『Shovel Knight』 「懐古の山」は踏破されたか

『Shovel Knight』は、YachtClubGamesが開発・販売する横スクロールアクションゲームである。プレイヤーはシャベルを武器に戦う「Shovel Knight」を操作し、ボスを倒して世界を救う。

Shovel Knight』は、YachtClubGamesが開発・販売する横スクロールアクションゲームである。プレイヤーはシャベルを武器に戦う「Shovel Knight」を操作し、ボスを倒して世界を救う、昨今はやりの8bitスタイルを踏襲したオーソドックスなアクションゲームだ。

 


懐古という宝の山

 

本作にかぎらず、こうした8bitスタイルの「レトロ風」新作ゲームは常に発売され、私のような懐古主義に一定の理解を示すプレイヤーを釣り上げてゆく。こうした「古き良きあの黄金時代」への懐古を煽るようなタイトルは、その黄金時代を再現するだけ、元ネタを借用するだけに留まってしまい、新作ゲームとしては今ひとつということが多いように思う。それでもそうしたタイトルが今日に至るも多く作られ、消費されていくということは、それだけこうしたレトロスタイルはまだまだ宝の山だと思われているということだ。

本作もその流れをくむタイトルであることは間違いないし、本作自身もゲーム内で「元ネタ」を特に隠すことはしていない。開始から30分以内に「これはあのゲームで見たことがあるぞ」というようなデジャヴュを幾度となく味わうことになる。

しかし本作は、そうした志の低いタイトルとは一線を画す内容である。確かに目新しさとは程遠いし、ゲームプレイはオマージュのオンパレードで、ともすれば「寄せ集め」という誹りすら受ける内容ではある。本作の美点は、寄せ集めであること、そしてつなぎ方が非常に丁寧であったことではなく、一個の横スクロールアクションゲームとしてシンプルに出来が良いということだ。

シャベル片手にひた走る青い騎士。シャベルは立派な武器である。
シャベル片手にひた走る青い騎士。シャベルは立派な武器である。

 


純粋に「先を見たくなる」ゲーム

 

本作のゲーム内容は「方向キー+ジャンプ・攻撃ボタンで、各ステージを踏破してボスを倒して先に進む」という一文で説明がついてしまう。特別なことや目新しさは何もない、非常にシンプルでオーソドックスなプレイスタイルだ。

このシンプルさから来るゲームプレイの純度の高さを、本作は最後まで維持することに成功している。多彩なロケーション、豊富な敵キャラ、嫌らしいボスの動き、ステージを盛り上げるチップチューン風のBGMなど、すべての要素が「先のステージを見たい」という欲求を掻き立てるように丁寧に組み上げられている。

ステージ中の隠し要素も豊富で、シャベルでつつくと壁が壊れて隠し通路が出るという箇所が無数に用意してある。それも「あからさまに怪しいあの足場にたどり着けばご褒美があるよね」というような、用意されていて欲しい場所にきちんと報酬が用意されているという心地よさが徹頭徹尾貫かれていて印象が良い。もちろん到達が困難であればあるほど、あるいは発見が難しければ難しいほど手に入るアイテムや報酬は質が良くなる傾向にあり、ステージ中を踏破してシャベルでつついて回る作業があまり苦にならない。素通りしてしまっても問題はないのだが、見逃したら見逃したでくやしくなる、そんな絶妙な煽り方をしてくるうまいデザインであるように感じる。

『DuckTales』よろしく下突き攻撃を敵に当てると大きく上に跳ねるので、このようにおびき寄せれば右上の足場に到達できる。こうした別ルートが本作には無数に用意してある。
DuckTales』よろしく下突き攻撃を敵に当てると大きく上に跳ねるので、このようにおびき寄せれば右上の足場に到達できる。こうした別ルートが本作には無数に用意してある。

また、本作は死亡時の扱いが少々変わっている。本作はステージ中にいくつかチェックポイントが配置されており、死んだらそこまで戻されてゲームが再開する「死に戻り」方式を採用している。このチェックポイントだが、破壊してゲーム内のお金に変えてしまうことができる。破壊したチェックポイントはチェックポイントとして機能しなくなり、それ以降死んだらもう1箇所前のチェックポイントか、あるいはスタート地点からやり直すことになるが、その分破壊した際に手に入る金額も多めに設定されている。

それとは別に死んだら結構な額のお金をその場に撒き散らしてしまい、回収のためには再度そこまで死なずに到達しなくてはならない。とくにボス攻略に自身のないうちは、チェックポイントの破壊は結構なリスクを背負う行為になる。本作は全体的に優しめな作りになっているが、こうしてプレイヤーが自分でリスクを設定し、それに対して報酬を得るシステムも用意されており抜かりがない。

 


強めの主人公

 

一方で、アクションゲームとしては若干難易度が低すぎるようにも感じる。前述したようなチェックポイント破壊など、難易度を自主的に上げるための仕組みがあるとはいえ、それでもなお本作の難易度はやや低すぎるように思う。

これは本作が「ジャンプアクションとしての難易度」を(おそらくは意図的に)抑えていることに起因するように思う。この手のゲームによくある「即死穴とザコ敵のいやらしいコンビネーション」を本作が極力回避しているので、ステージ中で死ぬ要素があまりないのである。ようやく地形ギミックで殺しにかかってきてくれるのは最終面近くになってからだ。「敵に接触した時のノックバックで死ぬ」というのは確かに結構なストレスになるので、やはり意図的にラスト近くまで温存しているのだろうが、おかげでそれ以外のステージの道のりが少々平坦になりすぎている。

プレイヤーキャラであるShovel Knight自身のアクションは、それほど豊富ではない。そのため雑魚とのバトルや、やり過ごし方のレパートリーもあまり幅がない。敵キャラやビジュアルは豊富なのだが、動きのバリエーションがもう一つたりず、敵キャラの存在感をあまり感じられない。道中に現れる中ボス的な存在でもそれはあまり変わらず、攻略を創意工夫する余地も、その必要もあまりないのだ。嫌らしい敵や地形とのコンビネーションがないわけではないのだが、基本的に攻略法がどれも変わらない。頭上からのホッピング攻撃を軸に攻略を組み立てればまず間違いがない。

最序盤の中ボス。ボスにかぎらず敵キャラやロケーションは使いまわしも非常に少なく、見る目を飽きさせない。先に進む重要な動機になってくれる。
最序盤の中ボス。ボスにかぎらず敵キャラやロケーションは使いまわしも非常に少なく、見る目を飽きさせない。先に進む重要な動機になってくれる。

一方で、それを埋め合わせるかのように各種ステージボスは多彩な動きやギミックで翻弄してくれるので、持ち込むサブウェポンの選択まで含めた真剣勝負を味わうことができる。ただしサブウェポンにも救済措置気味に強いものがあり、これは最終手段としておく必要はあるだろう。

サブウェポンにかぎらず、Shovel Knightは基本的に強い。一発死トラップは多いがライフは序盤から豊富で、お金で最大値の強化も可能。そしてお金も序盤から潤沢に手に入るので、普通にクリアする頃にはアップグレードの大半を購入してしまえているだろう。こうなるといよいよ一発死以外では死ぬ要素が皆無になる。本作を緊張感をもって攻略するのであれば、アップグレードアイテムの購入は最低限にする必要がある。「どうしても詰まったら買う」くらいにしておいたほうが楽しめるように思う。

一撃死が控えめとはいえ、地形ギミック自体は各ステージごとに趣向を凝らした楽しい内容になっているし、いやらしくダメージが蓄積されて最終的に死ぬ、というような構成になっているため、手応えが全くないということではない。しかし順当に行けば先に進めば進むほどダメージ負けする要素がなくなっていくのは確かで、事実私はボス戦以外で死ぬことは殆どなかった。アクションの難易度はもう少し高くても良かったのではないかというのが率直な感想である。

炎が追いかけてくる床。本作はいじわるな即死トラップよりも、こうしたダメージを狙ってくるギミックを中心に配置されている。ギミック自体も豊富なのだが、あとひと押し手応えがほしい。
炎が追いかけてくる床。本作はいじわるな即死トラップよりも、こうしたダメージを狙ってくるギミックを中心に配置されている。ギミック自体も豊富なのだが、あとひと押し手応えがほしい。

 


普遍的だが、あと一歩足りない

 

懐古主義的な魅力が本作の重要な要素であることは疑いの余地がないが、本作はそれにとどまらず「レトロ風だから」「オマージュだから」という甘えを感じさせないまでに独自のアクションゲームタイトルであろうとしており、最終的に本作は普遍的な魅力を備えるに至った。それは「元ネタ」への知識の有無にかかわらず楽しく遊ぶことができるという優れた普遍性である。それは過去を知る人間にはアクションゲームの魅力の再発見を、知らない人間には新鮮な魅力をもたらしてくれるだろう。

本作はノスタルジーの上にあぐらをかくだけで終わってはおらず、そこに「自分たちのアクションゲームを作る」という確かな野心と意気込みが込められている。オマージュ元と肩を並べる存在には及ばなかったかもしれないが、極めてポジティブな比較対象となりうる出来であり、たとえ20年前に同じ内容で発売されたとしても愛されるタイトルになっただろう。乗り越えるべき「懐古の山」は9合目といったところだ。

本稿のスクリーンショットでピンとくるような人が素通りする理由はない。デビュー作でこれほどのタイトルを作り上げたYachtClubGamesは今後要注目のデベロッパーだ。

 

Rokurou Eyama
Rokurou Eyama

ビデオゲームとアメコミとバイク(盗難被害遭遇済)をこよなく愛する30台前半。レトロゲームも最新ゲームも等しく同じ大切なプレイ対象である。

幼少期に出会った『マーブルマッドネス』の衝撃でビデオゲームに目覚め、なぜか実家に転がっていたMSX2+に親しみ、バーチャルボーイに立体視の未来感を植えつけられゲーム人格が形成されていった。STGからRTSまでどんなジャンルも遊んでみるが女の子がいっぱい出てくるゲームは苦手。

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