『シェフィ』&『Land 6』 スマートフォンのソリティアゲーム2選

ソリティア(1人用)カードゲーム『シェフィ』と『Land 6』のスマートフォン版を紹介する。スマートフォンの大人気対戦カードバトルで勝負事に疲れたプレイヤーにも、気分転換用ゲームとしておすすめだ。

ソリティア(1人用)カードゲーム『シェフィ』のスマートフォン版が2016年7月11日にリリースされた。基本プレイ無料で1日5回までベーシックモードをプレイできる。2013年に発売されたアナログ版は世界最大のボートゲーム市「SPIEL ’13」で展示され、発売前から海外で人気を集めることに成功した。国内外で高評価を得た“ひつじ増やしゲーム”が、ソリティアと相性の良いスマートフォンで遊べるようになったのはうれしい。コンポーネントの朗らかさでコントラストが利いた、犠牲をテーマとする手ごわいプレイ体験を味わってほしい。既に体験したゲーマーに向け、新たな挑戦目標として、ソリティアボードゲーム『Land 6』も併せて紹介する。

 

『シェフィ』――ひつじを思って眠れない、ひつじ増やしゲーム

『シェフィ』の根底には犠牲がある。さけられない災害を最小被害に抑えるリスク管理ゲームだ。プレイヤーは1匹カードからスタートし、イベントカード(以降イベント)を使い、1000匹カードを出した時点で勝利となる。イベントの中には災害があり、大を残すため小を犠牲とする、厳しい選択をとらねばならない。

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『シェフィ―Shephy―』スマートフォン版
制作: 冒険企画局
販売: アークシステムワークス
価格: 基本無料(フルバージョン480円)
発売日: 2016年7月11日
プラットフォーム: Android/iOS

初プレイの所感は「マイナス効果がとても多い」。イベントカード22枚中、約1/3が災害だ。単純に場のカード枚数を分減らす落石・嵐。半分または2枚以下まで枚数を減らす過密・暴落。場のカード一種すべて、最大ランクを参照する疫病・オオカミ。など、痛いところを突いてくる。さらに、増えるイベントは多いものの、場に出たものより高いランク(1・3・10・30・100・300・1000匹)に昇格する効果は2枚のみ。使い切れば、イベント22枚を消化し次ラウンド(イベントをシャッフルし山に戻す)をむかえるまでランクはあがらない。5枚の手札は機会を待つイベントで枠が奪われ、災害の対策は難しくなる。

手札を紹介。左から「嵐」-カードを2枚戻す。「シェフィオン」-7枚もどす。「疫病」-同格のカードすべてを戻す。「万能ひつじ」-カードをコピーする(空打ち可)。「落石」-1枚戻す。詰みである。
手札を紹介。左から「嵐」-カードを2枚戻す。「シェフィオン」-7枚もどす。「疫病」-同格のカードすべてを戻す。「万能ひつじ」-カードをコピーする(空打ち可)。「落石」-1枚戻す。詰みである。

22枚のイベントをどう使うか。その把握を助ける仕掛けがある。上記したとおり災害にはタイプがあり、打ち消せるようにカードを増やすものが複数枚ある。また、山札を見て残りの災害を確認できるものがある。イベントにはスケープゴートという本質があり、同じような効果に見えても機会で価値は大きく異なる。ひつじが増えるのもうれしいが、イベントの本当の価値を引き出して犠牲を押さえたときに達成感は高まる。運を制御するプレイングを実感させるゲーム設計だ。

「ポストラヴズ」メインメニュー。マンガとルールは最終章以外が公式サイトで公開済み。ゲーム版ではマンガがアニメーションし、追加ルール用イベントが新規絵柄で登場する。
「ポストラヴズ」メインメニュー。マンガとルールは最終章以外が公式サイトで公開済み。ゲーム版ではマンガがアニメーションし、追加ルール用イベントが新規絵柄で登場する。

イベントを知らない初日は、すぐに1日5回の無料プレイを使い果たしてしまうだろう。満ち足りなさを感じたなら、それはシェフィの中毒性に適合した合図だ。フルバージョンへのアップグレード(480円)を勧める。回数制限の開放とともにアンロックする中級者向けモードに満足できるだろう。7000匹を目指すチャレンジモードも夢中になるが、『シェフィ』のテーマ「犠牲」を強調した物語付き追加ルール「ポストラヴズ」が本命である。無料でプレイできるベーシックモードは表層であり、「ポストラウズ」のソリティア集と、そこで非情の運命に晒されるひつじたちへの思いこそがシェフィの輝きだ。なお、追加ルールは現在第1章のみ。順次追加し、10月のアップデートで全7章開放となる。

 

『Land 6』――ダイス王よ、地勢を読み勝利せよ

『シェフィ』がプレイングを強調したソリティアとするなら、『Land 6』は戦略を強調したソリティアだ。本作の戦略は、ダイス王とキューブ王が戦うフィールドの土地からうまれる。土地のアクションを生かして軍を展開し、進軍の準備を整え、キューブ王の城へ乗り込もう。序盤・中盤・終盤で対処を要する「運要素」に違いがあり、ゲーム体験は濃厚だ。コンポーネントはダイス・チップ・ボードと種類が多く、ルールも少々難しく言語も英語のみとプレイ難度は高いが、スマートフォン版なら気楽に挑戦できるだろう。

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『Land 6』スマートフォン版
制作: Santiago Eximeno
販売: Boardnaut Studios
価格: 無料
発売日: 2015年12月23日
プラットフォーム: Android/iOS

本作はアナログゲームの一形態「プリント&プレイ」だ。これはルールを無償公開し、コンポーネントの用意をプレイヤー側にゆだねるものである。販売元は製作者から許可を得て無料アプリを開発・公開した。アプリ内課金や広告表示はなく、完全無料でフルバーションを遊べる。アナログゲーム版の利点を一切失わない上位版といえる。

演出や効果音は一切無く、とっかかりがなく分かりづらい。チュートリアルはあるが画面の詳細説明がないので図解を用意した。
演出や効果音は一切無く、とっかかりがなく分かりづらい。チュートリアルはあるが画面の詳細説明がないので図解を用意した。

ルールは少々込み入っているが、上記の公式動画を見ればわかりやすい。プレイヤーであるダイス王と、自動処理のキューブ王は交代で操作する。ダイス王がとれる行動は、軍勢(ダイス)のいる土地に対応した戦闘、移動、回復などだ。対してキューブ王は、ランダムでエリアを支配、またはダイス軍を襲撃する。勝利条件はマップ右端のエリア6(キューブ王の本拠地)の支配を解放し、そのエリアの城パネルに目3以上の軍勢を置くことだ。場の城パネルに軍勢がいない、または全エリアを支配されると敗北する。

土地は4種類。左上「城」-軍勢の配置・移動。右上「森」-キューブ軍と戦闘しエリア解放する。左下「畑」-場の軍勢の目を+1する。右下「海」-軍勢、戦闘ダイス・キューブ軍進軍ダイスをリロールする。
土地は4種類。左上「城」-軍勢の配置・移動。右上「森」-キューブ軍と戦闘しエリア解放する。左下「畑」-場の軍勢の目を+1する。右下「海」-軍勢、戦闘ダイス・キューブ軍進軍ダイスをリロールする。

プレイヤーの行動は軍勢がいる土地によって決まる。つまり、地勢で戦略が決まる。対してキューブ王の行動はランダム=運だ。ここに戦略と運の戦争が始まる。本作の特徴は、対処する運の内容がゲーム展開によって大きく変化する点にある。序盤はエリア1(ダイス王の本拠地)さえキューブ王に支配されなければ良い。城をふたつ以上手にした中盤では、より高い値で軍勢を配置できるよう、支配エリア数が増えなければ良い。キューブ王の城へ進軍する終盤は、敵の襲撃に自城の軍勢が耐えれば良い。それらゲーム展開に明確な指標はなく、軍勢の数、規模、その配置をもってプレイヤー自身で見いだすのだ。戦略ゲームの醍醐味「運の管理」を、そのまま戦略軍vs.運軍に当てはめたゲーム設計である。

初級ルールでもその戦略要素は強く、初クリアまで少々手こずるだろう。中級ルール以上になるとダイス軍が不利な条件からスタートし、勝利に要する運の比重が大きくなる。初級と中級に壁を感じたプレイヤーには、ランダムマップでのプレイを勧める。中央4エリアがランダム配置となり、軍の展開方針が大きく変化するからだ。腕前に合った難度で戦略の追及を楽しめるだろう。これこそが、「地勢を読み序盤~終盤の流れを作る」本作を純化したゲームモードだ。

ランダムマップ。フィールド中央のエリア2~5は向きがランダムとなる。次の拠点までの距離と、そこの利便性に注目されたし。キューブ王の攻撃は運任せで通常マップと同じだが、ダイス王はマップごとに地勢から戦略を練らねばならない。
ランダムマップ。フィールド中央のエリア2~5は向きがランダムとなる。次の拠点までの距離と、そこの利便性に注目されたし。キューブ王の攻撃は運任せで通常マップと同じだが、ダイス王はマップごとに地勢から戦略を練らねばならない。

 

プレイングと戦略がゲームならではの物語となる

日本で最も有名なソリティアはWindowsに標準搭載されたトランプゲームだ。Windows 8以降はなくなったが、根強い人気の声あり、Windows10 アプリとして復活した。
日本で最も有名なソリティアはWindowsに標準搭載されたトランプゲームだ。Windows 8以降はなくなったが、根強い人気の声あり、Windows10 アプリとして復活した。

プレイングと戦略はソリティアゲームの華である。そのふたつへの熱中が最高潮に達したとき、プレイヤーを主人公とする物語と化す。これがジャンル特有の没入感の正体だ。アナログ版は遊ぶためのスペースが必要になり敷居の高さを感じるが、スマートフォン版では場所を選ばず気軽にプレイできる。また、コンポーネントの管理を要さず、リトライもスムーズだ。プレイングや戦略を堪能したいゲーマーは、是非、この2作に触れてほしい。ソリティア=「Windowsのトランプゲーム」という認識が変わり、新たなゲームジャンルの扉を開くことができよう。

また、スマートフォンの大人気対戦カードバトル『ハースストーン』『シャドウバース』で勝負事に疲れたプレイヤーにも、気分転換用ゲームとして勧める。カードのプレイングと、デッキ構築の戦略が、別ジャンルで活用できるのに驚くこと請け合いだ。ゲーマーとしての成長を実感できるだろう。人ではなく運と戦う点は違えど、プレイングと戦略を追及した果てにある達成感は普遍のものである。

Hikaru Nomura
Hikaru Nomura

高校卒業後、ペンキ塗り・コンビニバイト・警備員・システムエンジニア・ネットショップの店長などで食いつなぐ。趣味はスーパーカブにまたがってのドライブ、海外SF小説(オールタイムベストは『スキズマトリックス』)、ゲーム実況、たまに同人活動。

宇宙ストラテジーと格闘ゲームを好む。リズムゲームとビジュアルノベルは苦手。FPSは酔う。中段や弾幕は見えない。Arcen Games信者であり、Stardockian(Stardock信者) でもある。英語は苦手だが、気合で翻訳して遊ぶ。

ゲーム大会の最高成績は2013年トライタワー末塔劇『チェンジエアブレード』部門第4位。

オールタイムベストゲームは『ニュースペースオーダー』。

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