――『Shadow Tactics』を語るうえでは、世界観についても聞きたいことがたくさんあります。侍や忍者といった日本の文化を取り入れた要素を導入した理由を教えてください。
Wagner氏:
『Shadow Tactics』のアイディアは勉強の最中に生まれていたものなんです。クリエイティブディレクターのDominikは、『Commandos』が大好きなんです。僕はというと、忍者をテーマにした、怪しいけど楽しい歌を作っていました。その時にDominikが「『Commandos』と忍者を組み合わせたゲームがなんで作られてないんだ?絶対に合うに決まってるじゃないか」という話をしました。それが最初のきっかけですね。
――『Shadow Tactics』は日本の文化について熱心に研究されていた印象です。日本に詳しいスタッフがいたのでしょうか。
Wagner氏:
日本の研究について本当に苦労したんです。ものすごくたくさん勉強しましたよ。僕らは日本の文化や建築、歴史に関する本を読みました。研究レポートなども読んで、江戸時代における小さな建築に関する知識なども読み逃さないようにしましたね。とにかく僕らは頑張りました。ほかにも日本の映画だけでなく、日本について描かれている西洋の映画もたくさん見ましたよ。より完成度を高めるために、ミュンヘンの大学で日本について専攻している学生を呼んで、おかしいところがあれば指摘してほしいと指導してもらいました。
――中国文化と入り混じっているという指摘もありますが、建築の様式や衣装など細かい点は力が入っていると感じました。
Wagner氏:
そういってもらえるなら、成功だと思えます。自分たちと違う文化について描くのは本当に難しいんです。日本の人々が気を害さないかとても心配だったんですが、気に入ってもらえている人が多いならよかったです。
――僕も欧州の文化を丁寧に描き分けられる自信はありません。(笑) ほかの東アジアの国と区別させるのは難しかったのでは。
Wagner氏:
本当に難しかったんですよ。僕らは何度も何度も日本について描こうとしても、「おい、それは中国だぞ」と指摘されました。僕ら自身にもそうなってしまう理由がわからなくて。日本人の同僚と話した時に色の使い方について言われたので、それが理由なのかもしれません。他国の文化を正しく描くというのは本当に難しいですね。そこに生まれて住んで、文化を吸収しないと、深く文化を理解するのは難しいように感じました。僕らは、僕らのできる範囲で頑張ったと思っていますよ。
――世界観だけでなく、キャラクターの設定も細かいですよね。
Wagner氏:
僕らはキャラクターを作るときに、見ただけですぐどういう役割のプレイヤーかわかるように設定しました。スキルセットの調整には時間をかけましたね。最終的にはうまくいったと思っています。『Commandos』のような感覚を味わってほしかったので、キャラクターの役割は、『Commandos』のものに近くなるようにしました。もちろん、キャラクターの内面も時間をかけて作りこみました。彼らの動機や環境などさまざまなものに議論を重ねました。
――キャラクターが先ではなく、システム上の役割の延長にキャラクターが生まれたんですね。それでもストーリーとキャラクターはうまく絡み合っていたのではないでしょうか。
Wagner氏:
ありがとうございます!僕らはまずゲームプレイを何よりも優先しているんです。だからスキルのデザインのために生み出されたキャラクターもいますよ。
――シナリオの作成もゲームプレイの延長線上にあるものなのでしょうか。
Wagner氏:
そうなりますね。ストーリーを作るうえでは、ストーリーありきでキャラクターを作るのではなく、キャラクターのよさが生きるものにしようとしていました。ゲームプレイがあって、キャラクターがあって、シナリオがある。ゲームプレイとキャラクターが最も重要なふたつの要素でした。
――『Shadow Tactics』のストーリーは興味深いです。ときに時代劇のような熱さがあり、一方で西洋の戦争映画の雰囲気を感じさせます。参考にされたものはありましたか。
Wagner氏:
シナリオについては、長い時間をかけて生まれたので、なんとも言えませんね。僕らは映画、本、ゲームなど、とにかく多くの作品にふれて勉強しましたし、多くのものに影響を受けていますよ。最終的には物語の展開について多く議論を交わしましたね。多くの日本の作品に影響を受けているので、『Shadow Tactics』のストーリーはその組み合わせになったのではないでしょうか。
――ゲームプレイについて教えてください。『Shadow Tactics』は巨大なシームレスのエリアを移動していく特色がありますよね。
Wagner氏:
大きなマップにたくさんの敵がひしめいていることが重要だと考えています。ゲームを始めると、「これをクリアしなければいけないのか、無理じゃないか?」と感じるでしょう。しかし、最終的にマップをクリアした時は、「こんなマップをクリアしたのか、すごいな!」と感じられるでしょう。そういった見返りを用意したかったんです。
正直にいうと、今はもう少し小さい短いマップを間に用意してもよかったのかなと思います。というのも、ペースが続かないユーザーもいるんじゃないかと思うんです。小さいマップならクリアはそう長くなりませんしね。
――確かに、こんな長い道のりを歩んできたのかという感慨深さは、『Shadow Tactics』の魅力ですよね。意図的なものだったんですね。
Wagner氏:
そうです!難しいし、大変だけど、報われるゲームしようとしたかったんです。
――だからこそ、ローディング時間が長くなったんですね。シームレスのゲームが多くなった今、最初に長くローディングをおこなうゲームは少なくありません。しかし『Shadow Tactics』はローディング画面で「ローディングが長くなるけどフリーズじゃないよ。1分ほど待ってね」と出てくる点はストレス緩和になりました。
Wagner氏:
そうですね。僕らは開発にUnityを使っていて、ローディング時間はUnityのライトマップデータの読み込みと関連しているんです。できる限りのことはやったんですが、課題を残したままだと感じました。なので、ベータテストをやるときに、クラッシュしたんじゃないかと誤解させないように警告文を入れようという話になりました。誰のアイディアだったかは覚えていませんが……。最終的にその案はうまく機能したので、ずっと残したままになりました。ゲームを始めるときに長いロード時間に待たされたくないというユーザーの気持ちはわかっているつもりです。
――ロード時間に限らず、ストレスをいかに軽くするかというのが、『Shadow Tactics』の隠れたテーマだったように思います。難しいというフラストレーションが、システムのイライラに結びついてしまうと、理不尽さが増してしまいますよね。
Wagner氏:
そのとおりです。僕らはゲームを、スムーズかつよいものにするために、多くの時間を費やしました。だからこそ、敵の視野や音の反応、何が起こっているかなど、必要な情報はすべて見えるようにしました。一度学びさえすれば快適に遊べるようなシステムにする必要がありましたからね。ゲーム会社としてストレスになる部分を常に洗練させたいと、かなり気を配っています。そういったことが、「まあまあなゲーム」と「よいゲーム」を分けると思っています。
――システムに関していえば、キーボード+マウスで遊べば『Commandos』のようなRTSになりますし、ゲームパッドで遊べば直感的なアクションゲームになります。大きくゲーム体験が変わるのは、意図的なものなのでしょうか。
Wagner氏:
僕らは『Shadow Tactics』のようなタイトルをゲームパッドに対応させるのがいかに困難であるかを認識していました。なので、開発の初期からゲームパッドを遊ぶ時はキャラクターを直感的な操作で気持ちよく遊べるようにしようと決めていました。あなたが言うように、ゲーム体験が大きく異なるという指摘は正しくて、それも意図したものです。それぞれのユーザーにあった操作をしてもらえればいいんじゃないかと考えています。もちろん、両方楽しんでもらえればうれしいですね。
――ちなみに僕はコントローラー派です。(笑)どちらをオススメしますか?
Wagner氏:
なんとも言えないですね(笑)プレイヤーの好みによりますから。僕はどっちも好きですよ。でも個人的には、ゲームパッドで遊ぶことが多いですね。あくまで、個人的にはですが。
――どちらの操作で楽しんでいる時でも、必殺技ともいえるShadow Modeの楽しさは格別ですよね。効果的ですし、何よりかっこよくて気持ちいいです。開発のどの段階で導入を決めましたか。
Wagner氏:
かなり早い段階で決めましたよ。『Desperados』に同じようなモードがありましたからね。でも、そのモードをひねりつつ改善して導入しなければいけなかったんです。なので、かなり早い段階から調整を続けてきました。
――難易度にこだわりがあったならば、Shadow Modeがゲームを簡単にするという懸念は生まれませんでしたか。
Wagner氏:
それは思わなかったですね。あくまでちょっと便利で格好いいツールみたいなものですから。ゲームパッドで遊んでいる時は、複雑な動きを実現する時に役立ちますよね。もちろん、素早いクリック操作が苦手なプレイヤーにもいいツールになったと思います。たくさんクリックする必要もないですしね。Shadow Modeを作って、導入するとすぐにうまくいくことがわかりました。そこからすんなりゲームシステムに溶け込みました。
――最初から、Shadow Modeありきで作られていたんですね。それでは最後に日本のゲーマーへメッセージをお願いします。
Wagner氏:
日本の人々がゲームを楽しんでくれていることを願っています。ぜひ遊んでみてください!自分に合うかどうか不安だったり、買うか迷ったりしている人はSteamにはデモがあるので、それを試してみてください。僕らはヨーロッパ人なので、すべてをうまく表現できたかはわかりませんが、日本の文化にとても敬意を持って、正しく描こうと全力を尽くしました。ぜひゲームを楽しんでください!
――ありがとうございました。
『Shadow Tactics』は2017年にはPlayStation 4版とXbox One版の発売を予定しているとのことなので、コンソール機ユーザーも楽しみにしてほしい。