『モンスターハンターワイルズ』レビュー。シリーズ20年を経て出た新作は、歴代でもっともモンハンらしい、モンスターハンターだった

『モンスターハンターワイルズ』レビュー。本作はシリーズの中で一番モンハンらしいゲームであると私は思う。

節目となるシリーズ20周年を超え、さらなる飛躍を図る『モンスターハンター』シリーズ。「極東の珍品」扱いされていたのも今は昔。世界的に著名なフランチャイズへと成長を遂げた。その証明として堂々登場したメインシリーズ最新作『モンスターハンターワイルズ』は歴代随一の没入感を武器に携え、このシリーズの原点を改めて世界に表現する。『モンスターハンター』とは一体とはいったいどのようなゲームなのか。なぜ生まれたのか。仮にシリーズらしさを「コンセプトへの実現度」と定義した場合、本作はシリーズの中で一番モンハンらしいゲームであると私は思う。

※本稿はカプコンから提供されたレビュー用コード(PS5版)でのプレイにもとづき執筆。レギュレーションに基づき、マルチプレイやエンドコンテンツに関する内容は書かれていないことに注意してほしい。

「誰でも参加できるネットワークアクションゲーム」を実現し続けるということ

『モンスターハンターワイルズ』が持つ最大の特徴は、「シリーズ最高の没入感」である。最新ハードの性能によって成立した視聴覚効果をはじめ、シームレスなゲームフローや、カウンターを通じて生まれる、ターン制のように感じない戦闘が渾然となって、歴代最大の没入体験を生んでいる。そして、数々の施策によって生まれた没入体験は、『モンスターハンター』の世界により美しい自然美をもたらすだけでなく、シリーズコンセプトを通して、ハンター”ライフ”とは何かを鮮やかに表現する。20周年の先へ向かうにあたって、「なぜ、このゲームを作ろうと思ったのか」「このような体験をユーザーに味わってほしい」といった開発陣の想いが、直感的に伝わってくるゲームになっている。

ではそもそも『モンスターハンター』における、ハンティングアクションシリーズのコンセプトとは何か。それは「誰でも参加できるネットワークアクションゲーム」であることだと私は考える。作品の核となるシステムこそ、装備強化とモンスターの討伐を繰り返す内容になっているが(本作も例外ではない)、虫の採取や釣り、肉焼きミニゲームなど、バラバラな方向性を持つ遊びたちが何年もの間、導入され続けている。

こうした多様な遊びの存在は、多様ゆえにプレイヤーの動きを分散させる。狩りそっちのけで虫取りや釣りに興じるプレイヤーを生み出す。彼らの存在を通じて、狩りというコンテンツの重要性や強制力が低下していく。クエスト中ギリギリまで釣りに没頭しても良いし、肉を焼いても良い。達成目標と関係ないモンスターを狩るのも楽しい。仲の良い友人同士であれば、狩りの代行を頼んだって構わない。マルチプレイ中、仮に1人が何らかの理由でクエストに参加せずとも、ゲームが成立するようデザインされている。こうした「ゆるさ」によって、『モンスターハンター』シリーズは狩りをしなければならないゲームではなく、誰でも参加できるネットワークアクションゲーム……狩り”も”楽しめるハンターライフを描くゲームとして成立しているのだ。

『モンスターハンター:ワールド』以降、この「ゆるさ」をより強調する作風をシリーズは採用し続けてきた。『モンスターハンター:ワールド』では、観察がより楽しくなったモンスターの生態描写をはじめ、簡易な飼育ができる「環境生物」の実装や、救難信号によるマルチプレイの簡略化が導入された。『モンスターハンター:アイスボーン』にて登場した「モンスターライド」「クラッチクロー」は『モンスターハンターライズ』にて昇華され、クエスト受注→フィールド探索→ターゲット発見→狩猟というシリーズの伝統を再構成した 。

そして、『モンスターハンターワイルズ』は没入感を増す手法を通じ、シリーズコンセプトを強調している。没入感を増す手法は「ゲーム的なものを廃するデザイン」「テンポの良いゲーム進行」をプレイのサイクルに盛り込むことで成立する。ゲーム的なものを廃することで、プレイヤーは作中世界と現実の間に横たわる客観的な境界を消失する。テンポの良い進行は止め時を失わせる。やがて自然とゲームが提供する体験=ハンターライフに飲まれ、没入する。

筆者としてはこの在り方に対し、自由なプレイを推奨するMMORPGを遊んでいたときのような感覚を思い出した。本作は装備強化とモンスターの討伐というサイクルを回し続けるゲームではあるが、そうではなく、ただライフを過ごしているように感じたのだ。もともと本シリーズの原点には『ファンタシースターオンライン』というMMORPGがあり、シリーズ作品としては『モンスターハンター フロンティアZ』が登場している。最新作の体験がそこに近づきつつあると感じるのは非常に興味深いものがある。

ゲームがプレイヤーを包み込むための工夫

では、作品を構成する具体的な要素について触れていこう。『モンスターハンターワイルズ』は他のハンティングアクションシリーズ同様、モンスターを狩猟するクエストをクリアしていくことで、ゲームが進行していく。そして、この進行形態そのものに特徴がある。本作ではクエストを受注するだけではなく、フィールドに点在しているモンスターに攻撃することで、対象を「クエストのターゲット」に指定 することができる。狩猟が終われば、ターゲットに対応した報酬がもらえる。つまり、クエスト受注→フィールド探索→ターゲット発見→狩猟という、伝統的なサイクルを構成する各要素の境界が、限りなく薄くなっている。

『モンスターハンターライズ』の時点では、最初からターゲットの位置情報が表示されていたことや、高速移動システムの存在を通じ、フィールド探索と狩猟体験を完全に切り離すことで、サイクルを加速させるデザインを採用した。これはNintendo Switchという携帯機の特性をもつハードウェアと相性が良かった。一方、拠点とフィールドを高速で往復する体験は、ゲーム的な印象をより強調させた。ここでいう「ゲーム的」とは、洞窟の中にアイテム入りの宝箱が点在しているような、プレイヤーの現実における経験とゲーム中の描写が共感を成さない状態を指す。これはゲームであるという認識がプレイ中に挟まる状態と言い換えてもいいだろう。そして、こうした認識の存在は、プレイヤーを現実に引き戻すきっかけとなり、すなわち遊びを止めるきっかけにもなる。サイクルを回すことが面白さに繋がるゲームにおいて、このノイズの存在は明確な弱点になり得る。

本作では拠点とマップの境界を設けず、自在に行き来できるようにしたことをはじめ、各要素をシームレスにつなげることを是としている。移動はセクレトがすべて自動でこなすため、迷ってストレスを覚えることはない。ファストトラベル機能もある。本作はどこでも料理をすることができ、フィールドを散歩し、モンスターを狩猟し、ついでに釣りや採集をして、拠点に帰れば装備を整えまた出かけていく。この流れに「クエスト」という枷は存在しない。自然と続く営みの中に、これはゲームである、という認識が挟まる余地はなく、次は何をしようかという期待と展望が意識を満たす。プレイヤーは過程そのものに没入し、楽しみ続ける。ハンターライフを描く作品にふさわしい表現と言えるだろう。

シームレスな進行形態といえば、ストーリーを描く手法に関しても同様のことが言える。本作のストーリーに関してはネタバレの観点から詳しい内容に触れることはないが、シリーズ20周年を超えたいま、「モンスターハンター」という生き方とは何かを改めて描くものになっている。その上で、本作は物語演出として、リアルタイムに挿入されるカメラワークとプリレンダリングムービーによるカットシーンを使い分けている。前者は主に生態系の描写……ゲーム内の世界がより生き生きしていることを再確認するために用いられている。後者は主にドラマチックな画を作るために使われている。両者を織り交ぜることで、自然科学ドキュメンタリー番組を観ているかのような映像が作られており、ストーリー上の主題をより分かりやすく強調している。

また、本作は物語進行のテンポが非常にはやい。これは先述したクエストの仕様により、受付嬢からクエストを受注する必要がない……会話劇からシームレスに狩猟が発生するというパターンが多いからだ。また、従来のようにキークエスト→緊急クエストの区分がないこともテンポの良さに拍車をかけている。自分たちの拠点を移動するたびに大きく変わる周辺環境とあわせ、没入を促し離脱者を防ぐためにある今どきらしい工夫と言える。ちなみに、従来の仕組みどおりクエストを受注して狩猟することも可能だ。基本的にはフィールドに点在しているモンスターを狩猟したほうが、報酬が多い。しかし、点在するモンスターが必ずしもお目当てになるとは限らない。それを解決するのがこちらの仕組みとなっている。

最後に触れるのは、体験の核となる戦闘システムについてだ。本作の戦闘に関しては、俗に言うカウンターやジャストタイミングでのガードを「プレイスキルの上達目標」として導入した武器種がかなり増えている。それに合わせてか、モンスターのモーションにも「ここでカウンターしてね」という意思表示が分かりやすいものが存在する。この攻防一体の姿勢を通じ、ターン制では無い、攻め手が随時切り替わるリアルな戦闘体験がそこにある。

適切なタイミングを見計らいながら戦う都合上、没入感も重厚だ。本作から導入された「集中モード」の存在は、柔軟な方向指定を可能にするという点で、攻守ともに応用が効くシステムである。筆者は主にガンランスを使用して攻略を進めていたが、集中モードの存在により「竜撃砲」や「龍杭砲フルバースト」といった、その場に留まるタイプの大技を非常に当てやすくなっている。

一方、遠距離武器は「使いやすい」方向へデザインの舵を切っている。ボウガンに関しては、ライト、ヘヴィ両方とも通常弾、貫通弾、散弾の段数が無限になり、ヘヴィに関してはカウンターやジャストガードの機能が追加された。弓はジャスト回避を導入しつつ、敵を追尾する矢を放つことができる。言ってしまえば、近接武器の延長線上にある操作感に変貌しており、リソース管理以上に立ち回りを意識するようになった。

本作はプレイ中にリアルタイムで武器を入れ替えることが可能なため、操作感に混乱を覚えることがないようにしているのだろう。また、戦闘の難易度自体も『モンスターハンターライズ』に引き続き、易化の傾向にある。カウンターの存在に合わせてモンスターの動きが非常に分かりやすく作られており、防御がしやすいのだ。今回のレビューに合わせて上位クエストまでクリアしたが、倒されてクエストが失敗することは一度もなかった。

ここまで本稿は、シームレスなゲームフロー、テンポの良いストーリー、攻防が目まぐるしく変化する戦闘体験など、本作が没入感を生み出す工夫について触れてきた。これらはすべて、シリーズ随一の「誰でも参加できるネットワークアクションゲーム」という体験に繋がっている。だが、活用できていない仕組みも少なからず存在する。たとえば、本作における装飾品とスキルの関係性がそれにあたる。本作は装飾品を武器用と防具用に分割し、それぞれに対応したものを装着する方式になっている。武器用は攻撃面を、防具は防御面を主に補強する。また、武器にも最初からスキルが用意されている。こちらは各武器種を運用する上で重要な役割を果たすスキルになっていることが多い(大剣であれば剛刃研磨、ガンランスであればガード性能などが武器に最初からついている)。

この仕様によって、武器の持ち替え機能にも対応するだけでなく、雑に装備を構築しても、スキルの構成が一定の水準を満たすようになった。高レアの武器を作ると強いスキルもセットでついてくるからだ。しかし、何かに特化した構成を作ることは難しい。武器用の装飾品は武器のスロット分しか装着できないため、攻撃面をより尖らせる構成を作るには1つで2つ分のスキルをもつ装飾品をドロップするほかない。わかりやすさの代償として自由度が減っている。特に攻撃において複数の要素が絡む、ガンランスやチャージアックスといった武器種への影響は大きい。タイムアタックを面白さの1つとしている本シリーズにおいて、そこに到達するまでの障壁が高くなっているのは残念である。

武器切り替え機能については便利ではあるが、そもそも戦闘の難易度が低かったり、レア報酬のドロップ率が高くなっている手前、自分のプレイスタイルにおいて必要性はあまり感じなかった。 せいぜいモンスターを連続で狩る際に利用した程度である。アルバトリオンのように、リアルタイムで弱点が切り替わり続けるようなモンスターがたくさん登場すればまた抱く印象は違うだろう。

また、本作は過去作と比較すると上位クリアまでのゲームボリュームが少ない。これはより多くの人に作品を最後まで体験させ、ゲームクリアへの達成感やエンドコンテンツ到達への道のりを手軽にしていると感じた。一方で、狩猟対象のバリエーションという点において、明確な物足りなさも生んでいる。すでにタマミツネを追加するコンテンツが発表されているなど、長期ヒットを狙うアップデートを前提とした設計なのは理解できるが、筆者としては最初からもっと長く尺をとってもよかったと考える。

しかしながらこれらの要素は、コンセプト達成に必要な「ゆるさ」を形成するにあたって一役買っていることを再度言及しておきたい。 加えて、昨今の『モンスターハンター』シリーズはアップデートを前提とした作りをしており、内容の変化も激しい。慣例通りであれば、超大型DLCが登場するころに、仕様が固まるはずである。その時に再び言及できればと思う。

総じて『モンスターハンターワイルズ』は、シームレスなゲームフロー、テンポの良いストーリー、攻防が目まぐるしく変化する戦闘体験といった、作品の構成要素が持つ境を可能な限り取り除く工夫によって、プレイヤーをゲームの中に包み込み、凄まじい没入感を演出している。そしてこの没入感は、シリーズコンセプトである「誰でも参加できるネットワークアクションゲーム」という体験を歴代で一番表現できている。そこから生まれる「ゆるさ」は、豊かさに心落ち着けたり、いつのまにか過ぎさった時間と積み上がった成果に思いを馳せたり、といった彩りあふれる情動の発露=ハンター”ライフ”の表現へと繋がっていく。『モンスターハンター』シリーズは狩りをして過ごすゲームであり、狩りをするゲームではない。本作はもっともシリーズコンセプトに近づいた作品として、もっとも『モンスターハンター』らしいゲームであると、私は思っている。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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