弊社アクティブゲーミングメディアの運営するパブリッシャーPLAYISMは、8月27日に『ジラフとアンニカ』をPS4/Nintendo Switch向けに発売する。『ジラフとアンニカ』は、純真で明るく天真爛漫なケモ耳少女アンニカが、不思議な島であるスピカ島を探索し、失った記憶を取り戻していくハートフルアドベンチャーだ。 パッケージ版の価格は、税別3980円。本作の開発を手がけたのは、ゲーム業界で20年間デザイナー・アートディレクター を務めたのち独立した「atelier mimina」の斉藤敦士氏。
『ジラフとアンニカ』は、ケモ耳少女アンニカを主人公としたアドベンチャーゲームなのだが、ゲーム内にはあらゆる「かわいいもの」が存在している。むしろこれらのかわいいものを楽しむために世界が用意されているとも言えよう。かわいいものだらけの本作の世界観やキャラクターづくりには、どのような想いが込められているのだろうか。コンシューマー版の発売を記念して、斉藤氏にインタビューを行った。
斉藤敦士:
ゲーム会社でデザイナーとして20年勤務したのち、2018年5月に独立、atelier mimina (アトリエ ミミナ)を設立し、インディーゲームの『ジラフとアンニカ』を制作。UnrealDevGrants と TGS 2017 電撃アワードインディーズ部門「大賞」受賞。
もともとはデザイナーであり、アートディレクション、背景デザイン、UIデザインを得意とするが、UE4のBluePrintを使用したゲームやビデオ制作など、多岐にわたる分野に挑戦し、個人でのゲーム開発を進めている。
作品実績:
音楽バトルアクションゲーム『ギタルマン (PS2)』および『ギタルマン Live! (PSP)』
キャラクタモデリング/ 背景モデリング / カメラオーサリング
『押忍! 闘え! 応援団』 作画ディレクター、イラストレーション
『Elite Beat Agent』イラストレーション
『燃えろ!熱血リズム魂 押忍!闘え!応援団2』イラストレーション
獸というフィルターを通して見えるもの
───本日はよろしくお願いします。
『ジラフとアンニカ』では、至る所に猫が出てきますね。主人公は猫耳のアンニカちゃん。猫型のセーブさん、猫女神、ねこ絵などなど。斉藤さんは猫がお好きなんですか?
斉藤:
実は、ゲーム開発に着手したときは、猫はそこまで好きじゃなかったんです。ただ、かかわっているクリエイターさんに猫好きがとても多くて。そこに着想を得たというのが大きいですね。一方で、開発していくうちに自分も猫が好きになってしまって、保護猫を1匹飼いました。今は猫の魅力に夢中です。
───「ねこじゃらしになりたい」の顔出し看板も話題になりましたね。あれはどこから着想を得たんですか?
斉藤:
『とびだせ どうぶつの森』に出てきた、顔出し看板を参考にしたというのはあります。また、ゲーム内アートを担当してくれたSHIMOさんに背景を頼んだときにすでに描いてあって、これはいいなと。それで顔出し看板を2種類追加してもらいました。
───ゲーム内には猫以外にも、うさぎ家族や鳥のオカーノなど動物がたくさん出てきます。
斉藤:
実はこれはうさぎの家族とオカーノをデザインして頂いたクリエーターのゆきひこさん由来なんです(笑)うさぎ好きのクリエイターさんがいたので、うさぎ家族を登場させました。
ただ、獣キャラがたくさん出てくるのはとても重要な意味があります。決して自分がケモナーというわけではなく(笑)、本作では動物の姿をしていることで、ユーザーが自然と物語に入りこみやすくするということを意識しました。たとえば「ズートピア」という映画がありますが、あれも内容は人種や差別など重いテーマを扱っています。だけど動物たちにすることによって柔らかい雰囲気になる。そこを狙いました。獣が好きな人は、もちろん見た目が好きなのもあると思いますが、人間ではないフィルターを通して別のものを見ているのではないか、と。
最初にゲームの構想を考えたときから、そこは意識していました。『ジラフとアンニカ』は、あくまで明るい話のアドベンチャーゲームにしたいという想いがあったので、人間の女の子が記憶を無くして知らない世界に迷い込んでしまったという設定の場合、どうしても深刻さが出てしまいます。そこで主人公のアンニカに猫耳をつけました。猫耳はやっぱり強力ですね。耳があるだけでさまになるというか。
───とにかく主人公のアンニカちゃんが明るくてピュアで元気で、とってもかわいらしい印象です。キャラクター像をイメージするときに、意識したところはありますか?
斉藤:
これについては、まずかわいい女の子のイラストを描くのが自分自身楽しくて、癒されるというのがありました。持論ですが、この部分はインディーゲームに女性主人公が多いことと関係しているように思います。商業ゲームは、やはりマーケティング的な観点でプレイヤーの「ターゲット層」を考えます。そうなるとゲームを楽しむのは男性が多いので、男性が感情移入しやすい男キャラが主人公になることがほとんどです。だけどインディーゲームは自分の好きなものを作るから、女性主人公が多くなるのかなと思っています。
アンニカの年齢を10歳くらいにした理由は、話が複雑になりすぎず無理なくストーリーを進められる年齢設定にしたかったからですね。中学生だと思春期が始まってしまうので、話が複雑になりすぎるなと。
ゲームにおける「やさしさ」とは
───2月にSteamでゲームをリリースされましたが、印象的なフィードバックはありましたか?
斉藤:
自分でも予想外だったのが、「やさしい世界」と言われたことですね。自分では「やさしさ」を売りにしようとは思っていなかったし、あるとしたらかわいさだけだと思っていました。
───PLAYISMが考えたゲームのキャッチコピーも「やさしい世界を探索しよう。ゆたかな音色を奏でよう。」ですね。本作では敵に対する攻撃手段がないですが、これもこのゲームから感じる「やさしい世界」というイメージにつながっていると思います。
斉藤:
アンニカのキャラ設定を考えた時に、おばけを棒で叩いたり銃で撃ったりするイメージがまったくなかったので、攻撃という選択肢はすぐに外しました。ゲーム内でトロッコのシューティングステージがありますが、そこでもアンニカに撃たせたくなかったのでうさパパを登場させたという経緯があります。キャラ設定を丁寧に考えたら、自然と「やさしい世界」といわれるゲームになっていったんだと思います。
───では斉藤さんから見て、「やさしさ」が表現できているゲームはどんなものがありますか?
斉藤:
これは『ワンダープロジェクト Jシリーズ』ですね。ストーリーやゲーム設計がとてもうまくできているお気に入りのゲームのひとつです。ゲームから感じる「やさしさ」ってなんだろうと考えた時に、「誰でもわかりやすい形で表現されているもの」だと思いました。その影響か、『ジラフとアンニカ』も、自然と台詞も伝えたいこともわかりやすくしようとしていました。自分が四苦八苦した点が、「やさしさ」としてユーザーに受け入れられてよかったです。
もう少しお話しすると、最近のゲームは自分にとってストーリーがいい作品があまりないと感じているのもあります。どうしても話が複雑すぎる印象を受けるんです。もう少しわかりやすい、だけど子供過ぎないものが欲しいなと。もっとゲームのストーリーの多様性や表現があってもいいんじゃないかと思い、だからこそストーリーを大事にしたインディーゲームを自分自身で作ったというのもあります。
ゲーム会社では自分の作りたいゲームは作れない
───ゲーム業界に長く活動される上では、これまで勤めていた会社で、自分の作りたいゲームを作るという道もあったのではないですか?
斉藤:
ゲーム会社では、自分の作りたいものってなかなか作れないんです。
やはり会社なので、どうしてもお金を取ってこないといけない。会社で自分のやりたい企画を提案して予算を勝ち取るのが理想だけど、この企画は会社で通らない。会社でやれば常駐スタッフが10人いても2年はかかる内容だからざっと1億円以上かかる。そうなるとオリジナルキャラクターではなくてIPを入れざるを得ないとか、ガチャ形式とかになってしまう。もちろんクオリティも担保しないといけない。
そう考えた時に、「今40代で20代、30代とくらべて体力が落ちている。残りの仕事人生から見ても、もう半分経過している。ぼんやりして天からチャンスがくるのを待つ よりは、失敗してもなんとかなる」くらいの気持ちで、自分で動くことが大事かなと思いました。その時は、自分が作りたいこの『ジラフとアンニカ』は開発に4年はかかると見積もりました。そこから調整で1年かかるとして、5年に1本ゲームを出せると考えると、今から60歳まであと2本しかつくれない。今すぐにでもやるしかないという想いがありました。
───独立を後押しする作品などもありましたか。
斉藤:
フリーゲームでノラさんが作った『魔王とねこづくり』に出会ったことは大きかったですね。「RPGツクール」製ですが自由なゲームで戦闘もありません。音楽はオリジナルでマップチップも入れ替えていて、とてもオリジナリティがありました。アマチュアの人でこんなに面白いのに、自分はゲーム業界にいるのにゼロからゲームを作ったことがない。色んな要素を削れば、自分もオリジナルのゲームを作れるんじゃないかと思いました。
ちなみに、「ノラ」さんには『ジラフとアンニカ』の「ねこ絵」にも参加していただいています。
───「ねこ絵」はゲームのコレクターアイテムですが、実に30人近くの方にイラストを描いていただいていますね。
斉藤:
そうですね。知り合いに描いてもらった絵も多いですが、いいなと思う人にはコミティアとかクリエーターズエキスポで 自分で書いた企画書を持って行ってスカウトしたりしています。インディーならではというか、合同誌が好きなのでその雰囲気が出せたらなと。
───多くの人に協力してもらっている点は、『ジラフとアンニカ』の作り方にもよく現れている気がします。音楽をプロの方に依頼したり、リリィのダンスは実際のダンサーの方のモーションを取り入れたりされましたよね。
斉藤:
はい。『ジラフとアンニカ』には多数の人がかかわっています。自分の世界を一人で作る人もいますが、自分はそうではないなと。ゲーム業界での自分の仕事がアートディレクションで、色んな人に仕事を振っていくという内容だった影響があると思います。
一人でやれば制作費用を節約できる
───『ジラフとアンニカ』はUnreal Engine 4で開発されていますが、斉藤さんはプログラム知識を要さないBluePrint機能だけでコンソール移植をこなそうとしているんですよね。独学で、1人でコンソール3機種に移植をしようとしている方は、そうそういないのでは。
斉藤:
はい、あまり前例がないことみたいです。実際に移植はほぼ一人でやっていて、プログラマの方に少しだけ助言をもらうくらいですね。ちなみに自分は独立するまでプログラム知識は全くありませんでした。10代のころMSXでベーシックを作っていたけど、それ以外は全くやっていません。
───本当にゲーム開発部分は一人でされていらっしゃるんですね。
斉藤:
音楽やキャラクターデザイン、3Dモデリング、モーションに関しては外注していますが、コアの部分は自分一人でやらざるを得ない。コンシューマー に移植するには、コスト的に安く見積もっても数百万円 はかかります。だけど自分でうまく移植できたら、その費用を節約 できます。。自分ならいくらでも費用を値切れる。それこそ学生レベルくらいに。車を売って、節約のためにお弁当を作って。それでも自分のゲームを作りたかったんです。
会社を辞めた時に、費用を計算したら貯金は2年しかもたないとわかりました。だから「絶対2年で完成させるぞ」というのがあって、やりたいことをかなりカットしました。本当はジラフ操作視点もあったんですけどね。タイトルが『ジラフとアンニカ』なのに、ジラフがやるのは扉を開けるくらいですし(笑)。漫画で表現している所もアクションシーンは本当はムービーにしたかったし、、 天文台も覗けるようにしたかったけどやっぱり貯金残額と予算との戦いでしたね。
───興味深くも生々しいお話、ありがとうございました。最後に、コンシューマー版・パッケージ版発売にあたっての、読者へのメッセージをお願いします。
斉藤:
ジラフとアンニカは、僕の好きな「かわいい」を4年かけてじっくりと作り込みました!元気で可愛いアンニカ、心温まるストーリー、優しい世界観、クオリティの高い音楽……PVをみてこれは!とピンときた方は、是非この世界を体験して頂けると嬉しいです!
このゲームは、コンシューマー 版を待ってくださっている方が多いようなので、早く皆さんにお届けしたいです。パッケージのリバーシブルジャケットを大好きな刈谷仁美さんと田中久仁彦さんに描いてもらえて本当に幸せです。
もしよかったら、両方買ってください(笑)。
───ありがとうございました。