『ゼルダ無双』 「いつもの無双」にして良質な「ゼルダのキャラゲー」

ゼルダ無双』はコーエーテクモゲームスが開発・販売を手がける、任天堂の『ゼルダの伝説』シリーズとコーエーテクモゲームスの『無双』シリーズのコラボレーションタイトルである。既存シリーズとは異なる本作独自の『ハイラル』を舞台に、ゼルダの伝説要素を加味した無双アクションを繰り広げ敵をなぎ倒してゆく。

 


基本は無双シリーズだが

 

まず明らかにしておきたいのが、本作のベースはあくまで「無双シリーズ」であることだ。ミッション主体のゲーム内容から、既存シリーズでは『戦国無双』シリーズに近い作りといえるだろう。世界観こそ『ゼルダの伝説』がモチーフではあるものの、ゲーム内容は砦や味方の出現拠点の取りあいをベースとした無双シリーズのそれであり、ハンマーの一振りや回転斬りの一閃でやられ役のモリブリンやゴロン族が紙くずのように吹き飛んでゆく。そこにゼルダシリーズの謎解きや探索といった要素はほぼ皆無である。ストーリー進行上「道を塞ぐ岩を爆弾で破壊する」「戦場のどこかにいる重要キャラを探しだす」という要素こそあれど、基本的には既存の無双シリーズで実現していた内容の延長線上にあり、ゼルダシリーズのエッセンスとは言い難いものがある。

しかし、これは本作がゼルダシリーズをないがしろにしているということを意味しない。あくまで『無双シリーズ』との相性を考えたときに、そうした要素は除外されたというだけの話である。その代わりに本作が着目したのがゼルダシリーズ――とくに『ゼルダの伝説 時のオカリナ』以降のタイトル――のバトル要素だ。Z注目でロックオンし、サイドステップやバックジャンプで間合いをはかり、敵の攻撃を盾で防いでここぞとばかりに攻めたてる。『時のオカリナ』で確立した3Dゼルダのバトルスタイルを敵部隊長やボスキャラ、デカキャラとのバトルに導入することで、ともすれば"草刈り"とも揶揄されがちな無双シリーズとしてのゲームプレイにアクセントをもたらしている。

 

ロックオンできる敵は特定の行動の後、このようにウイークポイントゲージをともなう隙を晒す。攻撃してゲージをゼロにすることで特殊攻撃が発動し大ダメージを与えることができる。逆に通常攻撃ではなかなか撃破できないように硬めの調整が施されている
ロックオンできる敵は特定の行動の後、このようにウイークポイントゲージをともなう隙を晒す。攻撃してゲージをゼロにすることで特殊攻撃が発動し大ダメージを与えることができる。逆に通常攻撃ではなかなか撃破できないように硬めの調整が施されている

 

ほかにも大型ボスにはまず特定の行動に合わせてアイテムを使わないと攻撃すら通らないこと、そうでない敵にもアイテムを用いると攻略がかなり楽になることがあるなど、本作におけるゼルダのエッセンスはすべてがバトル方面に振り分けられており、この試みはうまくいっているように思う。ボスキャラとのバトルについては無双シリーズ本家、派生作問わずにさまざまな試みがなされている。しかし本作はそのなかでも原作のエッセンスを活かしつつ、かつあたらしい変化をつけることに成功している。

 


一個の無双シリーズタイトルとして

 

「いつもの無双」としての出来はどうなのかというと、これもけっして水準は低くない。60fpsこそ断念しているものの敵の同時表示数はかなりのものがあり、表示欠けもほとんど発生しない(ゼロではない)。それが特殊攻撃の一振りで30体以上が連鎖的に吹き飛ぶ爽快感はシリーズ共通のそれを引き継いでいる。

中ボスやボス戦でやや時間がかかり、1ステージあたりも長めの内容になっているためか、それ以外の部分は全体的に遊びやすくなるように調整されている。本作には馬などの乗り物がないのだが、そのぶんプレイヤーキャラ本人の"猛ダッシュ"がかなりの速度になっており、マップの端から端まで移動してもそれほど時間はかからない。しかも無制限に使えるという大盤振る舞いだ。ストーリーモードの場合はステージ途中にチェックポイントがある(死んだら最初からやり直しではなく、チェックポイントからの再開となる)。本作は味方本拠地強襲からの事故死が用意されたステージがそれなりに多いが、そのプレッシャーをチェックポイントは和らげてくれるだろう。ペナルティもとくに存在しない。

武器や攻撃モーションもプレイヤーキャラクター間でかなりの差別化が図られており、キャラクターや武器種ごとにプレイフィールがかなり異なるのも好感が持てる。モーションやモデリングも原作シリーズを尊重した作りになっており違和感は少なく、全体的に丁寧な仕事ぶりがうかがえる。任天堂の監修の賜物かコーエーテクモゲームスのスタッフがマニアだったかは不明だが、出番も少ないのにやたらモーションのソレっぽさが高いザントとギラヒム様には感心させられてしまった。

 

本作のリンクは左利きであり、『トワイライトプリンセス』が出典であるミドナさまもWii版ではなくゲームキューブ版のデザインがもととなっている。
本作のリンクは左利きであり、『トワイライトプリンセス』が出典であるミドナさまもWii版ではなくゲームキューブ版のデザインがもととなっている。

 


力強い水増しと細かな不満

 

無双シリーズとしては高水準な本作なのだが、一方でどうしてもボリューム不足が目についてしまう。具体的は、敵キャラのバリエーションが少ない。ストーリーモードにあたるレジェンドモードこそ全17ステージとまずまずのステージ数なのだが、いかんせん敵キャラの種類が少なすぎる。ロックオンできる敵という点でメリハリがあるのは良いが、こうも同じ敵キャラ(とその色違い)と戦ってばかりでは流石に飽きてしまう。

全128+αというステージ数のアドベンチャーモードはさらに顕著で、これはプレイ時間の水増しと断言して良いレベルだ。たんに128ステージを攻略していけばよいわけでもなく、消費アイテムの収集や探索、さらにはレベル上げといった作業がプレイ時間を無駄にかさ上げしてゆく。では遊ばなければよいのではないかと私も思うのだが、このモードをプレイしないとキャラや上位武器が解放されないのでやらざるをえないのだ。しかもキャラや上位武器解放のマスは遠かったり、Sランククリア(武器解放に必須)が高難易度だったりと妙に底意地が悪く、出し惜しみをされているように感じる。128ステージすべての勝利条件やステージ内容、発生イベントはそれぞれ異なっており、この点の努力は認める。だが出てくる敵もマップもかなり早い段階で底をついてしまい変化がなくなってしまうのだ。

後半ステージの難易度の上げ方も強敵の同時戦闘や敵レベルのインフレ化などワンパターンであまり楽しくない。きついのが中ボス同時戦闘系のステージで、本家シリーズにある「ロックオン中はそれ以外の敵の攻撃頻度が激減する」というような補正もとくにないようで、ある中ボスに攻撃している間に画面外から別の中ボスが普通にカットに入ってくる。レジェンドモードではできないような小ネタやお遊びのようなステージもあり、このモードにも評価すべき所はあるのだが、遊べば遊ぶほど根本的なバリエーションの少なさがあらわになってしまう。この点はじつに残念である。

 

そう簡単には新武器は触らせないぞという強い意気込みを感じさせるマップ画面。武器やキャラが遠いのである。道中も長く、消耗品アイテム目当てに同じステージを何度もクリアする必要まである。
そう簡単には新武器は触らせないぞという強い意気込みを感じさせるマップ画面。武器やキャラが遠いのである。道中も長く、消耗品アイテム目当てに同じステージを何度もクリアする必要まである。

 

ゲームプレイにも細かく不満はあり、とくにロックオン関連の操作がこなれていない。必殺技発動時にロックオンが外れてしまう、ロックオン中に右スティックを倒してもロックオンが切り替わらないことがある、撃破した敵キャラにもロックオン判定が残ってしまうなど、クリティカルないらつきを感じるシチュエーションが多かった。

9月1日に配信された1.2.0パッチでおおむね改善されたが、発売時のバージョン(1.1.0)にはつまらないバグも多く、勝利デモのBGMが尻切れで消えてしまったときはさすがにオイと声が出てしまった。とはいえこれは修正されたし、ほかの作品ではあまり見られない「ゲーム内からパッチ情報が参照できる」という誠実さも見せているので、そこは評価したい。

 


無双シリーズであると同時に立派なゼルダ派生作

 

初報時の不安を吹き飛ばすだけのポテンシャルを持つのは間違いない。ゼルダシリーズから取り込むゲームプレイをバトル要素に絞るなどの取捨選択により、本作は「無双シリーズ」のタイトルとしてきちんとまとまっており、それぞれの要素がケンカすることなく共存できている。一方でゼルダシリーズの世界も等閑にあつかわれているわけではなく、キャラクターもさることながらBGMやSEなど「ゼルダの伝説のキャラゲー」としてのファンサービス度も高い。この点においては正直なところ私の期待をはるかに上回る内容であった。

根本的なボリューム・バリエーションのとぼしさのせいであと数歩足りないという感じだが、本作が良質な無双シリーズであり、かつ良質な「ゼルダのキャラゲー」であることは間違いない。無双シリーズか、『時のオカリナ』以降のゼルダシリーズのどちらかのファンであれば、本作は手に取る価値があるだろう。

 

あるステージの冒頭。処理落ちもステルスもなく雲霞の如く押し寄せる(そして数秒後に吹き飛ばされる)ゴロン族の皆様。正直、この絵面だけで割と元をとった気になってしまったのも確かだ。ゴローン! ゴローン!! 
あるステージの冒頭。処理落ちもステルスもなく雲霞の如く押し寄せる(そして数秒後に吹き飛ばされる)ゴロン族の皆様。正直、この絵面だけで割と元をとった気になってしまったのも確かだ。ゴローン! ゴローン!! 

 

Rokurou Eyama
Rokurou Eyama

ビデオゲームとアメコミとバイク(盗難被害遭遇済)をこよなく愛する30台前半。レトロゲームも最新ゲームも等しく同じ大切なプレイ対象である。

幼少期に出会った『マーブルマッドネス』の衝撃でビデオゲームに目覚め、なぜか実家に転がっていたMSX2+に親しみ、バーチャルボーイに立体視の未来感を植えつけられゲーム人格が形成されていった。STGからRTSまでどんなジャンルも遊んでみるが女の子がいっぱい出てくるゲームは苦手。

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