Steamで勢い増すゲーム会社Gamera Gamesにその正体を訊いた。『Dyson Sphere Program』をどのように送り出したのか、なぜクローンゲームを発売しないのか
Gamera Gamesという会社をご存じだろうか。中国と日本に拠点を構え、売り上げ200万本の大ヒット作『Dyson Sphere Program』を世に送り出したインディーパブリッシャーだ。今月9月15日~18日に開催された東京ゲームショウ2022にも出展し、新作『Arto』『Brave Eduard』『超アロイレンジャー』『Warriors of the Nile ~太陽の勇士~2』の4作品のプレイアブルデモの展示を実施した。東京ゲームショウへの出展は、オンライン開催への出展も含めると今年で3度目となる。
じわじわと存在感を示しているものの、露出が少なく謎に包まれたパブリッシャーだ。そこで弊誌では、今回の東京ゲームショウ2022の開催にあわせてGamera Gamesへのインタビューを実施。プレジデントのKe Xuan氏に話を訊いた。なお、本インタビューは新型コロナウィルス感染症への対策を実施した上でおこなっている。
──本日はお時間いただきありがとうございます。まずは、ご自身とGamera Gamesについて、それぞれ自己紹介をお願いします。
Ke Xuan(以下、Xuan)氏:
Gamera Gamesは、Indie LightというNPO団体から生まれました。Indie Lightはインディーズデベロッパーの開発サポートを無償でおこなっている団体で、いわゆるインキュベーターのような存在ですね。このIndie Lightのサポートでゲームを開発したメンバーが、完成したゲームのパブリッシングも手がけたいと考えて立ち上げたのがGamera Gamesです。最初は中国・上海を拠点に活動していました。
私自身について言えば、以前は北京のゲームメディアでジャーナリストをしていました。ゲーム作りについて勉強したいと思い、北京の仕事をやめて日本に来たのが8年前になります。その頃はゲームの専門学校で勉強しながら、フリーランスとして複数のゲーム会社で仕事をしていました。Unity Technologies Japan合同会社(ゲームエンジンUnityの開発・販売元Unity Technologies社の日本法人)で、ブログ記事の執筆もしていました。この頃、上海のGamera Gamesにいる友人から「世界に進出したいから、一緒に日本で会社を作ろう」という話があって。そこで日本にもGamera Gamesの拠点を作ったという流れです。現在は上海側が中国国内デベロッパー、東京側が海外デベロッパーをそれぞれ対象としたパブリッシング事業を展開しています。
──会社の規模を教えてください。
Xuan氏:
Gamera Games側が20人ぐらいです。東京は4人で、さらにフリーランスのスタッフに協力してもらっています。
──昨年オンラインで開催された「東京ゲームショウ2021」では、『The Awakener: Risen(旧称Arise of Awakener)』や『Dyson Sphere Program』などのタイトルが注目を集め、弊誌AUTOMATONで掲載した記事にも多く反応がありました。Gamera Gamesは注目度に対して宣伝や露出が少ないように感じるのですが、なぜでしょうか。
Xuan氏:
中国のゲーム会社の多くは、中国国内向けにプロモーションをした経験はあっても、世界に向けてどのように情報を発信すれば良いのかわからないという側面を持っています。Gamera Gamesはもっと一歩進みたくて、まず東京ゲームショウに出てみました。そこからユーザー達の好評を得たため、海外に支社を作ることを通して正式に海外進出を決めました。二度目と三度目の東京ゲームショウでもユーザーから好評を得ており、デベロッパー達も喜んでいました。
──『Dyson Sphere Program』は全世界で170万本の売り上げを達成したとのことですが、現在どこまで売り上げを伸ばしている状況でしょうか。
Xuan氏:
今は200万本ぐらいですね。戦闘システムを追加した大型アップデート「Rise of the Dark Fog(ライズオブザダークフォグ)」も開発中で、2023年にリリース予定です!どうぞご期待ください!
──日本語でのプレイに対応する予定はありますか。
Xuan氏:
検討を進めています。ただ、ゲーム自体がまだ早期アクセス配信中で、開発作業やPC Game Pass対応といった作業もある状況なので……。お約束することはできませんが、日本語への対応を検討中です。
──『Dyson Sphere Program』のほかには、どのようなタイトルが人気でしょうか。
Xuan氏:
『Amazing Cultivation Simulator』は全世界ですでに150万本ほど売れました。修仙(シュイシェン。修練によって人が神様になるという中国の考え)をテーマにした『RimWorld』とでも言うべきゲームですね。最初に小さい村があり、プレイヤーは神様の視点で村人たちにコマンドを出して村を大きくしていきます。ほかの村を探索して自分の世界を大きくしながら、村人たちを集めて神様にレベルアップさせます。プレイ中には中国神話の神様との戦闘や、災害といったランダムイベントも発生します。クリアまでのプレイ時間は300〜500時間ぐらいでしょうか。
まだ公式には、日本語表示でのプレイに対応していません。というのも、中華系の単語や表現を多言語にローカライズするのが難しいんです。英語字幕でのプレイに対応するだけで精一杯でした。このゲームを英語にする上でも、中国の文化に詳しい翻訳会社が見つからなかったんです。最終的には、中華系の小説やゲームに詳しい海外のユーザーコミュニティに協力してもらいました。英語化だけでもかなり時間がかかりましたね。
──日本語対応の予定はあるのでしょうか。
Xuan氏:
日本語対応もしたいのですが、やり方を考えないといけないですね。頑張ります。ほかには『Warriors of the Nile ~太陽の勇士~』もヒットした作品です。こちらは古代エジプトをテーマにした、伝統的なターンベース制のシミュレーションゲームです。
──今のGamera Gamesにはグローバル向けのパブリッシングを手掛けるタイトルが多数あり、勢いを感じています。
Xuan氏:
今まさに成長していますね。社内のメンバーの多くがコアなゲーマーで、インディーゲームも含めて手広くゲームをプレイしています。そのため規模によらず、発想の優秀な作品を見つける嗅覚のようなものを持っていますね。『Dyson Sphere Program』も、当時はあまり知られていない優秀な作品で。メンバーが中国のインディーデベロッパーの中から見つけました。まだ知られていないデベロッパーの優れた作品をサポートしながら、『The Awakener: Risen(旧称Arise of Awakener)』や『The Dark World: KARMA』といった大規模なプロジェクトも手がけられるようにしているところです。規模が小さくて経験も少ないデベロッパーに対しても、友達のような距離感でサポートしながら互いに進めていければと。
──ヒット作品によって、パブリッシャーとしての収益も伸びたかたちでしょうか。
Xuan氏:
パブリッシャーにもよると思いますが、弊社としては一般的な水準以上のレベニューシェア(収益配分)で多額の報酬を受け取ろうとはあまり考えていないです。
──良心的なんですね。
Xuan氏:
そうだと思います(笑)デベロッパーファーストという方針のもと、デベロッパーとは健康的な関係を築きたいですね。パブリッシャー側がお金をもらいすぎて、デベロッパーの資金が不足して次のゲームを作れない、という事態は避けたいと考えています。
──Gamera Gamesがタイトルのプロデュースに関わることはありますか。
Xuan氏:
プロデュースについても先ほどお話した通り、友達のような距離感でサポートできればと考えています。もしデベロッパーからアドバイスを求められたらフィードバックしますし、デベロッパーが経験豊富なチームであればこちらから意見することはないです。デベロッパー側が意見を求めているか、によりますね。
──バランスを考えながら、押し付けもせず放置もしないと。
Xuan氏:
もしデベロッパーさんから相談があれば、全力でサポートします。
──Gamera Gamesはアジア地域らしい印象のタイトルも他の中国パブリッシャーに比べて少ない印象があります。意識してタイトルの方向性を調整しているのでしょうか。
Xuan氏:
たまたまですね。優秀だと判断したゲームをパブリッシュしていたら結果としてそうなった、というかたちです。社内のメンバーがさまざまなジャンルのゲームをプレイしているので、中華系のゲームだけではなく欧米っぽいゲームも含まれるという感じです。
──『Dyson Sphere Program』も中国で作られたゲームなのかと、最初は驚きました。
Xuan氏:
そうなんです。また『The Awakener: Risen』は『ドラゴンズドグマ』の影響を受けており、また『The Dark World: KARMA』は小島秀夫氏の『P.T.』の影響をうけました。この二本とも日本ゲームの影響をかなり受けています。そのほか、欧米ゲームが好きなデベロッパーも多数いますし、みんなは違うジャンルから影響を受けています。
──数年前までは中国向けのリリースが多かった中、最近はグローバル向けのタイトルも増えてきている印象です。今後もグローバル向け展開に注力されるのでしょうか。
Xuan氏:
パブリッシングの方向性については、上海と日本で方針が異なります。上海側はやはり、中国国内のデベロッパーをサポートしたいという方針を持っていますね。昔から中国のデベロッパーは英語や日本語が話せなかったり、コンソール向けにリリースする方法がわからなかったり、といった課題を多く抱えていました。そういった、本来なら世界の舞台に立てるようなポテンシャルを持つタイトルを展開するべく、中国のデベロッパーをサポートしていくのが上海側の方針です。反対に東京側では、中国国外のタイトルを中国向けにリリースするという方針ですね。世界中のSteamユーザーの半数以上が中国人ユーザーとも言われていますから(※)。中国ユーザーからのフィードバックを必要としているデベロッパーも多くいます。
※Valveの報告によれば、2017年11月時点でSteamの言語設定を「簡体字中国語」に設定しているユーザーが全体の60%を超えたという。しかし同年12月にはSteamへの中国国内からのアクセス規制が実施された。さらに2021年にはValveとPerfect Worldが協力して運営する中国向けプラットフォーム「Steam China」が展開され、現在に至る。記事執筆時点ではSteamユーザー全体のうち、簡体字中国語ユーザーは全体の23.79%と、英語の次に多く使われている。
──中国向けのパブリッシングというと、近年では日本のゲームを中国向けにリリースする上でトラブルになったケースもあります。今後は信頼性の高い中国パブリッシャーの需要も出てくると思われますが、Gamera Gamesはそれを目指していきますか。
Xuan氏:
トラブルの種類にもよると思いますが、今のところ弊社と海外デベロッパーの間でそういったトラブルは発生していないと認識しています。私達は、密度が高いかつ頻繁なコミュニケーションを通して、そして仕事の透明性を維持することで、デベロッパー達も私達のことを理解し、パブリッシングを要望してくれると信じています。おかげさまで現在は、日本や欧米からのデベロッパー達からもいい評価をもらっている印象です。
──日本のゲーム市場についてはどうお考えですか。
Xuan氏:
日本ではPCよりコンソールの人気が根強いので、日本向けにリリースするならコンソール向けかなと考えています。およびユーザー構成については、日本ではやはりインフルエンサーやYouTuberといったゲーム配信者の影響力が強いですね。彼らのプレイ動画を見てゲームを選ぶ傾向があると感じています。そのため、ゲーム配信者が楽しめると判断したタイトルがあれば日本向けに出すこともあると思います。
──ちなみに日本では、「日本のSteamユーザーは他の国よりレビューが厳しい」という見方があります。日本のユーザーはどういう印象ですか。
Xuan氏:
確かに日本のユーザーは厳しいと感じています。それでも、デベロッパーさんは喜んで受け入れているようですね。なぜかというと、中国人ユーザーのレビューのほうが、日本人ユーザーのレビューより厳しいので(笑)
──(笑)改めて日本ユーザーに注目してほしいゲームを紹介してください。
Xuan氏:
ひとつは先月リリースした『Warriors of the Nile ~太陽の勇士~2』です。前作『Warriors of the Nile ~太陽の勇士~』と同じくターンベースストラテジーゲームなので、日本のユーザーにとても向いているのではないかと思います。もう一本は『超アロイレンジャー』。こちらは『ロックマン』シリーズのようなサイドビュー方式のアクションゲームです。
そして新作の『Brave Eduard』。こちらはオープンワールド方式のRPGで、日本語でのプレイに対応する予定です。プレイ時間も50時間程度とボリュームがあり、日本のユーザーも楽しめるタイトルだと思います。
──Gamera Gamesは、クローンゲーム(ビジュアルやゲームシステムが、既存の作品と極めて類似しているゲーム)を作らないですよね。ほかのゲームに影響を受けていても、必ずどこかにオリジナリティを持った作品を出しているという印象があります。
Xuan氏:
ありがとうございます。まず、Gamera Gamesではクローンゲームを手掛けない、というはっきりした方針を持っています。作品にオリジナリティがあるかという点は重要視していますね。デベロッパーさんを信用できるかどうかについても、オリジナリティの部分で判断しています。デベロッパーさんが「これはクローンゲームではありません」と言ってくださっても、ゲーム作りのノウハウがない自分には判断がつかない部分もありますから。
──最後に、今後の方針をお聞かせください。
Xuan氏:
私含め、弊社のメンバーは皆ゲームが好きです。今後成長してより大きな会社になっても、デベロッパーとお互いにサポートしながら、「好き!」と思ったゲームをパブリッシングしていければと思います。
──ありがとうございました。
[聞き手・編集: Ayuo Kawase]
[聞き手・執筆・撮影: Aya Furukawa]
[協力: Hung-Wen Chen]