『ZombiU』 まじりあうモニタ内外の世界

ZombiU』とは、Wii Uの本体同時発売ソフトとしてUBISOFTから発売された、一人称視点のアドベンチャーゲームである。

プレイヤーはゾンビに汚染されたロンドンに取り残された生存者の一人となって「プレッパー・パッド」と呼ばれるサバイバルツールを手に、ロンドンからの脱出を目指してゆく。

本作を遊ぶために私はWii Uを購入したのだが、はたしてそれだけの価値はあったと断言できるタイトルである。本作はWii Uゲームパッドというデバイスに真っ向から取り組み、ホラーゲームの新しい姿を示すことに成功した。

 


本作を彩る不親切

 
本作はとにかくプレイヤーに厳しいゲームである。そもそものゲーム難易度もさることながら、Wii Uゲームパッド(以下「ゲームパッド」)を使ったシステムの煩雑さや操作負担によるところが大きい。もちろん、それにはゲームデザイン上のれっきとした理由があるのだが、まずは本作のそうした「マイナス面」からあえてとりあげたい。

たとえば、このゲームのメインモニタ側にはHUDらしいHUDがほとんど存在しない。常時表示されているのは武器のレティクルのみといういさぎよさで、それ以外にはダメージを受けた際に出現する体力ゲージと攻撃を受けた方向のガイド、ドアや机といったアクション可能なオブジェクトに接近した際に表示されるガイド等など、あくまで状況に応じた最低限の画面表示が発生する程度で、武器の残弾表示すら存在しない。

そうした「一般的」な画面表示は、すべて手元のゲームパッドの画面に押しこめられている。マップ表示や装備アイテムの内容など、通常時には自分の目に映らないような情報はすべてゲームパッド側に表示され、装備変更すらも原則的にゲームパッドのタッチパネルを使用する。メインモニタには「普通の人間の目にも見える最低限の情報」しか入らないようになっているということだ。

先述したようにアイテム整理にもゲームパッドのタッチパネルを使用する仕組みになっており、棚やゴミ箱などのオブジェクトからのアイテム回収や、バックパックから装備枠へのアイテム移動までふくめて、すべてゲームパッドを見ながらタッチ操作する必要がある。ゲーム内のギミックによっては、たとえば「手持ちの鍵を目の前の南京錠に使用」というようなイベントまでも、アクションボタンのワンタッチで主人公がやってくれるというようなゲーム的な文法は基本的に排除してあり、プレイヤーが「手元を見ながら」「鍵を開けるという操作」を実行する必要がある。

ゲームパッドは他にも、アイテムや生体反応のスキャン機能を使用する時や固定銃座を使用する時など、頻繁に「メインモニタにパッドを向けて、パッドを実際に動かして照準を操作」という場面があり、ゲームパッドとメインモニタを視界が行き来する頻度、パッドを手に持って振り回す頻度はかなり高い。

これはゲームの操作としてはかなり煩雑な部類である。実際のところ、本作のプレイヤーに対する操作負担はかなり高い。パッドに付いているボタンはスティック押し込みまで含めてすべて使いきる操作形態である上に、頻繁にゲームパッドから片手を離してタッチパネルを操作する必要が出てくる。操作以前に、そもそもメインモニタと手元のゲームパッド画面を頻繁に視線が行き来するというのは、プレイヤー自身の体力になかなかの負担がかかる。1度のゲームプレイを終える頃には、およそFPSを遊んだ後とは思えないような肉体的疲労を感じるのではないだろうか。

 

手前の棚を物色中。ゲームパッド画面でアイテムの整理をしているのだが、メインモニタはこの通り、周囲を見回すカメラになる。手元に夢中になっているとゾンビに気づかずに噛まれる。ほんとうによく噛まれる。
手前の棚を物色中。ゲームパッド画面でアイテムの整理をしているのだが、メインモニタはこの通り、周囲を見回すカメラになる。手元に夢中になっているとゾンビに気づかずに噛まれる。ほんとうによく噛まれる。

 

 


主人公=プレイヤー

 

プレイヤーにここまでの負担を強いるシステムにしてまで、本作の開発陣が実現したかったことは何だっただろうか。私は「ゲーム内の主人公とモニタを外側にいるプレイヤーとの融合」であったように思う。それを前提に、前述した不親切さの数々に目を向けてみると、じつはすべてが計算高く創りこまれた「不親切さ」であることが見えてくる。

本作の主人公は掛け値なしに「普通の人間」である。普通の人間は銃の残弾やミニマップが視界内に表示されたりはしないし、目的地までの距離がリアルタイムに見えたりすることもない。だから本作のHUDにそうした情報は出ない。本作のメインモニタ側の画面は普通の人間の視界を模したものだからだ。

スキャンの時にパッドを画面にかざして視点を動かす必要があるのも、ゲーム内の主人公にとっては手にしているのはゲームパッドではなく、スキャン機能を有したサバイバルツールだからだ。プレイヤーがゲームパッド越しに視界内をスキャンしているとき、主人公もまた同じことをしているのだ。

スキャンやアイテムの整理に限らず、パッドを見ながら操作する状態の間は、メインモニタ側には主人公の周囲が表示されるようになっている。つまり「手元から顔をあげて周囲を見回す」という行為を、ボタン操作ではなくプレイヤー自身に実際にトレースさせることで再現しようとしているわけだ。

本作は「ゲーム内外の行動の一体化」を、それに向けたゲームシステムを組みあげると同時に、ゲームパッドというデバイスを橋渡しとすることで見事に具現化してみせた。その結果、本作はたぐいまれな「没入感」の醸成に成功している。モニタの中の世界と、モニタの外の世界が一瞬混じりあうような没入感。それは現時点では間違いなく本作でしか味わえないものだ。

 

スキャン中の一幕。 ゲームパッドに一人称の視点が表示されるのでそちらで「実際に」見渡してスキャンを行う。 夢中になっているとゾンビに気づかずに以下略。
スキャン中の一幕。

ゲームパッドに一人称の視点が表示されるのでそちらで「実際に」見渡してスキャンを行う。

夢中になっているとゾンビに気づかずに以下略。

 

 


没入感ゆえの高難度

 

そして、その没入感の高さはそのまま短所でもある。すべての要素がゲームパッドの中に押し込められており、ゲームパッドありきのシステムになっているため、そのゲームパッド側の操作を楽しむ事ができない場合、ただのクソゲーになりはててしまうのだ。

ゲームパッド操作の強いりぶりは強烈に不便で、バックパックの整理にもたついてる間にゾンビに接近されてて死亡、ダイヤル錠の回し方やナンバーロックの操作方法(解錠キーではなく!)がわからなくて死亡といった、普段この手のゲームではあまり味わえない不条理な死が頻繁にプレイヤーに降りそそぐ。そうでなくとも、3DSの上下画面と違ってメインモニタとゲームパッドは遠いため、この二つの画面をちらちら見比べるということをやらされるだけでも相当なストレスになるだろう。

先述した「南京錠に鍵を使用する」といったイベントも操作説明がほとんど出ないため、プレイヤー自身がゲームパッドをあれこれつついて「正解の操作」を探し出してやる必要がある。もちろんその間にもゲーム世界の時間は止まらない。

さらにこのゲームはプレイヤーが弱い。本当に一般的市民程度の攻撃能力しか持たない。もともと本作のセールスポイントとしてパッケージ裏にも書いてある「噛まれたら即死」という物がある。看板に偽りなしで背後からつかまれたら振りほどく機会もなく死んでしまうし、正面から組みつかれても概ね五分五分の確率で死ぬ。噛まれるだけではなく3発ほど殴られても死ぬ。

 

プレイヤー性能に関しては今時のホラーゲームでも珍しいくらいのデフレ。初期状態だと静止していても照準がご覧の広さで弾がなかなか当たらない。HUDが照準以外に存在しない点にも注目してほしい。
プレイヤー性能に関しては今時のホラーゲームでも珍しいくらいのデフレ。初期状態だと静止していても照準がご覧の広さで弾がなかなか当たらない。HUDが照準以外に存在しない点にも注目してほしい。

 

対するプレイヤーの攻撃手段は基本的に頼りないものばかりで、銃は強いが弾薬が貴重品なので迂闊には使えず、かといって使用回数無限のクリケットバットによる近接攻撃は振りが大きい割に威力が弱く、下手すると8発程度殴打しないとゾンビが死んでくれない。それでもタイマンならクリケットバットを振り回しているだけで何とかなるものの、ゾンビが2体出てきただけでもはやまともには太刀打ちできない。なみいるゾンビの頭を吹き飛ばして回るような爽快感などとはほど遠いゲームだ。

この高難度や、ある種の理不尽を「理解」することを本作は求めてくる。「これはこういうゲームなんだ、その覚悟で臨んでくれ」といったことをゲームのほうから主張してくる。そのため、それを受け入れて率先して楽しむ事ができないと本作の魅力はまったくわからないだろう。ゲームの攻略法として、ゾンビへの立ち回りや武器の管理と言ったゲーム的な文法以外に「ゲームパッドというサバイバルツールへの習熟」というゲーム攻略を、それも高い水準で要求してくるからだ。プレイヤー自身がゲームパッドの扱いに四苦八苦しているということは、ゲーム内の主人公も四苦八苦しているということであり、待っているのはゾンビの仲間入りだけなのだ。

とはいえ、下手にこのあたりをフォローしてしまうと、「ゲームの主人公」と「プレイヤー」との間で同じ焦りを共有できなくなってしまう。こうした突き放した姿勢も、ゲーム内外の一体感のためにあえてそうした可能性が高く、本作における難易度に対する評価を少々複雑なものにしている。

 


「あえて」ではない部分

 

ただ、本作にはそうした「あえてそのようにした」という点とは別に練りこみの浅い、粗い部分も目立つ。グラフィックは2012年末という発売時期を考慮しても「ホラーゲームとして最低限の表現」という程度で、リッチさとは程遠い。地形の判定もシビアなうえに下方向の視野が狭いので「ゾンビから逃げようとすると地形のカドや思わぬ段差に引っかかり、越えられないまま死んでいく」というゲーム的に理不尽な死を何度も迎えることだろう。アクションボタンで乗り越えられる障害物とそうでない障害物がひと目でわかりづらいのもかなりのマイナスだ。全体的な読み込み時間もかなり長めである。

また、現在はパッチで修正されたものの発売当時はバグが非常に多く、開くはずのドアが開かずに死亡、複数の重要アイテムがあるときに特定の順番で取得しに行くと確実に詰む、ゲームの進行状況がうまく保存されない等のクリア不可能になるレベルのバグを複数かかえてしまっていた。

 

ここからリスタートまでの読み込みが長いんだよなあ……と現実に引き戻されてしまう。死に方が理不尽ならなおさら。
ここからリスタートまでの読み込みが長いんだよなあ……と現実に引き戻されてしまう。死に方が理不尽ならなおさら。

ゲームパッド側の「サバイバルツール」としてのUIも「そこはもっと快適でいいだろう」と思うところが多く、とくに頻繁に利用することになるアイテム整理画面のUIは悲惨の一言だ。「ここまでの切羽詰まった状況での仕様は想定していなかった」と脳内解釈することもできなくはないが、通常ゲームプレイが非常に窮屈で緊張感あふれる内容であるだけに、もうすこし譲歩して親切なUIにしてくれても良かったのではないかと思う。「アイテム欄を自分なりにきちんと整理して並べておくといざというときに手元を見ずに済む」という、本作ならではの攻略法を表現している部分でもあるのだが。

ようするに、本作はゲームパッドへの取り組みと、そこから生まれるホラーとしての没入感は本当に素晴らしいのだが、肝心のアドベンチャーゲームとしての作りがあまいのだ。「あえてそうした部分」と「単にデキの追いついていなかった部分」がマイナス方向の相乗効果を発揮してしまい、すべてプレイヤーへのストレス要素としてはねかえってしまった。これは非常にもったいなかったと思う。私にはそうした数々の粗を吹き飛ばすホラーゲームとしての魅力を感じていたため、本作を購入してからぶっ続けで遊ぶことができたが、こうした数々の「意図的ではない」仕様の数々に本作を諦めてしまった人は多かっだろう。

 


新しい「体感ゲーム」の形

本作は粗の少ないゲームではない。繰り返すが、つめのあまい部分は多いし、今まで考えたこともないような技術の上達を求めてくることさえある。そのうえ爽快感とは無縁で、習熟と忍耐を重ねてマップを踏破し、時折訪れる身の安全に胸をなでおろす窮屈なゲームだ。

それでも、本作がみせてくれる、ゲームパッドを通じてモニタの内外がまじわる世界は、現時点で唯一無二のものであると断言できる。本作に比肩しうる世界や、Wii Uゲームパッドに対する取り組みについては、本稿を執筆している2014年7月に至っても、Wii Uをうみだした任天堂自身ですらいまだになしえていないすぐれた成果であることは間違いない。本作の他にもWii Uには好きなタイトルはあるが、Wii Uならではのタイトルをひとつ上げるとするならば、私は本作の名を即答する。

たしかに人は選ぶ。間口は文句なくせまいゲームだ。しかし本作はありふれたゾンビ系FPSのようでありながら、確実に本作でしか味わえないホラー体験が詰まっている。本稿ではあえて本作の「ホラーゲーム」としての側面を掘り下げなかったが、本作の「ホラーゲーム」としての仕掛けの数々は本当によくできている、とだけお伝えしておきたい。ゲームパッドは攻略上欠かせないツールであると同時に、ホラー演出を盛り上げる最高のギミックでもあるのだ。とくにゲーム序盤の静かな空気感と、ゲームパッドを活かした本作独特の臨場感は格別であり、プレイヤーをモニタの前から引きずり込み「ホラーゲームの主人公」に仕立てあげてくれるだろう。

怪しい男のナビゲーションと、手元の「サバイバルツール」を頼りに、無用な戦闘が起きない事を祈りながら、おっかなびっくりロンドンのくらがりを歩き回る。ゾンビに怯えてあらゆる暗闇をスキャンして回るとき、バックパックを探っている時間よりも周囲を見渡している時間のほうが長いとき、鍵がうまく回せずにゾンビに追いつかれて悲鳴を上げるとき、プレイヤーは主人公であり、主人公はプレイヤーである。その没入感、臨場感はまさに「体感」と呼ぶに相応しい。

本作は新しい「体感ゲーム」の形の一つであり、ゲームと現実をへだてるモニタという境界は、たしかに一瞬混ざりあったのだ。

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