新スタジオWhite Owlsを設立したSWERYインタビュー 「日本発で大人が楽しめるゲームを作りたい」

『レッドシーズプロファイル』や『D4』で知られる末弘秀孝ことSWERY氏。新スタジオWhite Owlsを設立し、独立という形でゲーム業界に復帰して再始動するという。そこで、療養中のこと、まだまだ明かせない新作ゲームのことなど、新スタジオにお邪魔してSWERY氏にインタビューし、話を聞いてきた。

『レッドシーズプロファイル』や『D4』で知られる末弘秀孝ことSWERY氏。海外から次回作が切望される数少ない日本人ゲームクリエイターのひとりだ。なぜSWERY氏がこんなにも海外でカルト的な人気を誇るのか?端的に言えば『レッドシーズプロファイル』がこれまでのアクション・アドベンチャーの中でもトップクラスにシナリオが素晴らしいゲームなのである。奇妙だが癖になる人間模様、珠玉の台詞の数々、ゲームならではのギミックに、衝撃のドンデン返し。ゲームを終えるころにはその世界観に、後ろ髪引かれること間違いないだろう。まだ未プレイの人はぜひやってみてほしい。

さて、そんなSWERY氏だが、持病の治療のため2015年末から療養に入り、2016年8月には所属していたアクセスゲームズを退社してゲーム業界を離れてしまった。療養に入ってからのTwitterでは、お坊さんの資格をとったり、小説を執筆しているとの活動が報告されていたが、国内外のファンはSWERY氏のゲーム業界に復帰してほしいと願っていたのが正直なところだろう。

すると、ついにというべきか新スタジオWhite Owlsを設立し、独立という形でゲーム業界に復帰して再始動するという。そこで療養中のこと、新スタジオのこと、まだまだ明かせない新作ゲームのことなど、できたばかりの新スタジオにお邪魔してSWERY氏から話を聞いてきた。

 
――今回独立を果たされてWhite Owlsを立ち上げたということですが、SWERYさんの中で、独立の転機はどこでしたか。

SWERY:
クロアチアに講演に行ったとき、小さいカンファレスだったんで大物の方たちと話す時間が長かったんです。ジョン・ロメロとかティム・シェーファーとか、あとクリフィーB。普通のパーティーだったらそういう人たちとは10分くらいしか話せないんですけど、向こうも僕くらいしか知らないから、2時間くらい一緒に飲んだりする時間がありました。クリフィーBもティムも会社作って成功しましたよね。そういうのをいろいろ聞いてる中で、僕の中で何かがあったんでしょうね。僕もそのときは生意気に日本のゲーム業界を何とかしたいと思っていたんです。そしたらティムが「そこまで考えなくていいよ。業界なんて変えれない。自分のことだけを考えてみよう」と言われて、その台詞がひとつのスイッチな気がしますね。なるほどな、と。じゃあ自分のやりたいことをやろうってなった感じですかね。

 
――特定のゲームを作りたいというよりも、やりたいことをやろうというのが動機だったと。

SWERY:
有名なゲームに関わりたい、人を驚かせる絵を描きたい、いろんな欲求があるじゃないですか。僕は単純にオリジナルゲームを作ってコピーライツを生み出していきたいというのが根本的にありました。それをやるためには自分が全責任を取るスタジオを立ち上げることが今は正しいと思ったんです。

 
――新スタジオ名のWhite Owls、白いフクロウとのことですが、この由来を教えてください。

SWERY:
『月下の剣士』の時代からですけど、僕が今まで作ってきたゲームに、文字だったりキャラクターだったり、チャンスがあればフクロウを出して来たんです、実は。小さいときにカナダに行ったことがあって、カナダの親戚から「フクロウは知恵の象徴ですよ」と教えてもらって、そのときからフクロウが好きになりました。フクロウって神秘的かつ獰猛さもある。しかも知恵の神様。いろんなゲームを作るにあたって、その神秘性を象徴にしたかった。アルビノのホワイトなんですが、純白で黒に染まらない特殊性を表現したくて。ここの「黒」というのは「妥協」とか「業界的なこと」とか、「大人の事情」とかそういうもので、つまり僕がゲーム作りのポリシー的に良しとしないものをWhite Owlsの作品には入れたくないという思いがこめられています。

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――White Owlsで作られるゲームは、SWERYさんの過去作の精神的続編のようなものなのか、それとも完全新作なんでしょうか。

SWERY:
White Owlsで作るのは、完全新作です。今は種をまいているところで、芽が出るのは東京オリンピックぐらいの3年後かな。遅すぎますか?(苦笑)。やっぱり納得したものをお出ししたいというのもありますし、ユーザーさんもこれまでと同じゲームを出すのではなくて、どうせならちょっと変えてほしいと思うんです。例えば玉子丼の次はカツ丼が欲しいとか。そこに多少、時間が必要かなと思っているんですよね。

 
――もうゲームは作り始めていると。

SWERY:
やっています。

 
――ストーリー性があるゲームなんでしょうか。

SWERY:
ストーリーは必ずあります。でもいろいろと仕込んでいます。仕込んでいる最中で、すべて花が咲いてくれればいいけど、どれから芽が出るかはコントロール中でいえないですね。

 
――大阪に新スタジオを作られましたが、何かこだわりがあったんでしょうか。

SWERY:
日本のゲーム文化を世界に持って行きたいってのがあって、そのなかでも大阪ってカプコンがあるし、SNKがあった。コナミも創業は大阪です。昔、大阪ってゲームのイメージが強かったんですよ。関西では任天堂の京都と、大阪。でも今では、世界の人から見ると関西のゲームは京都というイメージで、大阪がメジャーじゃなくなってきている。大阪愛をだして、あえてここで粘ってがんばっていきたいなと。

 
――新スタジオを作るにあたって、ゲーム作りの環境をどのように整えましたか。

SWERY:
ただゲームをルーチンワークで作るだけだったら、パソコンとオフィスがあればいいと思うんですよ。そこに人を驚かせるものを作りたい、面白いゲームを作りたいという考えをひとつ加えるためには、ここに集まってくること自体、この人たちと一緒に仕事をすること自体が好きにならないと、多分ダメなんです。だから、このスタジオを作るとき、その環境作りを最初に着手したんですよ。パソコンがまだ来る前から、ソファーとオーディオとウォーターサーバーとコーヒーだけはあった。それだけでミーティングができるじゃないですか。そこにパソコンとか技術者とかが揃ってくれば、ゲームを作れるんじゃないかなと思ったんですね。

 
――新スタジオを見学させていただいてよろしいですか。

SWERY:
まず、いかにもオフィスという感じにはできるだけしたくなくて、居心地を優先してます。
ちょっと照明が暗いけど、集中するには良い環境だと思います。「これじゃあ、眠くなる!」とかいう人が居たら、「じゃあ寝ていいよ。」ってことです。まあ、締め切りは守ってもらいますけどね。

(オフィス内を案内しながら)
この場所が応接室兼、会議室兼、食事場、椅子で疲れたこっちできてノーパソでやってもいいしってくらいの緩さにしてます。ソファで仕事するの、意外といいですよ。

(奥の部屋に移動)
ここがゲームとミーティングとVRと映画の場所です。これからこっちも人が入ってくるんですけど、開発になるんです。こっちの部屋も合わせると最大で20人くらい入れるように見積もっています。もともとはここ文化住宅だったらしいんですけど、全部ぶち抜いて1フロアにしてもらいました。あと、こっちの部屋は壁も天井も真っ黒でしょう?。大家さんに心配されながらも、あえて真っ黒に塗りました。なんというか、所謂日本のオフィスっていうのはどこも鼠色ですよね。鼠色。壁も床も天井もデスクも椅子もロッカーも全部、鼠色です。そういうのって、ルーチンワークには向いてるけど、クリエイティブには良い環境とは言えないんじゃないかなと僕は前から感じていたので、その反発でこういうことやっちゃいました(笑)。

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SWERY:
そしてここが僕の社長席。基本、ハンコ押すために机があるだけ。

 
――給食を食べるのが遅かった小学生ですね。(笑)

SWERY:
社長席では仕事はしにくいから、このベッドで寝そべって仕事をしたい。

 
――ベッドで仕事ですか。(笑)

SWERY:
地べたに座ってノーパソで仕事することもあるんで、疲れたらこのベッドにいったり。この階段も手作りです。ここで泊まりだしたら終わりですけど、絶対に泊まらないんで(笑)。

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――この部屋の開発者の人たちは決まっているんですか。

SWERY:
これからですね。スペースは決まっているんですけど、プロジェクトは種をまいているところなんで。でも、プロジェクトが決まって進んだときに人がいないと困るので、並行して人数は増やしていく予定です。

SWERY:
あと、こだわりポイントは電話がショボイ。新品でわざわざこれ買って、電話では録音ができないから80年代映画で見るようなレコーダーで録音します。

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SWERY:
時計はビンテージデザインっぽいのを探してきました。

SWERY:
本棚と木製のテーブルは居抜きでそのままもらったものです。一枚板でこのサイズのデスクは少し自慢です。

 
――この本棚にある本はインテリアというよりも資料ですか?

SWERY:
もともと資料で買ったんですけど、せっかくなんで見せ本は見せましょうと。ウェス・アンダーソンの本をこっち向けたりとかはちょっと格好つけてますね(笑)。スパイものやタイムトラベル、ボストン、ワシントン、タトゥー、古代文字の本、いろいろあります。ここのコカインやドラッグの本からカジノ、拷問・死刑の本への並びは人によっては誤解されるかもですが。

 
――『レッドシーズプロファイル』のころはどのあたりの本を読んでいたんですか?

SWERY:
FBI、CIAの本もそうですし、この「スーパーマーケットマニア」とかはいい本です。アメリカのスーパーマーケットで売っているものが載っているんですけど、『レッドシーズプロファイル』のスーパーマーケットのデティールで参考にしてます。

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――スタジオを作るときに、探偵事務所というコンセプトがあったと聞きましたが。

SWERY:
外観は通り過ぎちゃうだけの無表情のビルなんですよね。だけどその奥の奥まで入ったら、秘密基地みたいな、ちょっとお洒落な場所がある感じ。『D4』のデイビッド・ヤングの部屋も普通のビルの屋上だし、昔でいったら、萩原健一さんの「傷だらけの天使」が屋上に部屋があったりとか、「美味しんぼ」の山岡士郎の部屋とか。あと漫画の「勇午」、事務所で寝泊まりしてるんですけど、ビリヤード台で寝てるという謎の設定(笑)。そういう隠れ家的なところイメージして、ここに辿り着きました。

 
――そういう世代的なところが反映されてるんですね。

SWERY:
世代的には「西部警察」なんですよ。でもそれは観ていなくて、ちょっと年上の人たちが見てたドラマ、例えば松田勇作さんの「探偵物語」とか、「俺たちは天使じゃない」とか、当時はそういうのを憧れて観ていた感じでした。

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――プロジェクターに写ったYouTubeの履歴を見てみましょう。

SWERY:
スター・ウォーズのピアノオーケストラとかしか見てないですよ。あと、アイアンマン全装着シーン、忌野清志郎にジョイ・ディヴィジョン。あとPPAP(笑)。

 
――(革でできた豚を見ながら)応接室にあるこの謎の物体はなんですか?

SWERY:
牛革の豚の椅子です。10年くらい前にリサイクルショップで捨てられそうになってて、1000円で買った物ですよ。

 
――1000円だったら安いですね。ただ、真面目な話があっても、これだとこの豚が気になってしょうがないですね(笑)。

SWERY:
確かに豚さんのつぶらな瞳を見ながら、真剣になりきれないみたいな。でも、もし込み入った話がここでしにくい場合は喫茶店行くってシステムなんですよ。商店街に喫茶店がいっぱいありますから、それで美味しい喫茶店とか覚えていってほしいと思ってます。

 
――この感じだと、完全に自社で開発する体制ですね。

SWERY:
そのつもりです。オーディオだけは難しいで、外でやることになるとは思います。11月に会社起こして、11月末になってやっとここに入れたんです。それまでは壁を壊したりしながら内装やってて、12月に入ってから本格的に仕事になってきた感じなので、これからエンジンかけて開発していく感じですね。

 

療養中の活動――小説を出版したい

――体調のほうはだいぶ良くなられましたか。

SWERY:
ほぼ完全回復といってもいいと思うんですけどね。低血糖症というのは血糖値があがりすぎると、カウンターで血糖値がどーんと下がるという病気で、症状としては手足がしびれてきて、動悸がして、すっごく眠たくなる。すると30分くらいしたら血糖値が落ち着いてくるんで、急にシャキっとなる。僕は海外出張が多いから、ずっと時差ボケが続いていると思ったんです。ところが東京出張のときに倒れて、検査にいったら病気だった。今は炭水化物をとってもしんどくなることはないので、治ったと思っています。病院からの診断書もでているんで、再発しない限りやっていけると思います。自分で防衛はしていますよ。ちなみにウイスキーは糖質ゼロなので大丈夫です(笑)。

 
――White OwlsでのSWERYさんの役割を教えていただけますか。

SWERY:
もちろん代表取締役なんで、会社の経営なんですけど、開発でいうとディレクション、シナリオ、ゲームプランニングをやります。前の会社ではなかなかできなかったんですが、今回は開発の時間をちゃんととれる体制にしようと思っています。それプラス個人の活動として、小説を書いていますので、それの執筆とか。創作活動をメインとしたことが、この会社の役割でもありますね。

 
――その小説は出版されるんですか?

SWERY:
日本のとある出版社の方と話していて、紙媒体の商業出版を目指しています。今、第二稿に進んでいるところですね。

 
――猫の主人公とお聞きしてますが。

SWERY:
そうなんです。口ひげがある猫が主人公で、舞台がイギリスの田舎町でミステリー。

 
――小説が新作のゲームのたたき台になるのかな?と思っていました。

SWERY:
小説が出版されたら、ゲーム化というのはありえますね。ただシンドイのは、小説は工数とかキャラクター数を無視して書いているので、それをゲーム化するとすべてお金に変わってしまう。そこはちょっと考えないといけないですけどね。でも自分ではいい小説だと思っています。

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――療養中はさまざまな本を読んでいたということですが。

SWERY:
比較的新しいのだったら羽田圭介さんの「スクラップ・アンド・ビルド」とか。でも翻訳本が中心でしたね。映画の原作本や、古典だったらスタインベックやヘミングウェイ、改めてアガサ・クリスティとか。自分のスタイルは翻訳本を読んだほうが作りやすいと思ったんで、レトリックを分解しつつ読んでいって、ここをこう表現すれば、こう聞こえるんだとか、メモとりながら読んでいました。

 
――その本のなかに最新作のヒントがありますか?

SWERY:
小説はそういうのを目指してますね。ゲームのほうはみんなの想像を超えたいとは思っていますよ。

 
――それと療養中はお坊さんの免許をとられたということですが。

SWERY:
実家がもともとお寺なんで、お坊さんの資格は昔にとっていたんですけど、住職を継ぐためにはその上の位が必要なんです。資格を取るためには、2週間くらいの修行でとれるんですが、その事前の勉強や基礎知識すら足りてなかったんで、1か月半ぐらい家でみっちり勉強しました。

 
――マーティン・スコセッシ監督の「沈黙」も公開されますが、信仰的なテーマをゲームで入れることは関心がありますか?

SWERY:
ありますよ。実際、医療も科学も人々を救えない暗黒の時代に宗教家の主人公が自分が何をすべきか?という話を書き始めたことがあるんですけど、暗すぎてボツになりました。ただ僕の経歴はSNKという商業ベースから始まって、商業のなかでエンタメを表現するというのを20年やってきているんで、自己表現とかアートでは終わらせたくないんです。作ったゲームはユーザーさんが遊ばれて、その評価が返ってくるような、あくまで商業のなかでまわしたい。そこに中心のテーマとして信仰を載せるというのは、今はまだちょっと抵抗がありますね。

 
――White Owlsで作るゲームは、インディーゲームになるんでしょうか。

SWERY:
インディーだとは思います。ただインディーだけど、『INSIDE』とか『風ノ旅ビト』とか予算はわからないですけど、技術とかチームの志とか、インディーやメジャーの枠を超えて凄いじゃないですか。ああいう領域に行きたいですね。

 

つづく: SWERY氏の過去と現代、『レッドシーズプロファイル』についてなど。

Koji Fukuyama
Koji Fukuyama

小学2年生のときに、『ドラゴンクエスト5』に出会い、「ゲームは、ゲーム独自の手法を使って人間のドラマや物語を伝えることができる」ということに衝撃を受けました。そこから一貫して、ストーリーメディアとしてのゲームに注目しています。

同時に中学生から映画を浴びるように見始め、西部劇やホラー、SF映画など、アメリカの古典的なジャンル映画をとくに偏愛しています。

オールタイムベストゲームは『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』。このゲームで感じた面白さや感動を再び体験するために、ずっとゲームを続けています。

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