オープンワールド『キングダムカム・デリバランス』のNintendo Switch移植は「2年」をかける大仕事だった。移植担当に大変だったことや成し遂げられたコツなどを訊いた

 

PLAIONは5月23日、『キングダムカム・デリバランス ROYAL EDITION』のNintendo Switch向けパッケージ版を発売した。この「ROYAL EDITION」は、中世オープンワールドRPG『キングダムカム・デリバランス(Kingdom Come Deliverance)』のゲーム本編に、5つのDLCを同梱した完全版だ。

本作は、PC/PS4および海外Xbox One版が先行して発売され、今年3月になってついにNintendo Switch向けダウンロード版がリリース。そしてこのたびパッケージ版も発売された。このNintendo Switch版の移植開発を担当したのはSaber Interactiveだ。今回弊誌は、本作の移植の背景について同スタジオに話を伺った。

『キングダムカム・デリバランス ROYAL EDITION』は、Warhorse Studiosが手がけた中世オープンワールドRPGだ。1403年のボヘミア王国を舞台とし、故郷を滅ぼされ復讐を誓う主人公ヘンリーが、血の抗争と数奇な運命に巻き込まれていく。プレイヤーは広大なオープンワールド世界にて、キャラクターを育成し激しい戦いに臨みながら、自らの決断によって分岐する物語を追う。

本作は、中世ボヘミアの街並みや雰囲気が忠実に再現されるなど、大規模かつリアルな世界観が特徴のひとつ。移植開発元Saber Interactiveは、あの『ウィッチャー3 ワイルドハント』などにおいて、不可能ともいわれたNintendo Switch向け移植を成し遂げたデベロッパーとして知られる。今回同スタジオは、新たな大作の移植にどのように向き合ったのか、移植プロジェクトのリードプログラマーAnton Vasilev氏に話を訊いた。

――『キングダムカム・デリバランス』をNintendo Switchに移植してほしいという依頼を受けた当時、まずはどういった感想をもちましたか。

Vasilev氏:
非常に難しい挑戦になるだろうなというのが第一印象でしたが、一歩一歩着実に進めていけばやり遂げられるはずだとも感じました。個人的には、オリジナル版がリリースされた2018年にたくさんプレイしたお気に入りの作品ですので、移植に携われると聞いて奮い立ちましたし、なによりSaber Interactiveのスタッフは皆やりがいのある仕事が大好きなのです。

*『キングダムカム・デリバランス』のNintendo Switch版には、日本の任天堂公式サイトの発売スケジュールに誤掲載されたことをきっかけにファンからの要望の声が高まり、その後Saber Interactiveの協力を得て開発が決定したというエピソードがある。

――Nintendo Switchへの移植作業は、おおまかにどのような工程でおこなわれたのでしょうか。また、完成までにはどれくらいかかりましたか。

Vasilev氏:
まず最初に、ゲームのソースコードとアセットを調査し、Nintendo Switch向けに組み込むことが理論的に可能かどうかを把握するところから始めました。その後、実際にNintendo Switch上で実行できるようにし、最後に最適化をおこなうという流れになります。ただプレイ可能というだけでなく、楽しめるレベルにまで仕上げる必要があり、最適化はもっとも難しい作業だといえますね。完成までには、およそ2年かかりました。

――Saber Interactiveは、巨大なオープンワールドゲームとしては『ウィッチャー3 ワイルドハント』を、また『キングダムカム・デリバランス』の開発で採用されたCryEngineを用いたタイトルとしては『Crysis』シリーズのリマスター版を、それぞれNintendo Switch向けに移植した実績があります。今回、これらでの経験は活かされましたか。

Vasilev氏:
そうした過去の経験は、今回のプロジェクトにおいて大きく役立ちました。『Crysis』の移植にて培った技術的なソリューションは本作をNintendo Switch上で動作させるために、また『ウィッチャー3 ワイルドハント』での経験は最適化に活かされています。もっとも、本作独自のアプローチや最適化の手法も数多くあります。


――本作のような大型タイトルの場合、Nintendo Switch上で一定以上のパフォーマンスで動作させるには、妥協せざるを得なかった部分もあろうかと思いますが、いかがでしょうか。

Vasilev氏:
そうですね、まずNintendo Switch版は、PC版の画質:低プリセット相当で動作しています。開発においては、静的なオブジェクトがいくつか削除されたXbox One版のアートアセットを使用したうえで、すべてのアセットについてもっとも高解像度のミップレベルをカットしました。また、いくつかの静的なオブジェクトではLOD(距離によってモデルの品質が変わる技術)の高いモデルを削除し、地形のグラフィックは部分的に簡略化、さらにいくつかのアニメーショントラックのキーフレームレートを下げるといったことをしています。オーディオのサラウンド対応も断念しましたね。

――では、Nintendo Switchへの最適化で、もっとも苦労した部分は何だったでしょうか。

Vasilev氏:
やはり、十分なフレームレートで動作させることが一番困難でした。開発のある段階で、荒野や小さな村といったエリアではスムーズに動作させられるようになったのですが、そのまま大規模戦闘に突入したり大きな村を訪れたりするとふたたびフレームレートの問題が浮上する、といった具合で苦労させられました。

――ちなみに、Nintendo Switch版の描画解像度やフレームレートはいくつになりますか。

Vasilev氏:
もっとも複雑なエリアではフレームレートがいくらか低下することはありますが、TVモードと携帯モードのいずれにおいても30fpsで動作します。解像度に関しては、TVモードでは540p〜720p、携帯モードでは360p〜540pの可変解像度となっています。


――本作の移植作業における、何か面白い技術的なトリックや裏話はありますか。

Vasilev氏:
そうですね。個人的には、GPUに移した顔や草の頂点アニメーションは、多くの素晴らしいアイデアを含む最高のソリューションだったと思います。また、8か月ほどかけて開発した、我々のアップスケーリングアルゴリズムについても傑作であると自負しています。

面白い裏話としては、ある日私は、主人公のヘンリーが馬に乗って森を駆ける場面のパフォーマンスの問題を解決させなければならなかったのですが、この問題を再現させるために両手を使いつつ、同時に開発用PCでツールを操作する必要がありました。その時私は、自然と3つ目の手を出そうとして、「いや、そんな手は持ってないぞ」と我に返ったことがあったのです(笑)。仕方ないので、ゲームコードを一時的にハックし、この問題をより簡単に再現させられるようにしました。

――Nintendo Switch版の移植品質については、各方面から高い評価を得ています。日本の新規プレイヤーに特に注目してほしい所はありますか。

Vasilev氏:
残念ながら、私は日本の文化にはあまり詳しくなく(いつか学びたいとは思っていますよ)特別なアドバイスはできないので、本作をただ思いっきり楽しんでほしいと願うだけです。


――本作に限らず、Nintendo Switchへ移植する際には何をもっとも大事にしているのでしょうか。

Vasilev氏:
技術的な専門家としては、パフォーマンスやメモリの扱い、安定性、そして最終的なクオリティについて、良いバランスを実現させることがゴールだと考えています。これは移植開発の全工程において私が常に意識している、もっとも大事なことでもあります。

――では最後に、Nintendo Switchの後継機種を今期中に発表すると任天堂から先日予告されました。移植という観点で、後継機種に期待することはありますか。

Vasilev氏:
我々が携わった発売済みタイトルに関していうと、後方互換機能があると素晴らしいですね。特に『キングダムカム・デリバランス』のNintendo Switch版は、動的なパフォーマンスシステムが組み込まれているため、(性能強化された)後継機種において新たな輝きを放つ可能性があります。今後の新作のことを考えた場合には、ハードウェアベースのレイトレーシング対応やAI機能サポートにも期待したいところです。もちろん、コア数やクロック周波数、メモリ容量、ストレージ容量は大きければ大きいほど嬉しいです。

――ありがとうございました。

『キングダムカム・デリバランス ROYAL EDITION』は、PC/Nintendo Switch/PS4向けに国内発売中。ダウンロード版に加え、パッケージ版も現在発売中である。また弊誌では、本作のハードコアなゲームプレイについての紹介記事も掲載しているため、こちらもぜひチェックしてほしい。