マイペース老舗ゲームメーカー・ケムコに近況を訊いた。最近売れているゲームや、大作化しつつあるゲーム開発で気をつけていること

ゲームメーカーのケムコにインタビュー。老舗でありながら、現代において、コンスタントに作品をリリースし続けているゲーム会社でもある。そんなケムコに近況を訊いた。

パブリッシャーのケムコ(株式会社コトブキソリューション)は8月31日、ゾンビサバイバルRPG『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』を発表した。『428 〜封鎖された渋谷で〜』などで知られるゲームクリエイター・イシイジロウ氏が企画・原案・監修、『旅かえる』のヒットポイントが開発を手がけるという、異色の組み合わせが注目の作品だ。

老舗RPGパブリッシャーという印象のあるケムコだが、現代においてもなおコンスタントに作品をリリースし続けているゲーム会社でもある。2022年に入ってからPC向けの作品だけでもすでに11本の新作・移植作をリリースし、今後もケモミミSRPG『クロステイルズ』など新作が多数控えているというハイペースっぷりだ。今年9月に開催された東京ゲームショウ2022では上記2作品のほか『デビラビローグ』『スペースマーシャルズ コレクション』の4タイトルにも及ぶプレイアブル展示を実施。ゲームの大作化が進む今、なぜこのようにハイペースな作品展開を維持しているのか。ケムコの作品を複数担当しているディレクターの有光力氏、広報の黒木めぐみ氏に話を訊いた。

左:有光力氏、右:黒木めぐみ氏


──本日はお時間いただきありがとうございます。まずはお二人の自己紹介をお願いします。

有光力(以下、有光)氏:
ディレクターの有光と申します。今回出展している作品のうち『デビラビローグ』、『クロステイルズ』、『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』を担当しております。

黒木めぐみ(以下、黒木)氏:
広報の黒木です。国内に向けて発売している全タイトルの広報活動を手がけています。メディアへの連絡やSNSの運用を担当しています。

──今年のケムコの出展はとても力が入っていますね。『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』は、企画・原案・監修にイシイジロウ氏という異色の組み合わせに驚きました。どのような経緯でイシイジロウ氏とのタッグが生まれたのでしょうか。

有光氏:
ゲーム業界人同士のZoom飲み会という場がありまして。そこで弊社の人間がイシイジロウさんと話す機会があったんです。

──Zoom飲み会がきっかけなんですか。

有光氏:
イシイさんにはケムコの経営戦略に共感していただけて。「ゾンビものRPG」という構想はイシイさんから出てきたものです。コロナ禍で広島と東京のZoom飲み会から話が生まれて、『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』につながったという。

──『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』自体はどのようなゲームでしょうか。

有光氏:
「誰でも遊べるゾンビゲーム」というテーマのもと、「ゾンビx2Dドット絵RPG」をコンセプトにしています。ゾンビが出てくるゲームは世の中に多くあると思いますが、ゲームハードのスペックが向上するにつれてゾンビのリアルさだとか、血が出たりグロテスクな表現による怖さといった方向にも進化してきました。その方向に進化したゲームは、プレイヤーにとって得意・不得意のあるジャンルになると思っていて。ゾンビを撃ち殺したり切り刻んだりするのが楽しいのではなく、単にドラマとしてのゾンビが歩いてくることの怖さ、仲間を集めたり物資を獲得したりといった部分の楽しさにフォーカスしています。

『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』
(C) 2022 KEMCO/Hit-Point/JiroIshii


──システム面でいえばどのようなゲームでしょうか。

有光氏:
フロントビューのRPGで、ストーリーがゾンビもの、というイメージが一番近いと思います。ゾンビものにはもともとRPGに近いところがあると考えていて。近いところというのは、例えば最初は1人から始まって、仲間が少しずつ増えていくところ。RPGで装備や回復アイテムを手に入れるように、ゾンビから生き残るゲームでは食料や武器を発見するという構造自体が近いと思っています。その二つを綺麗に掛け合わせるというのは、意外と誰もやれていないジャンルだなと思って。王道のRPGだけど、ストーリーはゾンビ。その二つがマッチしているっていうイメージかなと思います。

──ケムコが作り上げてきたRPGのノウハウに、ゾンビという要素やイシイジロウ氏のエッセンスが入っているわけですね。作りとしてはRPGを期待してよいということで。

有光氏:
そうです。

──ケムコのタイトルは今までよりスケールを大きく、展開プラットフォームも広くされている印象です。開発プロジェクトの規模感も大きくなっているのでしょうか。

黒木氏:
特に意識して大きくしているわけではないですね。

有光氏:
ただ、僕が見ている範囲では開発規模が大きくなっていると感じています。というのもケムコのゲームづくりとして、作ったゲームの良かったところ・引継ぎたいところを資産として次のゲームに活かす、という作り方でやっています。RPGタイトルを一本出したら、そのタイトルのアップデートを重ねるより、好評な要素を活かして次の新しいRPGタイトルを出すことが品質向上につながるという考えです。ユーザーからこのようなマイナスの評価を得たから、次の作品ではこれはやめようとか。逆に好評な点は活かそうとか。ユーザーの声を拾っていると、次のタイトルに活かしたい要素がどんどん増えてくるので。その結果いっぱいやりたいことが増えてきて、自然と規模が大きくなるということはありますね。

TGS2022ケムコブースには、4つの試遊タイトルがズラリ


──リリース前に「もっと作り込みたい」と思っても、開発方針として割り切っているんでしょうか。

有光氏:
そうですね。ただ、歩みを止める気はなくて。新しく作る作品一つ一つがバージョンアップになっているとしたら、それはケムコにしかできないすごいことだと思っています。ある作品へのフィードバックが、もう次の作品になっているという勢いで進めています。

黒木氏:
今作では実装したかったけど出来なかった部分を、次回作で活かせないか、というかたちですね。

──ライブサービスゲーム的発想ですね。

有光氏:
ユーザーからしたら、その作品のフィードバックが別の作品に還元されるのは不思議なことかもしれません。もちろん、ユーザーからいただいた反応の中に、ゲームでやりたいことに対して致命的な要素はアップデートで対応します。でも基本的には、フィードバックは次の作品に活かすという考えですね。

黒木氏:
この「フィードバックは次回作に活かす」という流れは、元々フィーチャーフォン向けのタイトルを月に2本リリースしていたところから来ています。当時よりペースは落ちていますが、定期的なペースで新作を出して、次々新しいものを楽しんでもらおうという考えは今でも同じです。

──近年のケムコさんの作品で、一番調子が良かったのはどの作品でしょうか?

有光氏:
『デビラビローグ』ですかね。売り上げだけではなく、ユーザーのフィードバックも含めて非常に良かったです。

『デビラビローグ』。デッキ構築型のダンジョン攻略RPG
(C) 2021-2022 KEMCO/EXE-CREATE


──『デビラビローグ』は、直近のインディーゲームのトレンドをうまく取り入れた作品という印象があります。

有光氏:
完全にケムコユーザーが離れてしまうような作品は作りたくないんです。ただ、チャレンジをしたいという思いもあって。そこで苦労した部分がうまくいったのかなと。

黒木様:
リリース直後にはバグもありましたが、現在は安心してプレイできるようにアップデートしています。

──どれぐらい調子が良かったのでしょうか。

有光氏:
仕事で落ち込む時とか、嫌な気分の時は『デビラビローグ』の評価と数字を見て心を落ち着けていますね。

黒木氏:
ほかには、『砂の国の宮廷鍛冶屋』と『マレニア国の冒険酒場~パティアと腹ペコの神~』は長く売れ続けています。うちは新作発売のタイミングで大きく費用をかけて紹介するということをあまりやらないので、セールの時に「あ、ケムコの新作出てる」と気づいてもらえてダウンロード数が伸びる、ということがあります。新作のみならず、旧作も長く売れていますね。

『砂の国の宮廷鍛冶屋』。冒険で手に入れた素材を加工して販売する鍛冶屋経営RPG
(C) 2020-2021 KEMCO/RideonJapan,Inc./Rideon,Inc.


──新作を出すことで、過去作の売り上げも伸びるということでしょうか。

黒木氏:
そうですね。「まだケムコ生きてるんだ」って未だに言われたり。「生きてるよー!」と思いながら(笑)

──(笑)反対に、「力を入れているので、もっと注目してほしい」というタイトルはありますか?

黒木氏:
挙げるとしたら『アーキタイプ・アーカディア』でしょうか。ウォーターフェニックスさんのADV作品でシナリオも読みやすく、クオリティ的にも本当に面白いんです。ただちょっとキツい展開もあって、必ずしも万人受けするゲームではないかなと。作品の尖った部分の魅力をうまく伝えきれてなかったのかなというところもあり、好きな人にまだ届けきれていないと思っています。

『アーキタイプ・アーカディア』。崩壊した世界を描くフルボイスADV
(C) 2019-2022 KEMCO/Water Phoenix


──RPGではなく、ADVタイトルなんですね。

黒木氏:
もともとRPGが中心だったケムコですが、最近はADV作品も多く手掛けるようになっています。ウォーターフェニックスさんとは、今後も作品の移植をうちでお手伝いする話があります。ADVという大きな柱が新しくできたことは、プラスの変化として大きいかと。

有光氏:
ケムコやケムコのゲームには、「尖りすぎた才能に依存した作品」や「アーティスト性の強さ」はあまり多くないと思っていて。ゲームを好きな人が「こういうのでいいんだよ」と思うようなもの目指しているところはあります。究極誰でも作れるというか、フォーマットとして面白いものを会社として目指しています。

──今回展示しているタイトルで、『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』のほかにも推したい作品はありますか。

有光氏:
『クロステイルズ』です。3DクォータービューのシミュレーションRPGとして、ゲーム画面を見てユーザーが期待するであろう要素を満たした、ド直球のシミュレーションRPGになっています。具体的には「敵の背中から攻撃すると命中率があがる」「高台から弓で攻撃すると射程が伸びる」とか。でも、こういう期待した通りであるというのは大事なことだと思っていて。シミュレーションRPGというジャンルにユーザーが期待することを押さえつつ、バランスも良いというゲームを意識しています。

『クロステイルズ』
(C) 2022 KEMCO/RideonJapan,Inc./Rideon,Inc.


有光氏:
ストーリーは、犬の国と猫の国に別れた陣営の戦争を描いています。最初は犬の国編・猫の国編どちらかを選び、それぞれの視点で遊べるようになっています。キャラクターについても、犬の陣営は物理寄りで猫の魔法に苦戦しています。でも猫の国編をプレイすると今度は魔法が強いという、別視点の物語とちょっとした戦略の違いを楽しめる「直球シミュレーション」として描き切っています。ボリュームは各陣営ごとに30章あります、大ボリュームと言っても過言ではないかと。予算もケムコとしては結構かけています。

──『クロステイルズ』弊誌AUTOMATONで紹介した際にも、多くの反響がありました。当初は誤って「ケモノSRPG」と題してしまっていたのですが、こちらは「ケモミミSRPG」なんですね。ユーザーよりご指摘いただいて修正いたしました、申し訳ありません。

有光氏:
こうしたジャンルがすごく好きな方も多いので、受け入れてもらえるように頑張ります。

黒木氏:
『クロステイルズ』については、開発を手がけているライドオンジャパンさんのSRPGのノウハウもあります。

有光氏:
ライドオンジャパンさんは『マーセナリーズサーガ』シリーズなど、人気SRPGをいくつも作ってきた会社です。『クロステイルズ』ではドット絵から脱却して新しいことをやりたいということで、3Dグラフィックを採用しています。ケムコ側からもディレクターとして、デバッグなど各所に関わっています。


──今年に入って、Steamの国内ユーザー数が増加傾向にあります。国内ゲームメーカーの中ではかなり早い段階でSteamに参入されていたケムコとしては、なにか変化がありましたか。

黒木氏:
Steamからの購入はそこまで多くはないですが、全体の比率としては高くなってきています。国内ユーザーが活発になってきているのもありますし、特に英語圏からの購入が増えてきているのもあります。英語圏でもケムコは「大量のRPG作品を出しているメーカー」として認知されつつ、SteamでもXboxでもSwitchでも展開している点が評価されています。

──確かにケムコは「Xboxでも展開する」としっかり宣言したメーカーのひとつですね。

黒木氏:
うちの強みとして、国内でスマホ向けに出してコンシューマに移植して、さらに海外でもスマホ・コンシューマーの両方に展開するということがやれちゃう会社なので。日本国内だけだと採算が難しいタイトルも、なら海外向けにも展開しようという方針が取れるんですよね。Xboxがまさにそうです。英語圏で出せるなら、日本向けにもしっかり対応しようと。ユーザーがいるところに届けようという考えですね。

──最後に2022年と2023年に向けて、ケムコの意気込みをお聞かせください。

有光氏:
ペースを落とさず、面白い新作を出し続けます。

黒木氏:
何百万本も売れる作品は出せないけど、あなたのために売っているんだよというような、刺さるところに刺さる作品をしっかりリリースしていけたらと思います。頑張ります。

──ありがとうございました。

[聞き手・執筆・撮影: Aya Furukawa]
[聞き手・編集: Ayuo Kawase]

Aya Furukawa
Aya Furukawa

主にニュースを担当。ビジュアルや世界観にこだわりのあるゲームが好きです。

記事本文: 119