『Titanfall 2』レビュー 洗練と飛躍と、こぼれ落ちたロマン

『Titanfall』に満ちあふれていたのはロマンだった。『アーマード・コア』シリーズの持つ重厚な金属塊を操縦するロマンや、『電脳戦機バーチャロン』シリーズの持つツインスティック超高速戦闘のロマンとはまた別種の、新たなロマンがそこにあった。

『Titanfall』に満ちあふれていたのはロマンだった。戦場をパルクールで縦横無尽に駆けまわるロマン、地面を走るよりも早い壁走りで上空を飛び回るロマン、ボタン一つで二足歩行ロボがソニックブームとともに投下されるロマン、二足歩行ロボに体を掴まれてコクピットに押し込まれるロマン、緊急脱出シーケンスにより上空高く射出された足元で敵もろとも自機が大爆発するロマン、敵ロボに飛びついて動力部にLMGを乱射するロマン、敵ロボにコクピットから引きずり出されてなすすべなくやられるロマン。『アーマード・コア』シリーズの持つ重厚な金属塊を操縦するロマンや、『電脳戦機バーチャロン』シリーズの持つツインスティック超高速戦闘のロマンとはまた別種の、新たなロマンがそこにあった。

その後、開発元のRespawn Entertainmentが目指したのは「洗練」であった。前作の欠点を排除し、よりシューターとしての体裁を整えることに全力を費やしたのである。もちろん、それは必要なことであっただろう。前作がマッチングに苦労するほどにプレイヤーが減少するまで、発売から長い時間はかからなかった。もっともプレイ人口の多い「消耗戦」以外のルールで遊ぶためには時間帯と接続先サーバを吟味しなければならなかった。Respawn Entertainmentはその理由をシューターとしての出来の粗さにあると結論づけたのだろう。その徹底的な自己反省の末、ついに発売されたのが本作『Titanfall 2』である。

image5『Titanfall 2』
開発元:Respawn Entertainment
発売日:2016年10月28日
プラットフォーム:PC・PS4・Xbox One

※本稿は発売日時点でのバージョンに基いて執筆されています。パッチやアップデート、DLCの配信などにより、最新のバージョンと本稿の内容が乖離する場合があります。

 

 

王道を足早に駆け抜ける新生キャンペーンモード

まず用意されたのは、完全スタンドアロンのキャンペーンモードである。前作の「マルチプレイと絡み合わせたキャンペーンモード」にも見どころが無かったわけではなかったが、プレイヤーの勝敗がストーリーに影響せず、ストーリー側からプレイヤーに介入することが難しいといった構造的な欠点を複数抱えていた。マルチプレイへの導入にはなったかもしれないが、ゲームプレイ自体は通常のマルチプレイと代わり映えしなかったのである。

マルチプレイと同時進行せねばならないという縛りから解放された本作のキャンペーンモードは、発売前からセールスポイントとして大きく売りだしていただけあって、その内容は盤石である。一兵卒から新米Pilotとなった主人公とその相棒となるタイタン「BT」の出会いから、作戦遂行の過程で彼らに強い信頼が築かれてゆくさまをケレン味たっぷりに描いている。シナリオも変にひねくれること無く、ロボットもの・バディものの王道ド真ん中を駆け抜けており、燃えどころのテンプレートとロマンを可能な限り詰め込んだらこうなりましたという内容だ。「ストーリーモードPVのあのシーン」が割とあっさりした演出なのには拍子抜けしてしまったが、きちんとそれを踏まえた展開が後々用意されていて胸が熱くなってしまった。

時にはこのように「BT」に対する返答を選ぶこともできる。それほど数は多くなく、物語にも影響はない(と思われる)が、BTの気の利いた返答がパイロットとプレイヤーをシンクロさせる
時にはこのように「BT」に対する返答を選ぶこともできる。それほど数は多くなく、物語にも影響はない(と思われる)が、BTの気の利いた返答がパイロットとプレイヤーをシンクロさせる

一方でキャンペーンモードそのものの出来に目を向けると、やや粗雑さが目立つ。中盤までは撃ち合いよりもジャンプアクションと地形パズルが主体のレベルデザインで、敵を撃つよりも足場を探してさまよう時間のほうが長いし、キャンペーン限定のギミックも他のゲームでの既視感が強い。ボス以外の敵のAIにプレイヤーを殺す気があまり感じられず、シチュエーションを楽しむためのおもてなしという向きが強い。ただ、たまにやってくる「敵を全員排除するまで出られない」イベントは妙に難易度が高いところもあり、難易度は少々乱高下が激しい。

ゲーム中盤にかけて、足場はかなりわかりづらい箇所が多い。そういう場所で途方にくれていると、このようにホログラムが進行ルートのヒントを出してくれるのだが、これすら無い箇所も。このためリトライ前提で足場を探す時間が長い、ストレスフルなミッションもチラホラ。
ゲーム中盤にかけて、足場はかなりわかりづらい箇所が多い。そういう場所で途方にくれていると、このようにホログラムが進行ルートのヒントを出してくれるのだが、これすら無い箇所も。このためリトライ前提で足場を探す時間が長い、ストレスフルなミッションもチラホラ。
全体的に低難易度なキャンペーン中において誰もがつまずくであろうボス、バイパー様の勇姿。意地悪な攻撃方法に加え、フィールドに散らばる有限の回復アイテムと、その使用状況も保存してしまうチェックポイントの仕様のせいで、たまに純粋な詰みが発生する
全体的に低難易度なキャンペーン中において誰もがつまずくであろうボス、バイパー様の勇姿。意地悪な攻撃方法に加え、フィールドに散らばる有限の回復アイテムと、その使用状況も保存してしまうチェックポイントの仕様のせいで、たまに純粋な詰みが発生する

なにせ敵が弱いため、「マルチプレイの導入」としてのキャンペーンモードではなく、あくまでシチュエーションを楽しむモードだと割り切るべきだろう。主人公とBTの関係性や、その時々のイベントシーンなど、ロマンには事欠かない。これでもう少し分量が長く、それぞれの燃えどころをじっくり描いてくれていたらと思う。全体的に非常に駆け足で、描写不足に感じてしまうのである。作中の二大勢力「IMC」と「ミリシア」の戦争についても深く描かれることはないし、最終ミッション冒頭で描かれるある出来事と、そこからの再起についてはもう少しじっくりと描いてほしかった。すべてが腹八分目に感じるのだ。とはいえ、全体的に燃えとロマンに満ちた内容であることに変わりはなく、難易度を変えてもう一周と遊ぶ分にはちょうどよい分量といえるかもしれない。

 

より「正しい」シューターを目指すマルチプレイ

発売前の「マルチプレイヤー・テックテスト」に参加した人は多いだろう。そしてマルチプレイの内容に不安をいだいた人もかなりの人数いるはずだ。

その不安の中心が、『Titanfall 2』特有のスピード感の欠如にあるのなら、それは忘れてしまって良い。ウォールランの速度の上昇、バニーホップ仕様の一部復活、テックテスト初回には存在しなかった興奮剤の存在などで、スピード感そのものは前作に肉薄している。

しかし、そもそものゲーム設計の変更、たとえばAIミニオンの削減やロデオの仕様変更などに不安を抱いたプレイヤーについては、残念ながら救済はない。これらの要素は前作からの反省の結果、明確な意図を持って削ぎ落とされた要素だからだろう。

先述したように、本作のマルチプレイは前作『Titanfall』の徹底的な反省に基づいて設計されている。その反省の内容だが、私には「ムダを排除する」という思想が根底にあるように感じられた。

たとえばタイタンロデオである。前作では敵タイタンに取り付くと敵のコアを露出させ、そこに手持ちの武器で撃ちまくって直接ダメージを与えるというギミックだったのだが、今作では敵タイタンに取り付くと、自動的に敵タイタンのバッテリーを一本抜いて離脱するというギミックに変更された。抜いたバッテリーを味方タイタンにロデオして取り付けると、そのタイタンの体力を回復させられるという寸法だ。

確かに前作のタイタンロデオの仕様にはいくつもの穴があった。ロデオ時に効率よくダメージを与えられる歩兵武器はそれほど多くないし、うっかりアンチタイタン武器を装備したままコアに撃ち込もうものなら爆風ダメージで死ぬのは自分の方だった。味方タイタンへのロデオに関しては本当に乗ることができるだけで、ロマン以上の意味はほとんどなかった。今作での仕様変更はこうした無意味さや穴を排除し、どんな行動やシステムにもできるだけ意味をもたせようとしたRespawnの一つの回答である。

前作からさらに長大になったアンロックシステムも、その「洗練」の一つだ。ただし一部を除いてゲーム内通貨による強制アンロックが可能となっており、レベルによる装備格差の発生がある程度緩和されるように配慮はされている
前作からさらに長大になったアンロックシステムも、その「洗練」の一つだ。ただし一部を除いてゲーム内通貨による強制アンロックが可能となっており、レベルによる装備格差の発生がある程度緩和されるように配慮はされている

それはロデオ以外の仕様についても同様だ。全タイタンで共通だったロードアウトは、タイタンのシャーシに合わせた専用装備や装備制限という形に変更され、タイタンの個性を強調すると同時に「どのタイタンでも装備が同じ」というようなことは起こりづらくなった。お互いのチームが「敵にポイントを献上するための存在」を持ち合うという一種の矛盾を生じさせていたAI操作の一般兵ミニオンは、消耗戦(いわゆるチームデスマッチ)以外のモードで削除され、「両チームが得点源とする中立ミニオン」という形で賞金稼ぎルールにその名残を残すのみとなった。タイタン投下もポイント貢献に対する報酬(いわゆるキルストリーク)という側面を強くし、前作のように時間経過のみでは呼ぶことが難しくなった。対戦にある種の揺らぎを生むが、同時に収集という作業を併発するバーンカードは削除された。マップは前作ほど上下の動きをすることが難しくなったが、熟練しないと手も足も出なかった空中戦の発生を抑制し、地上での撃ち合いや待ち戦法に活路を見いだせるようになった。全ては洗練と改善を目的とした取捨選択なのだ。

その結果、マルチシューターとしては大きく改善したように思う。360度あらゆる方向から敵パイロットが殺しに来るという状況は少なくなり、武器の強さやバランスもシチュエーションに依存する所が大きいため、そこまで飛び抜けた存在は感じず、なかなかうまく統制が取れている。前作から高低差と広さを少々割引したマップは、ゲーム展開の速度は維持しつつ「わけがわからないうちに殺される」という事態の発生を抑える役割を果たしており、高機動を活かして待ちを崩すというゲーム性を生み出している。ブーストアビリティのマップハックや「トーン」タイタンなど、いくつか調整が入りそうな強い要素は存在するが、単純にマルチプレイシューターとしての完成度だけ見れば、前作を大きく上回っていると言っても良いだろう。この点において、Respawnは目標を見事達成したと言っても過言ではない。

 

高まる完成度、こぼれ落ちたロマン

拡張と洗練は常に相反する、トレード・オフの関係にある。私が前作に感じたロマンや遊び心の大半は、『Titanfall 2』という洗練の途上で削ぎ落とされ、生き延びることはできなかった。無論、今作で拡張されたロマン成分も多い。近距離戦に特化し、刀型装備まで兼ね揃えた「ローニン」タイタンや、空中に飛び上がってホーミングミサイルを乱射、ものすごい弾幕を張れるが飛び上がるので必殺技を使うと自分も狙われやすくなりまず生き延びられない「ノーススター」タイタンなど、前作では見られない光景も多々ある。

つまるところ、私は困惑しているだけなのだ。一人称へのこだわり、あまり意味のない味方タイタンへのロデオ、共闘感を煽るが実質的には敵に倒されるためだけに存在する味方ミニオン。まさに縦横無尽に駆け抜けられるマップ。『Titanfall 2』で削ぎ落とされたその無駄や野心、拡張と洗練の間に消えていったそれらのロマン要素をこそ、私は愛していたのである。それらがゲーム全体の洗練の結果削ぎ落とされたという事実に、私は困惑している。角を丸くすることに腐心するあまり、余計なところまで綺麗にしすぎたのではないか、普通のFPSになりすぎてしまったのではないかと、そう考えてしまっているのだ。

image6失われたロマンについて、特に一つだけ例を挙げるとするなら、それはタイタンの搭乗モーションだ。前作ではゲーム開始から決着まですべて一人称で描写されていたのだが、本作ではタイタン搭乗モーション中は三人称に切り替わるように変更された。

「戦場で自分がカスタマイズしたタイタンを見て感動できるようにするため」という理由とのことだが、そもそもタイタンに搭乗するときに姿は見られるので一人称であっても問題はないはずである。しかもタイタンに乗ってリスポーンする際の演出は一人称のままで手が加えられていない。搭乗モーション自体はかっこよく描かれているのだが、三人称になる瞬間がゲームから浮いており、没入感とロマンを削いでしまっているのである。せめてオプションで切り替えられるようにしてくれればよかったのだが、それも明確な意図をもって、Respawnは三人称にこだわった。たしかにゲームプレイそのものには一切寄与しない点ではあるものの、一人称へのこだわりと、それが生み出すパイロットとプレイヤーの一体感を軸に『Titanfall』が描き出したロマンに魅せられた私は、ロボットとパルクールのある面白いシューターを作ることを目指したRespawnの取捨選択に納得できなかったのである。

だが、それをもって本作のすべてを否定するというのは、それはそれで不当な評価であるというのも偽らざる思いだ。マルチプレイシューターとしての『Titanfall 2』を拒絶する理由はほぼない。完成度は飛躍的に高まり、ゲームのパッケージとしてもまとまりがあり、キャンペーンにはロマンがある。この冬を過ごす最良の一本になり得るタイトルだろう。私自身、遊んでいて楽しい瞬間のほうがはるかに多いし、マップやゲームモードなどの追加コンテンツは無料での拡張が約束されている。そうなればその都度盛り上がりを見せることは間違いなく、うまくすればそのうち「フロンティアディフェンス」も帰ってくるかもしれない。

『Titanfall 2』は楽しい。グラップリングフックもローニンでのガチンコも、賞金稼ぎルールでプレイヤーがバンクの周りで漁夫の利を狙ってぐるぐる回った結果、戦況が膠着するというのも、どれも楽しい。それはそうした要素が存在しない前作では味わえない楽しさで、私が『Titanfall 2』を末永く起動するモチベーションになるだろう。

だから、時折私がかつてのフロンティアに里帰りすることを許して欲しい。高速移動のためだけに配置された壁が乱立し、拠点戦にミニオンが登場し、お気に入りの角度からタイタンに「乗れる」、慣れ親しんだフロンティアに里帰りすることを許して欲しい。現時点では『Titanfall 2』で味わえない、私が愛してやまないロマンが、変わらずそこにあるからだ。とても楽しい『Titanfall 2』から、大好きな『Titanfall』への帰郷を、何卒お目こぼしいただきたい。

Rokurou Eyama
Rokurou Eyama

ビデオゲームとアメコミとバイク(盗難被害遭遇済)をこよなく愛する30台前半。レトロゲームも最新ゲームも等しく同じ大切なプレイ対象である。

幼少期に出会った『マーブルマッドネス』の衝撃でビデオゲームに目覚め、なぜか実家に転がっていたMSX2+に親しみ、バーチャルボーイに立体視の未来感を植えつけられゲーム人格が形成されていった。STGからRTSまでどんなジャンルも遊んでみるが女の子がいっぱい出てくるゲームは苦手。

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