Steam版『虫姫さま』プレビュー 非常に広い間口、優しさと厳しさと豪速球

『虫姫さま』は2004年に株式会社ケイブがアーケード向けに開発した縦スクロールSTGである。先日、CAVEタイトルのSteam進出が決定し、その第一弾として本作『虫姫さま』の発売が発表されたことは記憶に新しいだろう。Steam版にこのほど触れることができたので、ゲームレビューともども本稿にて取り上げる。

[2015年11月6日 Update]

Steam版『虫姫さま』の発売を記念して、販売開始から1週間はオリジナルサウンドトラックが無料で付属する。また、すべてのDLCがセットになった「Mushihimesama Matsuri Pack」も25%オフのセール中。


『虫姫さま』は2004年に株式会社ケイブ(以下、CAVE)がアーケード向けに開発した縦スクロールSTGである。先日、CAVEタイトルのSteam進出が決定し、その第一弾として本作の発売が発表されたことは記憶に新しいだろう。『虫姫さま』としてはPS2版、Xbox 360版につづいて3度めの移植(操作性の異なる携帯電話向けはカウント除外)となるSteam版にこのほど触れることができたので、ゲームレビューともども本稿にて取り上げる。

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Steam版『虫姫さま
開発元: 株式会社ケイブ
販売元: 株式会社デジカ
発売日: 2015年11月6日
価格: 1980円(配信後1週間は1500円)

「弾幕」のみにあらず

CAVEのプレスリリースでも触れられているとおり、本作をジャンル分けするなら「縦スクロール弾幕シューティングゲーム 」となる。今更「弾幕シューティング」についての説明は不要であろう。よって、あえて本作の弾幕シューティング「ではない」側面を軸に、本作がSteam配信タイトル第一弾として選ばれた理由、そして本作が持つ「初心者向け」という面について取り上げたい。

本作『虫姫さま』にはこれとは別に「オリジナルモード」「マニアックモード」「ウルトラモード」のみっつが搭載されている。このうち「マニアックモード」は、「弾幕シューティング」というイメージにかなり近いモード、そして「ウルトラモード」は一握りの超人に向けたジョークのようなゲームモードで、まさに「超高難易度弾幕シューティング」のイメージにふさわしい内容だが、「オリジナルモード」はこれらと少し趣が異なる。敵の弾が随分少ないのである。

冒頭のモードセレクト画面より。説明文どおり弾は少なく、密度自体も他のモードに比べて薄め。スコアシステムもマニアック・ウルトラに比べてシンプルなものとなっている。
冒頭のモードセレクト画面より。説明文どおり弾は少なく、密度自体も他のモードに比べて薄め。スコアシステムもマニアック・ウルトラに比べてシンプルなものとなっている。

その代わり弾速が速い。四方八方から放たれる自機狙いの豪速球をあるときはかわし、ある時は撃たれる前に撃ちながら進んでいくこのモードは、やっていることは他のモードとほとんど同じでありながらも異なるプレイ感覚をもたらしてくれる。「弾幕」と名乗れるほどの弾数は吐き出さないものの、それだけにきちんと「避けて撃つ」というSTGの魅力とやりがいを感じることができるだろう。このモードはスコアシステムもシンプルなもので、基本的に「出てくる敵をじゃんじゃん撃破する」以外のことは気にしなくてよい内容になっている。

ただし、敵弾が少ないからといって簡単かといえばそうでもなく、速めの弾速は慣れるまで頻繁な事故死をもたらしてくれるし、なんだかんだで各ステージのボスはきちんと殺意を持ってこちらに弾を撃ってくる。道中もステージ3から目に見えて難易度が上がり、敵のパターンや敵弾の誘導方向を考えてプレイしなければみるみる残機が削られてゆくだろう。プレイし、死に、そして覚えるという向上心を、ステージの先にすすめるという形でもっともダイレクトに受け止めてくれるのがオリジナルモードであり、このモードの存在こそが本作がSTG初心者にも勧められるタイトルに押し上げているのである。決してマニアックモードやウルトラモードから敵弾やスコアシステムを削っただけというモードではないのだ。

オリジナルモード3面より。自機に向かって突進してくる雑魚と自機狙い弾が織りなすハーモニーは2面までと一線を画す。
オリジナルモード3面より。自機に向かって突進してくる雑魚と自機狙い弾が織りなすハーモニーは2面までと一線を画す。

 

さらなる初心者のために

オリジナルモードの存在があったとしても、そもそも『虫姫さま』の難易度が高めであり、初心者にはやや敷居が高いという事実自体は揺らがない。そこでCAVEが出した答えは、初心者向けのゲームモード「ノービスモード」の搭載であった。これ自体は『虫姫さま』にかぎらずXbox 360におけるCAVEの移植タイトルにはほぼ毎回搭載されていたのだが、Xbox 360版『虫姫さま』がCAVEのXbox 360向けタイトルの晩期作だったこともあり、本作のノービスモードの出来は非常に良い。

トップメニューから「ノービス」「ノーマル」「アレンジ」の3モードを選択できる。「ノービス」「ノーマル」の各モードの中でそれぞれ「オリジナル」「マニアック」「ウルトラ」の各モードに分岐する。アレンジモードにはモードセレクトはない。
トップメニューから「ノービス」「ノーマル」「アレンジ」の3モードを選択できる。「ノービス」「ノーマル」の各モードの中でそれぞれ「オリジナル」「マニアック」「ウルトラ」の各モードに分岐する。アレンジモードは完全に独立しており、モードセレクトはない。

初心者向けと言うだけあって敵弾はノーマルモードより間引かれ、弾速もかなり控えめになっている。ただ調整の仕方が絶妙で、ノーマルモードではそれを味わえるまでに時間が掛かるであろう、本作の「爽快感」の部分を手軽に味わうことができるようになっている。少なめの敵弾とやや遅くなった弾速で比較的自由に敵を蹂躙できるオリジナルモード、大型敵の撃破による弾消しと得点アイテムジャラジャラ感を満喫させてくれるマニアックモード、まだ人間でもなんとかなる(と錯覚させる)程度に殺しに来てくれるウルトラモードと、それぞれのモードが異なる味付け、かつノーマルモードにも通じる内容できちんとおもてなししてくれるように調整されており完成度が高い。初心者が下手にノーマルのオリジナルに拘泥するよりは、ノービスのマニアックを遊んだほうがこのゲームや弾幕STGのことがよく分かるかもしれないくらいだ。

モード選択するだけでこの騒ぎの「ウルトラモード」。初回プレイはまず30秒もたないであろう圧倒的暴力がここにある。
モード選択するだけでこの騒ぎの「ウルトラモード」。初回プレイはまず30秒もたないであろう圧倒的暴力がここにある。

ただ、それでもまずは「ノーマルモードのオリジナルモードとマニアックモード」をそれぞれ遊んで、それが難しいように感じられたら改めて「ノービスモード」の各モードを遊んでみてほしい。本作の「殺し方」を学んだ状態で難易度を少し下げられるため、いきなりノービスモードに行ってしまうより本作に対する理解が早まるはずだ。

ノービスモードをはじめとした初心者への最大限のケアと同時に、ウルトラモードの圧倒的暴力によるシューターへの挑戦状を内包した本作は、選ぶモードさえ間違えなければCAVEの弾幕STGの中でもトップクラスに万人向けなタイトルであることは間違いない。ゲームシステムもCAVEのタイトル中で突出してシンプルであり、CAVEが本作をSteam参入第一弾に選んだのも頷けるというものだ。CAVEのSteam参入は心から喜ばしいものであり、今後のタイトルに期待するとともに、本作に触れて少しでもSTGプレイヤーが増えてくれればと切に願う。ただし繰り返すが遊ぶゲームモードは間違えないこと。とくにウルトラモードを最初に選んではいけない。あれは地球上に住む一握りの超越者に向けたモードであり、大多数の人類にとっては、その頂どころか二合目を踏むことすら困難であるはずだ。ウルトラモードに挑むのは超越者となるための修行をじゅうぶんに積んでからでも遅くはない。

 

Steam版について

以下、Steam版の仕様についての特記事項を列挙しておく。発売日前のバージョンの情報であるため、発売日あるいは発売日以降にパッチによる更新が行われ、本稿の情報が適用できなくなっている可能性があることについてはご了承いただきたい。本稿の執筆時点のバージョンナンバーは「1.1.0」だ。バージョンナンバーはタイトル画面に表記されているので参考にして欲しい。

全般的にXbox 360版と同一の仕様となっており、オプション項目やトレーニングモードの内容などもそのまま流用されている。ゲーム内容についてはXbox 360版との差異は殆ど見受けられず、アーケード版と比較しても移植度は良好である。アレンジモードのゲーム内容も私の分かる範囲では調整されているような箇所が見受けられなかった。ただし5面ボスのイントロに特に顕著だったBGMの音色のおかしな箇所や、通常ボスBGMのフレーズ抜けといったXbox 360版に見られたBGM関連の事象は改善が見られた。

Xbox 360版ではどういうわけか音色が明らかにおかしかった5面ボスBGMだが、Steam版にその現象は見られなかった。各種画面表示もXbox 360版同様に自機周囲表示から入力可視化までひととおり揃っている。
Xbox 360版ではどういうわけか音色が明らかにおかしかった5面ボスBGMだが、Steam版にその現象は見られなかった。各種画面表示もXbox 360版同様に自機周囲表示から入力可視化までひととおり揃っている。

残念なのはトレーニングモードに変更がなかったところだ。トレーニングモードは各ステージの最初から始める機能しかなく、コンティニューもできないため「残機を持ち込んでボスの練習をしたい」というような目的で使用することができない(残機設定自体はできる)。一方で普通にゲームを始めた場合は「実績解除やスコア登録ができなくなる代わりにそのステージ頭からやり直す」という機能があるので、コンティニューと合わせてそちらで先のステージまで進んで練習したほうが良いというXbox 360版の仕様をそのまま引き継いでしまっている。ノービスモードでトレーニングができないという仕様もそのままだ。

画面解像度についても少し。ゲーム内のアスペクト比設定が16:9のときは1280×720、4:3のときは800×600で固定されており、ゲーム内に変更する項目が見つからなかった。またフルスクリーン表示時の挙動が少々怪しく、フルスクリーン時にアスペクト比設定を変更した場合は解像度変更が行われないので画面がバグる、フルスクリーン時にレターボックス表示になってしまうといった事象が見受けられ、PC環境への「最適化」については若干追いついていないように見えた。この辺りはバージョンアップでの改善に期待したい。

ともあれ、Xbox 360版からの良好な移植であり、同時に優良なシューティングゲームである。今回は触れることができなかったが、Xbox 360版の初回特典であった本作の別バージョン「虫姫さま Ver1.5」についてもDLCとして配信が予定されている。スコアシステムが変更され稼ぎが熱くなっている(敵に張り付いて撃ちこむのがより重要になっている)ほか、敵配置の改修や超越者向けの超高難易度モードが追加されるなどさまざまなアレンジが施されている。こちらもそう間をおかずに配信されると思われるので、本作を楽しめたならそちらにも挑んでみるのもよいだろう。これまた遊ぶモードを間違えると「ウルトラモードの弾幕がオリジナルモードの豪速球で押し寄せる」という暴力にさらされることになるが、張り付きを中心にした攻撃的なゲームシステムには、無印のシンプルな楽しさとはまた異なる魅力を見出すことができるだろう。

【2015/11/06追記】Ver1.5はもともと原作から7年近く間を置いて発売されたバージョンであり、様々な変更点があるが、目玉は「フルパワーでゲームが開始できるが敵の攻撃も苛烈になる」モード。カーソルを合わせるだけで不穏な警告が出るほどで、オリジナル・マニアック・ウルトラすべてで選択可能。選んでしまうとそれぞれのモードの持ち味がさらに強化されプレイヤーに襲いかかる。ノーミスノーボムで進んだ際のオリジナルモードの弾速たるや夢に出るレベルだ。
【2015/11/06追記】Ver1.5はもともと原作から7年近く間を置いて発売されたバージョンであり、様々な変更点があるが、目玉は「フルパワーでゲームが開始できるが敵の攻撃も苛烈になる」モード。カーソルを合わせるだけで不穏な警告が出るほどで、オリジナル・マニアック・ウルトラすべてで選択可能。選んでしまうとそれぞれのモードの持ち味がさらに強化されプレイヤーに襲いかかる。ノーミスノーボムで進んだ際のオリジナルモードの弾速たるや夢に出るレベルだ。
Rokurou Eyama
Rokurou Eyama

ビデオゲームとアメコミとバイク(盗難被害遭遇済)をこよなく愛する30台前半。レトロゲームも最新ゲームも等しく同じ大切なプレイ対象である。

幼少期に出会った『マーブルマッドネス』の衝撃でビデオゲームに目覚め、なぜか実家に転がっていたMSX2+に親しみ、バーチャルボーイに立体視の未来感を植えつけられゲーム人格が形成されていった。STGからRTSまでどんなジャンルも遊んでみるが女の子がいっぱい出てくるゲームは苦手。

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