『YAIBA NINJA GAIDEN Z』 ニンジャは火花の如く散る
『YAIBA NINJA GAIDEN Z』はコーエーテクモゲームズから発売された『NINJA GAIDEN』シリーズの最新作である。開発はではこれまでのシリーズを手がけたTEAM NINJAは監修という立場にまわり、開発自体はSPARK UNLIMITEDが担当している。
その変貌
それにしても、よくこの内容で『NINJA GAIDEN』の名前を使おうと思ったものである。主人公は”リュウ・ハヤブサ”ではなく彼に一度斬られて復活したという新キャラクターだし、敵の大部分はゾンビである。登場人物は主人公含めて下品で猥雑な人物ばかりで、グラフィックも前作までの美麗さやリアリズムをかなぐり捨ててアメリカンコミックのようなスタイルに変貌している。前作までとの共通点を見つけ出すほうが難しい。あるとすれば豊富な QTE だろうか。
かなぐり捨てたのがそうした外面の部分だけであればよかったのだが、本作はゲーム内容についてもこれまでのシリーズの魅力をすべて捨ててしまっており、それに代わる魅力を備えることができていない。
まず単純にモーションや効果音といった「手応え」の部分の作りこみが浅い。QTEで展開される移動シーンはまだ良いのだがバトルシーンはかなり深刻で、敵を斬っている、殴っているといった手応えが全く伝わってこない。敵も自分もいつの間にか死んでいるという感が強く、爽快感が全く感じられない。仮にも「NINJA GAIDEN」というシリーズ名を冠しているというのにこれはどうしたことだろうか。
難易度もノーマルの時点で既に高い。ノーマル難易度でも十分に難しいのはシリーズではいつものことなのだが、敵の体力と攻撃力を上げる「だけ」の高難易度というのはシリーズとして以前にいまどきのバトルアクションとしてどうなのだろうか。もとより妙にアッパー調整された敵パラメータのせいで、本来無双ゲーの対象としてバッサバッサとなぎ倒されるべきである雑魚ゾンビですら妙な硬さと粘り強さを見せ、本作から爽快感を丁寧に消し去ってゆく。
それでも雑魚ゾンビはまだ固いだけで何もしてこないからマシなのだ。雑魚ではないゾンビはどうなのかというと、これが本作の中核を担うストレス要素と化しているからだ。
属性の是非
本作には通常攻撃の他に炎、電気、胆汁という3種類の「属性」という概念が存在する。それぞれ同属性に対しての攻撃や無属性の通常攻撃の効きは弱いが、そうでなければ炎属性であれば燃焼ダメージ、胆汁であれば一定時間盲目、電気であれば感電で動けなくなるといった特殊効果が発動する。これとは別に電気 + 炎など特定の組み合わせになるように攻撃を加えると「電気ストーム状態」になって周りの敵に大ダメージといったギミックもあり、本作のバトルシステムは属性の概念を第一に考えられている。
雑魚ゾンビとは別に、こうした属性攻撃をしてくるゾンビと、殺人ピエロのようなキャラの立ったゾンビがいる。本作のメインコンテンツは、こうした特殊ゾンビとのバトルである。ヤイバはこうした特殊ゾンビを「処刑」というQTEで撃破することによって、回数制限付きの「ゾンビ武器」を手に入れることができ、これを使用して各種属性を操って敵を撃破していく。
この属性であるが、基本的にはストレスの増幅装置である。確かに「出現した敵の組み合わせから属性の効果を考えて立ちまわる」というゲームプレイをさせたかったのは理解できる。属性攻撃があまりに強力すぎて、これが使えすぎるようだと通常攻撃の立つ瀬がないというバランスからもそれは伺える。問題はゾンビ武器を持っていない状態のヤイバがあまりに無力だということだ。
本作の敵はゾンビなので「連続攻撃中には割り込みガードできません」「強い攻撃を連続で受けたらガードクラッシュしなくてはなりません」という人間の作ったルールは一切通用しない(ちなみにヤイバは人間なので割り込みガードは出来ないしガードは割られる)。攻撃が刺さったあとも途中から躊躇なくガードしてくるし、ガードを割る役目のはずのパンチ攻撃もきっちり最後まで受けきった挙句、確定反撃まで入れてくる人間味を併せ持っている。
そして、これを「確実に」崩す手段がヤイバ側にはゾンビ武器しか存在しない。ゾンビ武器は基本的に弱点属性なら即死、弱点でなくてもガード不可で特殊ダメージ状態にできると良いことずくめなのだが、その反動が通常攻撃に出てしまっている。ゲーム全体が属性武器を前提に設計されており、ゾンビ武器を目立たせるために敵のガードも敵の体力もやたらと堅牢に作ってあるので、結果として通常攻撃しか使えない状態――つまり特殊雑魚の最初の一匹を倒して武器を奪うまでのプレイングが、各種仕様と噛み合って非常にストレスフル。
というのは、その状態でこちらに出来ることといえば「最後までのけぞってくれますように」と祈りながら攻撃ボタンを連打すること以外に無いからだ。途中で割り込みガードされようが無敵回避されようが、それは運が悪かった、ゲーム内のおみくじに負けたという話であってプレイヤーに非がない。そのくせ敵はスーパーアーマーを持っているばかりか、端に追い詰めたと思ったらランダムでメガクラッシュまで披露してこちらを吹き飛ばし、悠々と仕切りなおしてくれるのである。
これまでのシリーズにも敵の連携の流れが良すぎて即死とかボスが大振りの攻撃を振ってくれなくてじわじわ削られて死ぬとか、爆破手裏剣がいいタイミングで刺さりすぎて死ぬといった、試行回数を稼いで自分の腕を磨くとともに、自分の腕に見合った「流れ」が来るのを待つといったプレイングはあった。あるいはコンティニューでいろいろ動きを変えてみて、敵のゆるい動作を引き出すパターンを探しだすというプレイングはあった。本作にはそうした「上達の喜び」「攻略の喜び」はほぼ存在しない。敵が攻撃を食らってくれるのを祈るだけだからだ。異常に長いコンティニュー時のロード時間もストレスに拍車をかける。
もうひとつ触れておきたいのがカメラの悪さ。バトルアクションなのに固定カメラというのにも驚かされたが、肝心のカメラワークがよくぞここまでというくらいに見辛さと理不尽さを両立していてある意味賞賛に値する。ジャンプがないのでただでさえ敵の飛び道具が異常に強いというバトル設計を、このカメラワークは強烈に後押しする。最終的にカメラの酷さはラスボス戦で頂点に達するので、まだ遊んでいない人はこのカメラに出会わなかった幸福を噛みしめれば良いし、もう遊んでいる人はどれほどのものかとそこまで進めるとよいだろう。
難易度を下げる勇気
バトルアクションとしての内容を中心に見てきたが、正直なところ「NINJA GAIDEN」シリーズのひとつとしてみても、一個のバトルアクションゲームとしてみても底が浅く、見所に乏しいタイトルであると結論付けざるを得ない。バトルを離れれば見るべきところはある。アメコミのようなグラフィックイメージは好みだし「NINJA GAIDEN」シリーズ本編とはあえてかけ離れさせた下品で軽薄なノリに、惹きつけるものがあるのは確かなのだ。しかし、それは理不尽な難易度のによるゲームプレイのストレスや、中盤ステージの時点でボスキャラすら使いまわすようなゲームそのものの浅薄さを覆い隠しはしない。総合的に観て、本作は素通りされてしかるべきタイトルだ。
それでも本作に足を止めてしまうような――あるいは私と一緒に発売日購入してしまったような人には、初回は難易度イージーでのプレイを推奨したい。敵のルーチンはほとんど変わらないが敵の攻撃力、防御力が体感で約半分になるので、我々が想像する「ゾンビ」の耐久力にだいぶ近い調整になるのでグッと遊びやすくなる。
はっきり言って難易度を上げてもイライラは得られるがやり甲斐は得られない。トロフィーや実績がどうしても欲しいという事情でも抱えていない限り、ノーマル以上に手を出して無用な苛立ちを抱え込むべきではない。本作は、それに見合った達成感を提供してはくれないからだ。