SIDE AI」というVTuberの二面性を表現するギミックを入れられたので、結果として良かったと思います。
亀山氏:
題材次第ではマルチエンディングが最適な場合もありますが、本作は一貫したテーマを伝えるために一本道で作るのがベストだったと思います。ちなみにアイは家族・リンは恋人・マキは友人という異なる愛情をコンセプトにしています。すべての愛を通じて人間は人生を形成しますから、どれかひとつだけを選ぶ個別ルートは考えられませんでした。
――『バチャガ』をプレイしてVTuberやAI産業への強烈なメッセージ性が感じられました。このトピックについて改めてお聞きできればと思います。
信澤氏:
私もエンタメに20年ほど関わっていますが、第一にお客さんに満足してもらえることを重用視しています。皆さまの声援がクリエイティビティの源泉だからこそですが、VTuberの方の配信頻度や活動の幅などを見ていると、自分が及ばないぐらいエンターテイナーとして高いレベルに達している方が多いですよね。さらにそれが特筆した一人ではなく大勢ということを考えると、受け手が満足するレベルも上がっているのではないでしょうか。AIに関しても規制やルール作りに関する話題が毎日のように飛び交っていますが、その原点が同じく人間の欲に起因するものなので、歯止めがどれくらい機能するのかと懐疑的な気持ちも持っています。『バチャガ』という作品で自分たちなりの一定の解答を示せたと思いますが、創作者としてこのテーマが今後どうなっていくのかは目が離せないですね。
亀山氏:
私も信澤さんのように「未来はどうなるのか」とよく考えるんです。AIの発展していくことで便利で効率的な側面はあるのですが、どのように利用するのか最後に判断をするのは人間だと忘れないようにしないと、自らの価値が下がってしまうのではないかと。ただこれからはAIを適切に利用できないと、時代の流れに置いていかれることもあるでしょうし、危ないし怖いから規制するというのはあくまで理想論ではあるので、昭和で車が普及したようにAIも便利なツールとして、さらに普及していくのだろうとは思います。そしてVTuberに限りませんが、エンタメに関しても同じような懸念があります。我々のようなエンタメを享受する側のスタンスとして、今は数字が数字を呼ぶような側面が少なからず存在していると思います。みんながいいと言っているから、のような。これはAIの話と同じで「自分がどう思うのか」という軸は忘れないようにしたいと自戒しています。

――それでは最後に読者へ一言お願いします。
亀山氏:
信澤さんのイラストやボカロPの方々に制作いただいた楽曲は、他のノベルゲームに負けないクオリティだと自負していますし、手前味噌ですがシナリオに関しても仕事だということを忘れるほど夢中になって書いた作品です。Xでたくさんエゴサーチをしているので、ぜひタイトルやハッシュタグ(#バチャガ)を付けて感想を投稿していただければ嬉しいです。それから最後に、ここまで記事を読んでくださったお礼に裏設定をひとつ。ミライが昔追っていたVstarがいたと思いますが、正体は凛なんです。Vstarになりたての幼少期の凛が違う名前で活動していて、お互い正体に気づいていないのですがミライは昔から凛のことが好きだったんだねという裏設定があるので、読み返していただくと面白いかもしれません。
信澤氏:
インタビューをここまで読んでいただいたということは、きっと作品になにかしらの思い入れが生まれた方なのではないかと思いますし、もし未プレイの人がいたらぜひゲームをプレイしてほしいです。感想に関してもメンションなどを飛ばしていただけると、これからも創作を頑張れますので遠慮なく感想いただければ幸いです。
―― ありがとうございました。
『VIRTUAL GIRL @ WORLD’S END』は、Nintendo Switch/PC(Steam/Windows)向けに発売中。弊誌では先行プレイ記事も公開中のため、こちらもぜひチェックいただけると幸いだ。
[聞き手・執筆・編集:Yuuki Inoue]