神選択メトロイドヴァニア『Noseka: The Gold Project』メールインタビュー。本作は「カルマ」次第でマップやBGMまで変化する。本作のデザインや開発の紆余曲折を訊いた


ゲームスタジオのDreamirlは2023年11月8日、『Noseka: The Gold Project』の早期アクセス配信を開始した。対応プラットフォームはPC(Steam)。ゲーム内は日本語表示に対応している。

本作は探索型の2Dアクションゲームだ。プレイヤーは、本作の主人公となる戦士カリを操作し、黄金都市レミアを冒険する。そして、冒険の中でカリは2人の神と対面することになる。本作には黄金と光の神が存在し、どちらに忠誠を誓うかによって使えるスキルや進むマップが変化するシステムが採用されている。プレイヤーの選択によって変化していく世界を冒険するのだ。

この度弊誌では、フランスに拠点を置く本作開発元のDreamirlへメールインタビューを実施した。本作に関する詳しいお話を伺うことができたので、以下に紹介する。


──はじめに、自己紹介をお願いします。

Antoine氏:
こんにちは!ゲーム開発者の Antoine です。2006年にゲーム開発を始め、以来ゲーム作りが大好きでやめられません。今回紹介するのは、ユニークな特徴を備えたレトロな2Dドット絵のメトロイドヴァニアゲーム『Noseka: The Gold Project』です。

──制作にあたり、影響を受けたタイトルを教えてください。

Antoine氏:
影響を受けた作品はたくさんあります。私は1990年生まれで、子供の頃からビデオゲームに触れていました。もちろん私の「メトロイドヴァニアジャンル」の出発点となったのは、ゲームボーイ版の『悪魔城ドラキュラ』や『メトロイド』です。

ですが、この二つの作品に直接影響を受けてゲーム制作に踏み切ったわけではありません。最近のゲームで特に影響を受けたものを挙げるなら、もちろん『Hollow Knight』です。「プレイは簡単、極めるには難しい」という同作のゲームプレイが好きで、本作でも参考にしています。ほかに本作で参考にしているものとして、ボスの順番といった自由度の高さで『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』や、マップの作りなどが、メトロイドヴァニアの初心者にも分かりやすいという点で『メトロイドドレッド』にも影響を受けています。

さらに言えば私が好きなゲームというのは、プレイしやすい上に、進むにつれ難しくなっていくものです。あとは快適なゲームプレイや豊かなストーリー、直感的なチュートリアルを備えつつ、十分な自由度があるものです。こうした要素を、本作で達成しようとしているわけです。こういったインスピレーションについては本作の開発ブログで語っています。


──本作の開発経緯について教えてください。

Antoine氏:
どんなゲーム制作も、感情と挑戦のジェットコースターのようなものだと思います。時には「これが作りたい」という明確なアイデアを持っているにも関わらず、行き詰まってしまい、誰も助けてくれなくなることもあります。本作の場合は特に精神的に厳しく、プロジェクトを立ち上げたチームスタッフの大半が会社を去ったため、2022年に多くの遅れが生じました。Kickstarterの立ち上げや宣伝、維持にも大変苦労しました。また私たちは自腹を切って開発しているため、フリーランスの仕事でお金を稼ぐためにゲーム開発を中断しなければならないこともありました。

それはさておき、メトロイドヴァニアのゲームを作ることは私の夢のひとつで、この夢は実現に向かっているところです。私には多くのスキルがあるので、本作ではプログラミング・ストーリー・ゲームデザイン・レベルデザインに取り組みました。

私はレベルデザインの制作に時間をかけるのが大好きで、実際に何度もプレイして改善し、スムーズなレベルデザインになるようにしています。またカジュアルプレイヤー向けと、コアゲーマー、スピードランナー向けの選択肢を作るようにしています。私たちは本作で非常に広大な世界を手がけており、ゲームクリアのための選択肢は数多く存在しています。そしてゲームのストーリーを書くことについては、古代の物語や神話を読むのが好きで、そこから気に入ったものをアレンジしつつ、本作のストーリーに盛り込んでいます。

また開発チームでの仕事はかなりいい感じです。チームメイトは私が書いたゲームデザインに従ってゲームのモンスターを作成しますが、個々人の独創性が発揮され、いつも元のデザインとは異なった実装がおこなわれています。ちなみに、私たちはいつもモンスターやボスのコードネームを決めていて、正式な名前は完成してゲームに実装されてから決めています。

──制作はどのくらいの期間でおこなわれたのでしょうか。

Antoine氏:
2021年に本作の制作を開始しました。そして2022年3月から4月にかけてプロトタイプ版を完成させ、Kickstarterを開始しました。また2022年の後半までに開発チームスタッフの一部が退社し、2023年にはほぼすべてのスタッフが入れ替わることになりました。そこから急ピッチで開発を進めましたが、本作の開発規模が大きくピクセルアートも複雑でした。そのため当初のリリース予定日である2023年10月から延期をおこない、2023年11月に本作の早期アクセス配信を開始するかたちとなりました。現在の計画では、2024年3月までに本作を完成させる予定です。……バグなしで(笑)

──スタジオにとって、アクションゲームの開発は初めてだと思われます。過去作の開発と比べ、本作の制作で苦労した点について教えてください。

Antoine氏:
Steamでリリースした作品だけを見れば2022年の『Exoblast』しかないので、そういう意味ではDreamirlは確かにかなり若いゲームスタジオです。しかしそれ以前にも、私たちは小規模なゲームを作ったり、請負業者としてさまざまな会社で働いていたりしました。本作は私が最初に作ったアクションゲームではありませんが、最も大規模で本格的なものです!

また私は10年以上前の学生時代に、メトロイドヴァニアになるはずだった『z-Tech』というゲームを作りました。しかし小規模なチームかつ学生だったので、一直線のステージだけを作るように変更し、その結果、5~6時間のゲームプレイになりました。同作の出来には今でも満足していますが、ゲームプレイやアートを比べると本作より明らかに劣っていると感じます。

『z-Tech』


──ドットによる緻密な書き込みや、遠近感の表現など、ゲームの背景にはこだわりを感じました。グラフィックに関して、特にこだわった点を教えてください。

Antoine氏:
本作で最もこだわったものといえば、モンスターとボスの制作です。キャラクターアーティストでありアニメーターでもあるEmmaは、ボスを作る複雑さに直面し、タブレットの上で涙を流していました(今でもタブレットに涙の跡が残っています)。しかし彼女はその結果を誇りに思い、今まさにラスボスの制作に取り組んでいます。

モンスターはともかく、各ステージに命を吹き込むのは大変な作業です。本作には250以上のマップが存在するため、迷路やレベルデザイン、プラットフォームの制作は大変なものです。さらに、それらすべてのマップの上にレベルアートも作る必要があります。私たちは複雑なレイヤーシステムを作ることで、各レイヤーの視差やディテールを表現しています。

レイヤーシステムの一例


──プレイヤーの選択に応じてマップやBGMが変化するなど、本作にはユニークなシステムが多数存在しています。その中でも、本作独自の魅力として特に力を入れている部分を教えてください。

Antoine氏:
本作のBGMはゲーム内ステータスである「カルマ」によって変化しますが、力を入れたのはそれだけではありません。私たちは開発の初期段階において、楽曲のプロトタイプを少なくとも10個以上作成し、さまざまな組み合わせをテストしました。

この結果、本作ゲーム内の各エリアにそれぞれのメインテーマとなる楽曲を制作しました。そして各メインテーマはカルマに応じて「Gold」と「Light」バージョンに変化、さらに戦闘時にもテーマが少し変化するようになっています。SoundCloud上の本作デモ楽曲では、上記のようにBGMが少しずつ変化していく様子を聞くことができます。基本的に戦闘時にはドラムが多く、Lightバージョンのテーマではチップチューンが多く聞こえるようになっています。最終的には、バイオームごとに4つ以上のBGMを用意し、ボス戦のようなユニークなBGMもさらに追加していく予定です。

また本作では、カルマシステムにも力をいれました。本作におけるカルマは非常に特殊なシステムで、デザインするのに苦労しました。本作には2つのワールドマップがあり、1つは 「光の世界」、もう1つは「黄金の世界」です。ゲーム内では光の女神に祈れば祈るほど、プレイヤーのカルマが光の側に傾き、ワールドマップが「光の世界」へと変化します。一方、金の女神に祈れば同様に「黄金の世界」へと変わります。この複雑なシステムによって、祈る神に応じてさまざまなゲームプレイが可能となっています。

さらに本作で力を入れたものとして、特殊能力であるゴーストが挙げられます。これを習得したプレイヤーはゴーストになることができ、肉体を元の場所に残して幽体離脱のような状態になります。するとプレイヤーはすべてのゴーストや、ゴーストに関連したギミックに触れることができるようになります。言葉だけで説明するのは難しいので、X上に投稿した短い映像を下記に挙げておきます。


──ゲーム内に登場する敵NPCのデザインはすべてが黒を基調とした均質的なものとなっていますが、各々ユニークな特徴を感じられました。デザインを差別化するために気を付けた点を教えてください。また敵NPCデザインの中で、気に入っているものがあれば教えてください。

Antoine氏:
モンスターやプレイヤーの色をすべて黒で統一するというアイデアは、本作でアートディレクターを務めるCamille Unknownによるものです。彼曰く、ピクセルアートではできるだけ少ない色数で表現することが求められるそうです。目標とするレンダリングが少ない色数でできれば、あとから色を追加するのは簡単とのことです。

この特殊なデザインで本当に難しいのは、すべてを見やすく保つことです。色のコントラストを使うことができないので、たとえば腕が体の前を通ると見にくくなってしまいます。また主なデザインの差別化としては、サイズと形が挙げられます。そしてモンスターが身に付けている金の多さによっても、差別化を図っています。身に付ける金が多いほど、そのモンスターは強いというわけです。

私のお気に入りのモンスターの1つは、名前がかっこいいので「ソウルスライサー」です。なお黒いモンスターを作る過程については、本作の開発ブログから詳しく知ることができます。

──ゲームには3つの難易度が用意されているなど、本作は初心者にも配慮されている様子です。アクションゲームが不慣れな方に対して、難易度調整で最も気を付けた点を教えてください。

Antoine氏:
ゲームのバランス調整というのは、とても繊細で主観的なものです。私たちが3つの難易度を用意することにしたのは、すべての人にゲームそのもの、そしてプレイスキルの上達を楽しんでほしかったからです。私たちの難易度設定はほかのゲームとはかなり異なっており、モンスターやレベルデザインが簡単になるわけではありません。しかし自分を回復させたり、経験値などを獲得したりする難易度が変わります。これにより、初心者が罰を受けずに頑張るチャンスを増やすことができると考えています。なおこの難易度システムは未完成で、今後はイージーモードのモンスターやボスの体力を減らそうと考えています。しかし今は、本作のコンテンツを完成させることに集中しています。


──早期アクセス配信を開始して、手ごたえをどう感じていますか。

Antoine氏:
早期アクセス配信でメトロイドヴァニアを作るのは本当に難しいです。ユーザーたちはゲームの製品版がでるまで購入を待つ傾向にあり、そして私たちはこの少ない売り上げなどを見て、失敗したと時々感じることがあります。しかし本作を遊んでくれるプレイヤーたちには、今のところ満足してもらえている様子です。また彼らの内の多くは本作のバグ報告などをおこなってくれて、とても助かっています。

特に100時間以上本作をプレイしている4人のプレイヤーがいて、大量のバグを発見し動画や画像などを添えて報告をしてくれました。私たちのコミュニティにこのようなプレイヤーがいるのは素晴らしいことだと思います。私は彼らへのお礼として、「世界でバグを発見した人々」として彼らの名前をゲーム内のテキストに登場させました。

──現在の早期アクセス版のプレイ時間は8~10時間ほどのボリュームとのこと。完成した製品版ではどれくらいのボリュームが期待できますか。

Antoine氏:
現段階でのプレイ時間は15時間前後となっています。もちろんこの数字はそれぞれのプレイスキルによって変化します。パッチを当てるたびに1時間から2時間のゲームプレイが追加されるので、最終的なプレイ時間は20時間以上のボリュームになると考えています。

──最後に、日本のユーザーに向けてメッセージをお願いします。

Antoine氏:
私は日本のゲームを遊びながら、共に成長してきました。『ゼルダの伝説』・『ソニック』・『スーパーマリオ』だけでなく、『ファイアーエムブレム』や『スターフォックス』など、これらすべての作品によって私もゲームを作りたいと思うようになり、またこれらの作品が私に与えたような影響を作りだしたいとも思うようになりました。

私たちのゲーム『Noseka』が日本のユーザーの心と魂に届き、このゲームに込めたフランスらしさや、私たちが頑張った部分すべてを楽しんでもらえることを心から願っています。日本のユーザーたちによる本作のプレイ動画などを見るのがとても楽しみです!

──ありがとうございました。

『Noseka: The Gold Project』はPC(Steam)向けに早期アクセス配信中だ。