有限会社キュー・ゲームス(Q-Games)は12月10日、『PixelJunk Eden 2』をNintendo Switch向けに配信した。価格は1500円で、12月16日までは34%オフの990円で購入可能だ。
本作は、キュー・ゲームスが多様なゲームジャンルで展開しているPixelJunkシリーズのひとつ。2008年発売の『PixelJunk Eden』、2018年発売の『Eden Obscura』に続く、オーガニック・アクションゲームシリーズの最新作だ。今回弊誌は、シリーズのビジュアル・サウンド・ディレクションを担当しているBaiyon氏へのインタビューを実施。『PixelJunk Eden 2』の制作背景などについてうかがった。
────『PixelJunk Eden 2』の開発における担当を含め、自己紹介をお願いします。
こんにちは、Baiyonです。長年音楽を軸にマルチメディア・アーティストとして活動しています。2008年にQ-Gamesとコラボレーションして前作の『PixelJunk Eden』のアートとサウンドディレクションを担当した事が始まりで、それ以来色々なゲームに関わったり、コラボレーションしたり、サウンドを提供したりしています。現在はQ-Gamesのクリエイティブ・ディレクターとなり、今回改めてゲーム・アート・サウンドのディレクションをしています。
────『PixelJunk Eden 2』は、『PixelJunk Eden』から12年、前作『Eden Obscura』からは2年ぶりとなるシリーズ最新作となります。このタイミングで新作を制作することになった経緯をお教えいただけますか。
『PixelJunk Eden』は今までのタイトルを通して、アクションゲームでありながらアートやサウンドを含めた驚きや発見を届けるシリーズになりつつあると思っています。前作『Eden Obscura』はカメラを使ってリアルタイムにビジュアルを作り出す、というモバイルならではのギミックを取り入れたタイトルだったのですが、その開発が一段落した時に、やはり以前から要望が多ったコンソールゲーム機向けにも新作を作ろう、という話になりました。個人的にもコンソールゲーム機で続編をリリースしたいという思いはありましたし、今回続編をみなさんにお届け出来る事をとても嬉しく思っています。
────本作の対応プラットフォームにNintendo Switchを選んだ理由は何でしょうか。
今回出来るだけ幅広い年齢層にプレーしてほしいと思ったことなどの理由で、Switchでリリースすることになりました。
────そもそも、第1作目の『PixelJunk Eden』はどのような経緯、またコンセプトで生まれた作品だったのでしょうか。
当時は音楽とアートをメインにDJやライブ活動、アパレルや雑誌での漫画連載などさまざまな活動をしていました。その中でたとえば当時CDの売上げが落ちて来ていた事や、どれだけ凝ったパッケージを作ってもすぐデータを取り込んで中古屋に並んでしまうような現状を鑑みて、アートとサウンドを体験として一緒に届ける事が出来る新しいパッケージの方法を模索していました。
そこでビデオゲームを作りたい、と思った訳ですが、突然脈絡も無く思った訳ではなくて、元々音楽やデザインのインスピレーションとしててずっとビデオゲームは近いものとして自分の中に存在していました。ただ当時はゲームエンジンなどもなかったので、作り方はまったく分からない状態でした。
そんな感じできっかけを探している状態だったんですが、ある日たまたま共通のデザイナーの友人の忘年会でQ-Gamesの社長のディラン(Dylan Cuthbert氏)と出会いました。お互い別の共通の友人を通して存在は知っていました。そこで「ゲーム作りたいんですけど、どうでしょう?」と切り出しました。すぐにやりましょうとはならなかったです。しかし、ちょうど『PixelJunk』シリーズを立ち上げた時期と重なっていて、ディランはレーベルみたいに多様性を持たせたいと思っていたみたいで、僕の作品に興味を持ってもらえた事と、いいタイミングで出会えた事で、その後実際に制作が始まりました。
当時ディレクターを担当してくれていた冨永(富永彰一氏)がよく言っていたのは、僕の世界観をどうゲームに落とし込むか、それしか考えていなかったと言っていました。ありがたい事です。僕自身はゲーム作りは当然完全な素人だったんですが、自分の世界観を表現し、ぶつけていく事で、紆余曲折はありましたが、とてもユニークなゲームが出来上がりました。
当時はAAAとインディーの違いとか、定義や言葉すらも知らない感じでしたが、Edenがリリースされた前後くらいからユニークなインディータイトルがたくさん出て来て、ああどうやら僕は一人じゃないんだな、このまま進んだらもっと楽しそうな事がありそうだと思って積極的にゲーム業界に関わって現在に至ります。
────『Eden Obscura』ではカメラを使った仕掛けがありましたが、本作では新たにペインティング要素を導入していますね。
Edenはアクションゲームではあるんですが、意識せずに何かクリエイティブな体験 – たとえば白い紙に絵の具を付けて色が広がって行くときの不思議な高揚感というか、そういう感覚を体験してほしいと思っていました。アクションゲームなのだからその動きをそのままペインティングみたいな感じに出来るかもしれない、と思ったのが始まりでした。自分の原体験であるアクションペインティングの感覚を頼りに、ビジュアルやそのインタラクションを制作していきました。
────多様なスパイスやグリンプたちは、前作にさらなる深みをもたらした要素でした。本作でも引き続き存在しますが、それぞれ新たな種類は登場しますか。
グリンプは基本的に『Eden Obscura』に出て来たものをベースにしています。ゲームルールであるグリンプアビリティはかなりSwitch用に調整されていて、より遊びやすくしたり、より違うプレー体験が出来るように調整した結果、まったく違うものになっているものもあります。スパイスは新しいものありますよ、レアなシークレットのボトルもあるかも?
────グリンプは、奇妙だけどカワイイ不思議な魅力があります。どのようなインスピレーションから生まれたキャラクター、またデザインだったのでしょうか。
グリンプの触覚はウミウシのイメージですね。ウミウシっていろんな模様があって色も奇麗なんですね。なぜか鼻?の部分にマッチ棒みたいなのが刺さってて、その先が蛍光で光ってたりとかちょっと間抜けな見た目をしながらもかっこ良くて。それが最初のインスピレーションだった気がします。
────本シリーズのビジュアルについては「万華鏡」というキーワードがたびたび登場します。Baiyonさんは万華鏡のどういったところに惹かれるのでしょうか。
実はわかりやすいので万華鏡と言っているんですが、本当に好きなのはテレイドスコープというものです。万華鏡は中に入っているもので像を作り出すんですが、テレイドスコープは周りの風景を取り込んで像を作り、それが万華鏡のように見えるんです。
どういった所に惹かれるのかというと、今目の前にある物を違う視点で見る事が出来るという事ですね。つまり素材は用意されたものではなくて、ただ自分の身の回りにあるものですよね。そこから自分なりの楽しみ方を見つけるのが大好きですね。同じ理由で、実はマイクロスコープもいつも持ち歩いています(笑)
────『PixelJunk Eden』シリーズにおいては、背景は作品としての見た目の印象はもちろん、ガーデンへの没入感の面でも大きな役割を持っていると感じます。背景のアートについてのこだわりや、本作に向けてのディレクションについてお教えください。
先程言ったようにEdenをプレーする時に何かしらのクリエイティブな感覚 – たとえば紙に絵の具を乗せて色が広がって行く時のような、もしくは作っているビートの上にスネアを足した瞬間に感じるような高揚感を感じてほしいと思っています。そしてそれをゲームというフォーマットに落とし込むことを、ゲームをプレーしてくれる人たちと一緒に実験を楽しみたいと思っています。今回はこんな感じの感覚見つけて来たよ、どうかな?みたいな感じですね。
矛盾しているようですが、アクションゲームでありながらプレーしながらそれを忘れちゃうくらいの感覚になったら面白いなと思って作っている所はありますね。ゲームという表現は、それくらいのことは受け止めてくれる器があるだろうと思っています(笑)
────シードから伸びて揺れるプラントは、背景とのコントラストによって映える美しさがあり、オーガニックな世界観を強調しています。また、ゲームプレイにおいても重要な存在だと思います。プラントのデザインや動きについても、やはりこだわっている部分でしょうか。
植物や岩に関しては元々はすべて手で描いています。それをスキャンして実装していく感じですね。植物の形は墨汁を垂らして描いていくんです。墨汁が垂れていく、出来た形を逆さまにしたたら植物が成長しているように見えるじゃないですか。
また配置に関しても、通常のアクションゲームにあるような同じブロックが連続して並んでいるというようなことは絶対避けたかったので、ステージデザインにおいても植物である、オーガニックな世界である、ということは非常に意識して作っています。だってまったく同じ形の植物が連続してコピーされたように並んでいるようなことは、自然にはなかなか無いじゃないですか?逆に、一方で自然の美しさの中にはミニマルでフラクタル的なものも有ると思います。そういう部分は、たとえばガーデンの入り口のゲートなどでデザインの要素として取り入れています。
────BGMのミニマルなハウス・テクノサウンドも、シリーズの大きな魅力となっています。『PixelJunk Eden』シリーズにおけるサウンド面への取り組み方や、ゲームに使用するという点で心がけていることはありますか。
よくどうやってEdenの音楽を作っているの?アートとの関係はどうやって考えているの?と聞かれる事があるんですが、自分的には特に意識する事はあまりないです。別のゲームに参加する時はもちろんそうはいかないのですが、Edenに関しては自分の今持っている最新の表現をぶつけていく、シンプルなプロセスです。
常にゲームで鳴ったことのない音を鳴らしたい、というのはありますね。それは必ずしもテクノロジー的な意味ではなくて、もっと実験的で解釈的な新しい組み合わせによる表現ですね。たとえば、「Snip snip clan clan」という曲があるのですが、直訳すると「チョキチョキカチャカチャ」という意味なんです。どうやってその曲を作ったというと、会社のオフィスに植物のメンテナンスに来てくれていた方のハサミの音がすごく好きだったので、お借りしてメトロノームを聞きながらチョキチョキカチャカチャしてリズムを作って録音しました。実はそれは日本伝統の剪定用はさみでとても音がすばらしく、その後は、ハサミを楽器として見るようになってしまいました(笑)
────『PixelJunk Eden 2』の楽曲制作においては、過去作とはあえて変えた部分などはあったのでしょうか。
楽曲自体は自分自身のスタイルが少しづつ変化しているということもあって、前作よりもう少しオーガニックな?印象になっているかもです。
────前作、前々作から年月が経っていますが、機材環境の変化やテクノロジーの進歩によって、本作にてやっと実現できたゲーム要素や、楽曲制作へのアプローチはありますか。
音楽的にテクノロジーが進歩することによって、逆に古い機材をどんどん扱いやすくなっていく所が面白いと感じています。昔のシンセサイザーなどを同期する環境などは今はとても整えやすいですしね。ですので、テクノロジーの進歩で録音環境のクオリティもどんどん上がっていく環境の中で、個人的にはよりアナログな機材やアイデアに意識が向かっています。
────今年の「Day of the Devs(*)」でのライブパフォーマンスでは、コップに浮かべた氷の音を幻想的なサウンドに変えておられたのが印象的でした。当時視聴者のコメントも盛り上がっていたのを覚えています。ああいった面白い音を探すことは日常的にされているのでしょうか。
そうですね。普段の音楽活動の中でも昔からずっとやっていますね。いつも出かける時にはバックパックの中に録音用のマイクや、写真撮影用の三脚などを入れて気になったものをいつでも撮れるようにしています。たぶん僕は、自分で発見した面白い物や現象の断片を組み合わせてそれを人に見てもらうのが好きなんですね。それで人に楽しんでもらえると、とても嬉しいです。『PixelJunk Eden』もその集合体ですね。
コップに関しては、実はあれ特別なチタンのグラスで、グラスが二重構造になっていてコップの中に真空の空間があるんですね。それで氷を入れて動かしたらめちゃくちゃ奇麗な音が響いて鳴ることに気が付いて、なにかに使えないかなと思っていた所にストリーミングライブのオファーがあったのでそれを使ってライブしました。実はあれ、良い音が鳴る氷の状態を作るのが凄く難しくて、楽器として奇麗に鳴るようにするのは手間がかかります(笑)。たとえばゲームを起動した時の最初のSEや楽曲でもその音を使っていますよ。
*:デベロッパーDouble Fineとゲームグッズ等制作会社iam8bitが主催するインディーゲームイベント
────最後に、読者にメッセージをお願いします。
なんと12年ぶりに『PixelJunk Eden』の続編がSwitchに登場します!オリジナルサウンドトラックも主要なストリーミングサービスで配信されていますので、是非チェックしてみてください。
『PixelJunk Eden 2』は、Nintendo Switch向けに配信中(ニンテンドーeショップ)。なおBaiyon氏によると、本作のほかのプラットフォームでの展開については、現時点ではまだ決まっていないとのこと。本作は、12月16日までは34%オフの990円で購入可能となっているため、シリーズのファンも初めて知ったという方も、この機会に購入を検討してみてはいかがだろうか。体験版も用意されている。また、本作のオリジナルサウンドトラックも、Spotify・iTunes Store・Google Play・LINE MUSIC・Amazonなどで配信されているため、ぜひチェックしてみよう。