落ち物デッキバトル『錬神のアストラル』配信記念インタビュー作曲家編。光田康典氏、下村陽子氏ら豪華メンバー6人が集う
エヌシージャパンの社内スタジオLIONSHIP STUDIOとアクワイアが共同開発し、現在好評配信中のモバイル対戦型デッキバトル『錬神のアストラル』(以下、錬スト)。神を錬成する術である「錬神術」を操る「錬神術師」たちの戦いを描く作品だ。前回記事に引き続き、そんな『錬スト』の開発に参加する豪華クリエイター陣に直接質問をぶつけ、話を伺う機会を頂いた。
今回は作曲家編ということで、プロデューサーの鈴田健氏に加えて、同作の音楽を担当する豪華作曲家陣が参加。東京編担当の光田康典氏、ロンドン編担当の土屋昇平氏、パリ編担当の下村陽子氏、メニュー曲や通常バトル曲を担当した牧野忠義氏、そして未発表勢力の楽曲を担当した高田雅史氏と西木康智氏、計6人の作曲家である。ビッグネーム揃いの作曲家陣が『錬スト』にかけた情熱を存分に語るインタビュー内容を、以下にお届けする。
過去インタビュー記事はこちら:
第1回 プロデューサー編
第2回 クリエイター編
『錬神のアストラル』とは
『錬神のアストラル』は、神を錬成する術「錬神術」とそれを操る「錬神術師」たちを題材としたスマートフォン(iOS/Android)向け対戦型デッキバトルゲーム。錬神術師たちは「東京」「パリ」「ロンドン」の3つの信仰勢力に分かれており、それぞれ扱う神や得意とするバトルスタイルが異なっている。
バトルでは、マス目型の対戦フィールドに2つ連結された自軍の神を「射出」していく。神たちにはそれぞれ色があり、同じ色の神を隣同士に配置することで合体。射出前に回転させることも可能で、『ぷよぷよ』のような落ち物パズルゲームを連想してもらえば分かりやすい。本作のバトルの特色となるのは同じ色の神を連結させた時に起こる合体で、同色の神をどんどん付け足していくことで何段階にも渡って合体・巨大化させることができる。巨大な合体神が生み出されるとバトルフィールドが拡大されていくことも特徴だ。合体によって誕生する神は勢力ごとに決まっており、最終的には「最高神」と呼ばれる各勢力を象徴する非常に巨大で強力な神となる。なお東京の最高神はスサノオ、パリの最高神はルシファー、ロンドンの最高神はキング・アーサーとなっている。
『錬神のアストラル』のシングルプレイモードでは、里見直氏が手がけたボリュームのある濃いシナリオを味わえる。また本作は対戦型デッキバトルということで、PvP(対人戦)も用意されている。各勢力に属する独自のスキルを持つ錬神術師を選び、デッキを構築し、育成を行い、対戦に挑む。
勢力の割り振りには迷わなかった
――まずは皆さん、自己紹介からお願いします。
光田氏:
プロキオン・スタジオの光田康典と申します(東京編バトル曲担当)。代表作は、スクウェアにいた頃は『クロノ・トリガー』や『ゼノギアス』、辞めてからは『クロノ・クロス』、最近だと『ゼノブレイド2』あたりです。モバイル作品は実は過去にほとんど参加してなくて、『アナザーエデン 時空を超える猫』のOPを担当したくらいです。今までがコンシューマー作品メインだったので、一時期はモバイルの仕事が来てもお断りしていました。ですので、モバイル作品としては今回の『錬スト』が代表作になるかなと思います。
西木氏:
フリーランスの西木康智と申します(未公開の新勢力担当。今後情報公開予定)。新卒でコナミに入社して、最初にやったのは『クイズマジックアカデミー』というアミューズメントのタイトルで、それ繋がりで『モンスター烈伝 オレカバトル』というゲームも担当しました。その後コナミは退社しまして、最近だとスクウェア・エニックスの『OCTOPATH TRAVELER』というゲームをやらせていただいています。モバイルだと『プリンセスコネクト!Re:Dive』に参加しています。
牧野氏:
株式会社スピンソルファの牧野忠義と申します(シナリオ/メニュー/バトル曲担当)。代表作はカプコンさんの『モンスターハンター:ワールド』や『バイオハザードRE:2』、スクウェア・エニックスさんの『FINAL FANTASY XV』のDLC「戦友」などです。光田さんとは一緒に『Final Fantasy XV』の「エピソード・イグニス」もやらせていただきました。モバイルだと『FINAL FANTASY Record Keeper』や『モンスターハンター エクスプロア』あたりが代表作になります。
土屋氏:
タイトーの土屋昇平です(ロンドン編バトル曲担当)。現在配信中の『クリムゾンクラン』というゲームや、アーケードの『おまつりクエスト ヒッパレQ』、『グルーヴコースター』などで楽曲を担当しています。もしアミューズメント施設で見かけたら、ぜひ遊んでみてください。
高田氏:
サウンドプレステージの高田雅史と申します(未公開の新勢力バトル曲担当。今後情報公開予定)。最近仲間と立ち上げたトゥーキョーゲームスにも所属させていただいております。代表作には『ダンガンロンパ』シリーズ、『夢王国と眠れる100人の王子様』、『地球防衛軍』シリーズ、『killer7』など、古くからいろいろやらせてもらっています。ヒューマンという会社に所属していた頃は『クロックタワー』シリーズや『猫侍』なんてゲームも担当しました。グラスホッパー時代は『シルバー事件』等々。三上真司さんと『ゴッドハンド』『VANQUISH』、『サイコブレイク』の音楽を担当しました。
――コナミさんの『BEMANI』シリーズへの楽曲提供もされていますよね。
高田氏:
そうですね、個人的に勝手にシリーズ化を考え、「cubeシリーズ」というのを書かせて頂いていたのですが「そろそろ名前を変えないか?」と言われて。新しく「スケッチシリーズ」を始めたのですがまだ1曲しか世に出せていないです。(笑)。
下村氏:
フリーで活動しています、下村陽子です(パリ編バトル曲担当)。昔はカプコンに勤めていまして、スクウェアへの転職を経由してフリーになりました。代表作は古いところだと『ストリートファイターII』、最近だと『キングダムハーツ』シリーズや『FINAL FANTASY XV』あたりになります。モバイルだと『サモンズボード』が一番長く続いている作品になりますね。
――鈴田さん、今回作曲陣にこちらのメンバーを起用した理由を教えて下さい。
鈴田氏:
まず、牧野さんには『錬スト』の前のタイトルからお世話になっていまして、『錬スト』の骨格となるメニュー曲や汎用バトルに関しては、牧野さんに丸々お任せしようと早い段階から決まっていました。その時点でMIYAVIさん(※)の楽曲をPVで使わせていただくことが決まっていましたので、そちらをベースに曲を作っていただく形でお願いしていました。当時はまだ手探りの状態だったので、牧野さんとのやり取りはかなり多かったですね。
※同作ではギタリスト・MIYAVIの楽曲を使用したプロモーションビデオが制作されている
https://youtu.be/SGvi8U1N8nk
――どうして勢力ごとに異なる作曲家を起用したのですか?
鈴田氏:
『錬スト』は勢力ごとに雰囲気や世界観、設定などがかなり違いますので、それならば勢力ごとに違う作曲家を起用した方が、音楽面でも違いも出て面白いんじゃないかと。お願いする作曲家陣の選定に関しては、シンプルに自分や開発チームメンバーが好きな作曲家を挙げていったらこうなったという感じですね。
――作曲家と勢力の割り振りにはどういう基準が?
鈴田氏:
我々は開発者であると同時にゲーマーでもありますので、我々のプレイ経験も含めて、作曲家の皆さんが担当してきた作品のイメージから自然と決まっていきました。
パリ編はちょっとクラシカルで荘厳な雰囲気なので下村さん、ロンドン編のちょっとエッジの効いた感じは『ダライアス』などのイメージから土屋さん。『ダンガンロンパ』の怪しい、追い詰められる雰囲気の楽曲から高田さんには今後追加予定の新勢力を。西木さんは『OCTOPATH TRAVELER』でのパッキリとした感情表現と「色」の出し方が非常に上手だなと思ったので、それらが活きる別の新勢力をお願いしました。
光田さんに関しては、作曲家の皆さんの取りまとめ役でもあったので、このクリエイター陣の中では主人公枠かなと。東京編は主人公が一番多く出てくるシナリオでもあるので、光田さんにお願いしようと考えました。東京は勢力の中でも色が薄めで、どちらかというと都会的なイメージだと思うんですが、『錬スト』の東京勢はちょっと大正ロマンっぽい格好もしていたりと、なかなか難しいんですよね。そういった部分も光田さんならうまくまとめてくれそうだなと思っていました。特に悩んだということはなく、メンバーの選定も割り振りもすんなりと決定しました。
近代的かつプログレ風の東京編
――光田さんは東京編の担当ということですが、最初に鈴田さんに頂いたオーダーはどのようなものでしたか?
光田氏:
最初にPVを見せていただいたのですが、そのPVについていた音楽がなかなかポップというかはっちゃけた感じの曲で。こういう路線で「東京」となると、一体どういう曲がいいのか、考えるほどわからなくなってしまったので、絵素材だけではなくシナリオも読ませて欲しいと鈴田さんにお願いしました。ゲーム全体としても、勢力ごとに全く毛色が違う楽曲を用意するというコンセプトが感じられましたので、それならば自分が感じる形で好きに東京を表現すればいいかなと。
最初は東京ということで和風の楽曲を求められているのかなと思い、和風はあまり得意ではないので、自分は他の勢力のほうがいいんじゃないかと相談したりもしました(笑)。でも、バトルマップやキャラデザインを見せていただいたり、シナリオを読んだりしている内に、どちらかというと近代的な感じで問題ないのかなと。そんな感じで、東京のガチャガチャしたイメージにも合わせて、自分が今までやってきた音楽とはちょっと違う、プログレっぽいロックにチャレンジしてみました。悩みながらも楽しく仕事をさせていただいたと思います。
――楽曲そのものについて、なんらかの指定やオーダーはありましたか?
光田氏:
いえ、全くなかったです。絵素材やシナリオを頂いたのみで、それ以外は自分が思う通りに自由に作らせていただきました。
――今回の楽曲で、なにかこだわった点や苦労した点などはありますか?
光田氏:
東京の曲にはちょっと人の声を入れたいという思いがありまして、通常バトル曲とボスバトル曲どちらにもコーラスが入っているのが特徴になっていますね。その中でも通常バトル曲はロックテイスト、ボスバトル曲はオーケストラサウンドになっています。あと、レコーディングする際に予算と相談して皆さんに最適な楽器や機材を用意したりもしました。
牧野氏:
ミックスは皆さん一緒にやられたんですか?
光田氏:
高田さん以外は一緒でしたね。
高田氏:
どうしてもスケジュールが合わなくて……残念でした。
※本作のレコーディングは都内スタジオ。ミックスは光田氏のスタジオで行われた。高田氏はスケジュールの都合上、ネット経由で光田氏のスタジオでミックスしている
――ちなみに、勢力担当の作曲家の皆さんは全員2曲ずつ作成したのでしょうか。
鈴田氏:
そうですね、通常バトル曲とボスバトル曲の2曲をお願いしました。また、ボスバトル曲は通常バトル曲のアレンジ風味ということでお願いしています。メニュー曲などを担当されている牧野さんだけは十数曲ありますね。
新旧の融合がテーマとなったロンドン編
――ロンドン編担当の土屋さんには、どのようなオーダーがありましたか?
土屋氏:
ロンドン編ということで、もちろんロンドンを感じさせる音楽というオーダーではあったのですが、ちょっと面白かったのは「最新のロンドンと昔のロンドンを混ぜて欲しい」と言われたことですね。拝見させていただいたバトルマップもかなり新旧ロンドンが混在している感じだったので、そのイメージで取り組みました。
――具体的には、新旧ロンドンはそれぞれどのようなイメージでしたか?
土屋氏:
あんまり昔すぎるロンドンもいかがなものかなとは思っていて。あと、勢力としてのロンドンに共通するイメージとして「スチームパンク」があるとも聞いていました。こういった要素を全部一つの曲にまとめるのはちょっと無理があるなと思っていたので、通常バトル曲とボスバトル曲に分けて表現することにしました。僕は今の最新のロンドンの音楽はUK JAZZだと思っているので、通常バトル曲はブレイクビーツ/ドラムンベースにUK JAZZを乗せた感じのトラックにしてみました。ボス曲の方は、やっぱり古いロンドンといえばセカンド・サマー・オブ・ラブですから、ちょっとレイヴ感を意識しました。そこに今の子達が楽しんでいるようなEDMっぽいのも乗せつつ、ところどころで蒸気や歯車の音でスチームパンク感も出せたらなぁと。もちろん作っている時はこんな細かく言語化してはいないのですが、言葉にしちゃうとこんな感じですね。
※ロンドン編の通常バトル曲とボスバトル曲
――こだわった点や苦労した点はありますか?
土屋氏:
好きにやらせていただいたので、苦労したところは全然ないです。こだわった点はインテリジェンスと品です。なんの遠慮もなく作れたので、今年やった仕事の中では一番楽しく取り組めましたし、自分の今年のベストワークだと思います。唯一少し気にしたのは、牧野さんの曲からへの受け渡しくらいですし、「これが自分の考えるバトル曲だ」という仕上がりになっていると思います。たとえばバトル曲でも、各作曲家さんによってスポットの当てどころはかなり違うと思うんですね。僕は、自分の売りはそのスポットの当て方だと思っているのですが、それを説明したり説得したりする必要がなく、最初から自由にやらせてもらえたので、楽しかったです。
難産であったパリ編
――下村さんの担当はパリ編ですが、こちらのオーダーはどういったものでしたか?
下村氏:
オーダー自体は、かなり自由にしてもらって構わない、ほぼお任せというものでした。ですが、他の作曲家の皆さんはご存知の通り、自分は非常に苦戦しまして。曲の提出は最後で、危うくミックスが間に合わないところでした。「こういう曲にしたい」というのは早い段階から頭にあって、通常バトル曲の方はわりとするっと出来上がったのですが、ボスバトル曲用のアレンジを考える時に、通常版を広げるのが難しくなってしまって。ぼやっとしたイメージだけはあったんですが、いざ出来上がったものは「ちょっと違うな」というもので。締め切りがあるので黙ってそのまま出したらやっぱり見抜かれてしまったという(笑)。
牧野氏:
戻されたってことですか?
下村氏:
そうですね、ひと悶着ありました(笑)。私生活も少し立て込んでいた時期だったので心が折れかけちゃって、もはや葬送行進曲のほうがするっと書けるんじゃないかという勢いでした。最終的には出来上がってOKもいただけたのでよかったんですけど。コンセプト自体は最初からはっきりしたものがありました。シンプルに「パリといえばオペラ座」みたいな。なのでちょっとオペラっぽい声を入れたバトル曲にしようとは最初から思っていたので、それに沿って作り上げました。
――シナリオやキャラデザインなど、資料は何を参考にされましたか?
下村氏:
シナリオは確か頂いてなくて、主にキャラデザインとバトルマップになります。バトルマップは実際の動いているゲーム画面と合わせて見せていただきました。絵資料にしてはかなりカッチリとしたものを頂いていたので、「貴族と怪盗団」というイメージは最初からありました。
「色」が強すぎた新勢力
――新勢力を担当した高田さんへのオーダーはどうでしたか?
高田氏:
ミーティングの時に絵素材を拝見させていただいたのですが、実はその時からもう「こういう曲にしよう」というのは自分の中で固まっていました。比較的音階でカラーが出しやすい国の勢力ですので、それをどれくらい押し出していくかというのがポイントでしたね。実は最初に提出したトラックは「◯◯色が想像の5倍濃い」と調整する事になり……(笑)。それでそこからロックのエッセンスを足していき、着地した感じですね。
――通常バトル曲とボスバトル曲の書き分けで意識した点はありましたか?
高田氏:
最初に仕事を頂いた時、ボスバトル曲は通常バトル曲のアレンジでお願いしますと言われていましたので、あまり差をつけてなかったんですよね。ただ、やはりボス曲ならもう少し変化を付けたほうがいいのかなと思いまして、最初に提出した「5倍濃いやつ」をボスバトル曲の方に寄せていき、ロックのテイストを足した方を通常バトル曲に仕上げたところ、良い流れが出来たと思います。
「和」の風味を意識した新勢力
――また別の新勢力を担当された西木さんは、オーダーやテーマなどはいかがでしたか?
西木氏:
光田さんが東京で、僕が◯◯ということでしたので、和の要素を取り入れるなら僕の方かなと。
光田氏:
そうですね、僕も西木さんが◯◯を担当されると聞いて「あ、なら自分はあまり日本っぽくない方がいいかな」と思ったのを思い出しました。
西木氏:
『OCTOPATH TRAVELER』を聴いて声をかけてくださったんだろうな、というのもあったので、そういったコテコテな感じを目指しつつも、ゲーム性的にはオーケストラメインよりもリズム主体で、4つ打ちの上に和要素と軽くオーケストラを乗せていく感じがいいかなと。それでサビ以外は基本的にリズム主体という感じなんですけど、サビで「このメロディだけ覚えてくれればいいです」という感じのわかりやすいメロディを出していって、ボス曲では同じメロディをアレンジしつつも使うみたいな、そういう作り方をした覚えがあります。
――通常バトル曲とボスバトル曲の変化で意識した点はありますか?
西木氏:
同じメロディを効果的に使ってあげようとは意識していたので、それを守りつつも通常バトルは軽め、ボスバトルは重め、というくらいの変化しかつけてないですね。
――こういった和風の曲はよく作られるんですか?
西木氏:
『モンスター烈伝 オレカバトル』でかなり作ったので、それの延長線上という感じです。
――和風とは言いますが、聴いている人間が和風だなと感じるのって、一体どういう要素があるんでしょうか?
西木氏:
それこそ純粋な和風でしたら、伝統的な和風音楽の形式を勉強して、それに沿ったことをやればいいと思うんですけど、こういうある程度ミックスされた世界観で「和」の要素を取り入れていく場合は、そこからどれくらい壊していくかのバランス感覚が大切だと思います。具体的な要素だと、先程高田さんもおっしゃっていった音階や、篠笛や能管のような祭囃し的な要素、太鼓の音色などはどれも「和」を感じる要素になっていると思います。
あとは和音ですね、メジャーコードのトライアドの和音から第3音を抜くと空虚な感じになるのですが、それにより「和」の雰囲気が出る和音になります。また音階も「ヨナ抜き音階」といって第4音と第7音が抜けているものを使うと、「和」っぽい雰囲気を出せたりします。そういったいくつかの選択肢を自分の感性に従って使っていく感じです。
土屋氏:
雰囲気を作り出す要素は一つだけではないんですよね。スケール(音階)だけの話でも、ペンタトニック(5音で構成された音階)も別に日本独自のものではなくて、いわゆる民族色の濃いところの音楽って結構ペンタなんですよね。土地柄の楽器だとかリズムだとか言語だとかが合わさってくることで、その「土地っぽさ」が現れてくるんじゃないかなと思います。
デフォルト曲のポイントとなった「グランジ」と「神」
――牧野さんはメニュー曲などを担当されたとのことですが、最初に作った曲はどれですか?
牧野氏:
通常バトル曲ですね。他の方と同じくバトル曲2曲から制作がスタートしたわけなんですが、その時点ではMIYAVIさんの楽曲以外で『錬スト』の楽曲に対するイメージがまだ固まっていない状態でしたので、軸となる曲を完成させるためにも、僕の方から既存曲をお渡ししたりしつつ、頻繁にディスカッションをしていました。
――担当の勢力こそないですが、作品のデフォルトとなる楽曲群ということで、こういった雰囲気やテーマにしてほしいといったオーダーはありましたか?
鈴田氏:
『錬スト』のデザインやUIからはちょっとしたストリート感みたいなのがあると思うので、あまりお行儀のいい曲よりはちょっとワルっぽい曲で……
牧野氏:
そうですね、よく「グランジ」とはおっしゃっていましたね。
鈴田氏:
それですね、デザインが全体的にグランジなので。ギターもちょっと歪みつつオシャレな感じでした。わかりやすく言ってしまえば『ペルソナ』っぽく、でももうちょっと悪ぶった感じとか。そんなことを言わせていただいていた記憶があります。
牧野氏:
鈴田さんからのそういったオーダーを聞きつつも、このゲームのコアとなる要素はやっぱり「神」ですので、それをどう表現するべきかなとは考えました。最初にギターロックがあって、そこにちょっと「神」っぽさを加える荘厳なオーケストラを足してみたりして、いわゆるファンタジー調のものを作ってみたりもしたんですが、やっぱりこれはなんか違うなと。鈴田さんからは「○○秒のここがこう」といった、わりと細かいリストも挙げてもらっていました。意外と気にするポイントは多くて、メロディがしっかり立っていることだったり、通常バトル曲はギターメインにしつつもミニマムに組み上げて、ここぞというところにだけメロディがあるようにしたりと、わりと細かく詰めさせていただきました。
――一番制作に苦労した曲はどれですか?
牧野氏:
最初に作った通常バトル曲以外はスッと作れた記憶があるので、やっぱり通常バトル曲になりますかね。
鈴田氏:
本当に最初の1曲だったので、お互いに掴むのが大変でしたね。でも牧野さんによって土台が整えられたからこそ、他の方に依頼しやすくなったというのは間違いなくあります。
モバイルはコンシューマーよりも、時流に乗った曲を作りやすい
――ここからは皆さん全員にお聞きしていきます。コンシューマー作品とモバイル作品で、曲作りの際に意識して変えている点はありますか?
光田氏:
あんまり考えたことはないですね……。
高田氏:
実は僕は最近、コンシューマーとモバイルで明確にここが違うなと思った部分がありまして。コンシューマーってやっぱり制作から発売までがすごく長いので、作っているときには流行っているものでも、いざ発売された時にはもう古いってことがあるんですよね。なので僕はコンシューマーだと意図的に「流行りもの」は避けていたりしました。それがモバイルだと、制作からリリースまでのサイクルが短いので、たとえばクリスマスに合わせて季節モノのオーダーなんかもありますし、流行っているものを作りやすいなと思いますね。
土屋氏:
時流に乗った曲は、確かにコンシューマーだと作りづらいですね。あと季節に合わせた曲も、コンシューマーだと夏に冬の曲を作っていたりしますし。
光田氏:
寒い時に寒い季節の曲を作るとか、季節柄の作曲が出来るのは嬉しいですよね。
牧野氏:
僕の場合は、『錬スト』の前にLIONSHIP STUDIOさんが開発した『クロノ ブリゲード』のときから、シニアプロデューサーの小川陽二郎さんに言われていることがあります。モバイルだとどうしても容量と尺の制限があるので、頭にキャッチーな部分を持ってきて欲しいと。もしくは最初の30秒や60秒で展開をしっかりつけて、短い時間でも聞き飽きないようにして欲しいと常々言われています。コンシューマーだと長い尺の曲も多いので、そういった部分では違いを感じますね。
鈴田氏:
ちなみにLIONSHIP STUDIOの小川は、牧野さんを始めとした作曲家の皆さんとの細かいやりとりを担当していました。
下村氏:
私も昔はコンシューマーとモバイルで結構作り方は変えていました。昔のモバイルゲームは比較的シンプルなものが多くて、特にシナリオやストーリーもそこまで重くはなかったですから。カジュアルなパズルゲームのBGMにあんまりトラック満載のフルオケの曲なんかを用意しても、しんどいんじゃないかと思っていまして。意識してちょっと軽めの、聞き疲れしないような曲を心がけていました。
ただ、最近はモバイルゲームでもドラマ性があったりシナリオが重かったり、パズルゲームでも派手なボスが登場して「RPGのボス戦のような感じでお願いします」とオーダーをもらったりなんてことも増えてきたので、今はもうほとんどコンシューマーとモバイルの差は意識していないですね。
――ちなみに『錬スト』では尺の指定はありましたか?
鈴田氏:
だいたい1分半くらいでお願いしていたかと。
土屋氏:
最近は1分半のオーダーが多いですね。でもゲームの作曲をする上で、特に戦闘シーンなんかは指定がなくてもこちら側から先に聞くことの方が多いと思います。想定されている戦闘時間を知っておかないと、曲の構成を考えるのが難しいので。
鈴田氏:
確か光田さんからも、わりとすぐに「大体何分くらいのバトルを想定されていますか」って聞かれた覚えがあります。
作曲家達の一品料理
――こういった複数の作曲家が参加される作品では、作曲家同士でコミュニケーションを取り合うことは多いんでしょうか?
高田氏:
基本的に一人で作る事が多いので、こういったコラボ的な企画自体が珍しいんですよね。
土屋氏:
でも最近は一つの作品に複数の作曲家が……というパターンはちょっと増えてきているかなと思います。外伝作品なんかは、メインのゲームとは別の作曲家さんにお願いするなんてパターンは増えていますね。ただそれで作曲家間でコミュニケーションを取っているかというと、それはもう作品ごとなんじゃないかな。メインの作曲家が、他の作曲家の仕事を気にするかどうかも、人によって違うと思います。
高田氏:
僕は全く気にしないですね(笑)。
西木氏:
モバイルゲームの場合は、あんまりそこを気にしすぎちゃうと、逆にやりづらいかなと最近感じていて。先程のコンシューマーとモバイルの違いの話にもなるんですが、コンシューマーの場合は「コース料理」のようなものが求められていると思うんですね。ちゃんと前菜には前菜の立ち位置があって、バトル曲が肉料理で、みたいな。でもモバイルゲームの曲はどちらかというと一品料理、それこそもう牛丼みたいな早く食べられてパンチ力のある楽曲が求められている気がしています。牛丼があって、カレーがあって……とまるで松屋のような料理のラインナップというか(笑)。なのであまり他の人のことは気にせず、自分の「一品料理」を作って出すのが、お客さんの幸福度も高いと思っています。
牧野氏:
ある意味、一番作家の個性が出るやり方でもありますよね。先程も話題になったように、モバイルゲームはリリースのサイクルが短いので僕らの制作期間も短くて、作家の瞬発力が出ます。
西木氏:
モバイルだと、ちょっとダイナミクスが付けづらいんですよね。静かなパートから大きく盛り上げるような演出ってコンシューマーだと非常に効果的ですけど、モバイルの曲でそれをやると、ちょっと地味で目立たない感じになっちゃったりします。差をつける演出自体があまりモバイルに向いてないんですよね。なので必然的にみんなで牛丼を作る感じに……。
土屋氏:
そもそも僕なんかは最初にスマホゲームが流行り始めた頃、「こんなにいろんな人のイラスト、いろんな絵柄が一つの世界観に共存しているのを、みんなは受け入れて楽しめるんだろうか?」って思っていた時期があったんですよね。それが蓋を開けてみれば余裕で楽しめているじゃないかと。ということは音楽でも同じで、いろんな作風がごちゃまぜになっていても、お客さんとしては気にせずに楽しめるものなんじゃないかなと、最近はそういう風に思っています。
――『錬スト』でも、他の方の曲を聴いて調整とかは……
光田氏:
ミックスをうちのスタジオでやりましたから、僕は全部聞きました。いろんなジャンルといろんなサウンドのバリエーションがあってすごく良いと思います。ただ自分の曲は当然もう完成していますし、各作家の特徴が出ているのがそもそものコンセプトだと思いますので、他の方の曲を聞いて調整とかはないですね。
土屋氏:
まずないですね(笑)。とっくに出来上がっていますし、似ちゃったらまずいですし。牧野さんとの差分というのは気にしましたね。ゲーム内では牧野さんの曲から自分の曲へと繋がるわけなので、そこの流れはちょっと気にして作りました。
――ゲーム内で先に流れる曲と後に流れる曲のことは考えて作曲されるものなんですか?
土屋氏:
人によるとは思いますが、自分はかなり気にしますね。演出の一部ですし。
高田氏:
CDの曲順決めるのと同じような感じで僕も気にします。
――サントラの曲順に口を出すことって結構あるんですか?
高田氏:
昔はしていたんですけど、デジタル配信がメインになってからは、あまり気にしなくなりつつあります(笑)。聴く方もアルバムじゃなくて単曲で聴いていると思いますから、そこらへんはまあ時代の変化ですかね。
――サントラだと曲名がついていますが、こういった曲名って作曲家の皆さんがつけているのでしょうか?
牧野氏:
自分は基本プランナーさん任せですね。結局ゲームのことを一番分かっているのはプランナー・企画の人たちなので、その人たちに(曲名の)土台を考えてもらうのはやり方としてはありかなと思っています。
高田氏:
つけないですね。
下村氏:
つけるの、私だけ?(笑)
土屋氏:
僕は全部自分でつけますよ。
西木氏:
ある程度つけてもらって、そこに茶々入れたりします(笑)。
――下村さんも全部ご自身で?
下村氏:
基本的には全部自分でつけていますが、プランナーさんの方で希望や候補がある時に「いや、自分がつけます」と押し通すほどではないです。ただ「いつも曲名つけていらっしゃいますよね?」と流れで頼まれることが多いので、結局は自分でつけることが多いですね。
――『錬スト』楽曲の曲名についてはどうなるんでしょう。
鈴田氏:
土屋さんの楽曲に関しては、YouTubeで公開するにあたって曲名をつけて貰っていて、光田さんの曲も曲名を頂いています。他の楽曲に関しても、作曲家の皆さんに曲名をつけていただこうかなと。
――土屋さん以外の曲に関しても、順次YouTubeで公開されていく予定ですか?
鈴田氏:
そうですね、タイミングを見つつ、公開するつもりです。
個性のぶつかり合いを楽しんで欲しい
――最後に、『錬スト』ユーザーの皆さんに伝えたいことなどありましたら、よろしくお願いします。
光田氏:
個性豊かな作曲家の皆さんと一緒に音楽を作り上げられたのは本当に光栄ですし、自分自身とても楽しませていただきました。ゲームをプレイされるファンの皆さんが多種多様の音楽を気に入ってくれる事を願っております。
土屋氏:
今回の「ロンドン」の依頼は僕にとってもベストマッチで、僕が普段ゲーム音楽で表現したいと思っていることがそのまんま依頼になっているような感覚で、とてもやりやすかったです。『錬スト』は2019年度の僕のベストワークと言える仕事ですので、皆さんもぜひ楽しんでください。
下村氏:
こういったコラボものって実は苦手なんです、皆さん凄い曲をあげてくるので(笑)。今回は煮詰まっちゃった部分もありましたが、最終的には自分らしさと「パリ」、そして神といった世界観を納得いく形で表現できたかなと思っています。ユーザーの皆さんもこういったコラボ特有の個性のぶつかり合いをぜひ楽しんでください。
高田氏:
今回担当した勢力/国は、個人的にはとても新鮮な依頼でしたので、僕の「◯◯」はこんな感じでしたという曲が仕上がりました。ゲームで楽しんで聴いていただけたらなと思います。
西木氏:
それぞれの作曲家が、お題の中で自分の個性を出しつつも世界観を演出するような曲を提供していて、作曲家同士が顔見知りだったのもありますが、かなり楽しみながら参加できたプロジェクトでした。ユーザーの皆さんまでクリエイター側の熱気が伝わればいいなと思っています。
牧野氏:
自分は勢力担当のみなさんとはちょっと立ち位置が違って、ゲームの土台部分の楽曲を担当しました。今回ギターとベースを自分で弾かせていただいたり、わりと新しいことにもチャレンジさせてもらって、曲としても今まであるようでなかったものに仕上がったと思います。個性豊かな各勢力担当の皆さんとの対比を楽しんで貰えたらなと思っています。
鈴田氏:
ここまで毛色が違う多彩なサウンドが聴けるゲームはなかなか珍しいんじゃないかなと思っています。スマホのゲームでわざわざイヤホンを挿してやる方は珍しいと思いますが、『錬スト』に関しては楽曲のクオリティは間違いありません。引き出しの奥からイヤホンを引っ張り出してまでちゃんと聴く価値がある稀有なゲームだと思いますので、ユーザーの皆さんにもぜひ聴き込んで貰いたいです。
――本日はありがとうございました。
『錬神のアストラル』は基本プレイ無料タイトルとして配信中。AppStore/Google Playよりダウンロード可能だ。