『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』 超一級の「キャラゲー」

「ジョジョの奇妙な冒険」のゲームといえば、スーパーファミコンで発売された、コブラチームの手掛けた同名タイトルを避けて通ることはできない。「原作無視の駄作」の代名詞として突出して知名度が高いからだ。また、1998年にカプコンが対戦格闘ゲームとして発表したアーケード版とその続編、およびプレイステーション移植版は、SFC版とは逆にその内容に対して極めて評価が高く、全く正反対の理由で避けて通ることのできないタイトルだ。現在はHDリメイク版が配信されている。その後カプコンは原作第5部を題材にした『黄金の旋風』というタイトルをPS2で発売するが、これは前作ほどの人気を獲得できずそこそこの評価にとどまり、以降カプコンはジョジョのゲームから手を引く。

その後、原作第1部を題材にした『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』が発売されるも、原作再現以外の部分の評価がさんざんに終わり、開発のアンカーエンターテイメント、販売のバンダイナムコゲームズの評判を落とす結果に終わり、以降、商用タイトルとして「ジョジョ」を題材としたゲームはしばらく発売されなかった。

そして7年。開発に『NARUTO-ナルト-疾風伝 ナルティメットストーム』シリーズを手がけたサイバーコネクトツーを迎え「ジョジョの奇妙な冒険」の集大成として開発されたのが本作『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』である。

 

「ジョジョの奇妙な冒険のキャラ」のゲームとして

何をおいても、その極めて高いキャラ造形の再現度に触れずして本作を語ることはできない。一切手抜きの感じられないプロの仕事がここにある。原作者である荒木飛呂彦氏の画風を驚異的な再現度で3Dモデルに落とし込んでおり、各登場キャラも原作連載当時の画風に寄せて再現されているため違和感も殆どない。あくまで漫画版を前提として再現するために、ペンやインクで書いたような影や線を強調するシェーダーが施されており、比喩でも何でも無く「カラーイラストが動いている」かのような錯覚すら覚えるだろう。

 

戦闘中のひとコマ。カメラが寄っても全く破綻しない素晴らしい絵作り。
戦闘中のひとコマ。カメラが寄っても全く破綻しない素晴らしい絵作り。

 

モーションや演出についても、出典元の原作シーンがすぐに連想できるレベルで「原作漫画から動きを持ってくる」事に拘られており、それは最後まで貫かれている。ジョセフのジャンプモーションはワムウが「神砂嵐」を初披露した時のコマだし、露伴はダウンすると「気絶する前にメモ」を取る。すべてのキャラの立ちポーズ、歩きモーションに至るまで「原作再現」にこだわった圧巻の作り込みがうかがえる。

そのこだわりはゲージ消費技(いわゆるスーパーコンボ)にあたる HHA、GHA といった大技の演出で頂点に達する。ここはゲーム中最大の見せ場とあって通常のモーション以上に力が入っており、それぞれモチーフとなった原作のシーンを類稀な表現力でもって再現することに成功している。とくに川尻浩作の「第三の爆弾」の演出には思わず唸らされてしまった。

 

「やったぞ! 発現したぞ!」47巻P185の再現。ここから演出終了までの流れも素晴らしい。
「やったぞ! 発現したぞ!」47巻P185の再現。ここから演出終了までの流れも素晴らしい。

 

あくまで見栄えを重要視し、戦闘シーンではないエピソードやセリフを持ってきている技もあるので、戦っているというシチュエーションとかみ合わない事もあるが、そこはご愛嬌といったところか。そのため、原作を知らないと演出の細部で意味が分からないが、原作を知っているとそれはそれで技の展開が腑に落ちないというちょっとしたジレンマに陥ることはある。上で紹介した「第三の爆弾」もその一つだ。

とにかく「ジョジョの奇妙な冒険」のキャラがとことんまで再現され、さらにそれらのキャラクターを自分で操作する事ができる。どんなモーションにもわざとらしいくらいに「ジョジョネタ」が盛り込まれており「自分の操作でジョジョキャラを演じる」という点においての完成度は現時点で間違いなくナンバーワンである。漫画の中から抜け出てきたキャラそのままがそこにいるとまで行っても差し支えない。

上記のとおり「ジョジョの奇妙な冒険のキャラクター」に対する作り込みと拘りは疑念の余地が無い。まぎれもないプロの仕事である。

しかし、このゲームの優れた点はそこだけなのだ。「ジョジョの奇妙な冒険のゲーム」として、「対戦格闘ゲームとして」と視点を移していくと、そのたびに本作の輝きは失われていってしまう。

 

「ジョジョの奇妙な冒険」のゲームとして

本作におけるストーリーモードは、原作の第1部~第7部まで(8部は原作未完のためゲスト出演)のストーリーを、原作通りの対戦カードのバトルに勝利することで先に進めていくというものだ。ジョジョに限らずこの手のゲームのストーリーモードにはよくある内容である。

だが、このゲームのストーリーモードはそもそも「ジョジョの奇妙な冒険」のストーリーの再現などは試みていない。キャラクターの使用解禁フラグとして取ってつけた内容にすぎない。

まず、各部のストーリーがナレーションと文字でしか説明されず、紙芝居ですらない。エピソードも歯抜けのレベルを逸しており、第6部のストーリーなどはプッチ神父と3回戦ったらエンディングを迎えてしまう。

 

読み込み中のシナリオ説明。この文字がシナリオ要素のすべて。
読み込み中のシナリオ説明。この文字がシナリオ要素のすべて。

 

エピソードが歯抜けなのは、本作のシステムや登場キャラの人選上仕方ないと思うが、最低限のストーリー展開をポリゴンデモで見せてくれるというだけでもずいぶん印象は違ったはずだ。プッチ神父と3回戦うにしてもそれは原作通りであり、原作では3回それぞれが全て山場のシーンなのだ。それが数ページの文字説明に終始してしまっては、盛り上がりも何もあるものではない。

演出さえしっかりしていれば、別に漫画のコマを模した紙芝居でも良かったのだ。紙芝居の素材だって荒木氏に書きおろしてもらったりする必要さえない。このゲームのモデリングは静止画での使用に耐えるだけのクオリティを持っているし、そもそも本作のスタッフロールの演出でもそうした使い方をしている。

ゲームを通じて「ジョジョのストーリーを追体験」させるつもりもそれほどないようで、例えばジョナサンはツェペリに授けてもらうはずの波紋法を、彼と出会った時点で使用可能だし、ジョニィは原作ではまだ身につけてすらいないスタンド能力を、やはり出会ったばかりのジャイロに向けてぶっ放す事ができてしまう。

全編がこの仕様で統一されていればそれはそれで納得できるのだが、仗助vs露伴の時は「挑発にプッツンした仗助」がイベントで再現されるし、ホル・ホースはJ・ガイル死亡後のエピソードでJ・ガイル関連の技を使用できないなど、一部のエピソードではそれなりに原作の状況を再現しようとしたフシもあり、この点は非常に中途半端。

 

3部シナリオの第1話。原作的には承太郎とアブドゥルの留置場でのバトルなのだが、ステージは「カイロ市街」。
3部シナリオの第1話。原作的には承太郎とアブドゥルの留置場でのバトルなのだが、ステージは「カイロ市街」。

 

バトルステージが少ないためエピソードと状況が一致していない場合も多く、背景が最初から最後まで戦車戦の第2部、ストーリー開始時に既にカイロに到着している第3部、常に原作のラストバトル再現のステージのため違和感しかない第4部など残念な点が多い。

なにもカプコンのPS版ほどにストーリーモードを作り込めなどと無茶を言うつもりはないが、今このゲームに用意されている素材だけでもできる事はまだあったはずだ。せっかく「最高に”ハイ!”」なDIOのコスチュームが用意されているのに、ラストバトルのDIOが通常コスチュームで登場してきてがっかりすることも、ほんの少しの開発側の気配りで防ぐ事ができただろう。

原作漫画の持つ世界観を、このゲームから味わうことは難しい。

 

対戦格闘ゲームとして

操作こそ8方向レバー+6ボタン(弱中強の攻撃に特殊行動ボタンが3つ)で、取り立てて特別なところはない。攻撃が弱中強の3種類ということもあって、刺し合いよりはコンボ重視のゲームである。初心者向けに弱ボタンを連打すると「弱→中→強→適当な特殊技→HHA」とオートで連続技を出してくれる「イージービート」というシステムが用意されており、間口は非常に広くとられている。全体的に弱攻撃が強く設定されており、攻撃はすべてイージービートまかせでもかなり実用的なダメージを奪うことができるため、とりあえず何かもつれたら弱ボタン連打というプレイスタイルでもそれなりに戦うことができる。そのため「ジョジョは好きだけど格闘ゲームは苦手」というプレイヤーでも問題なく遊ぶことができるだろう。

イージービートでは物足りないという上級者のための技術介入の余地も用意してあり、手動入力でシステムを活かしてコンボを開発すれば、その分ダメージがきちんと伸びる。一方で初心者はガードだけして相手の隙に弱ボタンを連打しているだけでも戦いの形になる。これはこのゲームの持つ純然たる長所である。

が、純粋に対戦格闘ゲームとして見た場合、いささか手触りが悪すぎるのではないだろうか。30fps基準であるところと、原作再現が過ぎてモーションの一つ一つが長いせいで全体的にもっさりした印象を受け、スピード感があまり感じられない。背景やエフェクトがうるさくなると処理落ちする事も多く、ジャンプ攻撃を相手にヒットさせて着地すると画面がひきつるのが目視できてしまう。

ステージ設計も視認性が考慮されておらず、ステージ端や壁が単純に分かりづらい。
・グラフィック的には廊下がまだ伸びているのに実はステージ端だった
・画面の手前側に壁があるのが見えないので、手前側に軸移動をしたら実は壁際で移動ができずに殴られた
など、ゲーム中に理不尽な事故が多発するようになっている。

 

画面右側のジョルノ、実は壁際である。一応これ以上壁側に押し付けられると、申し訳程度にエフェクトは出るのだが……
画面右側のジョルノ、実は壁際である。一応これ以上壁側に押し付けられると、申し訳程度にエフェクトは出るのだが……

 

他にも「ステージ端でめくり気味にジャンプ攻撃を当てるとたまにカメラが反転してガード方向が入れ替わる」という仕様が存在するなど、対戦バランスがどうのこうのという以前の問題として、格闘ゲームとしての作りは悪いと言って良いだろう。

対戦バランスについては、発売からこれまでの3度にわたるバージョンアップで状況がかなり変化している。少なくとも発売当初に各所で騒がれた永久コンボ関連の仕様は軒並み修正され「投げからダウン追い打ちで永久」「壁ダウンから弱パンチ連打で永久」というようなことはなくなっている。

同時にバランス調整やキャラクターのアップデートも行われており、キャラクターの性能の細かな調整のほか、新システムの導入など大小様々な変更がなされている。発売時のバージョンと、最初に出たアップデートパッチにはあまりの内容さに大いに失望させられたが、その後さらに2度のアップデートを重ねる過程で「対戦格闘ゲーム」としての完成度は前進しつつあると言える。

ただ、前進しつつあるとは言っても、発売当初のバージョンが未調整要素と永久コンボの嵐だったことは事実であるし、それを必死に埋め合わせているだけというのも確か。発売当初から存在した未調整要素の一つ「コキガ」と呼ばれるテクニックをあえて修正せず、むしろそれを駆け引きの一つに組み込むようなアップデートをしているところや、アップデートのたびに格闘ゲーマー向けのマニアックなシステムが追加搭載されているところを見ると、どうやら「格闘ゲーム」としての完成度を高める事自体は諦めていないようだ。

一方で対戦ツールとしての完成度を高める方向に舵をきったためか、ゲームとしてのテンポ改善のために一部の超必殺技の演出をカットする・早回しにするというようなアップデートも入った。正直なところ、本作にとっては全く余計な事であると思う。せっかく既に確立した本作の無二の長所を、これから確立できるかもわからない格闘ゲームとしての完成度のために切り捨ててしまうのは早計にすぎるのではないだろうか。

例えば露骨にセリフと演出がズレてしまった徐倫など。
例えば露骨にセリフと演出がズレてしまった徐倫など。

 

 

引き伸ばしの権化、キャンペーンモード

最後に、やはりこのモードのことにも触れておきたい。

断言するが、キャンペーンモードはこのゲームを遊ぶであろういかなるプレイヤーの方も向いていない。プレイヤーをゲームに拘束し、本作の寿命を少しでも引き延ばしたいがための蛇足にすぎない。

キャンペーンモードについて、少し詳しく解説しておく。このゲームのキャラクターへの拘りが賞賛すべきレベルであることはすでに言葉を重ねてきた。それは特殊コスチュームや、カスタマイズできる勝利画面の一つ一つに至るまで一切の妥協なく作りこまれていることからも明らかだ。モデリングが非常によくできているだけに、そうしたカスタマイズで楽しみたいというプレイヤーは多いだろう。

そうしたカスタマイズパーツをアンロックするためには、キャンペーンモードというモードを遊ぶ必要がある。キャンペーンモードをプレイして敵を倒し「カスタマイズメダル」というアイテムを集めることで、少しずつカスタマイズパーツが使えるようになっていく。逆にキャンペーンモードをプレイしなければ、パーツはほとんど使うことができない。

 

例えばこうした勝利画面はポーズ、擬音のサイズや位置、セリフなどを自分で設定できる。しかしキャンペーンモードを進めない限り、そのパーツはほとんどロックされたままだ。
例えばこうした勝利画面はポーズ、擬音のサイズや位置、セリフなどを自分で設定できる。しかしキャンペーンモードを進めない限り、そのパーツはほとんどロックされたままだ。

 

このモードで敵と戦うためには、1戦毎に事前に「エネルギー」が1目盛り分必要だ。エネルギーはリアルタイムで5分経過するごとに1目盛り補充され、最大で10目盛りまでストックすることができる。これを消費することでCPUキャラと1戦だけ戦うことができる。その際の対戦相手はランダムなのだが、たまに「ボスキャラ」として設定されたキャラが出現し、それを撃破すると、格闘ゲームパートとは別に設定された「体力」を削ることができる。何度もボスに出会って何度も勝利し「体力」を削りきることで特殊なカスタマイズメダルが手に入る。ボスは1度遭遇すれば、その後10分間だけ確実に出現するようになっているほか、遭遇時にエネルギーを追加投入することで、勝利時に削る体力量を増やすことも可能。

整理すると、何度も対戦をしてボスの登場を待ち、ボスが現れたらエネルギーを使って体力を削る、エネルギーが無くなったら時間経過で回復を待つか、有料アイテムを購入してエネルギーをチャージ。そうしてボスを撃破し、カスタマイズメダルの取得を目指す。こういうゲームフローである。

ちなみにボスは複数存在し、それぞれ撃破時にもらえるカスタマイズメダルは異なる。本気でメダルをコンプリートするとなると、100回ほど戦わないとメダルが揃わないような体力設定のボスも存在する。おまけにそのボスから得られるメダルを揃えた後も、そのボス自体は出現抽選の対象になり続けるためハズレと化す。エネルギー制による時間的制約のほかにこうした諸々の要素が積み重なり、メダルコンプリートへの道は非常に険しい。

 

ボスを撃破すると体力が削れる。そしてまたスタミナを消費し、ボスと戦い体力を削る……
ボスを撃破すると体力が削れる。そしてまたスタミナを消費し、ボスと戦い体力を削る……

 

つまるところ、これはカスタマイズパーツを人質にプレイヤーに時間制限つきでゲームを遊ばせてプレイ時間を延伸し、できれば有料アイテムが売れればいいなあという類の、程度の低いゲームモードなのだ。そして致命的な欠点として、このゲームのCPU戦は基本的につまらない。そんなモードを100回も200回も遊ばせてどうしようというのだろうか。

解放要素はコスチュームや勝利ポーズ、挑発のセリフといった通常はオマケ要素に分類される内容で、ゲームに直接影響する要素ではないのが救いと言えば救いなのだが、本作に関して言えばそのオマケ要素こそがメインコンテンツなのでフォローになっていない。特殊コスチュームを、カスタマイズした勝利画面を、オンライン越しにジョジョネタ仲間と分かち合いたいはずなのに、それをこんなゲームモードで出し惜しみしてよいはずがない。

 

「ファンのためのゲーム」

本作は「ジョジョキャラのファン」あるいは「ジョジョネタのファン」に向けたゲームだ。圧倒的モデリングに裏打ちされたジョジョキャラ達が、ボタン一つで「あのセリフ」「あの動き」を再現し、画面内を飛び回る。そこだけ見れば最高のゲームで、まさに超一級の、極上のキャラゲーである。そしてそれ以上、あるいはそれ以外を求めると確実に肩透かしを食らう。ストーリーモードはもはや存在しないようなものだし、格闘ゲームとしての出来は改善されつつあるとはいえ、先述した「バランス以前の問題」は手つかずのまま。これはもはや今後のアップデートでも直ることはないと思われる。

そしてキャンペーンモードの存在。これこそが本作を「ジョジョキャラファンにはキャンペーンモードという苦行を強い」「ジョジョファンには薄っぺらなストーリーモードを見せつけ」「格闘ゲームとしても現時点で及第点程度」という、誰にも向かない凡作にまで貶める存在である。

とはいえ、欠点は非常に多いものの、目的さえ取り違えなければ本作は本当に素晴らしいゲームだ。本作の目的はあくまでキャラクターに酔うことであり、それ以外の要素はすべてがオマケなのだ。ストーリーモードは「ジョジョのゲーム」を名乗るためのアリバイ工作で、格闘ゲームというジャンル選択はキャラクターを操作するための口実に過ぎない。そこに一線級の完成度を求めるのも酷な話と言えるだろう。

 

何かにつけ出てくるこの選択肢のように、あまりネタの押し付けがくどいのも困るが。
何かにつけ出てくるこの選択肢のように、あまりネタの押し付けがくどいのも困るが。
Rokurou Eyama
Rokurou Eyama

ビデオゲームとアメコミとバイク(盗難被害遭遇済)をこよなく愛する30台前半。レトロゲームも最新ゲームも等しく同じ大切なプレイ対象である。

幼少期に出会った『マーブルマッドネス』の衝撃でビデオゲームに目覚め、なぜか実家に転がっていたMSX2+に親しみ、バーチャルボーイに立体視の未来感を植えつけられゲーム人格が形成されていった。STGからRTSまでどんなジャンルも遊んでみるが女の子がいっぱい出てくるゲームは苦手。

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