『ケロブラスター』 気配りと優しさのゆりかご

『ケロブラスター』は開発室Pixelが開発した、ステージクリア型の横スクロールアクションゲームである。プラットフォームはPCおよびiOS。

ケロブラスター』は開発室Pixelが開発した、ステージクリア型の横スクロールアクションゲームである。プラットフォームはPCおよびiOS。プレイヤーは主人公のカエルを操作し、ブラスターで敵をなぎ払いながらステージ最後で待ち受けるボスキャラを目指し、ボスを撃退することで先に進んでゆく、きわめてオーソドックスなタイプのゲームである。

 

溢れる「優しさ」

本作は徹頭徹尾、開発者の優しさと気配りに満ちあふれたゲームである。「タイトル画面がそのまま操作のチュートリアルになっている」というゲームそのものの構成に始まり、緩やかに上がりつつその頂点近くで変動をやめる難易度曲線、独特の浮遊感がありつつもキビキビとした操作性など、その優しさ、心地よさには隙が見当たらない。ブラスターから発射されるショットもオート連射ながら連射速度がそこそこ速く、当たればバスバスバス! と派手な効果音が鳴り、敵キャラもそれぞれ独特の絵リアクションでくずれさってゆく。この手触りの良さ、遊んでいる間の心地よさは相当なこだわりを持って創りこまれたらしく、プロの仕事と呼ぶにふさわしい。

写真はPC版。開発室Pixelお得意のレトロ風ドットが織りなす優しい世界。ドットは角張っていたほうが偉い。
写真はPC版。開発室Pixelお得意のレトロ風ドットが織りなす優しい世界。ドットは角張っていたほうが偉い。

ステージが進むにつれ増えていくブラスターにも、かならず個性と見せ場が用意してある。入手直後にそれとわかるようになっているあからさまな箇所から、使わなくても問題ないけど最適な武器を選ぶとグッと楽になるという調整がしてある箇所が多く配置してあり、いたるところに「本作を正しく楽しく遊ぶための導線」が用意されている。おかげでせいぜいが「カゲの薄い武器」止まりで、本当の意味での「死に武器」は存在しない。

 

迸る「気配り」

アクションゲームが苦手なプレイヤーへの配慮もぬかりはない。例えばブラスターのパワーアップには、敵を倒したり道中の宝箱を開けることで得られる「コイン」が必要になる。コインはブラスター強化の他にも1upの購入や体力の最大値の増加などに使用することができ、とくにブラスターのパワーアップは1段階ごとに火力が目に見えて上昇するため、本作を遊ぶ上での中期的な目標になる。

ここからが「配慮」の話にあるのだが、本作には「ゲームオーバーになってしまうとステージ最初から」という、おそらく本作唯一であろうペナルティらしいペナルティ要素が存在する。残機が尽きるまではチェックポイントからの再開なのだが、道中だろうがボス戦だろうが残機が尽きたらステージ最初からやり直しだ。しかしゲームオーバー前に稼いだコインはそのまま持ち越す事ができ、道中の敵も全て復活するため再度お金を稼ぎつつ進むことができる。本作は完全に敵配置や攻撃パターンのパターンの決まっているゲームなので、一度踏破してしまったマップは稼ぐためのボーナスステージでしかなく、そうして稼いだコインを使ってハートを増やすもよし、ブラスターを強化するもよしと、プレイヤーの腕前以外にも「ゴリ押しによる攻略」という抜け道を用意している。死んでもその分は無意味というわけではないのだ。

ゲームオーバー後は病院へ。 ステージは最初からやり直しになるが、コインやアイテムは持ち越せるのでプレイがまるまる無駄ということはない。
ゲームオーバー後は病院へ。
ステージは最初からやり直しになるが、コインやアイテムは持ち越せるのでプレイがまるまる無駄ということはない。

 

地ならしの果て

これらの徹底的な気配りの数々は、すべて本作の「心地よさ」に繋がっている。本作はアクションゲームとしても世界観としても、緊張感とは縁遠くのんびりとした内容である。本作はそうしたネガティヴな要素や理不尽さを極限まで排し、まるでゆりかごの中のようにただひたすらに心地よい空間を提供することに徹したタイトルなのだ。

だから、というべきだろうか。本作には手応えが感じられない。それは前述した「ブラスターで敵を倒す手応え」という意味でなく、もっと根本的な「アクションゲームそのものに対する手応え」のことだ。「やりがい」と言い換えてもいいかもしれない。本作の気配りはあまりにも細やかすぎる。地ならしがあまりに行き届きすぎているのだ。正直なところ、本作を遊んでいる間――とくに新しい武器が出なくなる5面以降は完全に惰性でプレイしていた。惰性でクリアまでプレイできる程度には居心地のよい世界だったし、惰性と言い切ってしまう程度には平坦で死ぬ要素のない道のりだった。そしてなによりゲームが短かった。それでも3面から4面にかけて、それまでに比べて急激に難易度が上昇するので、ここからが本番かと気合を入れなおしたのだが、そのまま波が引いてしまったようだ。

突如難しくなる4面。ここから徐々に手応えあるステージが出てくるのかと期待したが……
突如難しくなる4面。ここから徐々に手応えあるステージが出てくるのかと期待したが……

しかし、そのことが本作の評価を下げることにはならないだろう。そもそも本作にやりがいや達成感を求めるのは少々筋が違うように思うからだ。本作をクリアした今となってはなおのことそう感じる。本作にはそういったトゲやカドにあたる要素を、おそらくは意図的に次々と排していったゲームだ。ゲーム中の障害要素はプレイヤーの邪魔や足止めをするためのものではなく、プレイヤーに気持ちよく踏みこえてもらうためのもの。その理念を本作は愚直に守り通しており、結果としてだれでも遊べ、だれでもクリアできるであろうゲームをつくり上げることに成功した。これはとても素晴らしいことだ。

だから問題があるとすれば、それは私の方にあるのだ。私はどうしても本作のゆりかごのような――無菌室のようなゲーム内容になじむことができなかった。それは本作がそぎ落としていったトゲやカドこそ、私がアクションゲームに求めるものであったからだろう。そぎ落とす代わりに本作に注ぎ込まれた気配りや意図は充分に理解できるのだが、それだけにその事実はひときわ寂しく感じる。それならばと武器強化禁止縛りで自らやりがいを演出することも試みたが、単にボス戦が長引くだけで楽しくはなかった。

とにかくストレスも後腐れもなくサクッと遊んでスパッと終われるアクションゲームであり、本作がその点において過剰なまでに配慮された、まぎれもないプロの仕事であるのは間違いない。一方で本作のプロモーション、および動作確認用のゲームとして制作された『PINK HOUR』のような難易度や方向性は、本作ではまったくみられない。そちらに期待すると私のように肩透かしを食らうので注意すること。

Rokurou Eyama
Rokurou Eyama

ビデオゲームとアメコミとバイク(盗難被害遭遇済)をこよなく愛する30台前半。レトロゲームも最新ゲームも等しく同じ大切なプレイ対象である。

幼少期に出会った『マーブルマッドネス』の衝撃でビデオゲームに目覚め、なぜか実家に転がっていたMSX2+に親しみ、バーチャルボーイに立体視の未来感を植えつけられゲーム人格が形成されていった。STGからRTSまでどんなジャンルも遊んでみるが女の子がいっぱい出てくるゲームは苦手。

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