100万本売上を達成したPC版『RPGツクール』は今後どこへ向かうのか?「ツクール」シリーズプロデューサー・一之瀬氏に訊く

株式会社KADOKAWAは『RPGツクールVX Ace』を皮切りに、シリーズ作品は世界最大のPCゲーミングプラットフォームSteamでも発売されるようになり、2015年には最新作『RPGツクールMV』がWindows/OSX向けに発売されPC版のシリーズ累計100万本セールスを達成した。かつての『RPGツクール』は、いま『MV』でどのような進化を遂げているのか。

『RPGツクール』。その始まりは古く、初代作品は1990年にMSX2にてアスキーより発売された『RPGコンストラクションツール Dante』までさかのぼる。その後、1995年にはスーパーファミコン向けにも発売されヒットを飛ばしたほか、1997年には『RPGツクール95』がWindows向けに販売された。スーファミやPlayStationで作った作品を友人と交換し合ったり、PC上でプレイできる無料の『RPGツクール』製作品をプレイしたり。あるいはゲームを作るという行為に少しでも興味を持っていたのなら、『RPGツクール』でゲームを作ろうとした読者もいるかもしれない。

時は流れ2010年代。株式会社KADOKAWAは『RPGツクールVX Ace』を皮切りに、シリーズ作品は世界最大のPCゲーミングプラットフォームSteamでも発売されるようになり、2015年には最新作『RPGツクールMV』がWindows/OSX向けに発売されPC版のシリーズ累計100万本セールスを達成した。かつての『RPGツクール』は、いま『MV』でどのような進化を遂げているのか。そして『ツクール』シリーズの未来とは。現シリーズの開発を統括するプロデューサーである一之瀬裕之氏と、拡張ツール「Sakan」の開発に携わった木村壮哉氏にお話をうかがった。

※本インタビュー記事は5月に収録されたものです。

『ツクール』シリーズプロデューサー 一之瀬裕之氏

―― 一之瀬さん自身はいつごろから『RPGツクール』に携わるようになったんでしょうか?

一之瀬氏:
『ツクール』シリーズを担当してくれないかと誘われてKADOKAWAに入社したのが2014年なのでまだ3年ぐらいですかね。その前に国内の『RPGツクール』の動きが停滞気味な時期があったんですが、海外ではSteamで『RPGツクールVX Ace』が爆発的にヒットしていて、国内と海外の動きが連動していなかったんですね。そんな時に、海外で『VX Ace』が伸びて、そのお陰で新作に取り掛かれることがなんとかできるようになりました。四半世紀の歴史があるものなので、シリーズをそう簡単に止めてはならないと思ったんです。

――KADOKAWA入社前は『RPGツクール』に対してどのような印象を持っていましたか?

一之瀬氏:
もともと私はゲーム業界にいたグラフィック畑の人間で、フリーのイラストレーターをやってた時期もありましたね。平成6年ごろ、PlayStationが出るか出ないかのころにゲーム業界に入って、最初にスーパーファミコンのRPG作品に参加しました。ドット絵のRPGが私の原点になっているので、同じくスーパーファミコンで大ヒットしていた『RPGツクール』というのは、非常に気になる存在でしたね。やっぱりクリエイター的な意識を持っている方々ってゲーム好きであれば一度はゲームを作ってみたいなという気持ちになると思うんですね。だから『RPGツクール』の存在は、別の仕事をしていても常に頭の片隅にありました。

KADOKAWAに入る前にはスパイク(現スパイク・チュンソフト)にいたんですけど、その時はドワンゴが親会社で「ニコゲー」っていう「UGC(※User Generated Contents、ユーザー製コンテンツのこと)」のゲームプラットフォームを作ったりしていました。ゲームを使ったUGCは、もともとやりたいことの一つでした。そこでやれはしたんですけど、こう、本丸(『RPGツクール』)に来たというかですね(笑)。

――なるほど(笑)。『RPGツクール』よりも先に、「ニコゲー」で先にユーザーが開発するコンテンツに触れられていたんですね。

一之瀬氏:
「ニコゲー」は2010年ですね。ちょっと長続きしなかったんですけど、 ツール自体もブラウザから操作できるものにはできました。ニコニコ動画のなかに入っているということもあって、「Adobe Flash」ベースのプラットフォームでした。SNSと共に一つの大きなプラットフォームになっていて、素材の共有化などもできたんです。とにかく何も準備がいらなくて、ブラウザを立ち上げればツールも使えるし、みなさんが作ってくれた素材はそのまま登録されて一覧で出てきて、それを使ったゲームがそのまま発表できる。非常にお手軽なかたちで盛り上がりましたね。 ニコゲーのユーザーの何名かは現在ツクラーとしても活躍されてます。

2011年にリリースされた『RPGツクール VX Ace』。2012年にはSteamでリリースされた

――先ほどおっしゃられていたように、『2000』『2003』『XP』以降、国内では『RPGツクール』の流れが途絶えていたような時期があったように思えます。一之瀬さんはこの頃をどう見るでしょうか?

一之瀬氏:
2000年代前半に盛り上がった印象が強いのは、『2000』が大ヒットしたからかなと考えています。この大ヒットは、PC版『RPGツクール』のシステム・デザインをされている、尾島陽児さんという方のおかげだと思っています。長く続いてきたシリーズのなか、同作でUIやシステムを確立させ、大ヒットして国内で非常に盛り上がった。素材屋さんがたくさん出てきたり、音楽を提供する人がいたり、名作も非常にたくさん出ましたよね。尾島さんの力っていうのは非常に大きかったのかなと思います。以降、『2003』『XP』『VX』『VX Ace』と、PC版は尾島さんがシステムデザインを担当されてきました。

ただ、『VX Ace』がリリースされたあと、なぜ国内のシーンがしぼんでしまったのかなと考えると、これは仕方がないんですけど、その時代は国内の作品が海外に出ていくことがなかなかできなかったところがあるんじゃないかと思います。やっぱりマニアックな世界ですからね、『ツクール』というのは。日本の人口を考えると、このマニアックな部分を支えていくことが上手くできなくて、停滞していってしまったのかなというのが一つ。

あと今は『MV』の方で一生懸命おこなっているんですけど、素材をオフィシャルで提供したり、コミュニケーションを活発化させるために公式フォーラムを立ち上げたりしています。これまでは運営的なところがあまりなく、ツールを販売してお終いっていうのが、過去の『RPGツクール』だったんですね。新しい機能が入ってる『XP』を使うためには、『2000』を使ってた人たちが移行しなきゃいけなかった。今後の『RPGツクール』っていうのは、「Unity」や「Unreal Engine」や「Adobe」の製品のように、一つのタイトルをバージョンアップして育てていかなければと考えました。そのなかで、コミュニケーションなり素材のやり取りなり、プラグインもふくめて、全体で運営をしっかりおこない、ユーザーさんに長く使っていただく施策を、しっかりやっていこうと。それが『MV』で徐々に盛り上がり始めたというところだと思います。

――運営体制の強化と、マニアックをそのまま埋もれさせない施策も。

一之瀬氏:
日本のインディーゲームシーンというか、立ち位置もあると思うんですけどね。海外の人たちって最初からインディーゲームを購入してプレイしようっていう意識が強いように思えます。今でもSteamでは200以上の『RPGツクール』製作品が売られているんですけど、そのなかでトップは『To the Moon』で130万本セールスを突破しています。『RPGツクール』製の作品でありながらミリオンを達成するという世界が海外ではあるんですけど、日本は少し違う傾向にあるんですよね。

――2000年代前半だと、当時はフリーゲームが主流で、一部だけシェアウェア作品があったと記憶してます。そうなったのも構造的な問題があった?

一之瀬氏:
構造的というか、日本ってコンソールが強いですよね。そういう意味でインディーゲームがちょっと横においやられちゃったのかなと思いますね。『Lost Memory』を作られた「Child-Dream」の方とか、シェアウェアで10万本を売ったりという方はたまに出てきたりとかしましたが、でも全体で盛り上がるというのは当時はありませんでした。

――確かに、当時人気だった国内の『RPGツクール』作品は、あらためてリリースされる際にはコンソールで出てましたよね。『コープスパーティ』とか。

そういった流れがあって開発が始まった『RPGツクールMV』ですが、コンセプトにはなにがあったんでしょうか。

一之瀬氏:
一番最初に思ったのは、もうPCだけでゲームをする時代ではとうの昔になくなっていたということです。『VX Ace』が出た年はiPhone 3Gが日本で発売されたり、ちょうどスマートフォンが出はじめた時期だったんですね。今はもうスマホで当たり前のようにゲームをしていて、マルチデバイスというのは必須だろうなという気持ちがありました。それまでのPC版『RPGツクール』は、ランタイムパッケージを事前に入れて、Windowsだけでしかゲームは立ち上がらなかったのですが、『MV』のスマホ対応は100パーセントやろうと思っていました。

『RPGツクール MV』。すでにPC版は全世界100万本セールスを達成している

――『MV』がリリースされたのは2015年10月ですので、すでにスマホも浸透している時代でしたね。

一之瀬氏:
『MV』の開発当時、どういうエンジンで作るべきなのかとシステムデザインの尾島さんと話していると、尾島さん自身も実はマルチデバイス化をやりたいと当初から思っていたそうです。「HTML5」と「Java Script」の組み合わせでゲームをプレイするというのは、もう実用段階にきてますよと。当然「HTML5」を使ってブラウザでやれば、OSは選ばないことになりますので、まずそこを決めてエンジンを選ぶところから『MV』は始まりました。

あと、『RPGツクール』シリーズに関しては、前作の『VX Ace』が海外で評価されてリスペクトされていて、ある程度完成されていたんですね。今までの四半世紀の『RPGツクール』の集大成というか、一つのWindowsアプリケーションで動く『RPGツクール』として集大成の一つが『VX Ace』だった。それを完全に引き継ぎつつ、足りなかった部分、たとえば『VX Ace』では不評だったキャラクタージェネレーターなどを付け加えました。「SAKAN」を製作された木村さんが、全面的にやってくれて、非常に評価が高いものを作ってくださいました(笑)。

もう『RPGツクール』の基本はできていたので、あとはもう吐き出せるようにするっていう部分だけだったんです。ツクラーさんたちって、売ることじゃなくて、まずいろんな人たちに評価してもらうということを目的にしている人が多いんです。熱意を込めてツクラーさんが作ったものが大きく広がって、しかも簡単にプレイできる環境を与えるというのが、『MV』の最大のコンセプトですね。 今後のツクールシリーズもこのコンセプトというか信念は変えないつもりです。

そういえば、もうすでに全世界で100万本を売り上げましたが、海外でたくさんのユーザーに受け入れられていることが非常に売れるのが不思議だなあと思うんですよね。「本当に簡単にゲームを作れる」というか、「ゲームを作るゲーム」なんて表現もされてますけど。ただよく考えると、北米の方々って初期の『ファイナルファンタジー』とか『ドラゴンクエスト』とかプレイされてきましたよね。その方々が大人になって、あの辺のドット絵のJRPGから繋がってるんだなあと考えると、当然作りたいという気持ちに繋がるだろうというのは、今では確信がもてるようになってます。

――過去のJRPGを大人になって作りたい人たちのために『RPGツクール』があると。

一之瀬氏:
実は過去の『RPGツクール』はDRMとか付いてなかったので、有志が勝手にパッチを作って翻訳したってのは、昔のPCではよくあったんですよね(笑)。『2003』が北米では初めて紹介された『RPGツクール』で、その頃から海賊版を使った作品が発表されてきたという歴史があったんです。ただ、彼らもリテラシーの高い人たちで、ちゃんと正式版を買って正式に出したいよね、でもそれどうしたらいいの?誰も売ってないし……というなかで、やっと『VX Ace』がSteamに登場して、結果ヒットした。やっぱり待っててくれたんだなという感じはありますよね。

――『RPGツクール』の海外産タイトルはたくさんありますね。

一之瀬氏:
Steamだけでも200タイトルぐらいありますし、全体の『RPGツクール』製の売り上げ規模は1億ドルを超えているらしいですね。

――すごく大きな『RPGツクール』市場が海外では構築されている。

一之瀬氏:
すぐれた作品が多いというのもあるんですけど、20万本や30万本台というのがめずらしくない。そこで思うのは、『RPGツクール』がすぐれているというよりは、Steamってやっぱりすごいなって(笑)。

一同:
(笑)。

一之瀬氏:
インディーゲームでもそこまで売ってくれるシステムなんて、日本ではないですからね。

――いま現在『RPGツクール』が成功している鍵の1つには、Steamがあると。

一之瀬氏:
Steamは大きいと思いますね。

ほかにも『VX Ave』ではフロントビューのみだった戦闘システムが、『MV』ではサイドビューもデフォルトで搭載されている

――ほかにも『MV』のコンセプトはどこにあったでしょうか。

一之瀬氏:
『RPGツクール』って基本的に2Dドット絵で、レトロクラシックな印象のあるゲームが多いんですけど、スクリプトは自由に使えるんですね。特に『MV』はコアスプリクトといって、ゲームエンジンが丸見えになっている状態でもあるので、非常に拡張性が高いんですね。海外のユーザーの方は売るということを前提に動かれている方が多いので、そこを活用して作品を作られる方は多いですね。

――実際にそれを活用した例はありますか?

一之瀬氏:
これはHTML5だからということもあるんですけど、たとえばオンラインゲームを作ってらっしゃってる方がいましたね。小さなサーバーで同時に20人とか30人がプレイできる規模のものになってます。通信ができるというのは一つ大きいのかなと。まだ本格的にオンラインゲームとして公開されている方は少ないんですけど。

ほかにも、いろいろと実験されている方が多いですね。ドワンゴがいま『MV』でおこなっている「RPGアツマール」というサービスには、『MV』のエディターから直接アップロードできるんです。RPGというジャンルはちょっと規模が大きくなりがちなので、ミニゲーム的なものを次々と出してもらう環境として、ああいうサービスは必須だろうなと考えていたんです。そういうところで、RPG以外のゲーム、放置ゲームであったりパズルであったり、いろんなゲームを作られてますね(笑)。本当にこれどうやって作ったんだろうという作品も非常に多いです。

――『MV』では運営体制の強化と、クロスプラットフォームの導入と、拡張性の向上と。

一之瀬氏:
あとは、常にバージョンアップも繰り返してるんですね。これは『MV』になってから初だと思います。『VX Ace』が一度バージョンアップして終了みたいな一方で、『MV』はいまバージョンが「1.4.1」まできてます。けっこう短期間のスパンでバージョンアップを繰り返していますね。パッケージで購入した方々は、元のものと今のものを見るとかなり別モノみたいになってるぐらい。そういうところが『MV』での新たな取り組みの1つだと思いますね。

やはり、エディターを作りやすく、入りやすくしてあげるっていうことを繰り返していって、ユーザーさんを増やしていくことは大事です。発表の場までふくめて、公式からの無料素材の提供とか素材の販売とか、オールインワンで作れたものを育てていく。徐々に広げていってるというところですね。今後、絵が得意な方とか音楽が得意な方とかがゲームや素材を発売するのも、当然やって欲しいんです。そういうところでシステムを考えて、アセットストア的なものもぜひやっていきたいなと思ってますね。

――とても興味深いですね。先ほど話に出た「Unity」や「Unreal Engine」のようです。

一之瀬氏:
海外みたいに国内のユーザーさんも作品を売りたい人は多いと思うんですけど、『RPGツクール』はその環境ができていない。そういうなかで、「Unity」と「Unreal Engine」っていうのは、もともとプロ向けのツールですよね。『RPGツクール』の立ち位置は、その中間だと思いますね。エディターをいじってフィールドをキャラクターが動きました、ドアがを開いて入りましたっていうだけでも、けっこう最初感動すると思うんですね。そこから入ってもらって、『MV』ならJava Scriptでプラグインを自作してもらって、まったく違うシステムを作るっていうところまで。ファーストツールというか、明らかに現時点では「Unity」「Unreal Engine」とは立ち位置が違いますね。

ただ「ツクール」も初心者を一生懸命支援するというかたちと、誰でも簡単に作れるという大きなコンセプトは変えるつもりはないんですけど、ハイエンドなゲームを作れる環境というのも徐々に構築していきたいなと考えています。これは3年計画、5年計画になる感じで、いまちょっと考えています。

――長期にわたる今後の野望ですね。

一之瀬氏:
まあ意外と早くできちゃうかもしれないですけどね(笑)。

「SAKAN」の開発にたずさわった木村氏

――今年3月には、『MV』初となる拡張ツール「SAKAN」がリリースされました。この「SAKAN」についてお聞かせいただけますか。

木村氏:
『RPGツクール』なので『MV』にもマップを作る機能があるんですけども、そのマップ作りをお助けするツールといったところですね。非常に単純でシンプルで、マップの画像を自分で編集できるというものになります。『MV』本体にはそういう機能は無くて、それをアペンドとして追加するのがちょうどいいのかなという内容ですね。

――具体的にはどういった表現ができる?

木村氏:
ほとんどのツクラーさんは『MV』に最初から入ってるマップを使っていて、それでも十分楽しいんですよね。ただ、以前ツクラーさんの取材をしたことがあって話を聞く機会をたくさんもらったんですけど、台所のなかをマップの配置で組んでいくのが楽しいんだっていう女の子もいました。それは当然、素材がある範囲のなかでしかやれない。たとえばコンロにフライパンを置きたいときは、本来コンロにフライパンを置いている画像がなければダメなんですが、「SAKAN」はそれを簡単に作れてしまう。新しい表現が作れるわけではないけど、組み合わせて自分で簡単に作っていけるということですね。

――『RPGツクール』初の拡張かと思いますが、発売されてからの反響はいかがですか?

木村氏:
そうですね、私けっこう粘着質なところがあって、インターネット上での反応はとにかく調べないと気が済まない方なんです(笑)。

一同:
(笑)。

木村氏:
刺さっている人には刺さっているかなと思いますね。高機能ツールというわけではないんですが、それはあえてそうしている部分もあります。けっして大きくはないけど痒いところに手が届くような機能が欲しいユーザーさんのところに届いているんじゃないかな、という感じはします。

――今後も拡張機能はさらにリリースしていく予定でしょうか。

一之瀬氏:
そうですね、今後もいくつか出せればなと。なかに最初から組み込んでということもできたと思うんですけど、『RPGツクール』ってプラスの論理だけで作られてないんですよね。不必要なものは排除していくようなデザインになってるんです。あとは、中が複雑になっていくと、プラグイン作る人たちにとってコアスクリプトの部分が非常に複雑になってしまう。余計なソースがどんどん肥大化していくと思うので、「SAKAN」などは外部において繋げていくというかたちを取ってるんですね。それで欲しい人には買ってもらおうと考えていました。

――拡張を作るという考えは、そもそも最初からあった?

一之瀬氏:
アペンドディスクというか、拡張して新しい次のDLCを売るモデルが今ではもう一般的じゃないですか。そうやって育てていくところを見せるというのが、買った方々に対しても非常に大きなものになるのではないかなと。もし「SAKAN」に興味がなくて買わない人でも、『MV』が常に成長し続けているんだなと感じていただくことが非常に大事なのかなと思っていて、拡張ツールは発売して早い段階でやりたいねという話が出ました。

――頻繁なアップデートや拡張を考えると、以前よりも開発は大変になったのではないでしょうか。チームは全体で何人いらっしゃるんですか?

一之瀬氏:
非常にふわふわした開発チームなんですけどね(笑)。

一同:
(笑)。

一之瀬氏:
実はバージョン1.50アップデートを準備しているんです(※ 同アプデートは6月8日に配信済み)。そのなかの大きな更新の一つが、コアスクリプトの大きな改修になります。実はドワンゴの「アツマール」というプラットフォーム上にコミュニティがあって、そのなかでオープンソースで作られているコアスクリプトを採用しようと計画を進めているんですよ。それに加えて、通常のバージョンアップでは海外の人たちの意見も取り入れたい。ドワンゴのメンバー社員の方が1人中心になって、海外のプログラマーが3人か4人ぐらい関わってくれている感じになります。社内でがっちりプログラマーがいるというよりは、その場その場で集まってきて作られっていう感じになっていますね。

――とても流動的ですね。

一之瀬氏:
流動的といっても、離れて戻ってくることがない、ということはないんですけどね。 もちろん、システムデザインの尾島さんや木村さん、(株)デジカのメンバーは常に開発を見てくれてます。

――先ほどパッチの話も出ましたが、『RPGツクール』の今後の計画についてお聞かせください。

一之瀬氏:
『MV』に関しましては、パワフルなエンジンを海外の方々が望まれています。『MV』の機能自体は非常に評価されていますが、彼らは『RPGツクール』で試しに4K作品を出したりすることもあるので、流石に「HTML5」では持たないというところもある。そういう方向性は今後強化していきたいと思います。あとはやっぱり、すべてのデバイスですよね。ゲーム機もふくめてなんですけど、iOSもありAndroidもあり、しかも全部ネイティブで吐き出せるということをやりたい。今やるとするなら、HTML5をパッケージング化するという方法ですが、結局エンジンはHTML5かJavaスクリプトになってしまうので、ネイティブですべて吐き出すようなかたちにしていくっていうところですね。あとは木村さんにお願いしている「SAKAN」的な拡張ツール。こういったところで、コミュニティの盛り上げもふくめて『MV』を発展させていく。

それと、『ツクール』シリーズは『RPGツクール』だけではないので、むかし盛んに出ていたアクションやアドベンチャー、音楽作成のように、さまざまなジャンルのものを、『ツクール』全体でこれからもやっていきたいなと思っています。

――そういうのが復活する未来もあるかもしれない。

一之瀬氏:
まず間違いなく復活すると思います。『ツクール』が大きくなっていくのは間違いないです。『MV』がそういうことの起点になれたのは、誇りではないですけど、よかったなあと思います。

――『RPGツクール MV』がSteamを経由して広まって、そのお陰でほかの『ツクール』作品も続々と復活していくと。楽しみです。

一之瀬氏:
すでに『ラノゲツクール』という新たなシリーズ作品のアプリが、近日中、5月22日にサービスインする予定となっています(※同作はすでに6月1日から配信が開始されている)。簡単に文字を入力して、登録されている画像を入れ替えて、アドベンチャーゲームが非常に簡単に作れるというものです。同時にリリースされる『ラノゲツクールF』というのは乙女向けになっていて、王子さま系のグラフィックがたくさんある。これも『ツクール』シリーズにおいては非常に大事な取り組みで、アプリでも積極的にやっていきましょうというものの第一弾ですね。

――スマートフォン向けには多数のアドベンチャーゲームが出てますが、今まで「ADVを簡単に作れるツール」というのは、アプリでは無かったと思いますね。

一之瀬氏:
これは本当に難しいことはなにもいらなくて、スマホ上で完成させることができます。画像を読み込んで文字を打って、文字の起点になるところにSEが鳴るように設定したりとか。画像の追加は無料で配信したり、有料で配信したりという感じになりますね。

あとニンテンドー3DS向けの『RPGツクール フェス』が昨年11月に発売されて、すでに3万本を売り上げています。今度海外でも発売される予定です。コンソールでは初めてのゲーム投稿機能がついてまして、「ツクールプレイヤー」というソフトをダウンロードすると、3DS上で『RPGツクール フェス』を買ってない人も作品が無料で遊べてしまう。任天堂さんのプラットフォーム上では、無料で遊べてしまうものを配布するという部分で、画期的だと思いますね。「ツクールプレイヤー」は36万回ぐらいダウンロードされていて、非常に盛り上がっています。PC版もコンソール版もスマートフォン向けにも、今後『ツクール』シリーズは頑張っていきます。

――ありがとうございました。

 

[聞き手・執筆・撮影 Shuji Ishimoto]

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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