『Ryse: Son of Rome』 完全無欠のベンチマーク

 

Ryse: Son of Rome』は、Xbox One 本体と同時に発売されたアクションゲームである。開発はCrytek。プレイヤーは古代ローマの兵士マリウス・タイタスとなり、家族を皆殺しにした蛮族勢力への復讐を追体験してゆく。

 


描き出される壮麗な「古代ローマ」

 

Crytekのゲームといえば、まず思い起こされるのは美麗なグラフィックではないかと思うのだが、本作もそれは例外ではない。新コンソール Xbox One のポテンシャルを見せつけるべく、ゲーム開始直後から「陥落寸前のローマ」を背景に、緻密なモデリングと妥協のないモーションが絡み合い、息を呑むレベルでのスペクタクルを演出している。

人物や人体の表現に至っては「不気味の谷」を軽く飛び越えるリアリズムを獲得しており、表情や着込んだ鎧の金属の重ね方に至るまでまったく手抜かりを感じない。各ステージの背景に描かれる「古代ローマ」も例外ではなく、崩壊するローマ市街から逆侵攻するブリタニアの自然、薄暗い湿地帯の異様な雰囲気すらハイレベルな説得力を持って描き出され、没入感は非常に高いといえる。ビデオゲームにおけるリアリズムの現時点での一つの到達点と言って良いだろう。長い時間をかけてCrytekが創りこんでいっただけのことはある。

ただし本作は「古代ローマ」を題材にとっているが、歴史的事実はそれほど重視していない。本作で描かれるローマの姿はあくまでファンタジーのそれである。コロッセオの床が突如変形したり一本橋のようなギミックが現れたり、突如映画『プライベート・ライアン』のオマージュのようなシーンが始まったりするが、突っ込むのは野暮というものだ。

 

グラフィックは美麗にして壮麗。人物造形にも違和感がなく、剣戟の重みと火矢の飛び交う戦場感が高いレベルで表現されている。Crytekの面目躍如といったところ。
グラフィックは美麗にして壮麗。人物造形にも違和感がなく、剣戟の重みと火矢の飛び交う戦場感が高いレベルで表現されている。Crytekの面目躍如といったところ。

 


単調なバトル、過剰なQTE

 

本作のメインとなるゲームプレイは剣戟による近接バトルアクションである。剣戟といっても、基本的にはよくある体力制のバトルアクションゲームと大差ない。操作方法もかなり簡略化されており、剣攻撃ボタン、盾攻撃ボタン、ブロックボタン、回避ボタンのほかにゲージ消費のバレットタイムを発動するボタン、そして処刑トリガーがある程度だ。

バトルの内容も、ゲーム序盤にチュートリアルが流れるとおりに基本的には単純明快。敵の攻撃をタイミングよくブロックボタンで弾き、ひるんだ敵に剣と盾による攻撃を交互に叩きこむ。敵が赤く光るとブロックの難しい攻撃を仕掛けてくる合図なので、それは回避ボタンでかわす。基本的なルールはこのような感じだ。

もう一つ「処刑」というアクションがあるが、これはそのままQTEだ。敵の体力が少なくなると頭上にドクロアイコンが光るので、処刑トリガー(RT)を引くとQTEが始まる。処刑対象の敵が光った色と同じボタンを押していくだけで、マリウスがそのときどきに応じた演出で敵にとどめを刺し、その後、事前に選択していた処刑ボーナスに応じて体力が回復したり、一定時間攻撃力が上昇したりする。

 

QTEモードに入ったら敵の体が光った色のボタンを押していけば、マリウスが流れるような妙技で敵を屠ってくれる。ちなみに押さなくても同じ妙技で屠ってくれる(スコアは減る)
QTEモードに入ったら敵の体が光った色のボタンを押していけば、マリウスが流れるような妙技で敵を屠ってくれる。ちなみに押さなくても同じ妙技で屠ってくれる(スコアは減る)

 

かなりシンプルなバトルシステムであり、序盤はこれでよいと思っていたのだが、私はその考えをすぐに取り消した。本作のバトルには本当にこれしかないのである。応用もバリエーションも、まったくない。敵の種類は序盤の3ステージで出尽くしてしまうし、バトル自体も「敵が手を出してくるまで待つ→来たらブロック→ひるんだ隙にX(剣攻撃)とY(盾攻撃)を交互に押す」という一連のお作法が最後の最後まで変わらない。

処刑アクションも、敵の一人一人すべてに実行可能なうえに発動中完全無敵とあって発動しない理由がなく、じつは光った色と押すボタンが間違っていても処刑は進行する(1か所だけ例外があるが)。処刑アクションのバリエーションも多くはない。背景が変われど同じモデリングの敵を、同じ操作で、同じQTEで殺していくだけという反復作業に行き着いてしまう。

そして本作はこの作業以外での攻略を許容しない。主人公から仕掛けた攻撃は9割がたガードされるし、バトルに変化をつけるための要素はほとんど存在しない。プレイヤー自身の工夫を差しはさむ余地もなければ、そうしたゲームプレイの奥行きも本作は持ちあわせていない。バトルアクションとしては非常に底の浅い内容である。

 

「同じモデリングの敵」が最も顕著なのが盾持ちの敵。全員同じ体型、同じ髭面、同じ髪型なのである。このスクリーンショットにも3人うつりこんでいる。そして行動も攻略法も同じ。何もかもバリエーションが足りていない。
「同じモデリングの敵」が最も顕著なのが盾持ちの敵。全員同じ体型、同じ髭面、同じ髪型なのである。このスクリーンショットにも3人うつりこんでいる。そして行動も攻略法も同じ。何もかもバリエーションが足りていない。

 


満点のデモンストレーション

 

新しいゲームマシンのポテンシャルをアピールするには充分なゲームだし、私がもし誰かにXbox Oneをアピールするとするなら、私は本作をプレイしてみせるだろう。本作の、少なくともビジュアルの完成度にはそれくらいの説得力がある。ロンチタイトルの本分がマシンパワーのアピールにあるとするなら、本作はその役割を確実に果たしている。まさにデモンストレーション、今世代機のベンチマークのようなタイトルだ。

しかしそうした事情を離れ、一個のアクションゲームとして本作を見てみると、どうしても底が浅く、難易度も低い、退屈なバトルアクションという結論にならざるをえない。ストーリーにも突っ込みどころこそ多いが見るべきところはなく、エンディングでは虚無感すら感じてしまった。単純作業をしながら、差し出される壮麗なビジュアルだけを楽しむ、絵に描いたような「暇潰しのお供」である。

はたしてこれが『Ryse: Son of Rome』の目指した姿だったのだろうか。Kinectを使用した体感ゲームであるはずだった本作の野心は、今はゲーム中に時折挿入されるボイスコマンドのイベントにその面影を残すのみで、長い開発期間とともにどこかに消え失せてしまったようだ。

壮麗で豪華なビジュアルは、同じく空虚なゲームプレイを覆い隠せなかった。クリアしたところで記憶にも印象にも残らないし、デモンストレーションとしての価値は発売と同時に急速に薄れてゆく。おそらく年が明ける頃には思い出されることもなくなっているだろう。本作に後の世に名を残すだけの内容は存在しないからだ。

 

隊列を率いて敵の火矢をかいくぐりつつ制圧前進するミニゲームイベント。こういうアクセントはなかなかきいており、内容も楽しいのだが、これですら同じ内容を4回5回と使いまわしている。
隊列を率いて敵の火矢をかいくぐりつつ制圧前進するミニゲームイベント。こういうアクセントはなかなかきいており、内容も楽しいのだが、これですら同じ内容を4回5回と使いまわしている。