『Star Ruler 2: Wake of the Heralds』レビュー 偉大なる既存顧客よ、支配すべき宇宙があなたを待っている


弊誌が過去にレビューしたリアルタイム制宇宙4Xストラテジー『Star Ruler 2』の、拡張DLC『Wake of the Heralds』が先日発売した(以下、ベースゲームを無印版、拡張DLCを本作とする)。本稿は再レビューを通じ、将来性をにおわせて締めた過去記事の結果報告とする。

見栄えの欠点はそのままであり、新規顧客を得るのは難しい。しかし、無印版からのファンには期待以上の改良で応えた。そうした既存顧客への手厚いサポートは、長期的視野で成功のきっかけをうみだしつつある。

star-ruler-2-wake-of-the-heralds-review-001『Star Ruler 2: Wake of the Heralds』
開発元: Glacicle
販売元: Blind Mind Studios
価格: 9.99ドル
発売日: 2016年4月23日
プラットフォーム: PC(Windows/Linux)

無印版の詳細は弊誌過去記事を一読されたし。以下に、本作発売までの経過を記す。新機軸の4Xストラテジーを打ち出したが、コンテンツ量をはじめとする練磨不足があり、販売数は不振に終わった。スタジオは新作ゲーム開発を断念し、共同開発の個人スタジオを中核にサポートを継続する。上記の開発元・販売元が別名義となったのは、そうした財務上の都合である。

その「新機軸」の正体とは、細々とした作業を代行する優秀なAI官僚である。ルール細部を省略することなく、広大な宇宙とリアルタイム制を両立した。しかし、新たなゲーム設計を活かした遊びを用意できず、凡庸な印象で終わっている。本作は無印版に欠けていたコンテンツ集だ。新たなルール、ゲームモード、新兵器や新種族が、従来要素と有機的に連結し、プレイ体験を改善した。

銀河では問題が同時多発する。惑星の入植(画像左上)、地表の運営(画像右上)、国内貿易船の設定(画像左下)、戦闘中の艦隊陣形(画像右下)など。AI官僚はそれらを効率良くこなし、プレイヤーをルール応対から開放した。
銀河では問題が同時多発する。惑星の入植(画像左上)、地表の運営(画像右上)、国内貿易船の設定(画像左下)、戦闘中の艦隊陣形(画像右下)など。AI官僚はそれらを効率良くこなし、プレイヤーをルール応対から開放した。

 

選ぶは新規顧客か、はたまたサポートか

無印版の欠点は大きく分けて次の3つだ。ゲーム展開の指標がなく、国家拡大の実感がない点。戦闘状況が一様で、艦船設計の動機に欠ける点。イベントイラストやフレーバーテキストがなく、ゲームの世界に没入できない点。本作は先の2つの対策に重点をおいた。

国家拡大の実感

クエストを達成してさまざまな恩恵を得る「Atitude」を追加した。勝利という長期目標に達する短期目標として機能する。ゲーム展開の誘導とともに、実利で国家拡大の実感をあたえた。

政治系の新要素は本文で紹介した「Atitude」(画像左)と、銀河元老院主席の「選挙」(画像右)。元老院主席は政治勝利への第一歩であり、外交面で大きな優位を得る。どちらも政治力を用い、早く取るほど効果が高い。ゲーム序盤における政治力の価値が増し、資源優先の選択が広がった。
政治系の新要素は本文で紹介した「Atitude」(画像左)と、銀河元老院主席の「選挙」(画像右)。元老院主席は政治勝利への第一歩であり、外交面で大きな優位を得る。どちらも政治力を用い、早く取るほど効果が高い。ゲーム序盤における政治力の価値が増し、資源優先の選択が広がった。

艦船設計の動機

研究要素を見直し、艦船のパーツ種類を無印版から2倍以上追加した。戦闘宙域に変化はないが、艦隊の用途を増やして状況を多様化している。また、設計もパーツ換装が可能となり、新兵器を導入しやすい。新兵器の開発と運用を主軸とし、戦闘と設計の2要素を研究で連結した。

無印版では中盤以降の技術だったシールド技術が序盤でアンロックでき(画像左)、研究の重要度が増した。そうした新技術の反映は、艦船設計(画像右)のパーツ換装操作で手軽なものとなった。これら変更点は、戦闘・技術開発・艦船設計を強く結びつけるファインチューンだ。
無印版では中盤以降の技術だったシールド技術が序盤でアンロックでき(画像左)、研究の重要度が増した。そうした新技術の反映は、艦船設計(画像右)のパーツ換装操作で手軽なものとなった。これら変更点は、戦闘・技術開発・艦船設計を強く結びつけるファインチューンだ。

追加要素は他にもある。もとからいた7種族とまったくちがうルールで成長する2種族を追加した。これは無印版ファンに向けたヤリコミ用コンテンツであるとともに、序盤からプレイ展開を大きくかきまわす。新規ゲームモード「Invasion」は戦闘に特化したもので、通常ゲームと別種の魅力がある遊びだ。先の欠点の対策も含め、これらはすべてもともとあった要素の補完である。無印版に欠けていた「ルールを活かした遊び」を満たし、新機軸のゲームに相応しいプレイ体験が誕生した。

新モード「Invation」は、小さな銀河を開拓しながら、3分ごとに出現する侵略軍を撃退しつづける防衛ゲーム。時間経過で強くなる侵略軍に負けぬよう、手際よく富国強兵にはげもう。通常ゲームでめったに見ることのない(惑星よりも大きな)巨大船が、1時間強で登場する。
新モード「Invation」は、小さな銀河を開拓しながら、3分ごとに出現する侵略軍を撃退しつづける防衛ゲーム。時間経過で強くなる侵略軍に負けぬよう、手際よく富国強兵にはげもう。通常ゲームでめったに見ることのない(惑星よりも大きな)巨大船が、1時間強で登場する。

残る欠点は、ゲームの世界に没入できない点だが、本作にこれの改善はない。艦船モデルやBGMを外注に頼る小規模なスタジオゆえ、コミュニティからのフィードバックに注力した結果だろう。残った欠点にも着手してあればモアベターだが、プレイ体験の増強に重点をおき、正解のひとつにたどり着いた。新しいだけのゲームではなく、夢中になれるゲームをもとめる無印版ユーザーの期待に応えている。

 

既存顧客を信頼した開発計画

『Star Ruler 2: Wake of the Heralds』は、無印版の新しさに惚れ込んだプレイヤーならマストバイの拡張DLCだ。個々の要素に欠けていた有機的な連結に焦点をしぼり、効果的な解を用意している。新要素の追加と同時に、従来要素の再構築をもって『Star Ruler 2』を完成させた。

無印版の不満点はほぼ解消されたが、「わかりやすさ」の問題が残る。左画像は本作の銀河全景。右画像は『Stellaris』のもの。領土内に色がつき、国家マークと名前も表示される後者に軍配が上がる。
無印版の不満点はほぼ解消されたが、「わかりやすさ」の問題が残る。左画像は本作の銀河全景。右画像は『Stellaris』のもの。領土内に色がつき、国家マークと名前も表示される後者に軍配が上がる。

前章で述べたとおり、新規顧客の購入意欲をかきたてる要素の追加はない。今年の宇宙ストラテジー注目作『Stellaris』、『Master of Orion』、『Endless Space 2』と肩を並べるには、次にあげるものがすべて必要だろう。各種族の特色と、艦船性能を反映した艦船モデル。研究完了時やレア物資発見時といった初体験や、さまざまなイベントを飾るイラスト&フレーバーテキスト。そしてBGMの曲数と、戦闘時やゲーム展開にあわせたBGMの切替え。そういった新規顧客へのアピール、「エンターテインメント」は多額の開発費を要し、小規模スタジオで完遂するのは難しい。

実況無しのプレイ動画を掲載。宇宙のロマンやサイエンスフィクションを感じるフレーバーは、ゲーム開始前の種族紹介だけである。プレイフィールは確かだが、見る者を楽しませる「にぎやかし」はない。

ここで本作の方針がきいてくる。既存顧客のサポートを優先しコミュニティの信頼に応えた本作は、その地盤固めである。販売数は見込み程度にあったようで、開発者は、数か月中に次の拡張DLCを出す楽観を口にした。上記したエンターテインメントの改善が、拡張計画にあがることを期待する。未完成の無印版を価格改定し割高感を一掃できればなおよい(本作発売時、無印版を期間限定で割引販売した)。弊誌過去記事で触れた「新しいゲームをつくるリスクの分散」は、既存顧客からの金銭サポート、すなわち拡張DLCをもって成功しつつある。

グラフィックエンジンも大幅に進化し、映像面はジャンル高水準に達した。シェーダー・ブルーム・チンダル光条に加え、ビネット・色収差・フィルム粒子と、カメラ写真を模した効果まである。こうしたコダワリからほとばしる、宇宙ゲームへの造詣と情熱が、筆者の心を強く打つ。
グラフィックエンジンも大幅に進化し、映像面はジャンル高水準に達した。シェーダー・ブルーム・チンダル光条に加え、ビネット・色収差・フィルム粒子と、カメラ写真を模した効果まである。こうしたコダワリからほとばしる、宇宙ゲームへの造詣と情熱が、筆者の心を強く打つ。